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呼び出し。
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慣れない生活の中で、すれ違いながらお互いの時間を過ごしている。
松原は、相変わらずで朝に帰って来たり、一日部屋に戻らない事もあった。
俺からは、特に何にも言う事が無い。
朝は、松原を起こさない様に気を使いながら大学に行く。
講義の最中に、メッセ―ジが届く。
朝食の準備に対してのお礼…。毎回、必ず。俺と一緒に朝ごはんを食べる事が
ほとんど無いせいで、ブランチになってしまってる。
でも、結構律儀な面もあるから俺も、ちゃんと返事を返す。
些細な事かもしれないけど、俺は、少しでも松原とは仲良くできたらって
思っているけど。松原の距離感は難しくて、傷つくのが怖くて踏み込めない。
もどかしい。メッセージのやり取りは続くけど、現実は違う。
お昼の時間に、図書館棟に行ってみる。館内で探し物をしていると
松原から着信があって、俺は慌てて外に向かう。
『今、大丈夫?』
「びっくりした…ぁ、大丈夫。」
電話するのも初めてだって思うと、微妙に照れくさいもので
気持ちが落ち着かない。
『もう、午後は講義ないんだったらちょっと、外で遊ばない?』
…あそばない?のニュアンスが、俺にはどう受け止めて良いのか分からない。
けど、会いたいって思った。
「お昼まだだから、何か口にできると助かるかな」
『へぇ、それじゃ…俺の好きなカフェがあるんだけど、一緒にどう?ちなみに
甘いものは食べる人?』
「程よければ、平気。砂糖っぽいのは苦手だけど。」
『なるほどね、じゃ、今から地図の場所送るから…えーっと、その大学から徒歩だと20分はかかるから。
アシはどうする?』
「電車で近くに行くから平気だよ。とりあえず、今から向かうよ。」
『あ…、やばい。電池切れそう。俺もすぐ向かうから!』
松原、何してたんだろう?今週は何回か雑誌の撮影が入ってるみたいだけど。
いつも、部屋にはいないから普段何してるのかもよく分からない。
送られて来た地図を見て、市内電車に乗って詳細を確認する。
平日の昼だから、少し電車内は混んでいた。
3駅ほど先まで進み、近くには商店街がある。地図上ではこの商店街の路地裏に
目的のカフェがあるらしい。
あまり、来た事のない商店街ではあるけどゆっくりと時間を掛けて歩けば、
魅力的な店がいくつも並んでいる事が分かる。
「…あれ?お店の名前はここだけど。」
純和風のこじんまりとした茶寮にたどり着いた。
松か何かの家紋が目印となっている。
「カフェ…?」
ココであってるのかと思いながら、店の近くに待っていると
店から誰かが出て来た。
『いすか。入って来て』
「もう、中に居たんだ?…ゎ…綺麗なお店」
『一応、は…カフェだって俺は思ってるんだけどさ。若い人あんまり来ないんだよ。』
「高級そうだからかな?」
馴染みの店なんだろうなぁ、と思って、席に座ると松原がメニューを見せてくれて
すっかり自分の店みたいに振舞うのがおかしくて、俺が笑うと
『…いすか。』
急に真剣な瞳で松原がこちらを見て来た。
「な、なに?」
『いらっしゃい。』
何言いだすんだろう?
