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③星明視点

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昨日、地元の公民館で来月に飾る七夕飾りの製作を手伝って来た。
もちろん、兄貴と2人で。

五色の短冊が沢山用意されていて、集まった人たちの願いが
想いをこめてしたためられていく。

近所の商店街やショッピングセンター、福祉施設や病院からも
短冊は集められていて、思い思いの願いが笹にくくられる。

俺や兄貴も1枚ずつ、書く事になって
兄貴は迷う事無く、赤い短冊を手にして
俺は、青と黄色で迷っていたけど、最終的には青色の短冊に
マジックで願いと感謝を込めて書かせてもらった。

もう、来週には7月になってしまう事が信じられない。
今年が始まったのが、先月くらいの感覚。

年々、1年が過ぎて行く速さが本当に早い。
季節に置いて行かれる感じもするけど、救いなのは
そばに兄貴が居てくれる事。

確かに、兄貴は世界で1番大事な人で特別だ。
でもね、結局は多くの人に支えられて暮らしている事を
日々感じているから。
だから、2人の世界は大事だけれど…こもり過ぎちゃいけないとも思うんだ。

公民館に来てから、やっぱり居るだけで華がある兄貴には
色んな人が声を掛ける。

俺は、そんな兄貴を見ていて安心してる。
ちゃんと、人との見えない縁を感じれる人であって欲しいから。
蔑ろにする様な人なら多分、俺とは一緒に居なかっただろうし。

惚れ惚れするような容姿、気さくな笑顔、優しい声。

俺も、兄貴にとって恥ずかしくない様な存在でありたい。

親に連れて来られた子供たちが、笹に短冊をくくりに来た。
「こうやって、そう…上手、きゅって…ね」
紐の縛り方を見よう見まねで、やってみる子供たちがとても可愛い。

俺と兄貴の幼少期を思い出す。
俺は、やっぱり昔から兄貴の後姿ばかりを追いかけて来たから。
尻尾みたいに揺れる兄貴の髪を、楽しそうに追って。

『星明、今年はウチも占いのスペースを取ってるから』
「…公民館の中でだよね。」
『さすがに、時間かかるから外ではキツイよな。』
兄貴が、実行委員会の人と打ち合わせをしてる最中に
俺に飲み物を持って来てくれた。

何気なく渡してくれたのが、ジャスミンティーで
やっぱり兄貴って何しててもどこに居ても
本当に、イメージが変わらないと改めて思う。
(俺の好みも知っててくれるし)

今回の出張店では、いつもの鑑定よりかは少しライトに。
お値段も手ごろなものが良いね、と事前に兄貴とは話していた。

占いを利用してくれた人への特典を何か用意したいなぁと
思っていたんだけれど、時間とスペースの都合で少し難しそう。
俺も、控室がある訳でも無いから当日には兄貴だけが
切り盛りする事になる事も頭に入れてある。

公民館自体がそれ程広くなくて、お手洗いや休憩目的での
利用がほとんどだろうと言われている。

「何でも、俺にできる事があったら遠慮なく言ってよね。」
『悪いな、星明とゆっくり見回れると思ってたのに』
「でも、参加側なんだから。兄貴、一緒に頑張ろう。」
兄貴は、後ろから歩いて来ていた多分同級生に声を掛けられて
戻って行った。

俺の知らない兄貴を見れるのは複雑ではあるけど、
何て言うのかな?他の人から兄貴はどんな風に見えているのかさえも
俺は興味がある。

早めの夕ご飯を終わらせて、来てみたけれど。
そろそろ21時をまわりそう。
先に帰って、家の事を片付けなきゃいけない。

俺は兄貴に先に帰る事を伝えに行く。
『は!?1人で帰る!?ダメダメ、危ないから』
「でも歩いて10分くらいだよ?大丈夫だよ。」
また始まった。兄貴の過保護が。

兄貴の同級生が俺をじっと見ていた。
「とにかく、先に帰るから。兄貴も気をつけてね。」
【妹なら心配するけどな】
と、兄貴の同級生からの言葉が心にグサッとささる。
『星明、俺もすぐ帰るから…。ごめんな。』

