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夜のデートにて

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「…さっきから、こちらを見て何でしょう?」


居心地が、さすがに悪いです。

『あ~…大和だなぁって。』

そんな事を言われましても、どう返していいのやら。

「左様ですか。御坊くん、僕すごく恥ずかしいですし…怖いんですけど。」


逃げ場が無い。

こんな狭い空間に、

貴方と僕…二人きりですよ?


『別に、怖くないって。なぁ、そっち行っていいか?』

「…⁉︎駄目っ‼︎駄目ですっ、揺らさないでくださいよ。落っこちたらどうするんですか⁈」


『大丈夫、大丈夫~…どうせ不死なんだから。』

「馬鹿たれ、そんな問題じゃ…あぁっ⁈」


あんなに嫌だと言ったのに…僕の隣には嬉しそうな顔をした御坊くんが

座ってます。


「だから、…嫌って言ったのに。」

心なしか、傾いている気がして来た。

まさか、男二人で

観覧車に乗るなんて。

これは、どんな罰でしょうか?


『眺めが綺麗な場所って、一番好きなんだよな。気持ちが開かれる。』

「馬鹿と煙は、おっと…失言でしたね。」


ふふっ、と笑って

隣の御坊くんの瞳を

捉える。

『観覧車って、やっぱり夜が良いよな。くっついてもバレ無いし。』


そう言って、僕の腹部に両手をまわしてくる貴方の

大胆さには、何ともはや…。


「いけませんよ…そんな事、家でもできますでしょ?」

やんわりと貴方の手に自分の手を重ねて、首を左右に振る。


『それで、たしなめてるつもりか?相変わらず大和は甘いな…。』

しっかりと抱きしめる腕の感触と僅かな息遣い。


耳朶に御坊くんの吐息が掛かり、擽ったくって肩でそれを庇おうにも意識が削がれてしまう。


「もぉっ、擽ったいですって…っ!」


『…』

もちろん、わざとしているんですから、なかなか離して貰えずにいました。

「御坊くん…僕を構うより、ほら…外を見てください。ライトアップや、イルミネーションが沢山で華やかです。僕は、これだけで満足ですよ。」


窓の外に視線を移していると、つまらなさそうに

御坊くんの舌打ちが聞こえる。

『…はいはい、そうですか。』

僕に構い飽きて、対面する

自分の位置に座ってくれて

一安心。


「ありがとうございます、こんな…特別な事をして頂いて。でも、僕も御坊くんに喜んで貰いたいです。」


一緒に連れて来て貰えたのが、嬉しくて。

『大袈裟だな。』

「貴方の心が、有難いのですよ。お分かりでしょう?そうやって、照れてらっしゃるのは良い証拠ですね。僕は、貴方のそういう誰かを喜ばせたいという、温かで大きな心に触れると…愛しくなります。」


『それ以上喋るな。』

「はい。」


なんだか、不思議な方ですよ。御坊くんは。

愛情深いのに、とても照れ屋さんで。

いつも堂々としているかと思えば、繊細でロマンチストだったり。


僕が見透かした事を言うと

今みたいに、拗ねてしまう。

本当、可愛らしい。


『…大和、夜景ばっか見てないで少しはコッチ見ろ。』

「…!はい、素敵な夜景に、素敵な御坊くん。これ以上の贅沢はありませんね。」



『乗ってみれば、あっという間だな。』

「はい。すごく楽しかったです。」

夜の遊園地は、幻の世界みたいに儚くて美しい。


夢を見せてもらったような気持ちで後にする。


「帰るのですか?」

御坊くんから、伸ばされた手を繋いで帰り道。

『あぁ。』

「帰ると、きっと切なくなりませんか?」

僕の言葉に、御坊くんが目を見開く。

『お前、大和…同じこと考えてるんだな?』


「はい。だって、僕は御坊くんを誰より解ってますし…同調しやすいですから。」

そうだ、このまま明かりのある家に帰ると…

なんだか魔法が解ける気がして。


貴方と同じ気持ちでいる

今を大切にしたい。

『…ここでは、さすがに。』

「近くの公園がありますよ?」

『大和、お前…』

「貴方の望みは、僕の望みでしょう?」


手を繋いだまま、公園に

やって来た。

ブランコに並んで座る。

『大和でも、そんな風に思うんだな。』

キィ、キィ、と緩やかに

ブランコをこぐ。


「僕は、真面目に御坊くんの事を考えてます。」

『知ってる。』

「貴方が思う以上に貴方を慕っています。」

『そうだろうな。』

「…僕は、貴方しか知りません。」


『まぁ、俺は違うけど。』

「…裏切り者。」

『しょうがないだろ?昔の話だ。俺も若かったし…もしかして、自分は大和が好きなんじゃないかって。ある日漠然と思ったら、不安になって…試したんだよ。最後まで、やれたけどなぁ…心に穴空いたんじゃないかって位に自分で傷付いた。』


