8 / 8
⑧糸
しおりを挟む
『さすがに、このポータルでは時間に干渉しない。時間の概念の話は
俺の専門外だから、他の先生に聞いて貰って。』
「僕が行きたい場所、は…やっぱりあの獣人さんが居る所です。」
ヴェイリネ先生が少しだけ困った様に笑って、
『俺もついて行こうか?って言いたいけどな。個人的な話でもあるし。』
「そんなに、心配ですか?」
『当たり前だ。最近また、治安が悪くなりつつある。相手のフィールドに
行くなんて事はまだ早い段階の様な気がする。』
「僕はなにも、トラブルを起こそうとしてるのでは無いです。ただ、単純に
お礼がしたいだけで。」
『まぁでも、相手もそれなりにスフェーンの事を…俺の苦手な分野だな。』
「誤解されやすいのは承知してます。そりゃ、種族が違いますし。」
深く考え込まない様にして来た。
歴史や史実は、自分からは遠いお話なのだと思って。
『例えば、どっちかが好意を持っていたとして…どうしたいんだ?』
「~想像がつかないです。」
『俺も…。』
「ぁ、でも交流はしてみたいと…子供の頃から思ってはいました。」
『ふぅん…。』
「住む世界はもしかしたら違うのかもしれないけど。」
『……同じだよ、スフェーン。考えてもみなよ。この世界に楔を打つのはいつも
人間側だって事。忘れないで居ないと。』
世界の残酷な現実は、いつの世も変わらないのかもしれない。
人間が居る以上は。
「さっきの場所は、本当に実在するんですよね?」
『あぁ、歴史的観点でもものすごく重要な場所とも言える。まさか、とは思うけれど…
この場所を選ぶなんて。少しは人間と獣人・エルフとの関係性を考えている者かも
しれないな。』
ヴェイリネ先生が説いてくれた言語を、翻訳してもらい
とある地名で会おう。と、書かれていた事を知った。
「ちょっと一旦帰ります。」
『ぇ、あ…夜にまた来るんだよな?』
「ハイ。先生、なので寝ないでくださいね早々に」
『大丈夫大丈夫、あ…。』
「……どうしました?」
席を立ってヴェイリネ先生に視線を注ぐ。
『ユークレースには、ポータル使うとか余計な事…絶対に言うな?』
「あ……そうですね。黙っておきましょう。」
『超真面目なユークレースは、絶対に黙って無いだろうから。』
「分かりました。では、また後で…。」
そそくさとその場を一度解散して、アカデミアから急いで街中を目指す。
今の季節には美味しい林檎が実りの時期を迎える。
夜までに林檎を使ったお菓子を完成させて、できれば獣人の彼に
渡してあげたい。
ユークレースが帰宅するまでに、色々と準備をしておかなければ。
目抜き通りを歩いていると青果店には、様々な秋の実りを果物などが
こぼれ落ちそうに並べられている。
艶やかな赤に、薄甘い香りの林檎を袋に一杯買った。
他にも、雑貨屋さんでフラワー、糖蜜、膨らし粉なども買い足して寮に
帰って来た。
作業場もキッチンも自分にとっては同義である事が、
ユークレースからすればおかしな話だと言われる。
魔法も錬金術も学んで来たけれど、過程は似ている。
結果や目標が違うだけ。
もっとも、ユークレースが得意とする分野は兵術における魔法や武術魔法が
ほとんどで、歩む道は僕とは全くの真逆でもある。
ただ、漠然とみんなが仲良く平和に暮らせる世の中がいい。
でも、ユークレースには鼻で笑われる。
誰かに守られて初めて、平和と言えるのであり
その自覚がない者に限って容易く平和を謳う。
と、たしなめられた事がある。
言いたい事は僕にもよく分かるけど、確かに簡単な事では無い。
差別も不条理も貧困もそうそう簡単には無くならない。
「だからって、親切にしてくれた心には応えたいな。」
部屋に戻り、着替えを済ませてから作業台に向かう。
綺麗に洗った林檎を薄切りにして、塩水につけて色留めをする。
フラワーと膨らし粉を合わせて、粉ふるいに2回通して
溶かしバターと卵ボウルに入れて、馴染ませていく。
特別では無いけれど、いつ食べても飽きないお菓子が作りたい。
魔法が使えなくても作れるお菓子も、魔法で作るお菓子も
同じ様に美味しく出来上がる様に。
ゆくゆくはお菓子のレシピを集めて、本も作れたら。
と思って日々試作を繰り返している。
ほとんどは、ヴェイリネ先生の魔力になってしまうけれど。
日が暮れる前に、林檎を使ったケーキが焼き上がった。
粗熱を取って、包装しバスケットに入れる。
今日は確か、最後の講義をヴェイリネ先生が担当していたから
今から先生の部屋に向かえば良い頃合いだと思う。
「ユークレースは今夜も遅いのかも。」
一応、書置きを残して部屋を片してから戸締りを済ませて
量からアカデミアに戻る。
ヴェイリネ先生とは廊下で鉢合わせた。
『イイ匂い~、くれるのか?』
「これは、先生のではありません。」
