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修練の時。
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ずっと変わらずに、
あり続ける存在なんて
沢山あるわけ無い。
それが、人間なら特に。
『居続ける』とは、
容易い事ではない。
同じ土地に、ずっと居てはならない自分たちは
周期で、引っ越しをする。
長く生きていたり、
容姿が変わらないことを
悟られないように。
どうしても、関わってしまった場合は記憶を操作する場合もあるらしい。
古今、何度か皆そういう
危機があったのを、なんとかやり過ごしてきた。
密接になると、相手を巻き込む可能性があるから。
それで、神格を得てしまった者も居たが。
『本気です。彼をどうか、守護職に置いて下さい。』
目の前で、大和が頭を下げる相手が葵だ。
俺には、よく分からないが…神力というモノを得たらしい。
俺は、大和を守ることが出来れば…それで良かった。
が、妖刀に心を奪われて
事もあろうか
守護職の大和を
殺めてしまった。
そこから、色んな事が
立て続けに起こって。
なぜか、俺まで神格を得る事になった。
しかも、俺のは少し特殊らしく地獄の閻魔から
神力を賜った。
まさか、地獄と縁ができてしまうなんて。
『素晴らしいですね、いずれ討伐隊のお話がまいりますよ、僕も参加します。蛍の力を貸して下さいな。』
地獄の討伐隊?
意味がよくわからない。
「なんだそれ?」
『何年かに一度、地獄にたまった悪霊を追い払う儀式…といいますか。実戦です。気を抜くと大変なことになりますからね。攻守で秀でたものしか招待されません。後は、法力が扱えたりすると…尚よし!』
珍しく大和が、やる気だ。
「そうか…で、他に誰が参加するんだ?」
想像もつかない、非現実みたいな話だ。
『この辺だと、楓さんとタローくんですね。めちゃくちゃ強い方です。頑張って沢山成仏させると、ご褒美が貰えるんですよ。』
ご褒美?
大和が嬉しそうにしてる。
食べ物だろうな。
『はい、おだんごが貰えます。』
………。
俺、あんまり行きたくない気がする。
「だんご…?」
『ただの団子じゃありませんよ。乾かすと、カチカチになります。それを御守りにするんです。すごく強力なんですから。特に、蛍?貴方は妖刀に魅入られてしまった事もありますから、御守りに貰えたら有難いです。』
へぇ、そんな意味があったんだな。
ちょっと馬鹿にしてしまった自分を、恥じる。
大和は、いつだって
周りを見ている。
行動だって、自分のためにはあまり動かない。
みんなの為になるなら、と。その自己犠牲の精神は
どう考えても自分には
無い物だから。
やっぱり、大和は守るべき存在だ。
地獄の討伐隊に、大和も入っているのは心配でしかない。まぁ、だから
一緒に行くんだよな。
『そういえば、蛍は刀を今は持ってなかったですね。実は、あの妖刀なんですが僕の方で祓っておきました。そしたら、なんとも美しい秋水になりましたので受け取って下さい。』
両の手で渡された刀は、以前のようにズシリとは来なかった。
ただ、以前より嫌な気は
しなくなった。
どこまでも、澄み行くような気持ちにしてくれる。
美しい波紋の刀身。
禍々しさが抜けている。
これなら、安心して
大和を守れる。
そんなやりとりを経て、
俺は大和と楓、タローとで
地獄の討伐に向かうことになった。
楓とタローは、すっかり常連らしく
戦い慣れている。
タローは、前線で
楓は、タローの援護となっている。
「凄いな…大和、俺たちも始めよう。」
地獄の暑さと、異様な臭いも物ともせず
ただ、広いこの階層の
悪霊を祓い続ける。
討伐する前に、四人で話していたら
話の途中にも関わらず
楓が、刀を見せてくれ。と
言ってきた。
楓は、以前から刀を集めていると大和に聞かされた。
一旦、楓に秋水を渡して
好きなだけ見せてやった。
『いい、刀だな。静かで、澄み切っている。よく切れるだろう、これは。』
まぁ、元が妖刀なだけに。
「そうだな、大和まで斬った刀だ。恐ろしい妖刀だったんだよ。それを大和が今の状態にしてくれた。」
じ、と大和を眺めて笑みを浮かべる。
それに、気づいた大和は
嬉しそうに頷く。
『それが、ここまで変わるものなのか。』
「本当、大和にはいつも驚かされる。」
さっきから、珍しく
タローが静かだ。
『タローくん、もしや…気分が悪いのでは?地獄は、地上よりか空気も半分くらい少ないですからね。無理は、いけませんよ?』
楓に、もたれたタローが
顔を上げる。
『ありがとう、大丈夫。さっきから比べたらかなりマシにはなってきたよ。』
やっぱり息が苦しいらしく、楓がタローの背中を撫でている。
仲良いよな、楓とタロー。
何というか、昔からの付き合いを感じる。
自分の事以上に、楓は
タローを気にかけている。
そんな気がした。
「楓とタローって、兄弟?」
『あ…、蛍ったら…突然何を。すみません、楓さん。タローくん。』
俺は、何かまずい事を聞いたのか?
