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夢に落ちると、いつもの情景。子供の頃は意味も分からなかったけど。
大切な誰かに、抱かれながら視線だけが遠くに向かっていく。
ひっそりと夜の秘密を堪能している。
部屋は薄暗がり、月が満ちた夜。
灯りの無い部屋で、重なり合う想い。
他の誰かの視線、と…恐らくは昏い感情。
俺は、自分を守ってくれる大きな存在に心も体も預け委ねていたんんだ。
ただ、この事が遠からず誰かを傷つけてしまっていた事に
なかなか気が付かなかった。
探り合う手の行き着く先や、触れた温度の馴染みに酔いしれていて
すっかり昔の若波に溺れていた。
主従関係以上であり、あまりにものめり込んでいる。
自覚する事が怖かった。
自分よりも大事な存在が、もし相手に現れたら…と思う分だけ心が苦しく
切なくて。
いつもいつも、嫌われたくない。
愛されていたいとばかり思っていた。
恍惚とした目覚めは、現実にすぐに引き戻されてしまう。
『重症だな。いすか。』
この歳になって、朝からお風呂場で洗い物をするとは。
結局、すぐに若波に見つかってしまう。
屈んでるすぐ後ろから、若波の声がする。
「…俺の事弄んでたのは、いつも夢の中の若波なのに。」
いたたまれない。
『俺が、夢でお前に何してるのか…知らないとでも?』
若波は、あくびをして何だか眠そう。
「え…もしかしてまた同じ夢見てた!?」
『さぁ?同じかどうかは証明のしようがないけど。』
「よっきゅーふまんみたいで恥ずかしい…。」
『俺も、眠りが浅くて全然疲れが取れない。お前、隣でもぞもぞやってるから尚更だ。』
もぞもぞって、なに!?
「も~ここの所頻繁でさすがに、ちょっとさぁ。」
『…しゃーないって。だって、そういう関係だったんだから。…朝飯出来たからサッサと来いよ。おパンツ洗い。』
「!?だれがおパンツ洗い…っ…恥ず~…」
若波は時々、昔の自分が心や脳内を占有する事は教えてくれた。
俺にもそこまでハッキリとはしないながらも、記憶の入り混じりは
昔からあった事だから、と特に気にはしなかった。
この前の、今度裏切ったら許さない。
ってのは、きっと俺の先祖が他の人と結婚してしまった事に
起因していると思われる。
もとを辿れば、俺…と言うより前世の俺がいけなかったのか。
でも、子孫あってこその今なんだし。
頭がこんがらがりそう。
洗濯機をついでに回してから、俺はリビングに戻った。
『…おはよ。』
「え…っ!?ぁ…うん。おはよう。(見なかった事にしてくれるのかな?)」
『あのさ、そろそろココ出ようと思うんだけど。』
「は、へ…?寮手狭ではあるからね。」
席に着くと、若波は俺の目の前にお皿を静かに置き。
パンのトーストする良い匂いにソワソワしていると
『どう考えても狭い。でな、お前はこの先どうするのか聞かせて欲しい。』
「待ってよ、若波。もしかして…夢が原因?」
『まさか。ただ単に狭いからだ。近頃物も部屋の中に増えてはきてるし。』
「俺は、若波と一緒ならどこでも良いんだけど。」
コーヒーメーカーで淹れられたカフェラテを手渡されて
俺は少しだけ客観的に若波を見ていた。
ま、どう考えても若波は凝り性の完璧主義だ。
本当はコーヒーメーカーよりも、エスプレッソマシーンが欲しかった事も
ちゃんと知っている。
焼けたトーストにバターと蜂蜜まで塗ってくれて。
サラダに、エッグスラートまで出て来る。
「あのね、若波?多分…若波のお家がお店だったせいか、最近この部屋がほぼ喫茶店だよ。」
『…ソレ、知ってるのはお前と智彰と彩斗くらいだけどな。』
「居心地良いのにね、そっかぁ…じゃぁすぐにマネージャーさんに話して、物件探していこうね。」
『躊躇いなさ過ぎ。もっと悩まなくて良いの?いすか。』
そう言われても。俺と若波は公私共にパートナーである事には変わりがない。
「ヤダよ、今更別々だなんて。」
いただきまーす、と手を合わせて。
若波の朝ごはんを堪能する。
『俺が甘やかしてると、いすかの体形維持が出来なくなるのがネックだよなぁ。』
「…そんな、管理しようとしなくて良いの。」
『でも、骨格のつくりの割には…アレだよな。華奢ではある。』