だって、貴方はそんな人じゃないから。

そこに、僕に対する気持ちが…少しでもあれば、それだけで。

「後悔しました?」

『当たり前だ。時々思い出して辛い。』

「それからなんですよね?頻繁に僕に会いに来てくれるようになったのは。」


懐かしい。

共に勉学に励み、貴方は

剣術、僕は法力を学び。

『大和は、昔話が好きだよな?』

「僕は、やたら長生きしていますからね。未来より過去に重きを置くのでしょう。記憶が、溢れそうなくらいにありますから。」


『俺は、今にしか興味無いかな。どう行動するかで未来が変わるワケだ。』

「そうです……はっ、くしゅ…‼︎」


朝晩冷え込む、今の時期

『分かってる、帰るぞ。風邪引いたら面倒だからな。』

ブランコから降りて、先を歩く御坊くんの隣に付き

寄り添い歩く。


「御坊くん…」

『あ~?』

「泊まって行かれませ。」

『当然。』

「…貴方らしい。」


帰り道、コンビニで

軽く食べれそうなものを

見繕い、家に帰って明かりの灯る居間で

それを食べる。

『不死でも、腹は減るからなぁ。まぁ、食う楽しみは大切だけど。』

「僕、コンビニの少し値の張るお握り大好きです。今度、真似して作ってみましょうか。御坊くん、食べて下さいね。」


『お握り、買う時代かぁ。昔はさ…勉強してる時や俺が稽古してる時に大和が差し入れしてくれて、あれは普通に嬉しかったよな。』

そういえば、そんな事もしていましたね。


「御坊くんが、いつも頑張っているのを見ていましたから。とても、意欲的で…尊敬していましたよ。」


今では、そうでもありませんが。と、お握りを頬張る僕に御坊くんが一瞥する。


『大和は、食べるの好きだよな?美味しそうに食べるから、俺までつられる。食べてる姿が可愛く見えてるから、俺も末期だな。』


サンドイッチを食む御坊くんに、沸かしたお湯でカップに、スープを作る。

「ごめんなさい、食事作って無くて。」


『ん?気にしてない。最近忙しかったんだろ、大和。冷蔵庫なんも無いから。』

「はい…実は、今日帰ってきたばかりなんですよ。姉妹都市の海外視察に行ってきたばかりで。」


『えっ、めっちゃ忘れてた。おー、そっか。お帰り。楽しかったか?』

へえぇ、と感心する御坊くん。

御坊くんは、結構海外が

お好きなんです。


「あくまで、視察と交流メインなのでガッツリでした。お土産も、ありますよ。」

テーブル横の鞄から一つの箱を取り出して御坊くんに渡す。


『陶器?』

「はい。ティーカップセットです。」

説明を聞く前から箱を開けてしまう御坊くんに

思わず苦笑い。


『…豪奢な俺好みのだなぁ。金ってのが良いよ。ありがとな。』

思ったより、喜んで貰えて内心ホッとしました。


「久しぶりに逢いましたよね。蛍に。」

声だけじゃ、余計に逢いたくなる気持ちを抑えて。

『あぁ、そうだな。』

「まさか、遊園地で待ち合わせなんて…本当に蛍はロマンチストですよね。」


先に待っていた蛍、貴方を見て胸が高鳴りました。

僕を見付けて、はにかむ

表情が…あどけなくて。


『昼間だと、さすがにキツイからな。まぁ、でも大和なら一緒に歩いてても変な目で見られないだろうな。大和は、小柄だし。』


「あの…お聞きしてもいいですか?」

『あ?何だよ』

「今日は、眼鏡なんですね。久しぶりに見ました。貴方のその眼鏡。」

『ん、老眼鏡。』


えっ⁉︎

蛍が…老眼鏡?