楓とタローは、お互いを見て笑っている。
『何、隠す事も無い。いずれ分かる事なのだから、俺が話そうか。』
『そうですか?ありがとうございます。楓さん。』
大和は、楓の気遣いに
頭を下げた。
『タローは、俺が拾って育ててる。この、タローの母親が河原で息絶えていた。その傍にタローはまだ、生きていたのを俺が保護してそのまま育てる事にしたんだ。』
育ての親…。
けど…なんとも二人は
そんな感じがしない。
楓は、歳も一体いくつか分からない。そこそこいってる?
タローは、子供みたいだ。
『俺の事は、自分で話すよ。…そだなぁ何から話そう?楓に拾って貰って、しばらくは母親がわりの優しくて綺麗な女の人が面倒を見ててくれたんだけど…。病気で亡くしちゃったんだ。』
タロー、心なしか
目が赤い。
辛い話をさせてしまった。
大和も、言葉無く
俯いている。
今から討伐に行くという雰囲気では無いかもしれない。
『…そう、落ち込むな。今から討伐しなければいけないのに、このままではおされてしまうぞ。奴らは乗り移って攻撃さえできる。言わなくても分かるよな?俺やタロー、蛍や大和を操られた状態で相棒を攻撃すると…非常に危険だ。とにかく気を抜くな。神力を使い鎮めろ。』
楓の言うとおりだった。
万全の装備をして、もしもに備えなければ。
「大和、祓いはお前が得意だよな。もし、取り憑かれたら頼む。」
『はい!勿論。僕は貴方の後方支援ですから。でも…あまり無理はなさらないで下さいね?…心配です。』
そっ、と大和から
伸ばされた手を握り
自らの胸へと宛てる。
大丈夫だ、大丈夫。
仲間がついてる。
『頑張って、おだんごいただきましょう。』
「…ふっ、改めて言われると間抜けなモンだ。」
さらさらと髪を撫でると、
大和が目をつむる。
『僕だけの力じゃ貴方を守れない事も、いつかあるでしょう?その時のための御守りです。僕の蛍を想うカタチだと思って。』
相変わらず、真面目で
人の事ばっかり考えて。
お人好しだな。
閻魔から、日頃は開けられる事のない扉を開けてもらう。
空気が淀み、息苦しい。
嫌な気が渦巻いて、身体もいつもより重い気がした。
『蛍…気を付けてください。以前よりか増殖しています。』
様々な感情が、集まり
大きな歪みのような物を空間に生じさせていた。
大和が長い、七宝の数珠で経を唱える。
錫杖の遊環が、鳴る。
大和の緊張感が
こちらにも伝わるような
感覚。
急くな、大和。
俺が、お前を守ると
決めたから
大丈夫だ。
『なぁ、楓っ…ちょい休憩~。さすがに張り切り過ぎだよ。空間の歪みがかなり直ってきたし。やっぱり楓の式神と、あの二人の力は凄いよ。』
『タロー、お前も無理してるようだしな。じゃあ…そろそろ終わりにしよう。まぁ、俺と大和がいる時点でその気になれば、すぐ片付けられるんだが。余りにそれはつまらない。』
神力の落ちた、タローが耳やら尻尾を出したまま崩れ落ちる。
『!タロー‼︎』
すぐ近くで、楓の声がした。
タローに、何かあったらしい。
「大和、楓とタローは?」
『分かりませんが、今の楓の声…気がかりですから切り上げましょう。』
最後に大和が、法力で周囲を一掃して、楓達の元に向かう。
…やっぱり、桁違いなんだよな。能力が。大和は、強い。
本気を出せば、すぐに討伐は終わるくらいの実力者だ。
それを、俺に気を使って…
まだまだ、俺は
強くならないといけないな。
『楓さん、タローくんは…っ、倒れたのですか?』
二人に駆け寄り、大和は
膝を折る。
「タロー?か、これ。」
『あぁ、タローはな、神力を使いすぎると人間の姿が保てないんだ。俺がまた、回復してやれば元気になる。』
愛らしい耳や尻尾、
楓の腕に抱かれるタローは
本当に微笑ましい。
『そうですか、これ以上は危険です。もう出ましょう。無理してまでする事はありませんので。』
大和の言葉を聞いて
俺も同調した。
楓は、タローを介抱するべく