朝から、遠慮のない若波の視線にもいつしか動じなくなっていて
「今日も美味しい~♡」
『…また、ウチに帰ったら夏限定のメニューも作ってやるよ。』
イケメンで優しくて、凝り性・完璧主義な若波は多くのファンを獲得するのに
そう時間は掛からなかった。
俺は、どこまで行っても平均点あたりの。
どちらかと言えば、不器用な面が多い。
自分でも自覚がある程に。
でも、こうだからこそ若波に引っ張り上げられて頑張れている。
若波といると、自分がほんの少し背伸びできそうで
頑張ってみたくなる。
歌もダンスも、若波には追い付くまでまだ時間が掛かるけど。
若波に恥をかかせたくはない。
「わぁ、もうそんな時期なんだよね?しかも今回は若波考案のメニューでもあるんだよね。」
『そう、ほうじ茶使ってる。』
「知ってるファンの子はもう食べに行ってるみたいでさ。SNSでも紹介されてた~」
『まぁ、でも限定メニューだから。1日15食までだけど。』
「…ちゃんと、休もうよ若波。お休みの日はただでさえ、減ってるのに。」
トーストを食んで、若波のここ数日間のスケジュールを思い返してみた。
本当に、いつ寝てた?移動中とか、車の中くらい。
俺は、ただ心配するしかしてなくて。
いつか、若波が倒れちゃうんじゃないかって気が気じゃない。
一緒に居ると、若波の性分で俺にお世話を焼いてくれる。
嬉しいけど、確かに過保護過ぎる。
「新しいお部屋、やっぱり寝室は別々にしよう。」
『…え、あぁ…いすかが言うんなら。』
「絶対その方が良いよ。ちゃんと休める時に休んで?俺…もっと家の事も頑張るからさ。」
若波に甘えてる、うん。否定のしようがない程に。
でも、負担を少しは俺も背負いたい。
せめて、自分のことぐらいはね。
『会話内容が…』
「…?あ、フフッ…♡結婚してるみたいだった?」
若波が少し照れている。可愛げがある彼氏だなぁ。
そうと決まれば、身の回りの整理だとかをしていかなきゃ。
掃除も出来る限りする。
やる事いっぱいだなぁ。
まぁ、ぶっちゃけ俺よりも若波の方が仕事量が多いから。
代わりに進めて行こう。
のん気に夢の話とか言ってる場合じゃない。
引っ越しは、人生においての重要なイベントでもある。
『いすかも、気になる物件とか見かけたら俺に教えて欲しい。』
「うん。分かった。今はさネットでも内見出来たりするから便利だよね~」
一瞬、若波のコーヒーカップを持つ手がピクッと震えた。
『俺は、実際に現地行く。でないと…』
「あ、そうなんだ?うん。俺もできればちゃんと自分の目で確かめたい。」
『だよな。』
「もしかしてさ、若波って…霊感とかあるの?」
まさかとは、思うけど~と言うノリで聞いてみた。
大切な誰かに、抱かれながら視線だけが遠くに向かっていく。
ひっそりと夜の秘密を堪能している。
部屋は薄暗がり、月が満ちた夜。
灯りの無い部屋で、重なり合う想い。
他の誰かの視線、と…恐らくは昏い感情。
俺は、自分を守ってくれる大きな存在に心も体も預け委ねていたんんだ。
ただ、この事が遠からず誰かを傷つけてしまっていた事に
なかなか気が付かなかった。
探り合う手の行き着く先や、触れた温度の馴染みに酔いしれていて
すっかり昔の若波に溺れていた。
主従関係以上であり、あまりにものめり込んでいる。
自覚する事が怖かった。
自分よりも大事な存在が、もし相手に現れたら…と思う分だけ心が苦しく
切なくて。
いつもいつも、嫌われたくない。
愛されていたいとばかり思っていた。
恍惚とした目覚めは、現実にすぐに引き戻されてしまう。
『重症だな。いすか。』
この歳になって、朝からお風呂場で洗い物をするとは。
結局、すぐに若波に見つかってしまう。
屈んでるすぐ後ろから、若波の声がする。
「…俺の事弄んでたのは、いつも夢の中の若波なのに。」
いたたまれない。
『俺が、夢でお前に何してるのか…知らないとでも?』
若波は、あくびをして何だか眠そう。
「え…もしかしてまた同じ夢見てた!?」
『さぁ?同じかどうかは証明のしようがないけど。』
「よっきゅーふまんみたいで恥ずかしい…。」
『俺も、眠りが浅くて全然疲れが取れない。お前、隣でもぞもぞやってるから尚更だ。』
もぞもぞって、なに!?
