【忍者と薬師】毎日いっしょ。

あきすと

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最終関門。

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『次期当主さま、次期当主さまは、いつ当主になるの?』


里の子等と、虫捕りをしていた。

暑い。

背中や額からも汗がひどい。

手ぬぐいで、ぐいぐい

伊吹に汗を拭かれるけど

『難しいな、当主にはまだなれない。親父様、今の当主様が許してくれないんだよ。』


ちょっと、余計なことを…


「まぁ、難しいのは確かだな。まだ風しか操れない。雷(いかづち)を呼べない。風を操り、雲を呼び、雨を降らせて雷を呼べるようになるまでは、無理かな。今は雲までは集めれる。」


才能だけで、なれるわけじゃないのが当主。

試練が用意されているのではないかと心配されている。


何で、風を操れるのかと聞かれれば返答に困るが。

そういう血を継いでいるというのが、一番しっくりくる。

『志摩なら、なれると思うだろう?お前たちも…』


肩車をしていた子供を、ゆっくりと野っ原に下ろして伊吹も木陰に座り込む。


『志摩さまに、なってもらいたい!』『志摩さまは優しくて強いから次期当主様だよ!』


里の子の、雫と榛(はしばみ)が

蝉の抜け殻を手にして喜んでいる。

『これ、食べれるんだよね?伊吹兄。』

榛が、空蝉を不思議そうに見ている。


「…それは、」

『それは、生薬。薬になるんだ。そのまま食べてもしょうが無い。せっかくだから、薬になる方がいいだろう?』


雫は、陽に当たり体が疲れたのか志摩に寄り掛かって眠りかけている。


「あ、伊吹…雫寝そうだ。いつもなら昼寝してる時間だからな。そろそろ帰るか…雲が増えてきたし、一雨来そうだ。」


『本当だ。境に入ると急に天気が変わったりするしな。行こうか。』

半分寝かかっている雫を志摩がおんぶして、山道を戻る。


まだ幼い、榛も途中ぐずりだしたので

伊吹が、雫と同じように

おんぶしてやった。


虫捕りと言いながらも、子供らは飽きるのが早く

ほとんど近くの小川で

水遊びをして過ごしていた。


「はぁ…重たくなったな。雫も…もう六つになったんだっけ?」


足を木の根にとられないように気をつけながら歩く。

『早いな。榛も、確か双子だったよな。ついこの前までは、赤ん坊だったのにな。…歳を取るわけだ。』


薄暗い境に入り、里は目と鼻の先だ。


「言いそびれてたけど、この前はありがとうな…。」

志摩は、振り返り足を止めた。

伊吹は、満足そうに笑っている。


『どう致しまして。その言葉だけで充分。』

伊吹らしい返答だった。

これからも、できれば

傍にありたいと願う自分は


変だろうか?

例え違う地に今は居ても

そんな事を物ともしない

強い意思がある。


「だから、なんで…?なんで、里からいなくなった理由が知りたい。」


雷が光った。

雲の中を明るく撃つ稲光。


『すまない…今はまだ言えない。さ、急ごう。雨が降る。』


また、はぐらかされた。

伊吹は…何故?

何かあったんだろうか。

分からない。


何とか一雨降る前に、

雫と榛を親元に送り届けた。


「伊吹、今日はもう天気も悪いし泊まって行けよ。」

家に帰り、風呂の準備をした。座敷に着替えを用意してしばらくの間、たわいない話をしていた。


『志摩…今日がこっちに来れる最後の日なんだ。』


急に真面目な顔で、伊吹に告げられた。

「え…?今日が、最後の日?」

本当に、伊吹は突然何を言い出すのかと思えば。


『当主様にも言われているんだ。』

目の前が、真っ暗になる気がした。


最後の日、

もう会えない?


いつかは、そうなる日が来るんじゃないかと思って居た。が、あまりにも早すぎて。


ただ、俯くしか

志摩にはできなかった。


『先に、風呂に入らせてもらうよ。』

あまりの事に

ただ驚くしかなかった。



縁側に佇み、今までの

伊吹との思い出で胸がいっぱいになる。


なんで?


いや、そんな。

訳が分からないまま

離れ離れになんかなりたくない。

わなわなと唇が震える。


外は、雨が降り出した。

雲で覆い尽くされた灰色の空。

『志摩、雨だから雨戸閉めないと…。どうした?』


風呂から上がってきた伊吹が雨戸を閉める。


「勝手に、決めるなよ!何で…?何で二人して画策なんかしたりして、おかしいだろ。」


言うか、言うまいか

悩んでいたような伊吹の表情。


『志摩、お前の最後の試練は俺なんだよ。』


伊吹の濡れた髪から

雫が床に落ちる。


「伊吹が、試練?」


幼馴染みが…?
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