Sunny Place

あきすと

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目を覚ますと、僕の視界に映るのはクリーム色の天井。
呼気がまだ少し熱く感じる。

「ユークレース…?」
何とはなしに、幼馴染の名を呼んでみた。
そばに揺れるカーテンの気配がして、ゆっくりと
視線を移してみる。

寝返りを打つのも、しんどい。

『開けるぞ』
聞き覚えの無い、男のひとの声。
もしかしたら、ここは病院なのかな?
「はい」

思ったよりもかすれた声で自分でも驚いた。
軽い咳き込みをしていると、視線の先にのびる影。
『魔力切れ、と熱気あたりだな。少し休んでから帰ると良い。』

僕は、こんなにも近い距離で初めて
「ぁ…、ご迷惑をおかけしてごめんなさい。」
『たまたま、通りかかっただけだ。俺も、まさか人間を診る事になるとはね。』
獣人と呼ばれる種族と会話した。

心臓がバクバクする理由さえも分からないまま、金色の瞳と視線が合い
逸らす事も出来ない。
「お医者さんなんですよね、ココは病院ではなさそうな…」
『ここは、広場の公会堂にある医務室。で、キミの幼馴染と俺が運び込んで来た。』

寝起きの頭に多くの情報がポンポンと投げ込まれて、
時間差があってからようやく、自分の身に起きた事が
理解できた。

「有難うございます…やっぱり親友の言う事を聞くべきでした。」
ぐらぐらする体で、体を起こしてお辞儀をする。
『良いから、もう少し寝ていてくれ。君の親友?とやらは片付けが終わり次第ここに迎えに
来てくれるそうだ。』

薄暗い医務室の中でも、しっとりと色濃く目立つ毛並み。
「分かりました。」
『あぁ、それと…誤解があっては困るから伝えておこう。衣服を少し緩めさせてもらった。この暑い中、
キミはいささか着込み過ぎだ。もう少し、通気性の良い衣服を着ていれば良かったのに。』
「……ぇ、あはは…そう、ですよね。」
『とは言え、俺もこの肌は隠してはしまうが…。』

いわゆる、黒豹の獣人らしい相手は少し屈んで僕の顔を覗き込んだ。
『喉は、乾いてるか?』
瞳が綺麗で、伏せたまつ毛が優しくて見惚れてしまいそうになる。
「はい、少しだけ…」
『ゆっくり、飲みなさい。』

ベッドの傍にあるキャビネットの上のグラスを僕に持たせて
おそらくは、ハーブの入った水差しから注ぎ入れる。
両手でグラスを受け、冷たすぎずほの甘いハーブ水をゆっくりと飲む。
レモンの酸味にハーブの清涼感、ほんのりと蜂蜜の甘みが
喉を優しく潤していく。

「…美味しいです。」
『マルシェで、キミの隣にいた女性が差し入れてくれたんだ。』
「あ、ホントですか…今度会ったらお礼しておきます。」
『キミは、アカデミアの生徒なんだってね。』
「はい、今回初めて出店してみたんですが…こんな事になってしまって。」
『まぁ、自覚があるのなら俺も何もいう事は無いが。あまり、周りを心配させてはいけないな。』

フッ、と一瞬の笑顔を見せて相手は僕の頭を軽く撫でた。

肉球の弾力が伝わって来て、思わず僕も笑顔になってしまう。
「1人で参加するって、思ったよりも大変で…」
『キミの親友は参加しなかったのかい?』
「彼は、運営側の警備のボランティアなんです。」
『へぇ…。』

「あの、貴方はどこの病院に?」
『俺は開業医だから、と言っても普段は人間は診ていない。獣人を相手にしている。』
「人間、キライですか…?」
僕からの問いに、表情を曇らせた相手は居佇まいを直して
『好きも嫌いも無い。でも、目の前に救うべく現れたら…そりゃ診るってだけかな。』
言葉こそ、ひんやりと感じたけれど僕の前で
肩をすくめる相手に、マイナスの感情は今のところ感じられなかった。





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