「も~ここの所頻繁でさすがに、ちょっとさぁ。」
『…しゃーないって。だって、そういう関係だったんだから。…朝飯出来たからサッサと来いよ。おパンツ洗い。』
「!?だれがおパンツ洗い…っ…恥ず~…」
若波は時々、昔の自分が心や脳内を占有する事は教えてくれた。
俺にもそこまでハッキリとはしないながらも、記憶の入り混じりは
昔からあった事だから、と特に気にはしなかった。
この前の、今度裏切ったら許さない。
ってのは、きっと俺の先祖が他の人と結婚してしまった事に
起因していると思われる。
もとを辿れば、俺…と言うより前世の俺がいけなかったのか。
でも、子孫あってこその今なんだし。
頭がこんがらがりそう。
洗濯機をついでに回してから、俺はリビングに戻った。
『…おはよ。』
「え…っ!?ぁ…うん。おはよう。(見なかった事にしてくれるのかな?)」
『あのさ、そろそろココ出ようと思うんだけど。』
「は、へ…?寮手狭ではあるからね。」
席に着くと、若波は俺の目の前にお皿を静かに置き。
パンのトーストする良い匂いにソワソワしていると
『どう考えても狭い。でな、お前はこの先どうするのか聞かせて欲しい。』
「待ってよ、若波。もしかして…夢が原因?」
『まさか。ただ単に狭いからだ。近頃物も部屋の中に増えてはきてるし。』
「俺は、若波と一緒ならどこでも良いんだけど。」
コーヒーメーカーで淹れられたカフェラテを手渡されて
俺は少しだけ客観的に若波を見ていた。
ま、どう考えても若波は凝り性の完璧主義だ。
本当はコーヒーメーカーよりも、エスプレッソマシーンが欲しかった事も
ちゃんと知っている。
焼けたトーストにバターと蜂蜜まで塗ってくれて。
サラダに、エッグスラートまで出て来る。
「あのね、若波?多分…若波のお家がお店だったせいか、最近この部屋がほぼ喫茶店だよ。」
『…ソレ、知ってるのはお前と智彰と彩斗くらいだけどな。』
「居心地良いのにね、そっかぁ…じゃぁすぐにマネージャーさんに話して、物件探していこうね。」
『躊躇いなさ過ぎ。もっと悩まなくて良いの?いすか。』
そう言われても。俺と若波は公私共にパートナーである事には変わりがない。
「ヤダよ、今更別々だなんて。」
いただきまーす、と手を合わせて。
若波の朝ごはんを堪能する。
『俺が甘やかしてると、いすかの体形維持が出来なくなるのがネックだよなぁ。』
「…そんな、管理しようとしなくて良いの。」
『でも、骨格のつくりの割には…アレだよな。華奢ではある。』
朝から、遠慮のない若波の視線にもいつしか動じなくなっていて
「今日も美味しい~♡」
『…また、ウチに帰ったら夏限定のメニューも作ってやるよ。』
イケメンで優しくて、凝り性・完璧主義な若波は多くのファンを獲得するのに
そう時間は掛からなかった。
俺は、どこまで行っても平均点あたりの。
どちらかと言えば、不器用な面が多い。
自分でも自覚がある程に。
でも、こうだからこそ若波に引っ張り上げられて頑張れている。
若波といると、自分がほんの少し背伸びできそうで
頑張ってみたくなる。
歌もダンスも、若波には追い付くまでまだ時間が掛かるけど。
若波に恥をかかせたくはない。
「わぁ、もうそんな時期なんだよね?しかも今回は若波考案のメニューでもあるんだよね。」
『そう、ほうじ茶使ってる。』
「知ってるファンの子はもう食べに行ってるみたいでさ。SNSでも紹介されてた~」
『まぁ、でも限定メニューだから。1日15食までだけど。』
「…ちゃんと、休もうよ若波。お休みの日はただでさえ、減ってるのに。」
トーストを食んで、若波のここ数日間のスケジュールを思い返してみた。
本当に、いつ寝てた?移動中とか、車の中くらい。
俺は、ただ心配するしかしてなくて。
いつか、若波が倒れちゃうんじゃないかって気が気じゃない。
一緒に居ると、若波の性分で俺にお世話を焼いてくれる。
嬉しいけど、確かに過保護過ぎる。
「新しいお部屋、やっぱり寝室は別々にしよう。」
『…え、あぁ…いすかが言うんなら。』
「絶対その方が良いよ。ちゃんと休める時に休んで?俺…もっと家の事も頑張るからさ。」
若波に甘えてる、うん。否定のしようがない程に。
でも、負担を少しは俺も背負いたい。
せめて、自分のことぐらいはね。
『会話内容が…』
「…?あ、フフッ…♡結婚してるみたいだった?」
若波が少し照れている。可愛げがある彼氏だなぁ。
そうと決まれば、身の回りの整理だとかをしていかなきゃ。
掃除も出来る限りする。
やる事いっぱいだなぁ。
まぁ、ぶっちゃけ俺よりも若波の方が仕事量が多いから。
代わりに進めて行こう。
のん気に夢の話とか言ってる場合じゃない。
引っ越しは、人生においての重要なイベントでもある。
『いすかも、気になる物件とか見かけたら俺に教えて欲しい。』
「うん。分かった。今はさネットでも内見出来たりするから便利だよね~」
一瞬、若波のコーヒーカップを持つ手がピクッと震えた。
『俺は、実際に現地行く。でないと…』
「あ、そうなんだ?うん。俺もできればちゃんと自分の目で確かめたい。」
『だよな。』
「もしかしてさ、若波って…霊感とかあるの?」
まさかとは、思うけど~と言うノリで聞いてみた。
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