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①あの季節が来る

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『去年は、大変だったね。』
洗濯物を外の物干しに掛けながら、星明が空を仰ぐ。

梅雨入り前の無駄に暑い日々の連続。
「あいつら、さすがに今年は帰国しないだろ。」
『こら~、親にアイツだなんて…!ダメでしょ?兄貴。』

縁側から星明の細いラインを見つめていた。
最近切ったばかりの髪、うなじがすっきり見える好ポジション。

近頃は、動画の再生回数もかなり良く伸びて来て収益で食べていけるんじゃないかと
思いながらも、俺は現役の占いを続けている。
現実で人の人生に少しでも関われる瞬間があるというのは、
貴重な経験・体験でもあり。
学ぶ事が多いからだ。

「もう、隠すのしんどいって。」
『…馬鹿!言えるわけも無いんだから。』

俺と星明の関係を知っているのは、俺の親友である男ただ1人だけだ。

「結婚して~…星明。オニイチャンもう多分本当に無理。」
『ちょ、っと!バカ兄貴、でっかい声でやめてよ~』

慌てて走って来る星明が、今日もアホみたいに可愛い。
ただ、俺が寝転がってるから変な角度で笑えそう。
「結婚は、でも…もう心の中ではしてんだけどさ。」

ほんのりと冷えた手のひらが俺の頬を覆う。
気持ちいい…。

『…結婚は契約だとか言うけどさ。でも、なんだろう…してあげられないの、ごめんね。』
きっと星明の言う、してあげられない。は、形式としての事を言っているのだろう。

「朝から星明哀しませてる場合じゃなかったな。謝るなよ…。」
星がどうとか、自分でも観たりするけれど。
俺が一番、自分の生まれついた星とやらを…心のどこかで憎み恨んでいるんじゃないかと思う。

そばに、こんなにも愛おしい存在を与えてくれた事には感謝する。
けど、途中までは俺も歪まない心で星明を好きだったんだけどなぁ。

今じゃすっかりこの小さな家の中で、2人だけの世界を作り出してしまった。
足りないものは、何もない。
事足りたものばかりだ。

『哀しいかな?俺はそんな風には思わない。自分の人生に必要な人が…近くにいてくれたら充分だよ。』
「はぁ、良い子すぎて引くもんーーー。俺は馬鹿みたいに浅ましいし欲深いから。お前にキラキラさせてやりたいし…
あ~、星明が自分の為にって思うだけで満たされるタイプの人間デス。」

星明に抱き起されて、そのまま抱き合う。
あつい、暑いけど…しっくりする。心地よすぎて困りそう。
離すのが嫌になってくる。
『キラキラするのは、兄貴とお星さまだけで充分だよ。でも、あんまりキラキラしすぎて
動画のコメント欄が、兄貴の事ばっかりになってて…ちょっと妬けちゃったけど。』

二の腕から手首にかけてのラインも綺麗、
造形が繊細で華奢で、手折れそうにか細く思える。
なのに案外、肝は座っていて安定している精神。

「お日様の匂いと、あったかさ…良いよなぁ。」
『お洗濯終わったから、次は』
「買い出し行く?んだったらちょっと薬局、寄りたい。」
『うん、良いよ。じゃ、出掛ける準備してくるね。』

星明に頭をよしよしと撫でられて、先に立ちあがった姿を見送る。
あいつなー、時々俺よりもよっぽど男らしいと思えるから。

バランスが良いんだろうな。

はっ、駄目だ。すぐに占い脳になってしまう。
頭の中で、命式を思い浮かべてしまう。

梅雨が来たら、すぐに星明の誕生日でもある七夕だ。
また、この季節がやって来る。
俺と星明にとっていつも波乱が生じる時期。

幸い、今年は両親の帰国予告も届いていない。

今年は、晴れてくれたらいいのに。
去年は洗車雨で残念だった。

朝から縁側でごろつく前は、庭の花に水をやっていた。
それから、星明が起きるまでは音声配信で占いについて
話していた。

毎日、ゆるく過ぎて行く。
忙殺されるほどの忙しさは無いけれど。
適度に2人で協力し合って作り上げていく作業が、思ったよりも
向いている事が分かった。

動画のニーズとしては、占い以外にもプライベートなものも上げて欲しいという声が
一定数ある。
俺は最初から顔出しをしているけれど、今の所あまり星明の顔を晒すのはなぁ。

もう少し、星明との回を増やしてから考慮する気だ。
「あんなキラッキラな笑顔、他の奴に見せれるかぁ…。」

さて、俺もそろそろ出かける準備するか。
可愛い弟の荷物持ちになる為に。













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