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③拒絶
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所長が帰ってから、彩夢は少しだけ寂しそうにしていた。
僕と食事やお散歩に出かけても、何かを感じ取っているのか
心から楽しそうな笑顔が、減った気がする。
「明日は、経過をみて貰いにお出かけしようね。」
心の傷をみて貰うために、僕は近所でボラいてぃあのカウンセラーさんの
お宅に、月に数回お邪魔させてもらっている。
『もう、行かない。あのね、皐月…僕は』
「…うん?」
『僕を勝手に、皐月の中で保護し続けないで。』
夜、眠る前に2人で話をする。
これは、保護寮からのいわば習慣と化していた。
「でも…彩夢は、」
『それとも、僕が調子が悪い方が皐月にとっては都合が良いの?』
初めてだった、こんな言葉を彩夢から言われたのは。
ショックで、言葉がすぐには出てこない。
「どうして、そんな事を…?僕は彩夢がただ心配で…」
『心配されたくない。皐月が心配するような事は、僕には起きてないんだもん。』
「…そうか、分かったよ。ゴメンね、彩夢。」
彩夢は、もしかしたら気が付いてしまったのかもしれない。
自分と僕とは同じ人間と言うくくりでは無い事を。
『1人で寝るから…皐月は出て行って。』
出て行って。と言われても、僕の部屋など存在しないに等しい。
居間と和室が1部屋だけある、本当にささやかな住まいなんだ。
「彩夢が望むなら、僕は君の為に住む場所を探すから。遠慮なく言うと良いよ。」
彩夢は布団をかぶって、返事はしなかった。
◇
「やっと契約できた。」
申請していたコネクトが届いたらしく、封書で知らせがあった。
市役所では生体認証を行い、コネクトの機体に情報を登録する。
帰宅してからすぐに、所長からのメッセージを確認した。
『彩夢の預かり先を探してるって、喧嘩でもしたのかい?』
「いえ、そんな単純であれば良かったんですが。」
『とりあえず、探してみるよ。あぁ、それと寮勤務の職員は全員無事だと確認できた。』
「彩夢の件が済めば、僕も動き出します。」
『あの事故で、大半の精霊が消失してしまったからね。任せたよ。』
小さなコネクトの画面から所長の姿がホログラムとして出現する。
このコネクトを開発したのも、いわゆる
精霊との融合に成功した人物だ。
社会の役に立つ反面、精霊の力を得て暴走する人間も居る事には違いない。
人の生命の根源に力を生かすも殺すも精霊次第。
昔の認識では、これでよかった。
でも、今は上手く融和していなければいけないと言う
認識に変わって来ている。
僕は、とある精霊と出逢いまるで恋でもする様に
見る見るうちに、強い力に中てられてしまった。
これは、ある意味での信仰にも似ている。
彩夢も年頃ではあり、難しい年齢になった以上
誰かを拒んだり反発する行動はむしろ自然でもある。
誰にも責められない。
この世界の奇妙なしくみに触れてしまうと、人間不信になる。
僕も彩夢と似た様な時期があった。
例えば、このまま離れて暮らしても。
僕が彩夢を想う気持ちはずっと変わらない事を自分でも感じている。
なによりも、もっと広い世界を知って欲しいと願うからこそ
彩夢をおんぶに抱っこする時期は、とうに過ぎたのだと
今更になって気が付いた。
所長に頼んだからには、きっとすぐに引っ越し先は見つかる。
僕は、この住まいで彩夢を見送るのだ。
大人になったら、また僕に会いたいと
一瞬でも良いから思ってくれたらいいな。
僕は、居間のはしっこに布団を敷いて眠りに就いた。
どうか、彩夢がこの先の世界でも健やかに生きて
暮らしていける様に。
ただ、祈ろう。
彩夢、僕は君を心のどこかで自分の様に思っていた。
本当は全然かけ離れているのに。
君をかわいそうな存在だと庇護する事により自分の心を満たしていたのだと思う。
真に憐れなのは、この僕で違いないだろう。
どうか、君のこれからの旅路に幸多からん事を。
僕と食事やお散歩に出かけても、何かを感じ取っているのか
心から楽しそうな笑顔が、減った気がする。
「明日は、経過をみて貰いにお出かけしようね。」
心の傷をみて貰うために、僕は近所でボラいてぃあのカウンセラーさんの
お宅に、月に数回お邪魔させてもらっている。
『もう、行かない。あのね、皐月…僕は』
「…うん?」
『僕を勝手に、皐月の中で保護し続けないで。』
夜、眠る前に2人で話をする。
これは、保護寮からのいわば習慣と化していた。
「でも…彩夢は、」
『それとも、僕が調子が悪い方が皐月にとっては都合が良いの?』
初めてだった、こんな言葉を彩夢から言われたのは。
ショックで、言葉がすぐには出てこない。
「どうして、そんな事を…?僕は彩夢がただ心配で…」
『心配されたくない。皐月が心配するような事は、僕には起きてないんだもん。』
「…そうか、分かったよ。ゴメンね、彩夢。」
彩夢は、もしかしたら気が付いてしまったのかもしれない。
自分と僕とは同じ人間と言うくくりでは無い事を。
『1人で寝るから…皐月は出て行って。』
出て行って。と言われても、僕の部屋など存在しないに等しい。
居間と和室が1部屋だけある、本当にささやかな住まいなんだ。
「彩夢が望むなら、僕は君の為に住む場所を探すから。遠慮なく言うと良いよ。」
彩夢は布団をかぶって、返事はしなかった。
◇
「やっと契約できた。」
申請していたコネクトが届いたらしく、封書で知らせがあった。
市役所では生体認証を行い、コネクトの機体に情報を登録する。
帰宅してからすぐに、所長からのメッセージを確認した。
『彩夢の預かり先を探してるって、喧嘩でもしたのかい?』
「いえ、そんな単純であれば良かったんですが。」
『とりあえず、探してみるよ。あぁ、それと寮勤務の職員は全員無事だと確認できた。』
「彩夢の件が済めば、僕も動き出します。」
『あの事故で、大半の精霊が消失してしまったからね。任せたよ。』
小さなコネクトの画面から所長の姿がホログラムとして出現する。
このコネクトを開発したのも、いわゆる
精霊との融合に成功した人物だ。
社会の役に立つ反面、精霊の力を得て暴走する人間も居る事には違いない。
人の生命の根源に力を生かすも殺すも精霊次第。
昔の認識では、これでよかった。
でも、今は上手く融和していなければいけないと言う
認識に変わって来ている。
僕は、とある精霊と出逢いまるで恋でもする様に
見る見るうちに、強い力に中てられてしまった。
これは、ある意味での信仰にも似ている。
彩夢も年頃ではあり、難しい年齢になった以上
誰かを拒んだり反発する行動はむしろ自然でもある。
誰にも責められない。
この世界の奇妙なしくみに触れてしまうと、人間不信になる。
僕も彩夢と似た様な時期があった。
例えば、このまま離れて暮らしても。
僕が彩夢を想う気持ちはずっと変わらない事を自分でも感じている。
なによりも、もっと広い世界を知って欲しいと願うからこそ
彩夢をおんぶに抱っこする時期は、とうに過ぎたのだと
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どうか、彩夢がこの先の世界でも健やかに生きて
暮らしていける様に。
ただ、祈ろう。
彩夢、僕は君を心のどこかで自分の様に思っていた。
本当は全然かけ離れているのに。
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