【安芸と美祢】だから、俺から離れるな。

あきすと

文字の大きさ
上 下
1 / 4

だから、俺から離れるな。

しおりを挟む
「………どうですか。思い出しましたか?宰相閣下」

 肩を激しく上下させながら、息も絶え絶えな宰相閣下の姿に同情する気は一切起きない。体を拘束され口を塞がれては魔法も使えない。未だに困惑して目を彷徨わせている宰相閣下に溜息が出る。彼は前回の事が蘇っても自分の何が悪かったのか全く理解していなかった。それどころか、後悔すらしていないときた。

「あの大公家にしてやられましたね。いや、今回の貴方は喜々として大公家に尻尾を振って協力してましたね。その結果がコレだ。貴方の大事な国は内乱で滅亡寸前だ。ああ、国じゃない。王家と現政権が、でした」

 あからさまな皮肉が効いたのか、宰相の目は怒りで血走っていた。そんな目で睨まれても怖くもなんともないし、むしろ滑稽だった。
 その怒りは自分が馬鹿にされたというものだ。どこまでも自分が可愛いのだ。それに無自覚なのが余計に質が悪い。

 前回で、ブリジット様を失った原因の一つがこの男の存在に有る。

 真実を知った時は『被害者の父親』に早変わりだ。面の皮が厚いにも程がある。
 当時、宰相という立場と共にまだ公爵でもあった。ブリジット様の実父であり公爵家当主でありながら娘を糾弾する側に立つとはどういう了見だろうか。
 
 この男は被害者側ではなくだ。
 
 ミゲル様は情に厚い。
 悪く言うと情に脆い処があった。義父として涙ながらに謝罪すれば許されると本気で思っていたようだが、謝罪する時期はとっくに過ぎていた。しかもその事に気付かなかった。寧ろ、終わった頃に言われたせいで逆にミゲル様の怒りを買ってしまった。
 そもそも、娘が冤罪を掛けられてそれを鵜呑みにした男だ。
 ブリジット様を信じず、追い込んだ人間の一人だろうに。
 理解に苦しむ。

 結果的にそれらの行動が仇となったわけだ。

 宰相の地位も公爵の地位も何もかも取り上げられた。

 ブリジット様の件が起こる前から何かと「父親」として思うところはあったようだ。

 それでもブリジット様の実父。
 他の者達と同類にはできなかった。
 ミゲル様は義父を屋敷の地下牢に幽閉した。

 普通の幽閉では飽き足らなかったのだろう。
 日の光が当たらない場所で生涯を閉じる事を望んだ。
 親子として和解など以ての外だという考えは心の中をのぞくまでもなかった。
 


 
 今回は、ブリジット様を王家にとられる事なく無事だ。
 内乱が終結すれば、ミゲル様とブリジット様の双方がこの国の頂点に立たれる。

 都合の悪いことは直ぐに忘れる男は、「父親」という名目を恥ずかしげもなく晒すだろう。若い二人を支えるとか何とかいって。
 自分が裏切って踏みにじってきたという事すら忘れて――

「実の娘を裏切っておいて、義理の息子が許すと本気で思っているところは今も昔も変わらない。未来のある二人のために貴方は邪魔なんです」

 この男は今度こそ報いを受けるべきだ。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

花開く記憶~金色の獅子の煩悶~

あきすと
BL
匂いは記憶 出てくる人 青年(フラウム) 成人して間もない貴族の青年。 お隣の国に住む願望を叶えるべく 色々とお勉強中。 髪の色はアッシュグレーの長髪。 金色の獅子(こんじきのしし) 青年の子供の頃の憧れ。 お隣の国の王様。 ずっと忘れられない人が居る。 金髪碧眼。 店主 結構良い人そうだけど、強面。 情報通。 とあるお客 青年の初めてのお客さん。 何となく気になる存在。 ちょっと久し振りに、真面目に内容を書いていきたくて。 長くなりそうなのですが、お付き合いいただけますと嬉しいです(#^.^#) オッサンと青年好きな人向けです。 ファー、早くイチャイチャさせたいけど片想いも楽しい。 RPGっぽい世界観を背景にしています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

処理中です...