「ここはね、俺の…実家だよ。」
『…えぇーーーーー!?』
思わず大きい声を出してしまったけど。隣で松原は爆笑している。
『声、大きいって…、でも本当。元は、お茶屋さんだった。親父の代で茶寮になって。』
「ごめん…。えー、すごいなぁ。俺の家はフツーの会社勤めだからさ。家とお店が一緒とかって
憧れてたりする。」
『この前から、家がちょっとバタバタしてて…俺もなかなか、いすかと居る時間が無かったんだけど。
少し、落ち着いたからやっと誘えた。』
松原が、ここまで色々な事に追われていたなんて知らなかった。
「お店も手伝ってるの?」
『それとなくね。人は近々増えるらしいから。俺は、それまでの臨時だよ。』
「…俺、松原の事…誤解してた。レッスンにも全然来ないし、部屋にも帰らなかったりして…真面目にしてくれないなら
組む意味なんてないって思ってた。事情を知らないとはいえ…ゴメン。」
松原は、苦笑いして、顔の前で手を振っている。
『俺も、言わなかったのがいけない。そっか、…いすかは日本久しぶりなのに』
「でも、家の事は優先するものだよ。俺も、時間がある時とか冬期休暇と夏季休暇は長くて。手伝いに『何言ってんの?』…え?」
『俺の家の事は、いいから。学業とレッスンが優先に決まってる。』
急に、真面目に言われると面食らう。
「松原の優しさって、ドキドキする。」
『…ん?俺、怖い?』
それも、少しあるのかもしれない。ただ、何と言えばいいのか分からないけど
守られてる気がする。って感覚になるからなのか。
「怖くなんてない。ただ、いつも意外だって思う」
『いすかは、俺の運命共同体でしょ?』
さらっと、スゴイ事を口にして松原は俺の注文した料理を作るべく
一旦、裏に引っ込んだ。
今の時間は、本来ならば準備中の看板が出ている。
そこをわざわざ、開けてくれた気前の良さに申し訳なささえ感じた。
待ってる時間に、色んなことを考えていた。
多分、言っても大丈夫だと思う。松原なら、理解してくれるはず。
しばらくして、カウンターテーブルに料理が運ばれて来た。
『これで、足りる?女の子のおやつ並じゃない…』
「俺、ホットケーキ食べたくて…向こうでも食べたかったんだけど、なかなかこんなに
ふっくら焼けたのが店にも無いし。久しぶりに、食べたかったんだ。」
『…そっか。抹茶ラテは、甘さが控えめだから。』
静かにソーサーを置いて、松原は一つ席を空けてカウンター席に座った。
「いただきます。」
『おあがり』
「…松原って、21歳にやっぱり思えない…」
『よく言われるね。多分、俺は爺さんに育てられてからかな。』
銅板で綺麗に焼かれた、ホットケーキだろうか。
クリームの甘さも軽くて、残らずに食べやすい。しっかりと膨らんだホットケーキを
この、隣で週刊誌読んでる松原が作ったのかと思うと
妙に嬉しかった。
「……松原、」
『あ、美味しいって顔に書いてある』
「もー、何なの?お前…何でこんなにも思ったのと違うの?」
『え、マズイ…ってこと?』
「違う、松原の…内面の話をしてるんだよ。」
『そっちか。俺は何してても、俺だよ。』
「美味しい…です。…悔しい、」
松原は頬杖をついて、俺を見て微笑んでいる。
『それは良かった。』
「煙草、吸うの止めたら?時々しか吸わないなら、尚更…松原なら無くても平気に思えるけど」
出過ぎた事だとは、分かってる。
でも、似合わないってよりかは。松原の心に果たして本当に必要なのかと
俺は、疑問だった。
『いすかが、煙草の代わりに何か見つけてくれるんだったら、いいよ。止める。』
「俺が、煙草の代わりを見つけるってこと?」
『うん。そういう事。』
「用意できるものが必要って事、」
『まさか。』
松原は、静かに笑みをたたえ俺の口元を指し示した。
口元に、何かついてる?と思って紙ナプキンを手にすると
更に笑みを深めて
「また、笑ってる…はっきり言えよなぁ。」
『何にもついてないよ。はぁ、いすかは鈍感でおもしろい。』
松原が、本当に伝えたかった事は何だったのか。気にはなるけど。
「ご馳走様でした…。お会計は、いくらでしょう?」
『0円です。今までの事、あれで埋め合わせになったとは思わないけど。』
「駄目、労働の対価は必要。」
『残念だけど、今の時間は労働時間じゃないし。』
「でも、タダは何か良心が咎めるから…。」
『えー、そう言うなら…俺の欲しいものくれたらそれで良いから。』
「…何?俺そこまで支払い能力無いけど」
『目、瞑って。』
にじり寄る松原の圧が怖くて、後ずさりすると腕を捕まえられて
頬?にキスをされた。
「…え、何すんの」
『また、来なよ。いすか』
「待て待て、今夜も…戻らないのか?」
『寂しい、って顔するからね。無意識なの?いすか』
一人の時間は、好きだけど。松原の空間でしかないあの部屋に
一人きりになるのは、やっぱり寂しかった。
「でも、松原は寂しくないんだろ。」
『今日中には帰るから。拗ねないで…』
松原と居ると、調子が狂う。嫌いではない。
「今日は、ずっと待ってる」
『分かった。いすか、戸締りちゃんとしないと駄目だよ?たまーに、寮に変態さんが忍び込んだ
事例もあるからね。』
「怖…っ」
松原は、店の前まで見送ってくれて
