【MellowSweet】惹かれ合うのが運命ならば

あきすと

文字の大きさ
上 下
5 / 13

Mellow.

しおりを挟む
事務所からの正式なグループ名が決定されて、俺は少々困惑していた。
『…僕ら、男ばっかりなのに?』
書類に目を通す前に、言葉をそのまま鵜呑みにしてしまったのが
いけなかった。

意味を調べると、人魚と出て来たからだ。

3月になって、2週間前からやっと寮には戻れたものの。
彩斗が高校を卒業してしまった。
なんだろう、この虚無感にも似た寂しいような?置いて行かれた感。
彩斗はこのまま寮で生活する事が決まっているので
今はボイトレにも通いだした。

俺も、4月からは高3になる。進路の事は何の不安も無かった。
そして、あと2名のメンバーとも合流する事が決まっている。
一人は、帰国子女らしくて今月中には寮に入る。
もう一人はと言えば、今月から先に隣の棟に引っ越しを済ませて来たらしい。

一気に忙しくなる事が予想できる。俺は、最年少としてまだまだこれから
休んでいた分を挽回しなければいけない。
「Mellow…こっちの意味か、えーっと…甘い、柔らかい、まろやかとか。確かそんな意味だったハズ。」
『…女の子向けっぽいね、とっても。でも、僕は好きだけどなぁ。』
「なよなよしてないか?」
『美味しそうじゃない?』
「ぅわ…言われてみれば。溶けてる甘いものっぽい」
『想像が、はかどるね。』
「二手に分かれてるんだよな。同じグループだけど」
『そうみたいだね、智彰と僕と…でも上手く行くのかな?距離感とかない?』
「元は一つだって前提だから大丈夫だろ。」

方向性を理解するために、渡された用紙をテーブルの上に広げてみる。
『へぇ~…なんかもう、チョコレートみたいじゃない?』
「これ、本気なのかな。俺と彩斗がSweetでもう一組がBitterって。」
『製菓会社ねらい?』
「スポンサー…かよ。…でも、分かりやすくなった。路線が。4人が合わされば程よい甘さになるってことか。」
『チョコレートのカカオ濃度みたいで、面白いね』
「彩斗は、確かに甘くて溶けそうなのは理解できる。ほぼ100%俺の成分はないと見た。」
パラパラと他の資料を見ていると、彩斗が静かに笑っている。
『自分の事は、なかなか分からないものだよね。僕もそうだけど…智彰も、結構あまい部分はあると思うよ。』

高校を卒業してからの彩斗は、長かった髪を少し切って
日々、ダンスのレッスンにボディケアにと余念がない。
爪の先まで艶を帯びた、繊細な指先は桜貝に似た色味を帯びている。

「未熟って事か…」
『違うよ。あんまりはっきり、言わせないで?』
最近、春めいてきたせいなのか…彩斗の色気なのか?とにかく
今日も彩斗が愛い。
バレンタインデーに、戻って来た俺を目いっぱい甘やかせてくれて
心がやっと一つに繋がって気がした。
人前で、弱さを見せない彩斗が唯一俺の前では、瞳から涙を零した。

寂しい事は、悪い事じゃない。我慢して自分を追い込むくらいなら
もっと、俺に心を預けて欲しかった。
無理して笑う癖は、最近では少しずつ抑えられて来ている。
素の彩斗は、本当はすごくお天気屋で、少し意地っ張りだ。
なのに、構えていた心を解くと愛らしい笑顔を見せてくれる。

恋愛しているかと、聞かれれば分からないと答える。

形に囚われずに、今はまだじゃれ合いみたいに思うかもしれないけど
以前までの関係性よりかは、少しだけよくなった気がした。

彩斗は、単体としても雑誌に多く取り上げられて来て
露出も増えてきている。この前は、モデルの千紘がプロデュースする
アクセサリーを買いに、ショップに行った際に
帰りに、取材に来ていた雑誌社の人から名刺を貰ったりしていた。

『千紘さんのデザインの指輪…本当にありがとう』
「彩斗は、手の形が綺麗だから映えるな。」
『でも、ピアニストさんの手には…ね。』
「手入れは続けてるけど。時々、指が鍵盤を恋しがるんだ。今でも」
『弾けばいいのに…きっと智彰の手はピアノに恋してるんだよ』
「俺は、ピアノと一つになる事までは考えられなかった。だから、駄目だったんだ。」
『僕には、そこまで夢中になれたもの…あったかな?』
「彩斗には今、あるだろ?将来に向けて目指してるものも…ここにある」
ハッ、と自分の発言に気恥ずかしくて顔を逸らすと
彩斗は少しだけ憂いた顔をしていた。

『智彰って、作詞向いてるんじゃないかな?時々歯の浮くようなセリフもスラスラ言えるし』
「おい…、」
『智彰って、あんまりスレてないからさ。漫画とかアニメの中の言葉っぽいの言えそうだよ。
王子様…とまでは言わないけど、王子様風なとこはあるんじゃない?』

ふふっと笑いながら、彩斗が俺を見て首を傾ぐ。
黙って聞いてれば、さっきから好き勝手言ってくれる。
彩斗の頬に手を伸ばして、頬を軽くつまむ。
「やわらか…っ」
『…すぐ、触る~。智彰って本当にえっち』
「!?はぁ…っ」
『ホントの事でしょ?』
彩斗は俺の指から逃れて、コーヒーを淹れに立った。

人の事、えっち呼ばわりしておいて…俺は絶対に彩斗の方がそうだと思うんですけど。
フワフワなパジャマ着て、一緒に寝たいとか誘惑して来たり
俺にキスの痕つけて喜んでたりする、メス猫みたいな彩斗の方が
俺は、絶対にえっちだと…。
こっちは、健全な17歳。軽い気持ちでたぶらかしたり、弄ぶのは本当に
きっついんだって。

理性がヤバくなったら、頭の中で12の練習曲を演奏シュミレーションする事で耐えて来た。

俺に、理性があって良かった。でなければ…彩斗をきっと襲っていた事だろう。

『智彰、』
「何だよ…」
『そろそろ、一緒に温泉行かない?僕、免許も取れたしドライブがてら、ちょっと脚を伸ばしてみてさ。』
「生きて帰れるのそれ?」
『大丈夫だよ!』
「過信は良くないな。レンタカー?」
『そうなると思う。』
「…やっぱり公共交通機関は一番安心じゃ、」
『ペーパーだから不安なの?』
「いや。彩斗だから、不安なの」
もう遠慮なく言わせてもらうぞ、俺は。
『ひどい…。でも、運転しなければその分忘れていくんだけど、感覚を』
「温泉行くのは良いけど、公共交通機関なら行く。彩斗の運転は怖いから無理。」
『…うん。』

分かってないみたいだから、しっかりと伝えておかないとな。
彩斗はコーヒーカップを手にしたまま、俯いている。
「彩斗に、何かあったら俺が一生苦しいから…言ってるんだよ。」
『自分がちゃんとしてても、事故は起きる事もあるからね…分かった。』
「来年なら、俺が乗せられるようになってる筈だから。」
『助手席彼女は、しばらくは僕でいいんじゃない?』

「しばらくって…」
『じゃ、…ずっと?』
「こんな事ばっかりやってるから、Sweetの方にされるんだろうな…今、解った。」
彩斗の髪をサラサラと撫でて、俺を見上げる視線に引き込まれる様にキスをした。

…やっぱり、甘い。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...