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あの人と、コラボ
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俺が20歳になった秋に彩斗は21歳で、心にまだくすぶり続ける想いを
抱えたまま、Mellow.は再始動をした。
ずっと休業しながらも、レッスンには励んでいた彩斗を傍で支えているつもりが
結果的には、俺の方が彩斗の存在にかなり救われていた事を日々、感じていたのだ。
もし、あのまま彩斗が実家に帰っていたらもう少し俺は自分の心に折り合いがつけられなかっただろう。
最善の選択を、できたと思わなければ。
『…なんと、スゴイ企画?が舞い込んで来たよ。智彰』
寮の部屋に帰って、いつもよりテンションの高い彩斗がファイルから資料を
取り出して、テーブルの上に並べた。
すっかり仕事脳に戻った彩斗は、良いモチベーションを維持できているんだろう。
「あんまり、張りきり過ぎるなよ?」
『…普通だよ、普通。これ、見て~、智彰!なんと、コラボのシャンプーとか発売されるの』
…そう言えば、そんな話も出てたな。Mellow.Sweet&Bitterでの企画案で
ユニセックスなシャンプーとコンディショナー、インバストリートメントの発売に向けて。
って、書類には書いてある。
「彩斗が好きそうなの来たなぁ。これ、絶対使いそう。あれ以上シャンプーの種類増やすな…」
彩斗は、3種類くらいのシャンプーを使い分けてる。だから、風呂場が狭くなっていく気がして
俺としては、せめて2種類ほどに限定して欲しい。
でも、良い匂いがするから減らしたくないと言うし。
正直、結構めんどくさいと言うか、何というか…彼女か!?って言いたくなる。
ボディーソープは2種類あるし。泡立てばどれも同じじゃないかと言いたい所だけど。
『Sweetも、Bitterも、デザイン、香り、仕上がりがそれぞれ良くってさぁ…今使ってるの
全部無くなったら、買いたいくらいにお気に入りなんだよね♪』
「まぁ、俺も協力して減らすけど…。頭2つにシャンプーはせめて2種類までにしてくれ。
掃除が大変だから。」
『もう、浮気はしない!…多分~』
「(意志弱…)ほんと、あれ以上はダメ。簡単に処分できないものなんだからな」
『分かった…。あぁ、でも、僕髪切っちゃったからもぉ…』
「でも、彩斗が喜ぶ企画で良かったな…」
『後、この…ラジオ配信コラボ企画?ってのに書いてある…天乃屋星明くんって人と
3人でお話するみたいで』
「あぁ、なんか最近?歌い手さんとして出てきた人みたいだけど」
『僕、この人の声…、なぁんだろ?聞いた事ある気がして…で、好きなんだけどさ』
「声優、でもないんだよな。声劇とか聞いてみたけど、」
『どんな人かは分からないけど、入ってる時と普通のラジオの声の差が好き』
前もって、天乃屋星明を調べてはみたものの
公開されている情報が少なくて、掴みにくい。
でも、ファンは日々増えていっている事だけは知っていた。
「ラジオの方は、初期からずっとしてるだけあって安定してるかな。」
『これも一応、事務所がどこかしらのツテなんだろうけど…よく分かんないし、ちょっと
ドキドキする』
「本人に会えるんだろ?」
『えぇ!?ほんとに?』
「どんな人だろな~…」
収録当日スタジオに、現れた人物を見て彩斗は失神しかけていた。
「っちょ、早いって…彩斗。すみません、千紘さん」
『久しぶり。ライブの時以来だね。元気?そう…でいいの?彩斗は』
『尊い…!!聞いてない、こんなの…ひぇぇ、お人形さんみたい…』
「ちゃんと挨拶しろ、全く…千紘さんの事になるとこうなるんだから、」
『…千紘さん、あの時は本当にありがとうございました。千紘さんは、僕の北極星です。
これからも、ずっと大好きです。』
おいおいおい、何言いだすんだよ…。
一度だけ、ライブ後に現れた千紘さんは本当に予定外だったのがよく分かる程に
緊張してるのが分かって、何だか可愛らしい人柄に俺は
