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クソ彼氏と俺の、何でも無い日。と、2人で占いをして貰ったお話です。
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「え、それは…どういう?」
会社で同期の女性社員に話しかけられて
俺は内心ドキドキしながら
話を聞いている。
彼女は、自分の友人に俺を紹介したい
らしくて。
3人で会わない?と昼休みに声を掛けられた。
そんな事は後にも先にも初めてだから
とりあえず断る前提ではあるけれど
気が引けた。
そして、『なんなら、央未くんの友達もう1人呼んでくれてもイイよ?』
とさえ言われてしまった。
友達かどうかは、あやしいのが
同居人にいるけど。
家に帰ったら話してみるか。
俺は軽い気持ちで、電車に乗った。
夕方の眠気が心地良くて
このままどこまでも電車に
揺られて行きたい中で慌てて
アナウンスの声に飛び起きた。
よく行くスーパーで、買い足しをしてから
帰宅した。玄関には革靴があった。
朔のヤツ、もう来る。
早いなぁ。ほぼ残業も無いし
いい勤め先だ。
リビングに行き、
「ただいまぁ」
と朔に言うと
『お帰り…あ、買い物行ってくれたんだな。
良かった。』
朔は晩ごはんの支度をするところみたい。
「あのさ、朔…開始の~同期の女の子が友達に俺を紹介したいんだって。」
朔は食材を冷蔵庫から出しつつ
『で?俺も来いって流れか、もしかして』
察しの良い言葉が返って来た。
「そう。」
『俺はやめた方が良いと思うけど…』
「やっぱり?」
『うーん、俺なら行かない。会社絡むとその後気まずくなるのがしんどいからな。』
全くもってその通りで、やっぱり
朔の考え方は大人だ。
でも、俺の中では作品が参加しても
いいのであれば、一体どんな感じなのか
気になるっていう変な好奇心も
ソワソワしちゃってていけない。
もし、どちらかが朔を気に入ったら
参加はどうするのかな?
とか考えてしまう。
『だいたい、すぐ断らなかったのが…俺としては面白くないと言うか。俺って央未の何?って思うし。』
朔の考えは正しい。
出来もしないかもしれない事を
返事をしなかったのは、相手に変な
期待を持たせてしまうだろう。
「分かった、明日ちゃんと直接言うからさ。」
『ごめんなぁ~央未は俺のなんで』
俺も朔みたいに、あっけらかんと
言えたらいいのに。
「朔の事は、大事だよ。ただ、同期の子だからつい…無理を聞いてあげたくなるんだ。」
これは、親切とはきっと言わない。
朔はパスタを茹でながら、トングを手にして
考え込んでる。
『言いたい事は分かるよ。でも、中途半端にしかできないとかは、余計悪いから。出来ない事は出来ないって言えば良い。仕事以外の事なら特に。』
俺は、ネクタイを外して買い足した食材を片すと、サラダの準備をする。
「自分の会社での居場所が、居心地悪くなるとこだったね。」
『どうかな?央未は周りを気にしすぎるからなぁ。みんなもーっと自分勝手に生きてない?』
朔を目の前にされて、聞かれてしまうと
うん。としか、言いようがない気もしたけど、苦笑いで返した。
「今回のは、ちょっとドキッとした。まさかそんな事言われるなんて思ってもみなかったし。」
よく熟れたトマトを切ってると
朔に後ろからエプロンを着けられた。
こういう所は細かいんだよね、朔。
『ワイシャツ汚れるのは、ダメだろ?』
「朔はやっぱり、いい夫になれると思うよ。」
『央未は、スーツ似合わないよな。お前が男でも女でもどのみち俺のだけど…家に帰ったら笑顔で出迎えてくれる様な生活に憧れてんだけど。』
現実の俺はそこまで、元気良くないし
最近は少し疲れてるかな。
「家を守るってのは、俺ピンと来ないんだよね。ずっと鍵っ子だったから。」
朔は隣で、茹でたパスタを湯切りしてから
フライパンのパスタソースと
手際よく絡めている。
『育った環境ってのは、やっぱり大きいみたいだな。』
「…なんか、ごめんね?朔。多分俺のせいで結構大変な思いとかしちゃってるんだよね。」
