眠れない夜は檸檬の香り

あきすと

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人魚の恋

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「夢を見ていたよ。海の上で…たった一人の船室。暗い海底の中で、私は生まれ
ひとざかなとして、生きているんだ。」

少しずつ、部屋の空気の流れを肌に感じながら。
畳の上に身を横たわらせる白島の頭を、膝で枕をする。

心地いいかも見当がつかないが、ゆったりと話しながら手を握り合ったり
絡めとるのが楽しくて。

『ひとざかなって、人魚ですか…。アンタが人魚だなんて、一体どれ程の船乗りを
たぶらかすんだろう。』

人聞きが悪いじゃないか。少なくとも、私が見た夢では
やっぱり白島だけを想う、意地らしい程の人魚だったのに。
この男に、どう伝えたものかと思う。

「一途な人魚だった、ぞ…?」
この身を抱き上げてくれた事を、今でも鮮明に思い出せるのは
それ程までに、忘れがたい内容だったからか。

白島は、薄い笑みを浮かべて私の頬に触れる。
『夢ってのは、もう一つの不確かそうな世界で。俺が…見た夢をアンタも
本当は同じ様に見る事が出来る。』

まさか、今まで聞いた事の無い話だ。
「同時にも見れるのか?」
曖昧な笑みが、恐らくは答えなのだろう。
く、と首のあたりを緩く白島に引かれて
『水は、想いを感じ取れる。…アンタなら意味が分かると思う。』

私は、求められるままに白島に口づけても
頭の中は疑問符で一杯だった。

「また、不思議な力を使ったのか?」
『あんなのは、不思議の内にも入らないと思って。』

じゃぁ、私の見た夢でさえも白島に掌握されてるのだとしたら?
『まさか、俺もそこまでゲスい事はしませんよ。ただ、本当にアンタが恋しくて…。
想ってる内にあんな夢まで見てしまって。恥ずかしい話ですけど。』

と言う事は、願望も含まれていると解釈していいのだろうか?
「…私が、恋しいだなんて」
妙にくすぐったい語感で、今一度夢の内容を思い返している。

尾ひれのついた体を、白島に抱き上げられて胸の鼓動が伝わってしまうんじゃないかと
思いながら、その腕の中に居られる事が嬉しくて。
いつかの様に砂浜を歩きたかった。
『俺の気持ちって、伝わりませんかね…?』

いや、伝わっていないのでは無くて。
ただ、あまりにも綺麗な夢を望んだ白島に私は心が揺れていたのだ。

至極、優しくて。いつも私の事を想い、行動で示してくれる。
とても信頼していると言ってもいい。
「白島、は…例えば私の姿を、変えたりとか。そういった能力はあるのか?」
『俺は、そこまで霊力を使えるかと言えば…うーん。難しいですね。教わらなかったので。』
「いかにも、白島は実戦タイプだろうしな。」

『どうしたんですか?急に…。まさか、俺の為に人魚の姿を再現したかったとか?』
「ぁ…、いや…それは」
『ー!やっぱり。でも、あの姿をもう一回見たら…ちょっと理性が保てるか自信ないですし。』

顔を横に背けて、私は顔のほてりを手のひらで冷ます。
「少し、黙っててくれ。恥ずかしくなって来た。」
『珊瑚と似た優しい色で、アンタにぴったりだった。』
言われれば嬉しいが、もう一度夢で逢えたならばまた白島に
恋をすると思う。

夢の外の私の事は、忘れて。ただ、目の前の愛おしい人を想う。
きっと、これは運命にも似ている。

白島の髪を撫でながら、私は窓の外を眺める。
薄暗がりの中で、白島と折り重なるように横になる。
敷いてあった布団だけは、少しひやりと心地いい。
『寝て行ってください。明日は日曜ですし…ゆっくり、朝寝もしたら良いです。』
白島の言葉に甘えて、私は頷いた。


「人魚の恋とは、儚いものだろう?」
『泡沫ですね。でも、美しいから…』
白島の手が、私の脚に伸びて来て浴衣の裾がめくれる。
「こら…っ、」
『夢の中では、俺に見せてくれたのに?』
そんな覚えは無いのだが。
「見せたって、…尾びれは隠しようも無いだろうに。」

『あー、見せてくれたのは……』
白島は、私にそっと耳打ちをした。

信じられなかった。この男は、夢の中の私と一体どれ程いかがわしい事を
しているのかと、白い目で見やった。
「私が、そんなはしたない事するなんて…。何故、止めないんだ」
『そんなの無理ですよ。目の前に淫らな恋人の姿があれば。頂くでしょ、雄としては。』

聞いているコッチが恥ずかしくなる。
「もう、…いい加減休もうか。私も少し体の疲れが残っている。」
寝る支度を済ませてから、一組しかない白島の布団に体を休めて
体には、肌掛け布団を着る。

私は、この後白島が言っていた夢の中の話を
この身を持って体験する事となる。

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