【MellowBitter】彼の隣は、陽だまりのようで。

あきすと

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過去への想い

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アイドルグループとして、少しずつ名前が売れ始めて来た頃。
一つの、番組から出演オファーがあった。

『歴史浪漫~あの人を訪ねて…。って番組なんだけど。』
事務所から帰って来た若波は、どことなく複雑な表情をしている。
「ついに、若波と俺のルーツに目を付けられたみたいだね。」

元々が、コンセプトとして『因縁の関係』とか大そうなものがあったから
断る理由も見つけにくい。

『俺は、実家にまで根回しされてる。…まぁ、家業の事も考えると
宣伝にはなるんだろうけど。』
リビングで、洗濯物をたたみながら俺は考え込む。

昔から何度も聞かせて貰った、若波のご先祖様の事を
俺は、想うたびに心がキュッと切なくなる。
もちろん、どんな想いで俺の先祖を庇ったのかなんて
当人にしか分かりはしない事だ。

想いを馳せる事しかできない。
叶う事なら、2人が生きながらえていて欲しかった。

若波の顔を見ると、言葉に詰まる。
誰かに、知って欲しいような…誰にも教えたくない気持ちも同時に
存在している。

「俺には、何とも…。若波が判断してくれていいよ。」
『…またか?いすかが俺の先祖の事で、苦しくなる様でじゃ無意味だろう。』
「だって、考えちゃうでしょ。現に、当時の事が記されてる文献すらあるのに。」
『関係ないとは、言わないけど…。そっか、俺も無理にとは思わない。番組内で
泣かれたら困るしな。』

自分と、若波の中で育った大切な気持ちが影響する可能性が否めない。

若波は、ソファに座って資料を見ている。
「恩を返さなきゃね…。」
『お前は、鶴か?でも、もったいないよな。俺は、私的な竹本いすかも好きだけど、
公的な竹本いすかにも興味があるだけに。』

どういう意味だろう?

『ちょっと前までは、俺の事、松原って呼んでたお前が…今じゃすっかり』
「打ち解けたって?」
『俺の事を見ても、涼しい顔してるいすかを見てみたい気もする。』
また、ワケわかんない事言って。
「折角、仲良くなれたと思ってるのに。そんな事言う?」
『新しい視点ってのも、たまには悪くないからさ。…結構ちゃんとした番組だな。所縁を訪ねるだけじゃなくて
系譜にも触れるのか…。俺らの個人情報無さすぎだな。断りたくなって来た。』

「アイドルと言えども、そこまでしなくても…」
『断るなら、早い方がいい。連絡は俺がしておくよ。』

たたんだ洗濯物を重ねて、寝室に運んでいくと
若波が手伝ってくれて、キャビネットに衣類を仕舞ってくれた。
「ありがと、若波。」
『俺は、お前が大切にしたいものを守りたい。』

こういう所が、本当に好きでしかない。
「うん。俺は、やっぱり胸の内に仕舞っておきたいって思うから。美談ではあるけど、
それは他の誰かに敢えて言う事でも無いって、ごめんね。」

『俺の先祖が、守りたかった人の子孫が…お前だなんて。これは、本当に意味のある事だと
思うから。』
若波に抱き締められると、心が乱れる。
想いの波に飲まれてしまいそう。

「そういえばね、お菓子の話も聞いた事があるんだよ。」
『お菓子の話…?』
「若波の実家のお店が、甘味処として始めて間もない頃のお話」
『あぁ、明治…頃の』
「まぁその話は、また今度ね。…若波、また身長伸びた?」

20歳過ぎても、若波の身長はまだ伸びてるらしくて
うらやましい限り。
俺は、これ以上を見込めない気がしながら若波の後頭部をそっと撫でた。
『175から、177cmになってた。』
「すごいねー、わりと長身家計なのかな?」

俺は、すくっと背伸びをして
そうする事で、ようやく若波と並ぶ事が出来た。
『何してんだよ、可愛い…』

「!?」
軽くキスをされて、俺はそのままベッドに座り込んだ。
流れが、上手すぎる。
目を見てたら分かるんだけど、今の若波はあんまり機嫌が良くない(ハズ)
意外にも、嫉妬深いからまた俺が若波の嫉妬心を煽ってしまったのかもしれない。

ベッドのスプリングが、妙に現実感を感じさせてくる。
遮光カーテンから、淡くのぞく陽射しが後ろめたさを助長する。

そうだよ、まだ一応日は高い。

「今日は、駄目…っ。」
理由なんてすぐに思い浮かばないけど、
『…何で?』
若波は薄く笑って、首を傾げる。
俺の頬に、サラサラと若波の綺麗な金糸みたいな髪が下りて来て
くすぐったい。

「お日さん、まだ見てるから…ダメ。」
『それって…今は、駄目って事?』

瞳の奥が、吸い込まれそうに深い色合いで
俺は、何かの暗示にかけられたみたいに、ゆっくりと頷いた。

この眼には、逆らえない事を知っている。
「今は~と言うか、背徳感ないの?若波には…」
『ぇ?それが美味しいんじゃないの』

悪びれた様子も無い若波の言葉は、やっぱり強かった。

『…夜までモヤるの辛いから、ちょっと下着だけでも見せてくんない?』
むぎゅーっと、若波に抱き締められつつ手の動きが怪しくなるのを感じながら
「…見せるだけだよ?」
『分かった。』
しょうがなく、本当にしょうがなく。
俺は、ボトムに手を掛ける若波の手を許した。




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