女の子で生まれて来たなら、って
考えた事は何度もある。
『その手の話は、俺は聞かない。どうしようも無いし。俺は今のお前に何の不満も無いのに変な卑屈さ出されたら…モヤモヤする。』
今日は、ホントダメダメだね、俺。
白い深めの器にサラダを盛り付けて、その上に
シーズニングのドレッシングを掛けた。
「朔は、ずーっと俺だけを見てくれてるのに。」
『結局、姿形じゃないんだよ。』
時々、朔がお説教してくれるの俺は聞くのが好きだなぁ。
朔は本当に深い所で俺を、受け止めてくれて
心が救われる。
「俺もいつだって、朔に満たされてるからね。」
朔の料理は、分かりやすく美味しいかった。
今日なのに全然それをひけらかさないし
自分のものとして吸収していく姿には
刺激を受ける。
『えっろ…っ、そうだよなぁ央未と雪女って似てないか?人の精気を奪う所とか。』
「ご飯中でしょ、猥談は駄目。食欲と性欲をまとめて満たそうとしても駄目だからね」
それにしても、朔の作ったパスタソースが美味しくてよく味わって食べる。
「美味しい~、そういえば朔って料理も手際良いよね。美味しい…
俺よりかなり器用だもんね。」
『せっかく食べるなら美味しいものがいい。当たり前だけど。』
なんやかんやで、朔が帰国してから1年、途中驚かされる事もあったけど
今のところ平穏無事に、暮らせてる。
大学時代の夏休みみたいに、ただれた日々もあったけど
(あの頃の若さと、熱情は特別だと思う)
何となく今の2人の薄ぼんやりとした形も心地よくて
俺は気に入ってる。
なんだろ、まるで最終回を迎える心境みたいになってるけど
全然終わる気配は無くて。
「朔、1年も経つけど…今はどんな心境?」
『は…?あぁ、俺等の話か。んー…、別に。俺としては何回も言うけど
別れた気なんか無かったし。ちゃんと帰国したら元通りになるのは分かってたって
感じかな。』
「それ言われたら、ちょっとね。でも、せめて次からは何処か行く時は
俺にも教えて欲しいよ。…どうせ、待ってるんだし。」
待つ事、朔が安心して帰って来れる場になる事。
他に思いつかなかった。
『なぁ、央未は旅行とか海外って興味ないの?』
「旅行は、あんまり海外…ってよりは海外の方が安心する。
あ、でも俺ね~遺跡とか実は結構好きでさぁ。不思議な場所とか
行ってみたいとか思うけど。人生で1回行ければいいかなって感覚だよね。」
ついつい現実的な事を考えると、海外にまで足は伸ばせない。
国内で無難に温泉とか行って、まったりする方が自分には向いている。
『人生、1回しかないのに?もったいな。』
「でも、朔と行くんだったらきっと何処にしても楽しそう!」
『いろんな国を旅した人が、やっぱり最後はこの国が一番良いって言うらしいけどな。』
「外に出て、改めて自国の良さが分かる。って事かぁ。」
『俺の出張に、央未を連れて行ったらほぼ旅行になるんだけど。』
朔は、地方から海外に向けてその土地土地の伝統や文化を発信してく
事業に携わっている。
「ほんとだね、一緒に行くだけなら支障ないんじゃないの?」
朔は、俺の言葉に目をすがめて
『仕事になんないだろう。』
と、真面目に返す。
「…そういうのは、ご褒美だよね?ね、朔…」
◇
数日後、俺は何故か会社の同期の女の子からとある占い師の事を
紹介してもらった。
名刺を貰った人しか鑑定しない、紹介制の占い師さんらしくて
どうやら男性だと聞いて驚いた。
今では、そんなに珍しい事でも無いらしいと聞いて
俺は、貰った名刺を見入る。
一応、本名そのままらしいけど。
本当に占いをする為にまるで生まれてきた人っぽいなぁと
いうのが名刺を見ての感想。
家に帰ってから、朔に占いの事を話した。
『俺の人生とか、運命がそんなもん占いでわかるかっての』
うーん、思った通りの反応。
夜ご飯が終わって、エアコンの効いた部屋で朔はゲームをしてる。
「2人で行ってみようよ~、夜の8時まで観てくれるんだからさ。ね?」
『お前、本当に彼女みたいな事言うもん…。相性なんてあってない様なもんだろ?
俺は、央未と体の相性さえ良けりゃ、後は目をつむるからさ。気にすんな。』
はー…。このクソ彼氏!!