『あははっ、分かってるって。よし、じゃ…』
先生の部屋のドアが開くと、既に黒い扉が現れていて
一瞬ひるんでしまう。
「あの、帰りは…どうしたら?」
『…帰って来たい気持ちになるのか?』
「どういう、意味ですか。先生」
『この先には正直、なんの保証もないよ。俺も、現状までは把握できていないし。』
「でも、獣人はポータルを持っているんですよね。」
『持っているヤツも居る。ってだけで。誰しもじゃない。』
「分かりました。」
『困った時には、コレを使え。』
ヴェイリネは僕に、糸を巻いたもので出来た人形の根付を渡してくれた。
「…これは」
『どうしても、帰りたくなった時の為の…』
いつもはおちゃらけた雰囲気のヴェイリネ先生の
真剣な表情を見ていると、自分がやろうとしている事の
大きさを改めて実感する。
俺の専門外だから、他の先生に聞いて貰って。』
「僕が行きたい場所、は…やっぱりあの獣人さんが居る所です。」
ヴェイリネ先生が少しだけ困った様に笑って、
『俺もついて行こうか?って言いたいけどな。個人的な話でもあるし。』
「そんなに、心配ですか?」
『当たり前だ。最近また、治安が悪くなりつつある。相手のフィールドに
行くなんて事はまだ早い段階の様な気がする。』
「僕はなにも、トラブルを起こそうとしてるのでは無いです。ただ、単純に
お礼がしたいだけで。」
『まぁでも、相手もそれなりにスフェーンの事を…俺の苦手な分野だな。』
「誤解されやすいのは承知してます。そりゃ、種族が違いますし。」
深く考え込まない様にして来た。
歴史や史実は、自分からは遠いお話なのだと思って。
『例えば、どっちかが好意を持っていたとして…どうしたいんだ?』
「~想像がつかないです。」
『俺も…。』
「ぁ、でも交流はしてみたいと…子供の頃から思ってはいました。」
『ふぅん…。』
「住む世界はもしかしたら違うのかもしれないけど。」
『……同じだよ、スフェーン。考えてもみなよ。この世界に楔を打つのはいつも
人間側だって事。忘れないで居ないと。』
世界の残酷な現実は、いつの世も変わらないのかもしれない。
人間が居る以上は。
「さっきの場所は、本当に実在するんですよね?」
『あぁ、歴史的観点でもものすごく重要な場所とも言える。まさか、とは思うけれど…
この場所を選ぶなんて。少しは人間と獣人・エルフとの関係性を考えている者かも
しれないな。』
ヴェイリネ先生が説いてくれた言語を、翻訳してもらい
とある地名で会おう。と、書かれていた事を知った。
「ちょっと一旦帰ります。」
『ぇ、あ…夜にまた来るんだよな?』
「ハイ。先生、なので寝ないでくださいね早々に」
『大丈夫大丈夫、あ…。』
「……どうしました?」
席を立ってヴェイリネ先生に視線を注ぐ。
『ユークレースには、ポータル使うとか余計な事…絶対に言うな?』
「あ……そうですね。黙っておきましょう。」
『超真面目なユークレースは、絶対に黙って無いだろうから。』
「分かりました。では、また後で…。」
そそくさとその場を一度解散して、アカデミアから急いで街中を目指す。
今の季節には美味しい林檎が実りの時期を迎える。
夜までに林檎を使ったお菓子を完成させて、できれば獣人の彼に
渡してあげたい。
ユークレースが帰宅するまでに、色々と準備をしておかなければ。
目抜き通りを歩いていると青果店には、様々な秋の実りを果物などが
こぼれ落ちそうに並べられている。
艶やかな赤に、薄甘い香りの林檎を袋に一杯買った。
他にも、雑貨屋さんでフラワー、糖蜜、膨らし粉なども買い足して寮に
帰って来た。
作業場もキッチンも自分にとっては同義である事が、
ユークレースからすればおかしな話だと言われる。
魔法も錬金術も学んで来たけれど、過程は似ている。
結果や目標が違うだけ。
もっとも、ユークレースが得意とする分野は兵術における魔法や武術魔法が
ほとんどで、歩む道は僕とは全くの真逆でもある。
ただ、漠然とみんなが仲良く平和に暮らせる世の中がいい。
でも、ユークレースには鼻で笑われる。
誰かに守られて初めて、平和と言えるのであり
その自覚がない者に限って容易く平和を謳う。
と、たしなめられた事がある。
言いたい事は僕にもよく分かるけど、確かに簡単な事では無い。
差別も不条理も貧困もそうそう簡単には無くならない。
「だからって、親切にしてくれた心には応えたいな。」
部屋に戻り、着替えを済ませてから作業台に向かう。
綺麗に洗った林檎を薄切りにして、塩水につけて色留めをする。
フラワーと膨らし粉を合わせて、粉ふるいに2回通して
溶かしバターと卵ボウルに入れて、馴染ませていく。
特別では無いけれど、いつ食べても飽きないお菓子が作りたい。
