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少しでもモチベーションが上がるなら
協力したい。
見え透いたお世辞に思われないか、
不安だったけど。
『昔ね、それこそデビュー作の感想をファンレターに送ってきてくれた子がいてさ。読んでるこっちが恥ずかしくなる様な、ベタ褒めのファンレターで。今でも勿論大切に保管してあるんだけど。』
「っえ…、」
『絵夢くんは、そのファンレターの送り主と似てるね。まるで、私の事を信仰でもしてるのかと思う様な?まぁ、スゴイ熱量の内容で…嬉しくて今でも時々読み返すんだ。』

末永先生、ファンレターをそんなにも
大切にするタイプだったんだ。

これは、言い出しにくい。
「末永先生のファンがどれだけ次回作を心待ちしてるか、もっと感じて下さいね。」
『そうだね、あのファンレターの子にもまた読んでもらえたらなぁ…。うん、やっぱりキミを呼んで良かったよ。心の中がスッキリした。』

末永先生は、僕の膝に少しだけ名残惜しそうに額を寄せてから、立ち上がる。
空気が変わった気がした。
椅子に戻って、机の上のPCで打ち込み始める。
この後ろ姿が、近くて遠い存在である事を
実感させた。
とてもじゃ無いけれど、簡単に声さえ
掛けられない雰囲気。

普段はおちゃらけたりもするけど、
物語の世界に没入させる小説を
得意とする末永先生。
とてつもない能力を感じる。
集中力も高い分、エネルギー切れまで
一気に駆け抜けてしまう。

だから、僕はよく食料の買い出しに行って
準備をしておく。
エネルギー切れを起こした末永先生は
あまりにひどくて、僕におんぶに抱っこを
要求して来そうな程になる。

サポートは惜しみなく、しっかり支えるのが
僕の仕事だから。

今夜はきっとこのまま徹夜かもしれない。
僕は末永先生が、用意してくれている
客間に向かう事にした。

時々こんな風に泊まり込みをして
サポートする事がある。
出勤も末永先生の家からする事になる。
僕は、この関係が普通なのだと思っていた。


朝、目を覚ます。
とても静かで、違和感を覚えそうになる。
いつさらだろう?
朝を迎えるという事に意識が向かなくなっていた。

末永先生、どうしてるだろう?
ゆっくりと体を起こす。
ちょっとだけいつもより重い感じがする。
「わぁ……っ」
布団の裾あたりで、寝ている末永先生が
居た。クイーンサイズのベッドとは言え、
何故こんな所で寝落ちてしまったのか。

「末永先生、こんな所で寝ないでくださいよぉ~風邪ひいちゃいますって!」
ホントに、不思議な人だと思う。
末永先生の体をゆるく揺すり起こす。
シーツに散らばる長い髪に
ドキドキしてくる。
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