今までのどこか温度低めのイメージが、薄れていた。
彩斗も、しばらくは放心状態でいたのを覚えている。
『嬉しいけど、俺…智彰くんと彩斗くんの事を推してるから、大好きだなんて言葉は、恐縮する。
…ありがと。』
千紘さんは、嬉しそうに笑って席に着き。俺と彩斗は、対面に隣同士に座った。
「今日は、よろしくお願いします。」
『こちらこそ、こんな無名なのとコラボして貰えて感謝してもしきれないよ』
『千紘さんが、あの星明くんだなんて…だから、聞いた事ある声だなぁって思ったのかも』
『そこらへんはさ、実はあんまり触れられない部分になるけど…個人的には、将来見据えた
話にはなってるんだ。』
『声優さん、ではないんですね?』
「でも、演劇はされてた筈…」
『知っててくれるんだ、嬉しい。そうなんだよね、自分が、まだ他に何ができるのか、色々考えるよね…。皆、将来の事とかさ。自分の10年後、今と同じ仕事ってできてるのかな?とか。』
「……」
『僕は、最近考えてた。…ぁ、ごめんなさい。でも、本当にちゃんと考える機会ってなかなか取れないから…
考えないようにしてる部分はあったかもしれないです』
『彩斗の気持ちも、分かる気がする。漠然とした何かを払拭したくて、自分がしたい事…しなきゃって思った。
単純にそれだけ。』
千紘さんの真面目な話に、彩斗も目が真剣に変わっていた。
やっぱり、千紘さんの言葉は、彩斗にはすんなりと入りやすいのがよく分かる。
1時間を超えて、打ち合わせをしながら進行の確認をしていく作業。
千紘さんは落ち着いていて、一つ一つ丁寧に向き合いながら考えを伝えてくれる。
『お互いの曲も、合間に入れるんだけど、後はリスナーからの質問に…時間までに届いた
メッセージの紹介とか合わせて、一時間ってとこかな。』
「…千紘さんは、触れて欲しくないジャンルの話とか…念のため聞いておきたいかな、と」
『え!?そんなの、気にしなくて大丈夫だけど…、』
『僕も智彰も、無いですので、ドンドンお話振ってくださいね』
『俺、…言い淀む事はあるけど、大丈夫でしょ!うん。』
今思えば、千紘さんは、知っている側では無くて
知らされてない側だったんだなーと、後に俺は知らされる事になる。
抱えたまま、Mellow.は再始動をした。
ずっと休業しながらも、レッスンには励んでいた彩斗を傍で支えているつもりが
結果的には、俺の方が彩斗の存在にかなり救われていた事を日々、感じていたのだ。
もし、あのまま彩斗が実家に帰っていたらもう少し俺は自分の心に折り合いがつけられなかっただろう。
最善の選択を、できたと思わなければ。
『…なんと、スゴイ企画?が舞い込んで来たよ。智彰』
寮の部屋に帰って、いつもよりテンションの高い彩斗がファイルから資料を
取り出して、テーブルの上に並べた。
すっかり仕事脳に戻った彩斗は、良いモチベーションを維持できているんだろう。
「あんまり、張りきり過ぎるなよ?」
『…普通だよ、普通。これ、見て~、智彰!なんと、コラボのシャンプーとか発売されるの』
…そう言えば、そんな話も出てたな。Mellow.Sweet&Bitterでの企画案で
ユニセックスなシャンプーとコンディショナー、インバストリートメントの発売に向けて。
って、書類には書いてある。
「彩斗が好きそうなの来たなぁ。これ、絶対使いそう。あれ以上シャンプーの種類増やすな…」
彩斗は、3種類くらいのシャンプーを使い分けてる。だから、風呂場が狭くなっていく気がして
俺としては、せめて2種類ほどに限定して欲しい。
でも、良い匂いがするから減らしたくないと言うし。
正直、結構めんどくさいと言うか、何というか…彼女か!?って言いたくなる。
ボディーソープは2種類あるし。泡立てばどれも同じじゃないかと言いたい所だけど。
『Sweetも、Bitterも、デザイン、香り、仕上がりがそれぞれ良くってさぁ…今使ってるの
全部無くなったら、買いたいくらいにお気に入りなんだよね♪』
「まぁ、俺も協力して減らすけど…。頭2つにシャンプーはせめて2種類までにしてくれ。