こんな時の兄貴の瞳はいつも少しだけ、怒りと哀しみを含んでいる事を
俺は知っている。

「大丈夫だよ、ありがとう。」


一応、ポケットには懐中電灯を入れてある事を兄貴は知っている。

田舎ではあるから、確かに夜道は街灯も少ないかな。
民家は多いけど、田んぼが多い。
よく鳴く蛙、本当にのどか。商店街や繁華街から一歩外れると
とても静かな田園風景が広がっている。

数年前に、この道を加賀さんと歩いたり。
兄貴とは、日々色々とあるけれど。

毎日、楽しくて忘れたくない思い出ばかりが増えていく。

家に帰るまで、蒸し暑くてジメジメした湿気をはらんだ体が嫌で
すぐに風呂場に直行した。

人が多く集まる所が苦手だ。
昔より、今の方が苦手になって来ている。
解放されると同時に、ドッと疲れが来て虚脱する。

多くの思念に触れると、早く自分を取り戻したくてお風呂に入ると
随分と気が楽になって落ち着く。

だから、あまり人との距離は縮められなかった。
自分が自分じゃなくなる様な、不可思議な侵食。

でも、兄貴だけは自分じゃなくなっても良いや。と思える相手だった。

シャワーから出て、着替えるとさっき兄貴に貰った
ジャスミンティーを思い出して飲んでみた。
ペットボトルのは、家で淹れるものとは風味が多少違うけれど。
「おいしい…」
誰かの想いを感じると、嬉しくなるものだ。

夕ご飯の後の食器を片付けていると、玄関の方で物音がした。
兄貴が帰って来たんだろう。
台所には、顔を出さないでそのままお風呂場に直行したっぽい。

あー、多分さっきの人(同級生)に何か言われたのかな?
兄貴はとても分かりやすいから、空気で不機嫌さもしっかり出してくる。
と言う事は、着替えとバスタオル…準備しないと。

洗い物を手早く済ませて、2階に上がり兄貴の部屋のキャビネットを開ける。
「おかぁさんじゃ…ないんだからさ~…もう、」
あ、ベッドの上に準備してある。
手っ取り早く一式を抱えて1階に降りて、脱衣所に行きドアを開ける。

兄貴は長い髪のせいもあって、入浴には時間がかかる。
一緒に入った時は、髪を洗ってあげたりもする。
よくもまぁ、自己管理できるなぁと感心する。
マメなんだろうね。

カゴに着替え、そばにバスタオルを置いてから廊下に出た。

いつもよく話してくれる、そんな兄貴が静かになると俺はちょっとだけ
ドキドキする。
えー…どうしよう。でもさ、結局は俺の事が原因で嫌な事を言われたんだとしたら
あながち、無関係でもないのかな?

明日の朝ごはん用の下ごしらえをすませて、冷蔵庫を閉めた。
ドライヤーの音が止んだ。
こっちに来るかな?それとも、そのまま兄貴は2階に行くのか。
いちいち挙動が気になる。

おやすみ、くらいは言いたいんだけど。
そんな気分じゃないなら仕方ないよね。
足音に耳をそばだてる。

『はぁー…暑い。』
「…兄貴、大丈夫?麦茶のむ?」
居間に来てくれたけど、空気はあんまりさっきと変わってない気がする。

『お茶、は…いらない。』
「あ、兄貴の好きなアイスもあるよ?ねっ…、」

視線がいつもより3割増しくらいで、鋭い気がする。
『じゃ、星明コッチ来て…?』

そんな顔と声で言われたら、行かない訳ないのに。
兄貴の全てが俺には武器でしかない。
改めて言われると、恥ずかしいし嬉しいし。
顔がにやけちゃいそうで、我慢しながら傍に行く。

兄貴が自然と屈んで、俺にキスをする。

































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