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⑨(星明視点)家族
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迎えた七夕当日。
朝から2人で、午前中の内にライブ配信をして
すぐに午後からの準備に取り掛かる。
今日は、兄貴が帰って来てから一緒にゆっくり晩ご飯を食べて…
先々の段取りに追われながら、昼食を済ませた兄貴は
公民館に行き、夕方から始まる出店の設営に向かった。
俺も一緒に行こうと思ったけど、
『今日は、手伝わなくていいから。たまには家でゆっくりしてろ。』
って言われてしまい。
着替えに1度帰って来ることを聞いて、
少し安心した。
いつもだいたい一緒に居る様になってから
数年経つけれど、好きな人に見られてる意識がずっと
あるせいかいい緊張感があるのも確かだった。
兄貴の後姿を見送ってから、俺は家の庭に水を撒いていた。
涼しい。
梅雨の合間の良く晴れた午後。
吹く風は生温い。
台所で淹れたライチのフルーツティーを冷やして、お盆に載せて
縁側に腰を下ろす。
「はぁ…もう、真夏みたいに暑い。」
つかの間の休息。今日は確かに誕生日だけれど、変に気負うのもなんだか
違う気がして。
自分の為に豪勢な食事を作りはしないし、ケーキを焼くにもそんな気にならない。
俺にすれば、珍しい状態。
頑張らないでもいいなら、その方がきっと楽だ。
脚を庭に向かって投げだして、冷えたアイスティーを飲みながら
庭先の物干し台で揺れる洗濯物を見ている。
そういえば、この前の…新しく買ったセパレートのアレ。
着るのも結構恥ずかしかったけど。
兄貴もやっぱり、白とかいかにもなデザインに弱いのかな?
案外、王道が好きっぽいから(ケーキならイチゴのショートケーキって言う程には)
俺がどこまで応えられるのかは、この先も分からないけど。
「……」
妙にしんみりしかけて、気落ちしない様に空を仰ぐ。
本当は何も、不安に思う事なんてないのに。
ただ、両親が帰って来たら…兄貴はどうするのかな?
もし、家を出るつもりだったら…とか。
もやもやが治まらない。
薄暗くなり始める前に、兄貴が帰って来た。
すぐに、シャワーを浴びた様子で。
前もって、準備しておいて良かった。
今の季節は大変だろうなぁ、兄貴のあの長い髪だと。
「お帰り、浴衣とか小物の準備は出来てるよ。」
『…かお、少し赤いけど?』
「ぇ、嘘?さっきしばらく縁側に居ただけなんだけど~」
兄貴は和装も着慣れてるだけあって、準備も早い。
『会場、結構エアコンが効いてるからなぁ~足袋・草履だな。』
「スリッパも貸してもらえるんだよね。じゃ、そうなるね。」
『大人になると、適当な恰好出来ないから大変だな。』
「…兄貴はそうでなくとも、昔から独特の服飾センスだからね。」
綺麗に乾かした髪は編み下ろしになっていて
『そろそろ髪切ろうかと思う。』
「ぇぇ!?な、何で…?俺、兄貴の長い髪好きだよ。」
相変わらずの器用な仕上がりに、感心していた。
『だって、フツーに暑い。』
「やぁ、そんな…今更だよ。」
『後、なんか色々言われるのが鬱陶しい。』
分からんでも無いけど。
「俺は、何も言わないけどさ。だって、どっちにしたって兄貴は何でも似合うだろうし。」
すっかり身支度が整って、
『羽織まで着ると、もう涼しくないだろな。』
「まぁ、でも絽だからね。大丈夫でしょ。」
『ものの数時間だけだし、お洒落は我慢だな。』
「見てる側としては、涼しげだけどね~。和装にグローブまでする兄貴も夏はさすがに素手だね。」
目の前のイケメンが、身内かと思うとやっぱり
心がむず痒い。
『じゃ、そろそろ行くけど。』
ぎゅ、とハグを交わしてその流れで頬にキスをされた。
「忘れ物…ない?」
『…ここに在るけどな。今日は、連れて行かない。できれば待ってて欲しい。』
「もちろんだよ。帰り道とか気を付けてね。」
『あと、俺の部屋にはまだ入るなよ?』
「え、うん。分かった。」
ちょっと、気になる感じだったけど。俺は素直に兄貴の言いつけを守る。
もう一度、玄関先で見送る前に写真を何枚か撮った。
俺は甚平姿で、兄貴と一緒に撮る写真は久し振りで
なんだかすごく新鮮な気がした。
保存しておこう。
なんなら、携帯の待ち受けにしてもいい。
嬉しかった。
なのに、
俺は晩御飯の仕込みをしてる最中に掛かって来た電話に
嫌な予感がした。
ハンズフリーで着信に出ると、いかにも電波状況が良くない。
【両親からの電話だ】
少しプツプツと途切れて聞こえる母親の声。
応じていると、兄貴の名前が出て一瞬ドキッとした。
「あ、今ちょっと出かけてるんだけど。何か用だった?」
聞きたくない様な、聞いておかなきゃいけない様な。
「え、兄貴の…うん、うん…。そっか、うん。分かった、聞いてみるよ。え?あぁ、変わらず…元気だよ。
うん、心配しないで。2人こそ色々と気を付けてね。」
久し振りに聞いた、母親の声。
近くに父親は居なかったのかもしれない。
なんとなく、良い話では無いのか。
あまり元気が無さそうだった。
よりにもよって、なんで誕生日にこの話を持ってくるのか。
