【安芸と美祢】だから、俺から離れるな。

ただの恋じゃ終われない

前世と言うものを自分は
見て来た。
いや、正しくは誰かの前世を見て来たと
言う方が正しいかもしれない。

目の前で無防備に眠っている
どう見ても美少女然とした野郎の
前世も俺は知っている。

何度も生まれ変わってまた、俺と出会う
数奇な運命を生きている。
この前の姿を、今の美祢はもしかしたら
気づき始めているのか。

近頃突発的にいなくなるのは、
記憶が戻りつつある兆候なのか？

すやすやと子供みたいな寝息を
たてながら、今でこそ同じベッドで
寝ているが。
美祢は自分の容姿を客観視できていない
らしく、どちらかと言えば人の容姿に関してもそれ程頓着が無い。

が、その中でも一応俺の事は
別枠らしく時々ジィッと顔を覗き込んだり
見つめたりしてくる。

とある事情から、転生しても美祢は
変わらず男性として生まれ変わっていて
ようやく俺も覚悟を決めたんだ。

やっと、時代が変わって変容を受け入れて
貰える様に世の中が少しずつ拓けていくのかと思っていた。

盛大な告白だったと、我ながら思っていた。
美祢の実家は蕎麦屋で。
美祢はまるで看板娘の様に幼い頃から
店の手伝いに熱心だった。

高く結えた長い髪に、すっかり見慣れた
前掛け姿。

「美祢、お前も都に出るんだろう？」
『…俺が？何しに？』
「大学、受験するんじゃないのか？」
『安芸は春から本社勤務だっけ。そっかぁ』
のんきな美祢の言葉に、俺は随分と
やきもきさせられたものだ。

『するよ。するけど…まだ、そこまで心が追い付いてなくて。』
美祢、17歳。
俺は33歳と言う歳の差である。
「一緒に住まねぇか？」
何げなく切り出した時の美祢の表情は
驚きを隠せていなくて
目を丸くしていた。
『簡単に…言わないでよ～、』
「簡単に言うと思うか？こんな話。どれだけお前を待っていたと思ってるんだよ。」

いつの時代の美祢も、俺の知らぬ間に
その命の花を散らせていってしまう。
気が狂いそうな孤独。
届かない恋情。

だから、今回の美祢だけは絶対に
逃さないと固く誓った。
美祢との関係性を健全に保つ事は
確かに重要ではある。
『もう、何なのさ…安芸は本当に昔から俺の事ばっかりで。良いの？結婚とかさ、安芸も結構いい歳でしょ。』

美祢は仕事終わりに買いに行く自販機のある公園で、ベンチに座って俺と話していた。
「俺は昔から美祢としか、結婚する気がないんだ。」
夕焼けに染まる美祢の頬は、柔らかな笑みで
少しだけ曲線が穏やかに映る。

『あのね、俺もここまで…真剣に想われてるのはちゃんと伝わってるよ。だから、その…誕生日までもう少し待って欲しいかな。』

不意に視線が重なって、美祢はゆっくりと
目を閉じた。
「まだ、気恥ずかしいか…？」
『当たり前だよ。俺ね、人生でこんなにも誰かに想われた事って無いの。』

隣の美祢の肩を抱き寄せて、手を握る。
これくらいしか今は出来ない。


純情で、可憐な美祢が…あれから2年の月日が流れて今じゃ半裸で俺の隣で
眠っている。
余りに感慨深い。

一緒に暮らす様になってからは
家賃を定額払ってもらう事になり
（美祢の両親の手前もある為、カタチだけに近い。実はこの金額も美祢に将来返すつもりでどけてある）
同棲生活も2年経過した。

真面目に大学に通いながら、バイトに就きたいと言い出した美祢を俺はたしなめた。
あれこれと、それらしい理屈で説き伏せたが
家に帰って来て美祢が居ないのは
単純に面白くないからだ。

そもそも、誰かに目でも付けられたら
面倒くさい。
美祢は俺のだから。

やっとの事で念願叶って、一緒に暮らせる
時が来たんだ。
時間がいくらあっても足りない。
暇さえあれば、構いたいし確かめ合いたい。

俺の独占欲はハッキリ言って異常かもな。
それもこれも全部、美祢の前世が
余りにも儚かったのに、恐らく起因している事だろう。

恋しくて、愛おしくて仕方がない。

先程まで何度も上り詰めて、疲れ果てて
眠る美祢の頬を指でそっと撫でる。