その、男にしては華奢な身体を軽く抱き上げた。
『すまない、コレはまだ未熟で力の配分も分からずにがむしゃらになってしまう所がある。』
幾分片付けられて、
異様な熱気も治まった
扉を固く閉ざして鍵は
大和が閻魔へと返す。
あれは、修練の部屋として
使われるらしく
悪霊達は倒しても倒してもまた、沸き上がる。
『閻魔、タローが落ちた。なんとか、できないか?』
控えの間に戻り、
様子を見に来た閻魔に
楓が手招く。
閻魔と言えば、
泣く子も黙る恐ろしい威圧感と大きな身体を連想していたが…。
この閻魔は、ほとんど見た目は人間だ。
紅い髪を結い上げ
瞳は金のような色をしている。
『タローが?やれやれ、ほとんど狸ではないか…。楓の分も自分の分も神力が無くなりかけている。半分は戻せるが、後は楓が入れてやれよ?』
寝台に横たわるタローの
胸に閻魔が掌を宛て、
力を送り込む。
同時に、出たままの狸の耳や尻尾が引っ込んだ。
「神力って、すごいよな…。」
唖然と、その様子を見ていると隣に座っていた大和が
微笑む。
『タローくんは、特別でして…楓さんから神力を残り半分頂かないと駄目なんです。だから、タローくんは、楓さんから離れられない。あの二人は、禁忌をモノともしません。深く想い合っているが故に。』
「禁忌…?」
『僕でさえ、楓さんの生前も、年齢も知らない。あの方は…まだまだ秘密があります。蛍、貴方は僕に秘密がありますか?』
大和に…秘密にしてる事?
否、全く。
俺、抱えてるの無理で
すぐ誰かに言う性格だから。
「思い当たらない。」
『…良かった。あ、タローくんが起き上がりました。』
『ゴメン、燃料切れちゃった。閻魔、楓、ありがとう。』
タローは、ご褒美の
おだんごを貰って嬉しそうに笑ってる。
「タロー…びっくりした。お前が狸みたいになってるし、もういいのか?」
『ゴメン、蛍。俺は平気、それより蛍って強いんだな。今までは楓が一番強いと思ってたけど…蛍も凄かった。』
タローの拳と自らの拳を軽く当て、健闘を讃える。
『四人とも、よくやった。褒美の団子だ、持って行け。』
淡い色合いの、赤や黄色、緑の小さな団子が重に
詰められている。
「これは、このままでも…?」
『食べられますよ。タローくんは先に食べてましたね。疲労回復も出来ます。僕は、少し頂いて余れば乾燥して御守りにするんです。』
体力が戻ったタローを
連れて楓は先に煌龍殿へと戻った。
タローは、名残惜しそうに
『良かったら、二人で今度煌龍殿に遊びに来て?大和なら入れるはずだから。』
そう言い残し、式神の白虎に飛び乗り消えた。
「…あれは、四神の白虎か?」
『はい。勿論楓さんの使役です。』
「俺、守護職として…今からだな。上には上。隣のお前が既に上だ。」
『…そんな事はありませんよ。それに、蛍には素質があったから。貴方なら、大丈夫。僕も他の皆も信じています。時間は、沢山あるのですから着実に行きましょう。』
心のどこかで、思っていた不安な事を吐露し
大和の優しさに救われた気がした。
あり続ける存在なんて
沢山あるわけ無い。
それが、人間なら特に。
『居続ける』とは、
容易い事ではない。
同じ土地に、ずっと居てはならない自分たちは
周期で、引っ越しをする。
長く生きていたり、
容姿が変わらないことを
悟られないように。
どうしても、関わってしまった場合は記憶を操作する場合もあるらしい。
古今、何度か皆そういう
危機があったのを、なんとかやり過ごしてきた。
密接になると、相手を巻き込む可能性があるから。
それで、神格を得てしまった者も居たが。
『本気です。彼をどうか、守護職に置いて下さい。』
目の前で、大和が頭を下げる相手が葵だ。
俺には、よく分からないが…神力というモノを得たらしい。
俺は、大和を守ることが出来れば…それで良かった。
が、妖刀に心を奪われて
事もあろうか
守護職の大和を
殺めてしまった。