「じゃ、俺一人で行って来る。朔の生まれた時間教えてよ~」
朔はソファの下で、競馬のゲームをしながら適当に答える。
『あ?そんなもん俺が知る訳、ないだろ…母子手帳観ないと分かんねぇよ。』
そっか、俺もさすがにそこまでは分からないから早めに家に確認に行こう。
「俺はー、確か夕方くらいに生まれたって聞いてた。」
『…そういえば、央未の両親、元気なの?』
ゲーム画面から顔を上げて朔が俺の方を見る。
俺は、貰った名刺のQRコードを読み取ってみてHPを確認している。
「ぇ、ちょっと…ぅわぁ…、かっこいいこの占い師さん~♡モデルさんみたいじゃない?」
『どれ…、見してみ?』
横から朔がスマホの画面を覗き込んで来た。
『あれ?こいつ知ってる。昔、ライブハウスで見た事ある。アイツ、占い師になんて
なってたのか。どう見てもホストじゃん?』
おやぁ?もしかして、知り合いなのかな。
「えーっと、あまのや?つきよ…じゃ、なくて。つくよさん。」
サイトにプロフィールが掲載されていた。
『面白いから、観て貰いにいくぞ央未。』
「2人で観て貰うの?」
『そうそう。関係性も観て貰う。』
「分かった、予約するね?いつが空いてるかな…」
意外な関わりのおかげで、俺と朔は占いをして貰う事に。
それから数日後。
とある商店街の端にある小さな事務所に立ち寄った。
会社の帰りだから、朔は直接占いをするこの事務所に来る事になってる。
『あれ?ご予約の方ですよね。』
事務所の出入り口が開いて、中から男の子が顔を出した。
「かわ…、あ、ハイ。そうなんですけど…もう一人がまだでして」
『蓮華寺さんですよね?少し前に見えられて。もう、中で兄とお話されてますよ。どうぞ、』
にこにこ笑いながら案内してくれる男の子は、どうやら
占い師さんの弟さんらしい。
にしても、朔!連絡くらいしてくれたらいいのに。
「お邪魔します…」
部屋に入った瞬間、良い匂いがしてまるで異国に来たような
オリエンタルな雰囲気に包まれる。
あー、こういうお店とか結構好きなんだよね。
朔の声がして、急に緊張が解けちゃった。
『央未さん、ですよね。天乃屋月夜です。今日はよろしくお願いします。』
椅子から立ち上がって、占い師さんに挨拶をされると
ドキドキしてしまう。
美形な兄弟だなぁと思いながら、朔と目が合うと何故か一笑された。
「先に来てるなら、教えてよ~」
『悪い、だってさぁ月夜がベランダでこのあっつい中、煙草吸ってたから。』
『兄貴、家の方で吸ってくれないと。お客様から丸見えだよ。…お仕事の帰りに
酔って頂いて有難うございます。お飲み物は、何にされますか?』
弟さんが、小さな手書きのメニュー表を見せてくれて
俺と朔が選んでると
『…付き合って、長そうですね?2人は。』
月夜さんが、笑いかけて来た。
「ぁ、えっと……」
『俺はまだ、何にも言ってないけどな。…この占い師さん本物だって事。』
一瞬、弟さんと目が合ってドキッとした。
「あの…一応、朔とはお付き合いしてまして…」
『月夜の弟くん、俺と央未はアイスティーでヨロシク~』
うわ、勝手に決められてる。
『勿論、お客様のプライバシーはしっかりと守らせていただいた上での、鑑定ですから。
…そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。』
月夜さんの優しい声でのフォローが無かったら、上手く話す事も
できなかったと思う。
弟さんは、少しだけ顔を赤くして
『アイスティー2つ、お作りしますね。しばらくお待ちください。』
ドアの向こうへと下がって行ってしまった。
朔が動じなさ過ぎて、さすがだなぁとか思いながら
月夜さんは、俺と朔にホロスコープ作成のためのシートを渡して
簡単な説明を受けた。
『さっきのは、あてずっぽうで言ったんじゃなくて…見えるんですよね。2人の事が。』
朔は脚を組んで、黙っている。もしかして、疑ってるのかな?
俺は、ただただ空欄を埋めたりしながら月夜さんに
書き上げたシートを渡した。
朔も、いつの間にか書いてしまっていたみたいで
2枚のシートを見ながらPCに入力をしている。
「相性じゃなくても、それぞれのでも大丈夫なので…」
『…相性は、悪くないですよ。太陽星座が隣同士だと真逆の性質を持ってますし、
太陽以外の惑星が相手と相性の良い配置にあったりする可能性も高いんです。
なので、惹かれあってしまう。』
この目の前の月夜さんの放つ、独特で不思議なオーラに
どこかの民族衣装?みたいのが更に説得力を持たせてるんだと思う。
「わぁ、本当ですか?…今更な気もするけどやっぱり相性が良いと
嬉しいものですね。」
朔は喜んでるのかな?と横を見てみた。
…しかめっつら!?
