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※番外編 氷の悪魔
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番外編です。橘の財閥のお話。兄弟は出てきません。
が、橘の一族に関わるお話です。
全ての糸引き役である葵が主人公で進みます。
空が泣き出す。
雨雲が、ゆっくり町を包み…
彼は、やって来る。
大好きな、いや…愛してやまなかった彼女を連れて
来る。
氷みたいな眼差しと、相反する熱い想いを暴走させて…。
名も忘れたか、
憐れな思念が交わって彼は、妖怪のようにも見えた。
久方ぶりの私闘に、些か胸が高なる。
今は、男として存分に戦える。
神力も言霊、鬼道も式神召喚も容易い。
「憐れな…お前はお前の愛する人をそんな姿にして、戦いの道具にまで変えて…どこまで死者を愚弄する気だ?」
名も無き男は自我を失いかけると私を狙いにやって来る。
昔、橘の科学研究所に勤めていた若い秀才がいた。
彼は、生物を科学兵器のように造れないかという研究を与えられていた。
昔の我が国の科学力では、とてつもなく難しい研究とされていたが、彼は、血の滲むような努力と、研究を重ねて…
ようやく、それらしきものが完成させた。
が、陽の目を見ることは無かった。
それは、誰が見ても美しく、冷たい微笑みに心を奪われた。
彼が造り出したものは、全く新しい兵器だった。
見た目は、普通の人間のようにも映る。
橘の研究所では、神力、妖力の類いも研究対象とし、素養のある人間を見つけ出しその力を転用できないかと国がらみで模索している噂がある。
彼は、類いまれなる素養があり…僅かながらの神力と妖力を合わせもった珍しいタイプなのだ。
私は、結婚を機に橘姓を名乗って…一時期は事業もいくつか任せられた。
その橘の科学研究所の隠れた研究を軍部の上層部にも追求されそうになった際に研究チームの解散、研究所の無期閉鎖を命じた。
神力などを研究していれば、いつか私は研究の材料にされるだろう、と見越した判断だった。
その様々な私怨を、押さえ切れなかった彼は、愛する人を氷の悪魔に変えて私を襲う。
美しき氷の悪魔は、彼の婚約者だった。長患いの末に現代の医学では治せない病気であると、医師に告げられ…彼は、彼女を看取った後に美しき魂だけを剥離し、自らの体内に宿らせ昇華させた。
魂は、器の情報をすべて覚えている。肉体が亡びても人の姿を見せられるのは、そのせいだ。
『お前は、橘の研究所が生体実験をしていることを知っていただろう…』
真夜中の橋の上、心細い街灯がぼんやり灯っている。
その中でも、彼の彼女は綺麗だ。青白く幻影のようで触れてみたくなる。
「あぁ、知っていた。だから閉鎖させたのだ。」
『余計な事を…お前のせいで、早雪のデータまで処分された。早雪はな、被験者だったんだ。持病を治すために、新薬の開発に協力していたんだ、解るか?お前によって…早雪の希望は絶たれた。
お前は、人殺しだ…。』
「…。新薬の研究開発は知っていた。だが、その被験者にも致命的な症例が出ていたことを、お前は知らないのか?被験者が何人死んでしまったか…
そして、新たな被験者が来たとしても…それは、身売り同然の子供などが多かった。これが明るみになると…国までもが関与していたことが世間に知らされる。」
『早雪も…そうだった。貧しくて、自身も持病におかされていて…救いたかったのに、待っていてくれなかった。だから、俺はもう一度早雪に生きて貰うことにした。美しき氷の精霊だ。』
ふざけるな。
自分勝手な憐れな男だ。
「私はな、死者を冒涜する者は許さない…覚悟しろ…」
しとしと、降る雨の中でも絶対に消えはしない…
命の灯火…
『お前は、氷の刄で引き裂いてやらないと気が済まない…苦しんで死ね!!』
刹那、何の前触れもなく…早雪の幻影が炎に包まれた。
あまりに突然の事に彼は、ただ彼女が音を上げて溶けていく様を見上げていた。
「私の炎に焼かれると…魂も昇華される。何も残らない。」
アグニは、魂の救済こさ出来ないが…
『お前…式神を…!?使役できるのか?』
「さあ…。下らん話は終りだ…」
『やめろ……!やめてくれ、お前は何度早雪を苦しめるんだ!!』
「……。阿呆、一番彼女を理解していなくて苦しめたのは、他の誰でもない…貴様だ。」
薄い霧が、ほどなくして晴れ…蹲っていた彼に歩み寄る。
稀有な能力を…
勿体無い。
やはり、人間は愚かだ…。
大切な人ほど傷付けて、苦しめる。
『違う、俺は早雪の無念を晴らしたいだけだ…』
「貴様に、彼女の気持ちなど…到底解らんよ。だから、こんな事をしでかした。おかしな思い込みは、これまでにして…やり残したことに、気が付けばまた…歩き出せ。」
彼女には、申し訳無いが…このくらい言わないと、あの人間は生きる意味を失う。
元は、秀才なんだ。
努力と、才能で自分の人生を豊かにできるはず…
社会に見捨てられた、憐れな人間。
いとも簡単に理性を手放し、誰彼構わず怨み、憎み…いずれ
殺す。
なんと醜い…
生まれてから、死ぬまで
たかだか、数十年しかないのだ。
そして、死した肉体は滅び…意識は絶たれ、『自分』は消滅してしまう。
こちらのセカイでは、『魂』は、なんとか残るが。
魂と、宝石は
どこか似ているとこがある。