そこから、色んな事が
立て続けに起こって。
なぜか、俺まで神格を得る事になった。
しかも、俺のは少し特殊らしく地獄の閻魔から
神力を賜った。
まさか、地獄と縁ができてしまうなんて。
『素晴らしいですね、いずれ討伐隊のお話がまいりますよ、僕も参加します。蛍の力を貸して下さいな。』
地獄の討伐隊?
意味がよくわからない。
「なんだそれ?」
『何年かに一度、地獄にたまった悪霊を追い払う儀式…といいますか。実戦です。気を抜くと大変なことになりますからね。攻守で秀でたものしか招待されません。後は、法力が扱えたりすると…尚よし!』
珍しく大和が、やる気だ。
「そうか…で、他に誰が参加するんだ?」
想像もつかない、非現実みたいな話だ。
『この辺だと、楓さんとタローくんですね。めちゃくちゃ強い方です。頑張って沢山成仏させると、ご褒美が貰えるんですよ。』
ご褒美?
大和が嬉しそうにしてる。
食べ物だろうな。
『はい、おだんごが貰えます。』
………。
俺、あんまり行きたくない気がする。
「だんご…?」
『ただの団子じゃありませんよ。乾かすと、カチカチになります。それを御守りにするんです。すごく強力なんですから。特に、蛍?貴方は妖刀に魅入られてしまった事もありますから、御守りに貰えたら有難いです。』
へぇ、そんな意味があったんだな。
ちょっと馬鹿にしてしまった自分を、恥じる。
大和は、いつだって
周りを見ている。
行動だって、自分のためにはあまり動かない。
みんなの為になるなら、と。その自己犠牲の精神は
どう考えても自分には
無い物だから。
やっぱり、大和は守るべき存在だ。
地獄の討伐隊に、大和も入っているのは心配でしかない。まぁ、だから
一緒に行くんだよな。
『そういえば、蛍は刀を今は持ってなかったですね。実は、あの妖刀なんですが僕の方で祓っておきました。そしたら、なんとも美しい秋水になりましたので受け取って下さい。』
両の手で渡された刀は、以前のようにズシリとは来なかった。
ただ、以前より嫌な気は
しなくなった。
どこまでも、澄み行くような気持ちにしてくれる。
美しい波紋の刀身。
禍々しさが抜けている。
これなら、安心して
大和を守れる。
そんなやりとりを経て、
俺は大和と楓、タローとで
地獄の討伐に向かうことになった。
楓とタローは、すっかり常連らしく
戦い慣れている。
タローは、前線で
楓は、タローの援護となっている。
「凄いな…大和、俺たちも始めよう。」
地獄の暑さと、異様な臭いも物ともせず
ただ、広いこの階層の
悪霊を祓い続ける。
討伐する前に、四人で話していたら
話の途中にも関わらず
楓が、刀を見せてくれ。と
言ってきた。
楓は、以前から刀を集めていると大和に聞かされた。
一旦、楓に秋水を渡して
好きなだけ見せてやった。
『いい、刀だな。静かで、澄み切っている。よく切れるだろう、これは。』
まぁ、元が妖刀なだけに。
「そうだな、大和まで斬った刀だ。恐ろしい妖刀だったんだよ。それを大和が今の状態にしてくれた。」
じ、と大和を眺めて笑みを浮かべる。
それに、気づいた大和は
嬉しそうに頷く。
『それが、ここまで変わるものなのか。』
「本当、大和にはいつも驚かされる。」
さっきから、珍しく
タローが静かだ。
『タローくん、もしや…気分が悪いのでは?地獄は、地上よりか空気も半分くらい少ないですからね。無理は、いけませんよ?』
楓に、もたれたタローが
顔を上げる。
『ありがとう、大丈夫。さっきから比べたらかなりマシにはなってきたよ。』
やっぱり息が苦しいらしく、楓がタローの背中を撫でている。
仲良いよな、楓とタロー。
何というか、昔からの付き合いを感じる。
自分の事以上に、楓は
タローを気にかけている。
そんな気がした。
「楓とタローって、兄弟?」
『あ…、蛍ったら…突然何を。すみません、楓さん。タローくん。』
俺は、何かまずい事を聞いたのか?