『朔先輩は、央未さんの事を大切な家族と思って見てますね。結婚もしたいぐらいで、でも
自由は奪いたくないっていう、先輩の根底にある思想…とでも言うんですかね?その想いに
満たされてます。客観的にも、ホロスコープ的にも朔先輩の方が惹かれて始まったと言えます。』
『ひぇー、めっちゃ当たってる…俺、さっき央未の名前教えたぐらいなのに。』
「朔の驚き方が、アレなんだけど…。でも、言われる通りではあります。この、朔は
自分の物~とか言いながら、自由でいなきゃダメとか言いつつ自分が急にいなくなったり。」
『朔先輩は、ホロスコープが7、8割射手座なんですよ。木星と暮らしてると思ってください。』
ちょっと、話が難しくなって来た気がする…。
コンコン、とドアのノック音がして
『失礼しますね、』
月夜さんがスッと立ち上がり、ドアを開けに行った。
「優しい~、朔も見習わないとね。」
『央未は、ほら脚で開けるじゃん。』
「そんな事!…あんまりもう、やってないし~」
『ごめんなさい、お待たせしました。一応、ミルクと檸檬の方もありますので。シロップも
どうぞ。』
ティーセットに、コースターがテーブルの前に敷かれて
グラスを置かれる。
「カフェみたい…」
『半分は、僕の趣味で…フィナンシェも召し上がってくださいね♪』
「こんな素敵な弟さん、いいなぁ~月夜さん。」
『そこなんだよな、月夜がこんなきゃわいい弟が居るなんて知らなかったわ。』
朔も知らないんだ、と思いながら俺はアイスティーに
ミルクとシロップを少し入れてストローで飲む。
『わざわざ、言わないでしょう?兄弟の話って』
月夜さんは、何となく苦笑いをして話してる。
仲が良いのか、よく分からないけど。
でも、さっきの何気ないやり取りで感じたのは
熟年感とか、そういった雰囲気だったと思う。
俺は、一人っ子だから分からないけど。
実際はきっと仲良しなんだろうな。
「すごく美味しいです、お菓子まで頂いちゃって…有難うございます。」
『弟くん、月夜に全然似てないね。良かったね~』
ちょっと、何言いだすのかと俺はハラハラしながら
隣の朔の手をつねった。
『兄貴は、僕でもたまに緊張するくらいの雰囲気ですから。僕は全然で…』
「綺麗なお兄さんって感じですもんね…神秘的だし」
『…お菓子、弟くんが作ったんだよね?すげぇ~、めっちゃ美味しいし。月夜が
育てた訳では無いんだ?』
「ちょっと、朔。観て貰ってるのは俺等でしょ。」
無遠慮にお菓子を食べてる朔を見て、弟さんは笑顔を絶やさない。
『朔さんは、分かりやすくって面白い方なんですね。』
『……』
あ、なんか今気のせいかな?
月夜さんから、ちょっと不穏なものを感じたけど。
とりあえず、休憩が終わってからまた鑑定を続けて貰った。
その後1時間ほどかけて、丁寧にホロスコープの説明をして貰った。
月夜さんが最後に言っていたのは、あくまでもこれは
生まれた時の惑星の配置に基づいたものであって、
違う自分を再発見する事に繋がると言う事だった。
これが全てではなくて、自分の世界を切り開いていくのは
いつも、自分である事を胸に留めておいて下さい。
と、意外と占いに対してはとても現実的な考えをしている事が分かった。
好感を持ってしまう。兄弟であんな風に暮らしていくのも素敵だなぁと思う。
弟さんに名刺を渡された。
『1枚だけのお渡しになっちゃいますが、よかったら是非。あの、央未さん…またいつでも
遊びに来てください。』
こんなかわいい子に!?社交辞令じゃないよね?
「仲良く、してくれるの?俺なんかと…」
『ぁ…はい!お友達になって、ください♡』
ひゃー…嬉しすぎないこの状況!?
『この事務所の奥が住んでるなんです。占いのお店のカレンダーが空いてる時間は
いつでも大丈夫なので』
「うん、分かった。ありがとう。楽しみ~♪」
帰り際、手土産までくれる弟さんには申し訳ないくらいの気持ちで一杯だった。
『先輩、弟も言ってますが夕食とかでも大丈夫でしたら、4人で…』
『…マジで?俺と央未を誘ってくれんのかぁ。嬉し。』
意外にも、朔は月夜さんにはあんまりつっかからないんだよね。
「こんな時間までお邪魔しちゃってすみません、有難うございました。」
俺は2人に深々と頭を下げた。
朔は、既に歩き出してて
『天乃屋兄弟まったな~』
適当にも程がある。もー!