掃除が大変だから。」
『もう、浮気はしない!…多分~』
「(意志弱…)ほんと、あれ以上はダメ。簡単に処分できないものなんだからな」
『分かった…。あぁ、でも、僕髪切っちゃったからもぉ…』
「でも、彩斗が喜ぶ企画で良かったな…」
『後、この…ラジオ配信コラボ企画?ってのに書いてある…天乃屋星明くんって人と
3人でお話するみたいで』
「あぁ、なんか最近?歌い手さんとして出てきた人みたいだけど」
『僕、この人の声…、なぁんだろ?聞いた事ある気がして…で、好きなんだけどさ』
「声優、でもないんだよな。声劇とか聞いてみたけど、」
『どんな人かは分からないけど、入ってる時と普通のラジオの声の差が好き』
前もって、天乃屋星明を調べてはみたものの
公開されている情報が少なくて、掴みにくい。
でも、ファンは日々増えていっている事だけは知っていた。
「ラジオの方は、初期からずっとしてるだけあって安定してるかな。」
『これも一応、事務所がどこかしらのツテなんだろうけど…よく分かんないし、ちょっと
ドキドキする』
「本人に会えるんだろ?」
『えぇ!?ほんとに?』
「どんな人だろな~…」
収録当日スタジオに、現れた人物を見て彩斗は失神しかけていた。
「っちょ、早いって…彩斗。すみません、千紘さん」
『久しぶり。ライブの時以来だね。元気?そう…でいいの?彩斗は』
『尊い…!!聞いてない、こんなの…ひぇぇ、お人形さんみたい…』
「ちゃんと挨拶しろ、全く…千紘さんの事になるとこうなるんだから、」
『…千紘さん、あの時は本当にありがとうございました。千紘さんは、僕の北極星です。
これからも、ずっと大好きです。』
おいおいおい、何言いだすんだよ…。
一度だけ、ライブ後に現れた千紘さんは本当に予定外だったのがよく分かる程に
緊張してるのが分かって、何だか可愛らしい人柄に俺は
今までのどこか温度低めのイメージが、薄れていた。
彩斗も、しばらくは放心状態でいたのを覚えている。
『嬉しいけど、俺…智彰くんと彩斗くんの事を推してるから、大好きだなんて言葉は、恐縮する。
…ありがと。』
千紘さんは、嬉しそうに笑って席に着き。俺と彩斗は、対面に隣同士に座った。
「今日は、よろしくお願いします。」
『こちらこそ、こんな無名なのとコラボして貰えて感謝してもしきれないよ』
『千紘さんが、あの星明くんだなんて…だから、聞いた事ある声だなぁって思ったのかも』
『そこらへんはさ、実はあんまり触れられない部分になるけど…個人的には、将来見据えた
話にはなってるんだ。』
『声優さん、ではないんですね?』
「でも、演劇はされてた筈…」
『知っててくれるんだ、嬉しい。そうなんだよね、自分が、まだ他に何ができるのか、色々考えるよね…。皆、将来の事とかさ。自分の10年後、今と同じ仕事ってできてるのかな?とか。』
「……」
『僕は、最近考えてた。…ぁ、ごめんなさい。でも、本当にちゃんと考える機会ってなかなか取れないから…
考えないようにしてる部分はあったかもしれないです』
『彩斗の気持ちも、分かる気がする。漠然とした何かを払拭したくて、自分がしたい事…しなきゃって思った。
単純にそれだけ。』
千紘さんの真面目な話に、彩斗も目が真剣に変わっていた。
やっぱり、千紘さんの言葉は、彩斗にはすんなりと入りやすいのがよく分かる。
1時間を超えて、打ち合わせをしながら進行の確認をしていく作業。
千紘さんは落ち着いていて、一つ一つ丁寧に向き合いながら考えを伝えてくれる。
『お互いの曲も、合間に入れるんだけど、後はリスナーからの質問に…時間までに届いた
メッセージの紹介とか合わせて、一時間ってとこかな。』
「…千紘さんは、触れて欲しくないジャンルの話とか…念のため聞いておきたいかな、と」
『え!?そんなの、気にしなくて大丈夫だけど…、』
『僕も智彰も、無いですので、ドンドンお話振ってくださいね』
『俺、…言い淀む事はあるけど、大丈夫でしょ!うん。』
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