楓とタローは、お互いを見て笑っている。
『何、隠す事も無い。いずれ分かる事なのだから、俺が話そうか。』
『そうですか?ありがとうございます。楓さん。』
大和は、楓の気遣いに
頭を下げた。
『タローは、俺が拾って育ててる。この、タローの母親が河原で息絶えていた。その傍にタローはまだ、生きていたのを俺が保護してそのまま育てる事にしたんだ。』
育ての親…。
けど…なんとも二人は
そんな感じがしない。
楓は、歳も一体いくつか分からない。そこそこいってる?
タローは、子供みたいだ。
『俺の事は、自分で話すよ。…そだなぁ何から話そう?楓に拾って貰って、しばらくは母親がわりの優しくて綺麗な女の人が面倒を見ててくれたんだけど…。病気で亡くしちゃったんだ。』
タロー、心なしか
目が赤い。
辛い話をさせてしまった。
大和も、言葉無く
俯いている。
今から討伐に行くという雰囲気では無いかもしれない。
『…そう、落ち込むな。今から討伐しなければいけないのに、このままではおされてしまうぞ。奴らは乗り移って攻撃さえできる。言わなくても分かるよな?俺やタロー、蛍や大和を操られた状態で相棒を攻撃すると…非常に危険だ。とにかく気を抜くな。神力を使い鎮めろ。』
楓の言うとおりだった。
万全の装備をして、もしもに備えなければ。
「大和、祓いはお前が得意だよな。もし、取り憑かれたら頼む。」
『はい!勿論。僕は貴方の後方支援ですから。でも…あまり無理はなさらないで下さいね?…心配です。』
そっ、と大和から
伸ばされた手を握り
自らの胸へと宛てる。
大丈夫だ、大丈夫。
仲間がついてる。
『頑張って、おだんごいただきましょう。』
「…ふっ、改めて言われると間抜けなモンだ。」
さらさらと髪を撫でると、
大和が目をつむる。
『僕だけの力じゃ貴方を守れない事も、いつかあるでしょう?その時のための御守りです。僕の蛍を想うカタチだと思って。』
相変わらず、真面目で
人の事ばっかり考えて。
お人好しだな。
閻魔から、日頃は開けられる事のない扉を開けてもらう。
空気が淀み、息苦しい。
嫌な気が渦巻いて、身体もいつもより重い気がした。
『蛍…気を付けてください。以前よりか増殖しています。』
様々な感情が、集まり
大きな歪みのような物を空間に生じさせていた。
大和が長い、七宝の数珠で経を唱える。
錫杖の遊環が、鳴る。
大和の緊張感が
こちらにも伝わるような
感覚。
急くな、大和。
俺が、お前を守ると
決めたから
大丈夫だ。
『なぁ、楓っ…ちょい休憩~。さすがに張り切り過ぎだよ。空間の歪みがかなり直ってきたし。やっぱり楓の式神と、あの二人の力は凄いよ。』
『タロー、お前も無理してるようだしな。じゃあ…そろそろ終わりにしよう。まぁ、俺と大和がいる時点でその気になれば、すぐ片付けられるんだが。余りにそれはつまらない。』
神力の落ちた、タローが耳やら尻尾を出したまま崩れ落ちる。
『!タロー‼︎』
すぐ近くで、楓の声がした。
タローに、何かあったらしい。
「大和、楓とタローは?」
『分かりませんが、今の楓の声…気がかりですから切り上げましょう。』
最後に大和が、法力で周囲を一掃して、楓達の元に向かう。
…やっぱり、桁違いなんだよな。能力が。大和は、強い。
本気を出せば、すぐに討伐は終わるくらいの実力者だ。
それを、俺に気を使って…
まだまだ、俺は
強くならないといけないな。
『楓さん、タローくんは…っ、倒れたのですか?』
二人に駆け寄り、大和は
膝を折る。
「タロー?か、これ。」