でも、それが…あれが朔なんだよね。
今日の説明ですごくよく分かった。俺は、きっともう
悩まないだろうなって感じた。
同期の女の子に、お礼しておかなきゃ。
さて、この1枚貰った名刺を俺か朔はいったい誰にあげるのかな?と
思いながら先に歩く朔に走って追い付いた。
やっぱり、俺と朔は離れられない運命だって言われて
確信を持てた。
会社で同期の女性社員に話しかけられて
俺は内心ドキドキしながら
話を聞いている。
彼女は、自分の友人に俺を紹介したい
らしくて。
3人で会わない?と昼休みに声を掛けられた。
そんな事は後にも先にも初めてだから
とりあえず断る前提ではあるけれど
気が引けた。
そして、『なんなら、央未くんの友達もう1人呼んでくれてもイイよ?』
とさえ言われてしまった。
友達かどうかは、あやしいのが
同居人にいるけど。
家に帰ったら話してみるか。
俺は軽い気持ちで、電車に乗った。
夕方の眠気が心地良くて
このままどこまでも電車に
揺られて行きたい中で慌てて
アナウンスの声に飛び起きた。
よく行くスーパーで、買い足しをしてから
帰宅した。玄関には革靴があった。
朔のヤツ、もう来る。
早いなぁ。ほぼ残業も無いし
いい勤め先だ。
リビングに行き、
「ただいまぁ」
と朔に言うと
『お帰り…あ、買い物行ってくれたんだな。
良かった。』
朔は晩ごはんの支度をするところみたい。
「あのさ、朔…開始の~同期の女の子が友達に俺を紹介したいんだって。」
朔は食材を冷蔵庫から出しつつ
『で?俺も来いって流れか、もしかして』
察しの良い言葉が返って来た。
「そう。」
『俺はやめた方が良いと思うけど…』
「やっぱり?」
『うーん、俺なら行かない。会社絡むとその後気まずくなるのがしんどいからな。』
全くもってその通りで、やっぱり
朔の考え方は大人だ。
でも、俺の中では作品が参加しても
いいのであれば、一体どんな感じなのか
気になるっていう変な好奇心も
ソワソワしちゃってていけない。
もし、どちらかが朔を気に入ったら
参加はどうするのかな?
とか考えてしまう。
『だいたい、すぐ断らなかったのが…俺としては面白くないと言うか。俺って央未の何?って思うし。』
朔の考えは正しい。
出来もしないかもしれない事を
返事をしなかったのは、相手に変な
期待を持たせてしまうだろう。
「分かった、明日ちゃんと直接言うからさ。」
『ごめんなぁ~央未は俺のなんで』
俺も朔みたいに、あっけらかんと
言えたらいいのに。
「朔の事は、大事だよ。ただ、同期の子だからつい…無理を聞いてあげたくなるんだ。」
これは、親切とはきっと言わない。
朔はパスタを茹でながら、トングを手にして
考え込んでる。
『言いたい事は分かるよ。でも、中途半端にしかできないとかは、余計悪いから。出来ない事は出来ないって言えば良い。仕事以外の事なら特に。』
俺は、ネクタイを外して買い足した食材を片すと、サラダの準備をする。
「自分の会社での居場所が、居心地悪くなるとこだったね。」
『どうかな?央未は周りを気にしすぎるからなぁ。みんなもーっと自分勝手に生きてない?』
朔を目の前にされて、聞かれてしまうと
うん。としか、言いようがない気もしたけど、苦笑いで返した。
「今回のは、ちょっとドキッとした。まさかそんな事言われるなんて思ってもみなかったし。」
よく熟れたトマトを切ってると
朔に後ろからエプロンを着けられた。
こういう所は細かいんだよね、朔。
『ワイシャツ汚れるのは、ダメだろ?』
「朔はやっぱり、いい夫になれると思うよ。」
『央未は、スーツ似合わないよな。お前が男でも女でもどのみち俺のだけど…家に帰ったら笑顔で出迎えてくれる様な生活に憧れてんだけど。』
現実の俺はそこまで、元気良くないし
最近は少し疲れてるかな。
「家を守るってのは、俺ピンと来ないんだよね。ずっと鍵っ子だったから。」
朔は隣で、茹でたパスタを湯切りしてから
フライパンのパスタソースと
手際よく絡めている。
『育った環境ってのは、やっぱり大きいみたいだな。』
「…なんか、ごめんね?朔。多分俺のせいで結構大変な思いとかしちゃってるんだよね。」