俺はまた、停留所から市内電車に揺られて寮まで帰った。
一年後にはデビューする事が決まっている。
それぞれに準備をしながら、今の自分から成長していかなくてはいけない。
「間に合うのかな?」
Sweetの2人は去年からのスタートだから、松原と俺の遅れはかなり大きいと言われてはいた。
最初は、無理があるんじゃないかって言われていたのを、松原が…諦めたくないと言ってくれたらしくて。
俺は、松原の思いを聞いて決心がついて帰国した。
じゃなきゃ、あんなに必死になって単位を取得出来なかっただろう。
見えない所で、支えられていた事が分かって
俺は、松原となら…と信頼できる気がした。
寮の部屋に帰ると、心が安らぐ。松原の好きな匂いに囲まれて
俺は、洗面所に行って鏡に映る自分の顔を見て
ため息が出た。先ほどの、キスを思い出したから。
からかってる雰囲気は無かっただけに、他の意味を探ろうとする。
唇に近かったから、ヒヤッとした。
けど、近くで見た顔の綺麗さに、動けなくて。
金髪で、チャラそうなのに…一挙一動に視線を奪われて信じてみたくなる。
夜の間には帰って来る松原の為に、食事もきちんと作る。
聞けてなかったけど実家で、晩御飯でてたらどうしようと思って
スマホのメッセージで聞いてみた。
俺の分は、いすかの負担じゃなかったら…あると嬉しい。食べたい。
と、返信されてきて、面映ゆい気持ちで心が揺ら揺らした。
ちゃんと、希望を言ってくれる事は助かる。
どっちでもいいとか、人任せにするよりも
はっきり言ってくれて、松原のこういう所は好感を持っている。
一人で居る時間にも、俺は大学の課題をしたりしながら夜の時間は
あっという間に過ぎていく。お風呂が唯一、気が抜ける。
松原と過ごして、そろそろ1月が経つ。
お帰り、ただいま、いってらっしゃいを言える相手がいるという事が
精神的にも支えになっている。
そろそろ、布団に入ろうかと言うタイミングで松原が返って来た。
「お帰り、松原」
『ぉ~、めっちゃ笑顔だね。…ただいま、いすか』
「ぇ…!?」
松原は、ニヤっと笑って部屋に上がり、直ぐにシャワーを浴びに行った。
いや、だって…帰って来てくれたらさ、嬉しいものでしょ。
心なしか、松原も笑顔だった事を思い出す。
松原は、相変わらずで朝に帰って来たり、一日部屋に戻らない事もあった。
俺からは、特に何にも言う事が無い。
朝は、松原を起こさない様に気を使いながら大学に行く。
講義の最中に、メッセ―ジが届く。
朝食の準備に対してのお礼…。毎回、必ず。俺と一緒に朝ごはんを食べる事が
ほとんど無いせいで、ブランチになってしまってる。
でも、結構律儀な面もあるから俺も、ちゃんと返事を返す。
些細な事かもしれないけど、俺は、少しでも松原とは仲良くできたらって
思っているけど。松原の距離感は難しくて、傷つくのが怖くて踏み込めない。
もどかしい。メッセージのやり取りは続くけど、現実は違う。
お昼の時間に、図書館棟に行ってみる。館内で探し物をしていると
松原から着信があって、俺は慌てて外に向かう。
『今、大丈夫?』
「びっくりした…ぁ、大丈夫。」
電話するのも初めてだって思うと、微妙に照れくさいもので
気持ちが落ち着かない。
『もう、午後は講義ないんだったらちょっと、外で遊ばない?』
…あそばない?のニュアンスが、俺にはどう受け止めて良いのか分からない。
けど、会いたいって思った。
「お昼まだだから、何か口にできると助かるかな」
『へぇ、それじゃ…俺の好きなカフェがあるんだけど、一緒にどう?ちなみに
甘いものは食べる人?』
「程よければ、平気。砂糖っぽいのは苦手だけど。」
『なるほどね、じゃ、今から地図の場所送るから…えーっと、その大学から徒歩だと20分はかかるから。
アシはどうする?』
「電車で近くに行くから平気だよ。とりあえず、今から向かうよ。」
『あ…、やばい。電池切れそう。俺もすぐ向かうから!』
松原、何してたんだろう?今週は何回か雑誌の撮影が入ってるみたいだけど。
いつも、部屋にはいないから普段何してるのかもよく分からない。
送られて来た地図を見て、市内電車に乗って詳細を確認する。
平日の昼だから、少し電車内は混んでいた。
3駅ほど先まで進み、近くには商店街がある。地図上ではこの商店街の路地裏に
目的のカフェがあるらしい。
あまり、来た事のない商店街ではあるけどゆっくりと時間を掛けて歩けば、
魅力的な店がいくつも並んでいる事が分かる。
「…あれ?お店の名前はここだけど。」
純和風のこじんまりとした茶寮にたどり着いた。
松か何かの家紋が目印となっている。
「カフェ…?」
ココであってるのかと思いながら、店の近くに待っていると
店から誰かが出て来た。
『いすか。入って来て』
「もう、中に居たんだ?…ゎ…綺麗なお店」
『一応、は…カフェだって俺は思ってるんだけどさ。若い人あんまり来ないんだよ。』
「高級そうだからかな?」
馴染みの店なんだろうなぁ、と思って、席に座ると松原がメニューを見せてくれて
すっかり自分の店みたいに振舞うのがおかしくて、俺が笑うと
『…いすか。』
急に真剣な瞳で松原がこちらを見て来た。
「な、なに?」
『いらっしゃい。』
何言いだすんだろう?