魔法が使えなくても作れるお菓子も、魔法で作るお菓子も
同じ様に美味しく出来上がる様に。
ゆくゆくはお菓子のレシピを集めて、本も作れたら。
と思って日々試作を繰り返している。
ほとんどは、ヴェイリネ先生の魔力になってしまうけれど。
日が暮れる前に、林檎を使ったケーキが焼き上がった。
粗熱を取って、包装しバスケットに入れる。
今日は確か、最後の講義をヴェイリネ先生が担当していたから
今から先生の部屋に向かえば良い頃合いだと思う。
「ユークレースは今夜も遅いのかも。」
一応、書置きを残して部屋を片してから戸締りを済ませて
量からアカデミアに戻る。
ヴェイリネ先生とは廊下で鉢合わせた。
『イイ匂い~、くれるのか?』
「これは、先生のではありません。」
『あははっ、分かってるって。よし、じゃ…』
先生の部屋のドアが開くと、既に黒い扉が現れていて
一瞬ひるんでしまう。
「あの、帰りは…どうしたら?」
『…帰って来たい気持ちになるのか?』
「どういう、意味ですか。先生」
『この先には正直、なんの保証もないよ。俺も、現状までは把握できていないし。』
「でも、獣人はポータルを持っているんですよね。」
『持っているヤツも居る。ってだけで。誰しもじゃない。』
「分かりました。」
『困った時には、コレを使え。』
ヴェイリネは僕に、糸を巻いたもので出来た人形の根付を渡してくれた。
「…これは」
『どうしても、帰りたくなった時の為の…』
いつもはおちゃらけた雰囲気のヴェイリネ先生の
真剣な表情を見ていると、自分がやろうとしている事の
大きさを改めて実感する。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
私立明進学園
おまめ
BL
私立明進学園(メイシン)。
そこは初等部から大学部まで存在し
中等部と高等部は全寮制なひとつの学園都市。
そんな世間とは少し隔絶された学園の中の
姿を見守る短編小説。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
学園での彼らの恋愛を短編で描きます!
王道学園設定に近いけど
生徒たち、特に生徒会は王道生徒会とは離れてる人もいます
平和が好きなので転校生も良い子で書きたいと思ってます
1組目¦副会長×可愛いふわふわ男子
2組目¦構想中…
僕のユニークスキルはお菓子を出すことです
野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。
あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは??
お菓子無双を夢見る主人公です。
********
小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。
基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。
ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ
本編完結しました〜
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~
黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。
※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。
※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。
第二王子に転生したら、当て馬キャラだった。
秋元智也
BL
大人気小説『星降る夜の聖なる乙女』のゲーム制作に
携わる事になった。
そこで配信前のゲームを不具合がないか確認する為に
自らプレイしてみる事になった。
制作段階からあまり寝る時間が取れず、やっと出来た
が、自分達で不具合確認をする為にプレイしていた。
全部のエンディングを見る為に徹夜でプレイしていた。
そして、最後の完全コンプリートエンディングを前に
コンビニ帰りに事故に遭ってしまう。
そして目覚めたら、当て馬キャラだった第二王子にな
っていたのだった。
攻略対象の一番近くで、聖女の邪魔をしていた邪魔な
キャラ。
もし、僕が聖女の邪魔をしなかったら?
そしたらもっと早くゲームは進むのでは?
しかし、物語は意外な展開に………。
あれ?こんなのってあり?
聖女がなんでこうなったんだ?
理解の追いつかない展開に、慌てる裕太だったが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる