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『キミね、いい加減帰りなさい。』
目を閉じたまま、末永先生は落ち着いて
言葉を僕に向ける。
「このまま仕事に行きます。」
『絵夢くん、キミはね…私の担当者だった。意味は分かるだろう?』
長いまつ毛に、切れ長の瞳がすごく
綺麗な末永先生。
僕の憧れなのは間違いない。
「今でも、ですよ?」
『キミは、私のあのデビュー作を読んでるなら意味が分かるだろう?なぜ、受け入れない…?』
僕の世界のカミ様は、末永先生が良い。
「先生のデビュー作は僕の教科書です。」
『やめてくれ。私はキミの様な物の為に、書いてなどいなかった。勘違いするな。』
末永先生は、目を開けて体を起こした。
呆然とただ、末永先生の言葉を浴びながら
身動きの取れない僕を見て微笑んでくれる。
慈悲さえ感じる、いや…慈愛とも言えそうな
優しく儚い末永先生の表情。
「今でも、敬愛していますよ。本当です。」
『あぁ、それは理解している。しかし、私はキミをどうにも出来ない。』
瞬き一つにしても、瞳の奥が透き通っていて
末永先生の心の奥底を垣間見た気がした。
「もしかして、僕なにか…末永先生に失礼な事をしました?」
『違うな。』
「怒ってると言うより、末永先生…困ってますよね。」
『非常に言いにくい、事なんだが。私は今から数年前とある人の葬儀に参列した。』
突然、何のことかと面食らう。
でも、黙って末永先生の話に聞き入る。
『その人は、新入社員であり…偶然にも私の担当者となる、いや…なっていた。決まっていたんだよ。』
「……ハイ。」
『私は弔問した時に見た、彼の写真を今でも忘れられない。何故か、と言えば…顔がとても私の好みだったからだ。』
一体誰の話をしているのだろう?
『その彼は担当者でありながら、初日の挨拶に私の元へ来なかった。…来られなかった。』
「ぁ…、」
『何の事情も知らなかった私は、とりあえず待つことにした。ずっと、数時間だ。その内編集部から連絡が入って驚いた。私の新しい担当者の訃報を報されたのだからね。』
「その、担当者の名前は…?」
『長谷沼 絵夢くん。キミはね、私の心にとても大きな穴を空けてこの世を去ったんだ。』
頭の中が真っ白になる。
何故かこんな時に僕は、末永先生の
デビュー作のタイトルを思い出していた。
【幽かな鼓動】
亡くなったはずの彼女と暮らす青年との恋愛ものが描かれている作品だ。
実写映画化もされ、涙を誘う物語が
柔らかに綴られている。
「ぅ…うそ~ん…」
アホみたいな反応をしていると
末永先生が
『うそーんて、キミなぁ…。』
呆れた様に笑う。
目を閉じたまま、末永先生は落ち着いて
言葉を僕に向ける。
「このまま仕事に行きます。」
『絵夢くん、キミはね…私の担当者だった。意味は分かるだろう?』
長いまつ毛に、切れ長の瞳がすごく
綺麗な末永先生。
僕の憧れなのは間違いない。
「今でも、ですよ?」
『キミは、私のあのデビュー作を読んでるなら意味が分かるだろう?なぜ、受け入れない…?』
僕の世界のカミ様は、末永先生が良い。
「先生のデビュー作は僕の教科書です。」
『やめてくれ。私はキミの様な物の為に、書いてなどいなかった。勘違いするな。』
末永先生は、目を開けて体を起こした。
呆然とただ、末永先生の言葉を浴びながら
身動きの取れない僕を見て微笑んでくれる。
慈悲さえ感じる、いや…慈愛とも言えそうな
優しく儚い末永先生の表情。
「今でも、敬愛していますよ。本当です。」
『あぁ、それは理解している。しかし、私はキミをどうにも出来ない。』
瞬き一つにしても、瞳の奥が透き通っていて
末永先生の心の奥底を垣間見た気がした。
「もしかして、僕なにか…末永先生に失礼な事をしました?」
『違うな。』
「怒ってると言うより、末永先生…困ってますよね。」
『非常に言いにくい、事なんだが。私は今から数年前とある人の葬儀に参列した。』
突然、何のことかと面食らう。
でも、黙って末永先生の話に聞き入る。
『その人は、新入社員であり…偶然にも私の担当者となる、いや…なっていた。決まっていたんだよ。』
「……ハイ。」
『私は弔問した時に見た、彼の写真を今でも忘れられない。何故か、と言えば…顔がとても私の好みだったからだ。』
一体誰の話をしているのだろう?
『その彼は担当者でありながら、初日の挨拶に私の元へ来なかった。…来られなかった。』
「ぁ…、」
『何の事情も知らなかった私は、とりあえず待つことにした。ずっと、数時間だ。その内編集部から連絡が入って驚いた。私の新しい担当者の訃報を報されたのだからね。』
「その、担当者の名前は…?」
『長谷沼 絵夢くん。キミはね、私の心にとても大きな穴を空けてこの世を去ったんだ。』
頭の中が真っ白になる。
何故かこんな時に僕は、末永先生の
デビュー作のタイトルを思い出していた。
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実写映画化もされ、涙を誘う物語が
柔らかに綴られている。
「ぅ…うそ~ん…」
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