「う、嘘~?」

『嘘。近眼だけどな。』

蛍の眼鏡掛けてる姿、

実は大好きなんですよね…。


「似合ってます。」

『そうか?今、一時的に視力落ちてるんだよ。だから、仕方なし。』

「そんな…心配です。僕じゃあ治せませんか?」


そっと、蛍の傍に行き

案の定捕えられて彼の腕の中へと引き込まれる。

『やってみろ…。』

静かに、眼鏡を外して

テーブルの上に置く。

「…さぁ、目を閉じて下さいね。」

右手を彼の左眼のまぶたにかざす。

一瞬の光が放たれ

蛍が目を開ける。

『…あ。』

「心因性のものですかね?一応回復はしたはずなので、何か不都合がございましたら仰って下さいね。」


『さすがだな、ありがとう。』ぎゅーっと抱き締められて困ったように笑っていると

『よし、じゃあ風呂入るぞ。』

予想外の言葉に僕が慌てる。

「まさか、一緒にですか⁈」

確かに、お風呂は沸かしてありますが。

『恥ずかしいか?』

と、言いますが…狭くないかなぁ、と。

そっちが気になります。


「構わないのですが、狭いですよ恐らく。それでも良ければお付き合いします。」

今更恥ずかしくは、ありませんが。

貴方の尽きない要求に

応えていく自分を客観視すると…なんだか楽しい。


僕で、随分とお楽しみ

いただけているようで、

結構な事です。


『よし、じゃあ準備する。』

そう、御坊くんの着替えは

僕の家にも置いてあるんです。

だから、同じお洗濯の

匂いがするんですよね。

「お風呂、すぐ入れますから。僕も少し準備してからお邪魔しますね。」


少し準備というのは、

蛍の脱ぎ散らかした服を洗濯したり、ハンガーに掛けたりと。

五分程遅れて、脱衣所にてタオルを準備してから

衣服を脱いで浴室に入る。


『遅い。って、ハーパン履いて…まさか』


そう、そのまさか。

「ちょっと、綺麗にさせて下さいね…蛍。」

浴槽のふちに座って側にあるシャンプーを手で泡だてて蛍の髪を丁寧に洗う。


『…あんまり長いと、のぼせるから程々にしろよ?』


これが、僕も楽しみで

蛍とお風呂に入るのは結構楽しい。

「はい~…。あぁ、泡立ち良いですね。俄然やる気になります。」


指の腹で、前頭部、後頭部、側頭部、生え際まで細かに洗う。

『お前は、変わった事好きだよな?人の髪を洗うのが好きだなんて。』

それは、ちょっと違いますかね。


「僕は、蛍のだから好きなんですよ?貴方にできる事は、沢山あれば良いですから。」

さて、と大量の泡を両手でタイルに落として。


「満足しました。後はご自分でどうぞ。着替えて来ます。」

手の泡を流して、一旦浴槽を出て履き物を脱ぎ。その間に蛍は、頭の泡を流している。

『…』


「シャワー借ります。」

『お~…』

掛け湯をして、浴槽に浸かる。

「?のぼせましたか」

『ちょっとな。俺は長風呂しないから。』

はぁ、とため息をつかれて

しまい俯く。


「僕は30分近く掛かりますよ。お風呂。」

『は、無理無理。だいたいそんな洗うとこあるか?女じゃあるまいし。…いや、女なの?』


首を傾げて訊ねられ、

まぁ…見ての通りなんですがね。


「ご冗談ばっかり…。」

『あっつ、無理。もう上がる。』

堪え性の無い。

蛍は、身体は洗ったらしく

今すぐにでも出て行きたそう。


「早いですね、どうぞ。ついでに先に寝てて下さいね、歯磨きも忘れずに。」

『お前は、母親か…』


まさか。ちゃんとするのは

自分の為でしょう?

貴方の為になれば、僕の為にもなるのですから。


「なんなら、待ってて下さい。…せっかくですから。」

『言われなくとも。まぁ、ゆっくりして来い。せっかく帰って来たんだしな。』


ほんの小さな気遣いが

彼らしくて、なんだか

顔が勝手に嬉しそうに笑ってしまいます。


やっぱり、僕の大切な貴方は、違いますね。





『ゆっくりして来いとは、行ったけど、もう日付け変わりそうなんだけど…。』

布団が二つ並べてある。

蛍が、敷いてくれたのか。


あ、掛け布団の上下がさかさま…。

無言で直すと、

蛍が布団に押し倒してきた。

『お前、話聞きもしないし、嫌味に布団の上下直すし…なんなんだよ。』


なんなんでしょう?本当。

「お布団敷いてくれたんですね?よく出来ました…。」

くすくす笑いながら、蛍の頬を撫でる。


『大和…』

「はい…。」

これ以上無い程に、蛍が近い。自然と目を瞑って

触れ合う唇。


『…』

形勢は不利ですが、

真っ直ぐで、射抜く様な

視線を間近にしたら

僕は、抗えない事を分かってる。


「蛍は…?」

『ん?』

「寝ませんか、まだ。」

蛍の腕から逃れて、自分の布団に入る。


『今日は、大和も疲れただろう?寝るか。』

あれ?

そんな事言いながら、

蛍が僕の布団に入ってくる。


「はい。じゃあ一緒に寝ましょうか。…ふふっ、あったかい。蛍の体温お子様ですね?」

横を向き合って、抱き合いながら

眠りの世界に落ちていく。


『大和…おやすみ。』

「はい、また明日。おやすみなさい。」
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