女の子で生まれて来たなら、って
考えた事は何度もある。
『その手の話は、俺は聞かない。どうしようも無いし。俺は今のお前に何の不満も無いのに変な卑屈さ出されたら…モヤモヤする。』
今日は、ホントダメダメだね、俺。
白い深めの器にサラダを盛り付けて、その上に
シーズニングのドレッシングを掛けた。
「朔は、ずーっと俺だけを見てくれてるのに。」
『結局、姿形じゃないんだよ。』
時々、朔がお説教してくれるの俺は聞くのが好きだなぁ。
朔は本当に深い所で俺を、受け止めてくれて
心が救われる。
「俺もいつだって、朔に満たされてるからね。」
朔の料理は、分かりやすく美味しいかった。
今日なのに全然それをひけらかさないし
自分のものとして吸収していく姿には
刺激を受ける。
『えっろ…っ、そうだよなぁ央未と雪女って似てないか?人の精気を奪う所とか。』
「ご飯中でしょ、猥談は駄目。食欲と性欲をまとめて満たそうとしても駄目だからね」
それにしても、朔の作ったパスタソースが美味しくてよく味わって食べる。
「美味しい~、そういえば朔って料理も手際良いよね。美味しい…
俺よりかなり器用だもんね。」
『せっかく食べるなら美味しいものがいい。当たり前だけど。』
なんやかんやで、朔が帰国してから1年、途中驚かされる事もあったけど
今のところ平穏無事に、暮らせてる。
大学時代の夏休みみたいに、ただれた日々もあったけど
(あの頃の若さと、熱情は特別だと思う)
何となく今の2人の薄ぼんやりとした形も心地よくて
俺は気に入ってる。
なんだろ、まるで最終回を迎える心境みたいになってるけど
全然終わる気配は無くて。
「朔、1年も経つけど…今はどんな心境?」
『は…?あぁ、俺等の話か。んー…、別に。俺としては何回も言うけど
別れた気なんか無かったし。ちゃんと帰国したら元通りになるのは分かってたって
感じかな。』
「それ言われたら、ちょっとね。でも、せめて次からは何処か行く時は
俺にも教えて欲しいよ。…どうせ、待ってるんだし。」
待つ事、朔が安心して帰って来れる場になる事。
他に思いつかなかった。
『なぁ、央未は旅行とか海外って興味ないの?』
「旅行は、あんまり海外…ってよりは海外の方が安心する。
あ、でも俺ね~遺跡とか実は結構好きでさぁ。不思議な場所とか
行ってみたいとか思うけど。人生で1回行ければいいかなって感覚だよね。」
ついつい現実的な事を考えると、海外にまで足は伸ばせない。
国内で無難に温泉とか行って、まったりする方が自分には向いている。
『人生、1回しかないのに?もったいな。』
「でも、朔と行くんだったらきっと何処にしても楽しそう!」
『いろんな国を旅した人が、やっぱり最後はこの国が一番良いって言うらしいけどな。』
「外に出て、改めて自国の良さが分かる。って事かぁ。」
『俺の出張に、央未を連れて行ったらほぼ旅行になるんだけど。』
朔は、地方から海外に向けてその土地土地の伝統や文化を発信してく
事業に携わっている。
「ほんとだね、一緒に行くだけなら支障ないんじゃないの?」
朔は、俺の言葉に目をすがめて
『仕事になんないだろう。』
と、真面目に返す。
「…そういうのは、ご褒美だよね?ね、朔…」
◇
数日後、俺は何故か会社の同期の女の子からとある占い師の事を
紹介してもらった。
名刺を貰った人しか鑑定しない、紹介制の占い師さんらしくて
どうやら男性だと聞いて驚いた。
今では、そんなに珍しい事でも無いらしいと聞いて
俺は、貰った名刺を見入る。
一応、本名そのままらしいけど。
本当に占いをする為にまるで生まれてきた人っぽいなぁと
いうのが名刺を見ての感想。
家に帰ってから、朔に占いの事を話した。
『俺の人生とか、運命がそんなもん占いでわかるかっての』
うーん、思った通りの反応。
夜ご飯が終わって、エアコンの効いた部屋で朔はゲームをしてる。
「2人で行ってみようよ~、夜の8時まで観てくれるんだからさ。ね?」
『お前、本当に彼女みたいな事言うもん…。相性なんてあってない様なもんだろ?
俺は、央未と体の相性さえ良けりゃ、後は目をつむるからさ。気にすんな。』
はー…。このクソ彼氏!!