長きにわたる…輪廻転生で綺麗に少しずつ磨きあげられ輝きを増していく。
それを宿しながら生きている人間も…どれだけかいる。
が、橘の一族に関わるお話です。
全ての糸引き役である葵が主人公で進みます。
空が泣き出す。
雨雲が、ゆっくり町を包み…
彼は、やって来る。
大好きな、いや…愛してやまなかった彼女を連れて
来る。
氷みたいな眼差しと、相反する熱い想いを暴走させて…。
名も忘れたか、
憐れな思念が交わって彼は、妖怪のようにも見えた。
久方ぶりの私闘に、些か胸が高なる。
今は、男として存分に戦える。
神力も言霊、鬼道も式神召喚も容易い。
「憐れな…お前はお前の愛する人をそんな姿にして、戦いの道具にまで変えて…どこまで死者を愚弄する気だ?」
名も無き男は自我を失いかけると私を狙いにやって来る。
昔、橘の科学研究所に勤めていた若い秀才がいた。
彼は、生物を科学兵器のように造れないかという研究を与えられていた。
昔の我が国の科学力では、とてつもなく難しい研究とされていたが、彼は、血の滲むような努力と、研究を重ねて…
ようやく、それらしきものが完成させた。
が、陽の目を見ることは無かった。
それは、誰が見ても美しく、冷たい微笑みに心を奪われた。
彼が造り出したものは、全く新しい兵器だった。
見た目は、普通の人間のようにも映る。
橘の研究所では、神力、妖力の類いも研究対象とし、素養のある人間を見つけ出しその力を転用できないかと国がらみで模索している噂がある。
彼は、類いまれなる素養があり…僅かながらの神力と妖力を合わせもった珍しいタイプなのだ。
私は、結婚を機に橘姓を名乗って…一時期は事業もいくつか任せられた。
その橘の科学研究所の隠れた研究を軍部の上層部にも追求されそうになった際に研究チームの解散、研究所の無期閉鎖を命じた。
神力などを研究していれば、いつか私は研究の材料にされるだろう、と見越した判断だった。
その様々な私怨を、押さえ切れなかった彼は、愛する人を氷の悪魔に変えて私を襲う。
美しき氷の悪魔は、彼の婚約者だった。長患いの末に現代の医学では治せない病気であると、医師に告げられ…彼は、彼女を看取った後に美しき魂だけを剥離し、自らの体内に宿らせ昇華させた。
魂は、器の情報をすべて覚えている。肉体が亡びても人の姿を見せられるのは、そのせいだ。
『お前は、橘の研究所が生体実験をしていることを知っていただろう…』
真夜中の橋の上、心細い街灯がぼんやり灯っている。
その中でも、彼の彼女は綺麗だ。青白く幻影のようで触れてみたくなる。
「あぁ、知っていた。だから閉鎖させたのだ。」
『余計な事を…お前のせいで、早雪のデータまで処分された。早雪はな、被験者だったんだ。持病を治すために、新薬の開発に協力していたんだ、解るか?お前によって…早雪の希望は絶たれた。
お前は、人殺しだ…。』
「…。新薬の研究開発は知っていた。だが、その被験者にも致命的な症例が出ていたことを、お前は知らないのか?被験者が何人死んでしまったか…
そして、新たな被験者が来たとしても…それは、身売り同然の子供などが多かった。これが明るみになると…国までもが関与していたことが世間に知らされる。」
『早雪も…そうだった。貧しくて、自身も持病におかされていて…救いたかったのに、待っていてくれなかった。だから、俺はもう一度早雪に生きて貰うことにした。美しき氷の精霊だ。』
ふざけるな。
自分勝手な憐れな男だ。
「私はな、死者を冒涜する者は許さない…覚悟しろ…」
しとしと、降る雨の中でも絶対に消えはしない…
命の灯火…
『お前は、氷の刄で引き裂いてやらないと気が済まない…苦しんで死ね!!』
刹那、何の前触れもなく…早雪の幻影が炎に包まれた。
あまりに突然の事に彼は、ただ彼女が音を上げて溶けていく様を見上げていた。
「私の炎に焼かれると…魂も昇華される。何も残らない。」
アグニは、魂の救済こさ出来ないが…
『お前…式神を…!?使役できるのか?』
「さあ…。下らん話は終りだ…」
『やめろ……!やめてくれ、お前は何度早雪を苦しめるんだ!!』
「……。阿呆、一番彼女を理解していなくて苦しめたのは、他の誰でもない…貴様だ。」
薄い霧が、ほどなくして晴れ…蹲っていた彼に歩み寄る。
稀有な能力を…
勿体無い。
やはり、人間は愚かだ…。
大切な人ほど傷付けて、苦しめる。
『違う、俺は早雪の無念を晴らしたいだけだ…』
「貴様に、彼女の気持ちなど…到底解らんよ。だから、こんな事をしでかした。おかしな思い込みは、これまでにして…やり残したことに、気が付けばまた…歩き出せ。」
彼女には、申し訳無いが…このくらい言わないと、あの人間は生きる意味を失う。
元は、秀才なんだ。
努力と、才能で自分の人生を豊かにできるはず…
社会に見捨てられた、憐れな人間。
いとも簡単に理性を手放し、誰彼構わず怨み、憎み…いずれ
殺す。
なんと醜い…
生まれてから、死ぬまで
たかだか、数十年しかないのだ。
そして、死した肉体は滅び…意識は絶たれ、『自分』は消滅してしまう。
こちらのセカイでは、『魂』は、なんとか残るが。
魂と、宝石は
どこか似ているとこがある。
長きにわたる…輪廻転生で綺麗に少しずつ磨きあげられ輝きを増していく。
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