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あきすと

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⑥ヴェイリネ先生

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翌朝、寮からアカデミアに向かう途中でと書庫に立ち寄った。
貸し出された図書の返却がせまっていたので、読み終えた本を
携え受付で返却をした。

方眼鏡をかけた、当番の生徒が少しだけ僕を見てから
本を受け取る。
『たしかに、返却を受け付けました。』

さらさらと、ペンを走らせて管理帳を記し
本は返却棚に持っていかれた。

卒業を前にして、なんとなく漠然とした不安の様なものも
感じ始めていた。
獣人の世界、2つの統合された世界。
いわゆる、暗黒史に触れてしまう事の重大さに
予感するのかもしれない。

今日は午前の講義は入っておらず、先生には朝早くに連絡を
とって、話だけでも聞いて貰う事になった。

僕の先生は年齢不詳でアカデミアでも、色んな意味で有名だ。
見た感じは、少年の様な姿をしている。

先生の研究室の前に来ると、既に
「いい匂い…」
恐らくは、昨夜あたりから徹夜で調合しているのか。

コンコン、とドアをノックする。
『開いてるよ、スフェーン』
とドアの向こうから聞こえてきた。
「ヴェイリネ先生、入ります。」

今日は、まだいい方だと思う。
見た事もない植物に部屋が覆いつくされている。
『急ぎで、調香しなければいけなくなったんだ。スフェーンも暇だったら、抽出を
手伝ってくれ。』

先生は、僕より少しだけ背が低い。
本来の姿では無いのだと、聞かされている。
魔法の反動のせいで少年のような姿になってしまったらしい。

「あの、先生…今日は、2つの世界の時代の魔導書かもしくは、僕の部屋にある物を
見てもらいたくて。」

先生は一瞬考えてから
『持って来てくれたのかと思った。』
「あ、…そうですよね。ごめんなさい。ただ、桶に水を張ってその上に例の粒子が浮かんでるんです。」
『…で、崩れるかと思って?持って来れなかったのか。』

瓶のラベルに書きつけながら、先生は試験管の液体を移し替えている。
相当、魔力を消耗しているのがうかがえる。
いつもであれば、自分の魔力で自動調合などもできてしまうのに。

「はい。こぼすと大変ですし。」
『ふぅん、多分それは心配ないと思うけどな。粒子自体が掛けられているから平気だ。』
「もしかして、もう分かったのですか?」
『まぁ。大方、見当はついている。けど、浮かんだ文字は知らないぞ。』
「じゃ、少し待っててください。部屋に取りに行って来ます。」

先生は、ソファに座って
『魔力が底をついた。…ついでにお菓子も持って来てくれ。何でもいいぞ~』
疲労のピークらしく、ぐったりしている。

即座に自室に戻り、洗面所に安置してある桶を両手で持って
揺れる水面にヒヤヒヤしつつも
本当に粒子は散らばらない事に驚いていた。
ローブのポケットには、先生の好きなマフィンを3つ程つめて
部屋を後にする。

ユークレースは、仕官の試験勉強がある為自分の就く先生の元に行っているのだろう。

「先生、机の上が…置き場所が無いです…」
『ぇ、あ~…悪い。』
研究室の片付けが苦手な先生は、手を物質に触れながら実体を消していく。
これが、片付けでは無い事を先生には言いづらい。
ただ、見えなくしているだけなのだ。

「とりあえず、置きます。」
『…ぅわ、懐かしいなコレ。俺は、こんな魔法が流行った頃から…おい、スフェーン。これ、』
「え?どうしたんですか、先生。」
『いやぁ、内容が内容なだけに。俺に見せても良かったのか?』

おかしな事を言いだす先生を凝視して
「何が書いてあるんですか?僕は読めません。」
『…そっかぁ。確かこの言語はもう…』

先生からの視線に心が騒ぐ。

「マフィンそういえば、持って来ました。先生の好きな山ぶどうのマフィンです。」
カゴのバスケットからマフィンを取り出して、テーブルの上に並べる。
『スフェーン、悪いけどハーブティーを淹れてくれないか?』
「お安い御用ですよ、先生。」

ヴェイリネ先生は、僕に浮かび上がった言葉をきちんと説明してくれた。
その後に、粒子の魔法についても事細かに解説してくれる。
自由奔放で、掴み処のない先生ではあるけれど
魔法界においての重鎮である事は、言うまでもなかった。

『魔法使い、と言う者はもう…居なくなったとも言える。』
「先生は、人間とエルフのハーフでしたね。」
『もう、稀少な種族になりつつある。あとな、獣人に魔法を教えたのはエルフなんだ。』

先生が、種族の話を真剣に話す事はかなり珍しい。
あまり、深く掘り下げて来なかったのは2つの世界の統合や
暗黒史に関わる話をするのが、躊躇われるせいか。

「エルフは、人間を…」
『だな。お前たちの感じている通りだよ。そして、獣人は人間に迫害されていた。ならば、とエルフは
獣人側に寄っていったのは想像も容易い。』









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