偽りの兄弟。

あきすと

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内心では、いつも無邪気に寄せられる蓮からの想いに
嬉しさで満ちていた。

が、勿論表に出せる感情では無かった。

どうしようも無く、煮詰まってしまい私はあろうことか…
あの晩、蓮に忠誠を誓う言葉を口にしながら
その後には、ベッドに横たわる蓮にとある薬を飲ませた。

一瞬にして、蓮は蕩けそうな視線を私に向けていた。

行為に集中してはいけないと、頭では解っているのに
目の前に心を乱す愛おしい存在が居る。

やがて苦痛に変わっていく、口付け。

蓮に感情を持ったままで、交わせない事がひどく
私を落胆させた。

愛おしく、憐れなお人形。
いたずらに、何度も何度も転生を余儀なくされて
傷だらけで、輝きさえも得てしまった
愛すべき魂。

私の中にも、確かに蓮の兄としての記憶も感情もちゃんと
鮮明に存在している。

だからこそ、これからは成人した蓮のサポートにまわる事になった。

薬で眠ってしまった蓮の唇に、指先でそっと触れる。

起きない。


確認してから頭に手のひらをかざす。眼を閉じると薄く
蓮の遠い記憶から脳内に流れ込んでくる。
造作もない事ではあるが、忌避される行為とされている。
干渉されたものの精神や魂に影響する懸念があるからだ。

しかし、元々直観力が鋭い蓮にバレてしまう事は好ましくなかった。
まだ、時期ではない。

あまり強力な術を使うと、本体である閻魔に気づかれてしまう。
起きた頃には、ぼんやりとした記憶に蓮は戸惑うかもしれない。

「許してくれ…蓮。」

思考を染める事も、記憶を塗りつぶす事も私には造作もない。
ただ、蓮には極力非干渉でありたかった。

蓮が起きている間には、触れる事ももちろんほとんど無い。
でも、子供の頃の様に無垢な寝顔を見つめていると
罪悪感にさいなまれながら、ただ愛おしくて胸が苦しかった。

私の想いはこの胸に仕舞っておこう。

蓮の正直で素直でまっすぐな想いは、いつも私の心を焦がしていく。
全く邪が無くて、こちらが戸惑う程の篤い想い。

「私が、お前を愛さない筈が無かった。」

柔らかい猫っ毛を優しく撫でて、名残惜しさでいっぱいに
なりながら蓮の部屋を後にした。

私は、屋敷から出て隣の別宅に戻った。
従者にも1人1部屋与えられている事がありがたい。
自室の本棚に並ぶアルバムを久し振りに、手に取ってみた。

「私の初めての、本当の家族…。」

セピア色の写真が、綺麗にページに納められている。
全てが示し合わせである事も理解している。

私が、初めて生まれて来た蓮と会った時に見えたものは
蓮の体の周りがうっすら輝いている事に気が付いた。
後にそれは、オーラと言われるものだったと知った。

プリズム状になっており、乱反射して見える。
葵様からすれば、蓮は【限りなく人間に近い神様】と言う認識だそうだ。

年頃になったあたりから、蓮からのただならぬ感情には気付いていた。
私に対する執着も。

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