『あぁ、タローはな、神力を使いすぎると人間の姿が保てないんだ。俺がまた、回復してやれば元気になる。』
愛らしい耳や尻尾、
楓の腕に抱かれるタローは
本当に微笑ましい。
『そうですか、これ以上は危険です。もう出ましょう。無理してまでする事はありませんので。』
大和の言葉を聞いて
俺も同調した。
楓は、タローを介抱するべく
その、男にしては華奢な身体を軽く抱き上げた。
『すまない、コレはまだ未熟で力の配分も分からずにがむしゃらになってしまう所がある。』
幾分片付けられて、
異様な熱気も治まった
扉を固く閉ざして鍵は
大和が閻魔へと返す。
あれは、修練の部屋として
使われるらしく
悪霊達は倒しても倒してもまた、沸き上がる。
『閻魔、タローが落ちた。なんとか、できないか?』
控えの間に戻り、
様子を見に来た閻魔に
楓が手招く。
閻魔と言えば、
泣く子も黙る恐ろしい威圧感と大きな身体を連想していたが…。
この閻魔は、ほとんど見た目は人間だ。
紅い髪を結い上げ
瞳は金のような色をしている。
『タローが?やれやれ、ほとんど狸ではないか…。楓の分も自分の分も神力が無くなりかけている。半分は戻せるが、後は楓が入れてやれよ?』
寝台に横たわるタローの
胸に閻魔が掌を宛て、
力を送り込む。
同時に、出たままの狸の耳や尻尾が引っ込んだ。
「神力って、すごいよな…。」
唖然と、その様子を見ていると隣に座っていた大和が
微笑む。
『タローくんは、特別でして…楓さんから神力を残り半分頂かないと駄目なんです。だから、タローくんは、楓さんから離れられない。あの二人は、禁忌をモノともしません。深く想い合っているが故に。』
「禁忌…?」
『僕でさえ、楓さんの生前も、年齢も知らない。あの方は…まだまだ秘密があります。蛍、貴方は僕に秘密がありますか?』
大和に…秘密にしてる事?
否、全く。
俺、抱えてるの無理で
すぐ誰かに言う性格だから。
「思い当たらない。」
『…良かった。あ、タローくんが起き上がりました。』
『ゴメン、燃料切れちゃった。閻魔、楓、ありがとう。』
タローは、ご褒美の
おだんごを貰って嬉しそうに笑ってる。
「タロー…びっくりした。お前が狸みたいになってるし、もういいのか?」
『ゴメン、蛍。俺は平気、それより蛍って強いんだな。今までは楓が一番強いと思ってたけど…蛍も凄かった。』
タローの拳と自らの拳を軽く当て、健闘を讃える。
『四人とも、よくやった。褒美の団子だ、持って行け。』
淡い色合いの、赤や黄色、緑の小さな団子が重に
詰められている。
「これは、このままでも…?」
『食べられますよ。タローくんは先に食べてましたね。疲労回復も出来ます。僕は、少し頂いて余れば乾燥して御守りにするんです。』
体力が戻ったタローを
連れて楓は先に煌龍殿へと戻った。
タローは、名残惜しそうに
『良かったら、二人で今度煌龍殿に遊びに来て?大和なら入れるはずだから。』
そう言い残し、式神の白虎に飛び乗り消えた。
「…あれは、四神の白虎か?」
『はい。勿論楓さんの使役です。』
「俺、守護職として…今からだな。上には上。隣のお前が既に上だ。」
『…そんな事はありませんよ。それに、蛍には素質があったから。貴方なら、大丈夫。僕も他の皆も信じています。時間は、沢山あるのですから着実に行きましょう。』
心のどこかで、思っていた不安な事を吐露し
大和の優しさに救われた気がした。
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