「じゃ、俺一人で行って来る。朔の生まれた時間教えてよ~」
朔はソファの下で、競馬のゲームをしながら適当に答える。
『あ?そんなもん俺が知る訳、ないだろ…母子手帳観ないと分かんねぇよ。』
そっか、俺もさすがにそこまでは分からないから早めに家に確認に行こう。
「俺はー、確か夕方くらいに生まれたって聞いてた。」
『…そういえば、央未の両親、元気なの?』
ゲーム画面から顔を上げて朔が俺の方を見る。
俺は、貰った名刺のQRコードを読み取ってみてHPを確認している。
「ぇ、ちょっと…ぅわぁ…、かっこいいこの占い師さん~♡モデルさんみたいじゃない?」
『どれ…、見してみ?』
横から朔がスマホの画面を覗き込んで来た。
『あれ?こいつ知ってる。昔、ライブハウスで見た事ある。アイツ、占い師になんて
なってたのか。どう見てもホストじゃん?』
おやぁ?もしかして、知り合いなのかな。
「えーっと、あまのや?つきよ…じゃ、なくて。つくよさん。」
サイトにプロフィールが掲載されていた。
『面白いから、観て貰いにいくぞ央未。』
「2人で観て貰うの?」
『そうそう。関係性も観て貰う。』
「分かった、予約するね?いつが空いてるかな…」
意外な関わりのおかげで、俺と朔は占いをして貰う事に。
それから数日後。
とある商店街の端にある小さな事務所に立ち寄った。
会社の帰りだから、朔は直接占いをするこの事務所に来る事になってる。
『あれ?ご予約の方ですよね。』
事務所の出入り口が開いて、中から男の子が顔を出した。
「かわ…、あ、ハイ。そうなんですけど…もう一人がまだでして」
『蓮華寺さんですよね?少し前に見えられて。もう、中で兄とお話されてますよ。どうぞ、』
にこにこ笑いながら案内してくれる男の子は、どうやら
占い師さんの弟さんらしい。
にしても、朔!連絡くらいしてくれたらいいのに。
「お邪魔します…」
部屋に入った瞬間、良い匂いがしてまるで異国に来たような
オリエンタルな雰囲気に包まれる。
あー、こういうお店とか結構好きなんだよね。
朔の声がして、急に緊張が解けちゃった。
『央未さん、ですよね。天乃屋月夜です。今日はよろしくお願いします。』
椅子から立ち上がって、占い師さんに挨拶をされると
ドキドキしてしまう。
美形な兄弟だなぁと思いながら、朔と目が合うと何故か一笑された。
「先に来てるなら、教えてよ~」
『悪い、だってさぁ月夜がベランダでこのあっつい中、煙草吸ってたから。』
『兄貴、家の方で吸ってくれないと。お客様から丸見えだよ。…お仕事の帰りに
酔って頂いて有難うございます。お飲み物は、何にされますか?』
弟さんが、小さな手書きのメニュー表を見せてくれて
俺と朔が選んでると
『…付き合って、長そうですね?2人は。』
月夜さんが、笑いかけて来た。
「ぁ、えっと……」
『俺はまだ、何にも言ってないけどな。…この占い師さん本物だって事。』
一瞬、弟さんと目が合ってドキッとした。
「あの…一応、朔とはお付き合いしてまして…」
『月夜の弟くん、俺と央未はアイスティーでヨロシク~』
うわ、勝手に決められてる。
『勿論、お客様のプライバシーはしっかりと守らせていただいた上での、鑑定ですから。
…そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。』
月夜さんの優しい声でのフォローが無かったら、上手く話す事も
できなかったと思う。
弟さんは、少しだけ顔を赤くして
『アイスティー2つ、お作りしますね。しばらくお待ちください。』
ドアの向こうへと下がって行ってしまった。
朔が動じなさ過ぎて、さすがだなぁとか思いながら
月夜さんは、俺と朔にホロスコープ作成のためのシートを渡して
簡単な説明を受けた。
『さっきのは、あてずっぽうで言ったんじゃなくて…見えるんですよね。2人の事が。』
朔は脚を組んで、黙っている。もしかして、疑ってるのかな?
俺は、ただただ空欄を埋めたりしながら月夜さんに
書き上げたシートを渡した。
朔も、いつの間にか書いてしまっていたみたいで
2枚のシートを見ながらPCに入力をしている。
「相性じゃなくても、それぞれのでも大丈夫なので…」
『…相性は、悪くないですよ。太陽星座が隣同士だと真逆の性質を持ってますし、
太陽以外の惑星が相手と相性の良い配置にあったりする可能性も高いんです。
なので、惹かれあってしまう。』
この目の前の月夜さんの放つ、独特で不思議なオーラに
どこかの民族衣装?みたいのが更に説得力を持たせてるんだと思う。
「わぁ、本当ですか?…今更な気もするけどやっぱり相性が良いと
嬉しいものですね。」
朔は喜んでるのかな?と横を見てみた。
…しかめっつら!?