「ここはね、俺の…実家だよ。」
『…えぇーーーーー!?』
思わず大きい声を出してしまったけど。隣で松原は爆笑している。
『声、大きいって…、でも本当。元は、お茶屋さんだった。親父の代で茶寮になって。』
「ごめん…。えー、すごいなぁ。俺の家はフツーの会社勤めだからさ。家とお店が一緒とかって
憧れてたりする。」
『この前から、家がちょっとバタバタしてて…俺もなかなか、いすかと居る時間が無かったんだけど。
少し、落ち着いたからやっと誘えた。』
松原が、ここまで色々な事に追われていたなんて知らなかった。
「お店も手伝ってるの?」
『それとなくね。人は近々増えるらしいから。俺は、それまでの臨時だよ。』
「…俺、松原の事…誤解してた。レッスンにも全然来ないし、部屋にも帰らなかったりして…真面目にしてくれないなら
組む意味なんてないって思ってた。事情を知らないとはいえ…ゴメン。」
松原は、苦笑いして、顔の前で手を振っている。
『俺も、言わなかったのがいけない。そっか、…いすかは日本久しぶりなのに』
「でも、家の事は優先するものだよ。俺も、時間がある時とか冬期休暇と夏季休暇は長くて。手伝いに『何言ってんの?』…え?」
『俺の家の事は、いいから。学業とレッスンが優先に決まってる。』
急に、真面目に言われると面食らう。
「松原の優しさって、ドキドキする。」
『…ん?俺、怖い?』
それも、少しあるのかもしれない。ただ、何と言えばいいのか分からないけど
守られてる気がする。って感覚になるからなのか。
「怖くなんてない。ただ、いつも意外だって思う」
『いすかは、俺の運命共同体でしょ?』
さらっと、スゴイ事を口にして松原は俺の注文した料理を作るべく
一旦、裏に引っ込んだ。
今の時間は、本来ならば準備中の看板が出ている。
そこをわざわざ、開けてくれた気前の良さに申し訳なささえ感じた。
待ってる時間に、色んなことを考えていた。
多分、言っても大丈夫だと思う。松原なら、理解してくれるはず。
しばらくして、カウンターテーブルに料理が運ばれて来た。
『これで、足りる?女の子のおやつ並じゃない…』
「俺、ホットケーキ食べたくて…向こうでも食べたかったんだけど、なかなかこんなに
ふっくら焼けたのが店にも無いし。久しぶりに、食べたかったんだ。」
『…そっか。抹茶ラテは、甘さが控えめだから。』
静かにソーサーを置いて、松原は一つ席を空けてカウンター席に座った。
「いただきます。」
『おあがり』
「…松原って、21歳にやっぱり思えない…」
『よく言われるね。多分、俺は爺さんに育てられてからかな。』
銅板で綺麗に焼かれた、ホットケーキだろうか。
クリームの甘さも軽くて、残らずに食べやすい。しっかりと膨らんだホットケーキを
この、隣で週刊誌読んでる松原が作ったのかと思うと
妙に嬉しかった。
「……松原、」
『あ、美味しいって顔に書いてある』
「もー、何なの?お前…何でこんなにも思ったのと違うの?」
『え、マズイ…ってこと?』
「違う、松原の…内面の話をしてるんだよ。」
『そっちか。俺は何してても、俺だよ。』
「美味しい…です。…悔しい、」
松原は頬杖をついて、俺を見て微笑んでいる。
『それは良かった。』
「煙草、吸うの止めたら?時々しか吸わないなら、尚更…松原なら無くても平気に思えるけど」
出過ぎた事だとは、分かってる。
でも、似合わないってよりかは。松原の心に果たして本当に必要なのかと
俺は、疑問だった。
『いすかが、煙草の代わりに何か見つけてくれるんだったら、いいよ。止める。』
「俺が、煙草の代わりを見つけるってこと?」
『うん。そういう事。』
「用意できるものが必要って事、」
『まさか。』
松原は、静かに笑みをたたえ俺の口元を指し示した。
口元に、何かついてる?と思って紙ナプキンを手にすると
