【安芸と美祢】だから、俺から離れるな。

あきすと

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だから、俺から離れるな。

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高校生の頃の美祢(もちろん安芸が撮影)







「大概にしろ、馬鹿」
これで何度目だ?
俺が美祢を捜しに行く事になるのは。
何度も離れるな、と言い聞かせても
同棲までしてるってのに
突然いなくなるのだ。

男の割には綺麗な飴色の髪を
肘まで伸ばした後ろ姿は
一見すると、異性の様にも見える。

柔らかな物腰で、人懐こい笑顔が
俺を見上げる。
『だって、俺…安芸とは一緒にいられなくて』
理由が知りたかった。
2人で暮らせる部屋まで用意したのに
俺は仕事に明け暮れていたかも
しれないが、愛想を尽かされる覚えが
本当に無いと思う。

美祢と俺は旧くからの腐れ縁で、
想い合ってはいるものの
こんな調子だから距離がはかれない。

付き合うカタチで納得しているのだと
思っていたら、美祢は実家に帰っていたり
いつも前触れなく俺の前から消える。

駅で偶然にも捕まえた美祢は
手荷物さえ少ない。
またどこかに行くと言うならば
今日こそは無理矢理にでも
連れ帰らなければ。

『安芸がいけないんだよ?俺なんかと一緒に暮らしたりするから…俺が毎晩どんな夢見てるか、知らないでしょ?』

無意識にねじり上げた美祢の右手に気が付いて、サッと手を離した。
ここじゃ、人目がある。
美祢は掴んでいた手を庇う様にして
手首を握りながらうつむく。

「話なら、帰ってから聞いてやる。とにかく部屋に帰れ…ちゃんと逃げずに俺を、待っててくれ。」
俺はまだ、仕事の途中であったし
軽く美祢の頭を撫でてから
仕事に戻った。

美祢は、薄いベージュのコートに
細身のボトムを履いていて
やっぱり少しだけ目を引くのは
昔と変わらない。

何処にいても、心奪われる。
愛すべき対象であると俺の遺伝子は
記憶している。
例え、美祢が異性だとしても
同性だとしても俺からすれば
同じ事なのだ。

その内本当に発信機でも美祢に
取り付けようかと思うくらいに
美祢の不可解な逃避は
度々行われている。

なのに、…何でだろう?
離れたがるわりに家ではものすごく
甘えてくるし。
夜だって、それなりに共にしてる。

よく分からない、見えてこないのに
俺と一緒の時は可愛く思う程の
べったり加減がやっぱり納得いかない。


残業も無く家に帰ると、美祢は約束通りに
ちゃんと部屋にいた。
長い髪を左右に結えて料理に
勤しんでいる。

ほら、な…?

さっきの事なんか忘れたみたいに
夕飯の支度をしている。
「美祢、ただいま。」
『安芸…ん、おかえり』

淡い笑顔がこちらを振り返る。
「お前…覚えてるのか?さっきの事」
美祢はコンロの前に立っていて
木の杓子を片手に鍋の番をしている。
『~俺、病院行った方がいいかな?』

不安げな瞳が微かに揺れていた。
ここの所、確かに皆の様子はおかしい。
おかしいが、恐らくはさっき美祢が言った
言葉に何か意味がある気がして
俺は美祢を背後から抱きすくめた。

「焦るな、とにかく…心配な事があるなら俺に話してくれ。全部、聞くから勝手にいなくなるな。」
『安芸…、俺はさ多分こんな普通に、ましてや好きな人と暮らしてたりしたら…許されないよ。』

どう言う事だ?益々困惑を覚えながらも
今はとにかく、美祢の気持ちが落ち着くのを
待つ事にしよう。
話を聞くのであれば、夕飯が済んでからか。

美祢は苦労人でもあり、子供の頃から
家の手伝いをよくしていた為
家事は卒なくこなせている。
地方出身で、都会に出て働く身なのは
俺も美祢も変わらなかった。

山口美祢を認識した時から、俺は
不思議な親近感と執着心が早い段階から
芽生えていた。
理由など考える事もなかったし
ただ、好いている事を客観的にも
自覚していた。

年齢差もあるし、ハタから見れば
保護者かと思われた事もあったが
俺が唯一、人間として
しっくり来る相手がいまだに
この美祢しかいない。
と言うのも何だかおかしな話ではあった。

すんなりと夜の時間まで共にする様になったのは、美祢が高校を卒業した後からだった。
耳まで真っ赤にさせながら、ひんひん泣き言を言って駄目とか無理とか、死んじゃうって散々逃げ腰になっていた美祢の
上擦った声を思い出す。

あれから、数年…あっという間に
時が流れてしまった。

『だからぁ…っ、ゆめ…っが…ぁ』
薄明かりの中でも、美祢の細い腰の
ラインが見えた。
幸いして、今夜は満月だ。
だからか?
美祢がやけに乱れていく。

揺らめく腰と、瞳に差す光。
秘めた行為の衣擦れの音。
汗に淡く混じる美祢の首筋の香り。

こんなに繋がって、抱きしめ合っても
離れたいなんて嘘だろう?
体がそれを望んでない癖に、
美祢の身に起きている事が
いまだ理解出来ない。


腹に散った残滓を処理しながら
気だるげに美祢は、
『俺さ、きっとコレ…前世の記憶ってヤツが見えてるんだと思う。』
意外にもハッキリとした口調で言った。

「ちょ…っ、お前なぁ…このタイミングで言うか?」
『ヤだヤだ、今日は一回だけだからね…おしまい。』
美祢は髪を手ぐしでまとめて、サラッと自分の側に寄せながら半裸でブランケットを
手繰り寄せた。
「明日も仕事だからな、そのつもりだった。…って、前世って?何か感じるのか」

美祢は、う~ん…と悩みながら
『悪夢…みたいだけど、でも…安芸も出てくるんだよ。まるで時代劇みたいでさ?』

「俺も、出て来るのか…」
『そう。だから意味があるのかもしれないって。見た事ある場所なんだよね、いつも』
「うなされては、無いぞ?一応。」

夢見が悪いだけなんだろうか?
『みたいだね。でも、何回か泣きながら起きた事はあったかな。』
「お前が、前世の話するなんてな…」

『だって、他にどう考えても思い浮かばないよ。』
俺には、まだ美祢には話していない
とても旧い記憶がある事を
そろそろ話していいのかもしれない。
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