【きみとは友達にさへなれない。】香らない花

あきすと

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②創生

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自分が不幸だとは思わない。僕よりも、多くの苦難に
日々直面している人を思うと、まだ甘えていると言っても良い程だ。

どうしようもない境遇であれば、自分が変わっていくしかない。

高校にもさしたる苦労も無く、合格をして。
アルバイトを探していた頃に、雑誌のオーディションに応募してみた。
興味本位と、なんとなく目先の目標の近道になる気がした。

データを送って数日で、自宅に連絡がきた。
良心にはあくまでも上手く説明をして、やがてはこの家を
出て行く事に気づかれてしまうと、後々が面倒だった。

僕の生活は、日々変化していく。
雑誌を製作するスタッフさんやアシスタントさんと関わる様になって
様々な大人が、懸命に世の中に投げかけていく姿に
単純に魅了された。

他人に髪や肌を触られる事が、初めのうちは抵抗があったけれど
少しずつ慣れていく。誰かの言葉や意見に心を歪めていくのではなくて
ゆっくりと、受容出来る事も知った。

高校に通い始めた頃は、部活をどうしようかと考えていたけれど
結局、帰宅部となっていた。

クラスに馴染み始めたと思った頃には、雑誌に出ている事が
女生徒にバレてしまい。
少し面倒な日々が続いていた。

興味を持って、接してくれていた友人との距離も少しずつ
開いていくのを感じた。

どこに行っても、何でだろう?上手くやっていける気がしない。
馴染めないのは、自分に原因があるのだろうか。

こんな事ばかり、考えていた。

心が、静かにひっそりと朽ちていく気がして
僕は子供の頃に、1度だけ連れて行ってもらった
水族館に学校をさぼって行った。

外の世界は朝なのに、館内に入ると心地よい暗さがゆっくりと
僕の心を覆ってくれる。
暗闇の中で光を放つ夜空と同じ様に、
水中を揺蕩うそれぞれの性質を持って生きる水棲生物には
不思議と惹きつけられるものを感じる。

自然界の中とは比べ物にならない、作られた世界に再現された生きる為の空間。

僕もきっと、その1人だ。

表の僕と、内なる自分の心の中の自分との乖離が
高校生になってから増々酷くなっていく。



携帯電話を親から与えられた。
「でも、僕にはまだ必要ないよ。」
父親に言った。
『こっちが連絡を取りたい時に、お前はいつも家には居ない。』
と言われてしまった。

これは、僕からすれば発信機に等しい。
自分が望んだものでは無いから、どうでもいい物がまた1つ増えていく。

管理される心地悪さには、逃げ出したくなる。

17歳の頃、初めて僕は1つ年上の先輩に放課後に呼び出されて
告白をされた。

とにかく心が騒ぎ出して、それでも本人の口から素直な告白を
聞いたのには僕でも心が動いた。

先輩はとても、物静かで。
いつも図書室で出くわす事が多かった。
笑顔がとても優しいところが、僕もよさを感じていた。

『遠江くんの事が、日々好きになって行く。それだけ、伝えたくて。』

いつもは掛けている眼鏡を、今日は外して僕の目の前に
現れた。なびく髪を耳に掛ける仕草も自然だ。

「ありがとうございます。」
赤く染まった頬、今日気が付いた目元の涙ぼくろ。

僕は、きっとこの人の涙にしかなれない存在だ。

『聞いてくれてありがとう。返事とかはいらないから。』
「分かりました。…先輩、」
『これからも、遠江くんとは変わらないで居たかったのに。ごめんね…。』

先輩は、文芸部の副部長でもあり。

悪い気は全くしなかった。ただ、初めての告白が男性からであった事に
意表を突かれた。

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