更に笑みを深めて
「また、笑ってる…はっきり言えよなぁ。」
『何にもついてないよ。はぁ、いすかは鈍感でおもしろい。』
松原が、本当に伝えたかった事は何だったのか。気にはなるけど。
「ご馳走様でした…。お会計は、いくらでしょう?」
『0円です。今までの事、あれで埋め合わせになったとは思わないけど。』
「駄目、労働の対価は必要。」
『残念だけど、今の時間は労働時間じゃないし。』
「でも、タダは何か良心が咎めるから…。」
『えー、そう言うなら…俺の欲しいものくれたらそれで良いから。』
「…何?俺そこまで支払い能力無いけど」
『目、瞑って。』
にじり寄る松原の圧が怖くて、後ずさりすると腕を捕まえられて
頬?にキスをされた。
「…え、何すんの」
『また、来なよ。いすか』
「待て待て、今夜も…戻らないのか?」
『寂しい、って顔するからね。無意識なの?いすか』
一人の時間は、好きだけど。松原の空間でしかないあの部屋に
一人きりになるのは、やっぱり寂しかった。
「でも、松原は寂しくないんだろ。」
『今日中には帰るから。拗ねないで…』
松原と居ると、調子が狂う。嫌いではない。
「今日は、ずっと待ってる」
『分かった。いすか、戸締りちゃんとしないと駄目だよ?たまーに、寮に変態さんが忍び込んだ
事例もあるからね。』
「怖…っ」
松原は、店の前まで見送ってくれて
俺はまた、停留所から市内電車に揺られて寮まで帰った。
一年後にはデビューする事が決まっている。
それぞれに準備をしながら、今の自分から成長していかなくてはいけない。
「間に合うのかな?」
Sweetの2人は去年からのスタートだから、松原と俺の遅れはかなり大きいと言われてはいた。
最初は、無理があるんじゃないかって言われていたのを、松原が…諦めたくないと言ってくれたらしくて。
俺は、松原の思いを聞いて決心がついて帰国した。
じゃなきゃ、あんなに必死になって単位を取得出来なかっただろう。
見えない所で、支えられていた事が分かって
俺は、松原となら…と信頼できる気がした。
寮の部屋に帰ると、心が安らぐ。松原の好きな匂いに囲まれて
俺は、洗面所に行って鏡に映る自分の顔を見て
ため息が出た。先ほどの、キスを思い出したから。
からかってる雰囲気は無かっただけに、他の意味を探ろうとする。
唇に近かったから、ヒヤッとした。
けど、近くで見た顔の綺麗さに、動けなくて。
金髪で、チャラそうなのに…一挙一動に視線を奪われて信じてみたくなる。
夜の間には帰って来る松原の為に、食事もきちんと作る。
聞けてなかったけど実家で、晩御飯でてたらどうしようと思って
スマホのメッセージで聞いてみた。
俺の分は、いすかの負担じゃなかったら…あると嬉しい。食べたい。
と、返信されてきて、面映ゆい気持ちで心が揺ら揺らした。
ちゃんと、希望を言ってくれる事は助かる。
どっちでもいいとか、人任せにするよりも
はっきり言ってくれて、松原のこういう所は好感を持っている。
一人で居る時間にも、俺は大学の課題をしたりしながら夜の時間は
あっという間に過ぎていく。お風呂が唯一、気が抜ける。
松原と過ごして、そろそろ1月が経つ。
お帰り、ただいま、いってらっしゃいを言える相手がいるという事が
精神的にも支えになっている。
そろそろ、布団に入ろうかと言うタイミングで松原が返って来た。
「お帰り、松原」
『ぉ~、めっちゃ笑顔だね。…ただいま、いすか』
「ぇ…!?」
松原は、ニヤっと笑って部屋に上がり、直ぐにシャワーを浴びに行った。
いや、だって…帰って来てくれたらさ、嬉しいものでしょ。
心なしか、松原も笑顔だった事を思い出す。
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