『朔先輩は、央未さんの事を大切な家族と思って見てますね。結婚もしたいぐらいで、でも
自由は奪いたくないっていう、先輩の根底にある思想…とでも言うんですかね?その想いに
満たされてます。客観的にも、ホロスコープ的にも朔先輩の方が惹かれて始まったと言えます。』
『ひぇー、めっちゃ当たってる…俺、さっき央未の名前教えたぐらいなのに。』
「朔の驚き方が、アレなんだけど…。でも、言われる通りではあります。この、朔は
自分の物~とか言いながら、自由でいなきゃダメとか言いつつ自分が急にいなくなったり。」
『朔先輩は、ホロスコープが7、8割射手座なんですよ。木星と暮らしてると思ってください。』
ちょっと、話が難しくなって来た気がする…。
コンコン、とドアのノック音がして
『失礼しますね、』
月夜さんがスッと立ち上がり、ドアを開けに行った。
「優しい~、朔も見習わないとね。」
『央未は、ほら脚で開けるじゃん。』
「そんな事!…あんまりもう、やってないし~」
『ごめんなさい、お待たせしました。一応、ミルクと檸檬の方もありますので。シロップも
どうぞ。』
ティーセットに、コースターがテーブルの前に敷かれて
グラスを置かれる。
「カフェみたい…」
『半分は、僕の趣味で…フィナンシェも召し上がってくださいね♪』
「こんな素敵な弟さん、いいなぁ~月夜さん。」
『そこなんだよな、月夜がこんなきゃわいい弟が居るなんて知らなかったわ。』
朔も知らないんだ、と思いながら俺はアイスティーに
ミルクとシロップを少し入れてストローで飲む。
『わざわざ、言わないでしょう?兄弟の話って』
月夜さんは、何となく苦笑いをして話してる。
仲が良いのか、よく分からないけど。
でも、さっきの何気ないやり取りで感じたのは
熟年感とか、そういった雰囲気だったと思う。
俺は、一人っ子だから分からないけど。
実際はきっと仲良しなんだろうな。
「すごく美味しいです、お菓子まで頂いちゃって…有難うございます。」
『弟くん、月夜に全然似てないね。良かったね~』
ちょっと、何言いだすのかと俺はハラハラしながら
隣の朔の手をつねった。
『兄貴は、僕でもたまに緊張するくらいの雰囲気ですから。僕は全然で…』
「綺麗なお兄さんって感じですもんね…神秘的だし」
『…お菓子、弟くんが作ったんだよね?すげぇ~、めっちゃ美味しいし。月夜が
育てた訳では無いんだ?』
「ちょっと、朔。観て貰ってるのは俺等でしょ。」
無遠慮にお菓子を食べてる朔を見て、弟さんは笑顔を絶やさない。
『朔さんは、分かりやすくって面白い方なんですね。』
『……』
あ、なんか今気のせいかな?
月夜さんから、ちょっと不穏なものを感じたけど。
とりあえず、休憩が終わってからまた鑑定を続けて貰った。
その後1時間ほどかけて、丁寧にホロスコープの説明をして貰った。
月夜さんが最後に言っていたのは、あくまでもこれは
生まれた時の惑星の配置に基づいたものであって、
違う自分を再発見する事に繋がると言う事だった。
これが全てではなくて、自分の世界を切り開いていくのは
いつも、自分である事を胸に留めておいて下さい。
と、意外と占いに対してはとても現実的な考えをしている事が分かった。
好感を持ってしまう。兄弟であんな風に暮らしていくのも素敵だなぁと思う。
弟さんに名刺を渡された。
『1枚だけのお渡しになっちゃいますが、よかったら是非。あの、央未さん…またいつでも
遊びに来てください。』
こんなかわいい子に!?社交辞令じゃないよね?
「仲良く、してくれるの?俺なんかと…」
『ぁ…はい!お友達になって、ください♡』
ひゃー…嬉しすぎないこの状況!?
『この事務所の奥が住んでるなんです。占いのお店のカレンダーが空いてる時間は
いつでも大丈夫なので』
「うん、分かった。ありがとう。楽しみ~♪」
帰り際、手土産までくれる弟さんには申し訳ないくらいの気持ちで一杯だった。
『先輩、弟も言ってますが夕食とかでも大丈夫でしたら、4人で…』
『…マジで?俺と央未を誘ってくれんのかぁ。嬉し。』
意外にも、朔は月夜さんにはあんまりつっかからないんだよね。
「こんな時間までお邪魔しちゃってすみません、有難うございました。」
俺は2人に深々と頭を下げた。
朔は、既に歩き出してて
『天乃屋兄弟まったな~』
適当にも程がある。もー!
でも、それが…あれが朔なんだよね。
今日の説明ですごくよく分かった。俺は、きっともう
悩まないだろうなって感じた。
同期の女の子に、お礼しておかなきゃ。
さて、この1枚貰った名刺を俺か朔はいったい誰にあげるのかな?と
思いながら先に歩く朔に走って追い付いた。
やっぱり、俺と朔は離れられない運命だって言われて
確信を持てた。
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