俺も、頭では一応理解していると思っていた。
兄貴には、本当の親が居て。
祖父母も健在である事を知りながら、あまり考えない様にしていた。
朝から2人で、午前中の内にライブ配信をして
すぐに午後からの準備に取り掛かる。
今日は、兄貴が帰って来てから一緒にゆっくり晩ご飯を食べて…
先々の段取りに追われながら、昼食を済ませた兄貴は
公民館に行き、夕方から始まる出店の設営に向かった。
俺も一緒に行こうと思ったけど、
『今日は、手伝わなくていいから。たまには家でゆっくりしてろ。』
って言われてしまい。
着替えに1度帰って来ることを聞いて、
少し安心した。
いつもだいたい一緒に居る様になってから
数年経つけれど、好きな人に見られてる意識がずっと
あるせいかいい緊張感があるのも確かだった。
兄貴の後姿を見送ってから、俺は家の庭に水を撒いていた。
涼しい。
梅雨の合間の良く晴れた午後。
吹く風は生温い。
台所で淹れたライチのフルーツティーを冷やして、お盆に載せて
縁側に腰を下ろす。
「はぁ…もう、真夏みたいに暑い。」
つかの間の休息。今日は確かに誕生日だけれど、変に気負うのもなんだか
違う気がして。
自分の為に豪勢な食事を作りはしないし、ケーキを焼くにもそんな気にならない。
俺にすれば、珍しい状態。
頑張らないでもいいなら、その方がきっと楽だ。
脚を庭に向かって投げだして、冷えたアイスティーを飲みながら
庭先の物干し台で揺れる洗濯物を見ている。
そういえば、この前の…新しく買ったセパレートのアレ。
着るのも結構恥ずかしかったけど。
兄貴もやっぱり、白とかいかにもなデザインに弱いのかな?
案外、王道が好きっぽいから(ケーキならイチゴのショートケーキって言う程には)
俺がどこまで応えられるのかは、この先も分からないけど。
「……」
妙にしんみりしかけて、気落ちしない様に空を仰ぐ。
本当は何も、不安に思う事なんてないのに。
ただ、両親が帰って来たら…兄貴はどうするのかな?
もし、家を出るつもりだったら…とか。
もやもやが治まらない。
薄暗くなり始める前に、兄貴が帰って来た。
すぐに、シャワーを浴びた様子で。
前もって、準備しておいて良かった。
今の季節は大変だろうなぁ、兄貴のあの長い髪だと。
「お帰り、浴衣とか小物の準備は出来てるよ。」
『…かお、少し赤いけど?』
「ぇ、嘘?さっきしばらく縁側に居ただけなんだけど~」
兄貴は和装も着慣れてるだけあって、準備も早い。
『会場、結構エアコンが効いてるからなぁ~足袋・草履だな。』
「スリッパも貸してもらえるんだよね。じゃ、そうなるね。」
『大人になると、適当な恰好出来ないから大変だな。』
「…兄貴はそうでなくとも、昔から独特の服飾センスだからね。」
綺麗に乾かした髪は編み下ろしになっていて
『そろそろ髪切ろうかと思う。』
「ぇぇ!?な、何で…?俺、兄貴の長い髪好きだよ。」
相変わらずの器用な仕上がりに、感心していた。
『だって、フツーに暑い。』
「やぁ、そんな…今更だよ。」
『後、なんか色々言われるのが鬱陶しい。』
分からんでも無いけど。
「俺は、何も言わないけどさ。だって、どっちにしたって兄貴は何でも似合うだろうし。」
すっかり身支度が整って、
『羽織まで着ると、もう涼しくないだろな。』
「まぁ、でも絽だからね。大丈夫でしょ。」
『ものの数時間だけだし、お洒落は我慢だな。』
「見てる側としては、涼しげだけどね~。和装にグローブまでする兄貴も夏はさすがに素手だね。」
目の前のイケメンが、身内かと思うとやっぱり
心がむず痒い。
『じゃ、そろそろ行くけど。』
ぎゅ、とハグを交わしてその流れで頬にキスをされた。
「忘れ物…ない?」
『…ここに在るけどな。今日は、連れて行かない。できれば待ってて欲しい。』
「もちろんだよ。帰り道とか気を付けてね。」
『あと、俺の部屋にはまだ入るなよ?』
「え、うん。分かった。」
ちょっと、気になる感じだったけど。俺は素直に兄貴の言いつけを守る。
もう一度、玄関先で見送る前に写真を何枚か撮った。
俺は甚平姿で、兄貴と一緒に撮る写真は久し振りで
なんだかすごく新鮮な気がした。
保存しておこう。
なんなら、携帯の待ち受けにしてもいい。
嬉しかった。
なのに、
俺は晩御飯の仕込みをしてる最中に掛かって来た電話に
嫌な予感がした。
ハンズフリーで着信に出ると、いかにも電波状況が良くない。
【両親からの電話だ】
少しプツプツと途切れて聞こえる母親の声。
応じていると、兄貴の名前が出て一瞬ドキッとした。
「あ、今ちょっと出かけてるんだけど。何か用だった?」
聞きたくない様な、聞いておかなきゃいけない様な。
「え、兄貴の…うん、うん…。そっか、うん。分かった、聞いてみるよ。え?あぁ、変わらず…元気だよ。
うん、心配しないで。2人こそ色々と気を付けてね。」
久し振りに聞いた、母親の声。
近くに父親は居なかったのかもしれない。
なんとなく、良い話では無いのか。
あまり元気が無さそうだった。
よりにもよって、なんで誕生日にこの話を持ってくるのか。
俺も、頭では一応理解していると思っていた。
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