【⑤天乃屋兄弟のお話】願いの星に届くまで

あきすと

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⑪いってらっしゃい

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もし、運命と言うものが確かにあるのだったら
もし、かみさまと言う存在が居るのだったら。

本当に、心底俺も兄貴も手のひらの上で転がされていると思う。

俺は、母親からの電話でもう誕生日どころではない話題に
すっかり気落ちしていた。

兄貴は20時を過ぎた頃に帰って来た。
すぐに晩御飯の配膳をして、兄貴が台所に来るのを待つ。

何から言えば良いのか、少し考える。
落ち着いて、あくまでもまだ何も起きてはいない。

『星明~ただいま。…ごめん、思ったよりも遅くなった。』
椅子から立ち上がって俺は兄貴と目が合って、気まずさで
反らしたくなったけど耐えた。
で、ひきつった笑顔でとりあえず
「お帰りなさい、お疲れ様だったね。」
『…なんかさ、俺の携帯めっちゃ鳴ってたんだけど。母さんからだった。』
「兄貴にも掛けて来たんだね。電波悪くて確実かは分からないんだけど。兄貴の…その、
向こうの家族の話だったと思う。お祖母ちゃん?が、会いたがってるんだって。」

兄貴のお祖母ちゃんの存在は知ってはいるけど、俺は直接
会った事は無かった。
写真では見た事があるくらい。

『めっちゃ急だけど…、元気なんだろ?』
「そこまでは、分かんなかった。ただ、もし会う気があるんだったら…父さんと母さんが
お祖母ちゃんのトコまで案内はするって。」

兄貴は、少しだけ表情を曇らせて席に着いて
『とりあえず、食べながら考えてみる。』
手を合わせた。

大きく動揺もしてない、けどちゃんと考える気はあるみたいで
内心俺はホッとしていた。

「そうだね、とりあえずご飯食べてからでも良いと思う。」
俺もいただきます、と手を合わせてゆっくりと晩御飯を2人で食べる事にした。

兄貴は晩御飯が終わると、自室で今日の鑑定の片付けをしている。
俺は、皿洗いをしながら、考えても仕方のない兄貴の事をグルグルと思考の
渦にとらわれながらただ考え続けた。

兄貴の家族の事だから。俺には何も口をはさむ気は全然ない。
けど、どうするのかな?と思う。

兄貴は昔から自分に流れる血をとても好意的に見ていた事を知っていたから
なんとなく俺もそんな兄貴が素敵だな。と思っていた。

『星明、』
兄貴が居間から台所に来てカウンター越しに声を掛けてきた。
「うん?どうしたの、兄貴」
『俺、行って来るわ。』

ちょっとだけ、意外な気がしたのは何故だろう。

「!うん、絶対、その方が良いよ。お祖母ちゃんきっと、喜ぶね。」
俺は、きっと嘘つきかもしれない。

兄貴は、今の家族を…選ぶんじゃないかって。
心のどこかで期待してた。

『ちょっと電話してくる。』
「そうだね、向こうはもう朝だと思うから出てくれると思うよ。」
兄貴は、自室に多分戻って行った。

足音が遠ざかる、嫌だな。
まるで兄貴が本当に…俺やこの家から離れていくみたいに思えた。

俺は、その日さっさとお風呂に入って。
自室で早い時間から床に就いた。

夢さえも見ない、深い眠りだった。

翌朝は、早くから目が覚めた。薄っすら朝方は空気が冷たい。
枕元に、小さ目の箱が置かれていた。
真っ白い皮の箱に金の箔押しの刻印。

「…兄貴だ、そっか…昨日」
あまりにも俺が一人で動揺していたけれど、
兄貴はちゃんと忘れずに居てくれた事が嬉しかった。

俺は、嬉しくて…箱を手にしたまま寝室を出て
兄貴の部屋に向かった。

ノックをしてからドアを開けると、
『…星明』
「ぇ、なんで…あにき?もう行っちゃうの?」
兄貴は既に旅支度を済ませていて驚いた。
大きめのキャリーケースがやけに俺にはショックだった。

『大丈夫、ネットも繋がるし。ちゃんと連絡する。』
「……ごめん、なんか信じられなくて。だって、昨日の今日だし。」
『昨日、母さんに電話したら…あんまり状態が良くないらしいから。それで急いだ。』
「!?そうなの?それは、やっぱりすぐにでも、行かなきゃ…。ちゃんと待ってるか、ね。」

気をちゃんと持っていないとなんだか、心がグラグラしそうで。
兄貴は、いつもの飄々とした雰囲気ではあるけどこう見えても
結構動揺してるのを、俺は知っている。

『この家で…俺の事、待ってて。』
兄貴に抱き寄せられて、もう持ちこたえられなかった。

頬に伝う涙を、兄貴が指先で拭ってくれる。
「皆に、よろしくお伝えください…ひ…っ、」
『律儀だなぁ、こんな時ぐらい言いたい事言えよ。』
「ダメ。」
『ガンコちゃん。頭ガチガチだな。でも、俺はこういう星明だから…な。』
俺への子供でもあやす様な背中への撫で方にも、今は愛おしくて
心がいっぱいになる。


「体調、気を付けてね?」
『こっちの両親もいるから、何とかなるだろ。あの人等は国外では頼りになるからな。』
「……まぁ、仕方ないよ。ほとんどこっちには居ないんだから。」
『そろそろタクシー来るから、』
「早いよ~…身支度してこればよかった。」
『…あ、』

玄関のインターホンが鳴った。
「来たんじゃない?」
『じゃ、行って来ます。あ、動画は取りダメしたのあるから適当に上げてくれていいから。』
兄貴は、何故か敬礼して無駄に姿勢が良くて
俺はついつい笑ってしまう。

「ほらもう、行かなきゃ。お待たせしちゃうよ~。行ってらっしゃい。」

俺は、その後まさかこんなにも長く兄貴と離れる事になるとは
思いもしなかった。






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