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光冥の過去
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日付が変わる前になって、光冥さんが起きて朔の頭を軽く撫でた。
『人が寝とる隙に…何勝手に俺の話しとるん』
「光冥さん、お水持ってきますね」
『央未くん…ありがと。』
ミネラルウォーターのボトルを冷蔵庫から持って来て、光冥さんに渡した。
「ごめんなさい、俺も朔に聞いてしまって…」
『光冥の生き方は…俺は、昔から見てたけど切なくてさ』
「……」
『俺はね、朔。お前と、央未くんがとりあえず元気に暮らしててくれたらいいなぁって思う』
光冥さんは水を飲んでから、ゆっくりと立ち上がって
『朔、部屋貸して。戻って寝る。好きな時に帰るし…』
『分かった。』
「光冥さん…おやすみなさい。」
光冥さんは、にこっと笑って俺の部屋を後にした。
笑い方まで似てるなんて、俺はどうにも複雑な思いで朔を見つめていた。
『あー、』
「朔、結構…光冥さん好きじゃん」
『ぇー、あんなオッサンを?』
「そっくりじゃん…。あの人と」
認めたくは無いだろうけど。やっぱりなにかしらの?血かなぁ。
そういったのを感じる。
『光冥は、元…ヤンキーだからなぁ。俺、つるむ奴ら苦手なのよ。』
「あ、やっぱり血気盛んだった感じか。」
『ん…。人様に迷惑かけるんじゃないって、伯父さんに貼り倒されてから改心したけど。
その当時にすげー仲良かった子が、まぁ…さっき言ってたアイツの好きな子でさ。』
台所で洗い物をしながら、朔の話に耳を傾けている。
「もしかして…」
『事故にあったんだよ。』
嫌な予感というか、何となくの予想ではあったけど。
いたたまれない。
「…やっぱり。」
『いつも、光冥の後をついてまわる様な人懐っこい人で。俺も会った事あるんだ。すげー小さい時だけど。
光冥より2つ年下で。まさか、あいつがあの人を好きだなんて思わなくて。』
「事故の時、光冥さんは…」
『それが、あいつはバイトに行ってて一緒じゃなかった。一緒に住んでた…ってよりも、光冥の部屋に
遊びに来て、よく泊まっては居たんだ。』
「…うん。」
『んでさ、付き合いは…まぁ、してたんだろうな。その当日にちょっと喧嘩になって、』
朔の話を聞きながら、俺は頭の中で沢山想像を巡らせる。
感情移入しやすかった。やっぱり、俺も似た様な経験をしてるせいか。
洗い物が終わって、リビングに足を向けた。
「…似てる様で違うけど、光冥さんの事を思うと…心が痛む」
『あいつは、いまだに自分のせいであの人が、事故に遭ったと本気で思ってる。』
違うけど、違うんだけど…そういう風に思ってしまう心の突き詰め方は、理解できる。
「お前、光冥さんに酷い事言ってないだろうな?」
『言っても、言わなくても…事実は変わらないんだから。何も言わなかった。言えなかったよ。』
「…だよな。まだ子供だっただろうし。」
無意識に、俺は安堵していた。
朔がシャワーに立って、俺は寝る支度を始めた。
久し振りに、どうしようもない感情に呑まれてしまいそうで俺はベッドに横になった。
目をつむれば、光冥さんの大切な人を想像してしまう。
どんな人かは分からないけど…きっと光冥さんが大好きで仕方なくて。
それなのに、喧嘩してしまって。
きっとかなりショックだったのだろうと思う。
深く想えば、思う程に感情が重なってあふれ出そうとする。
鼻の奥が、ツーンと痛い。涙が手の甲にじわじわ滲む。
静かに零れる涙は、目尻から耳の辺りまでに零れていく。
「…はぁ、…うぅ…」
後悔が追いかけて来るのだろう。
過去の一瞬に囚われて、振り返り続けて…。
ふにゅ、頬に触れた感触に俺は手の甲を外して
「朔ぅ…」
『泣くなよ。光冥の話で泣いても…何にもならないし、俺が何か嫌だ』
「だって、…光冥さんの好きな人の気持ちとか考えちゃう」
『央未に、分かる訳ないじゃん。お前は、あの人じゃないんだし』
「そ、そうだけど…」
『光冥も、あの人も…哀しいけど噛み合わない瞬間が、皮肉にも重なったんだよ。』
苦しいのは、俺の思い込みではあるけど、朔みたいにサッパリと考えられない。
なのに、朔は俺の両手を捕らえてキスをしてきた。
ジッとのぞき込む瞳の色の深さに、吸いこまれそうだ。
分かっている、朔にも底知れぬ闇のようなものがある。
きっと、誰にでも存在するんだろうけど。
俺が、光冥さんに共鳴する事を許さない朔が
幼い独占欲を発揮しているみたいで可愛いなぁと思える。
懸命に何かを示したくて、朔なりに必死なんだろう。
首筋に、軽く噛みつかれて俺は朔の後頭部を撫でる。
俺は、大丈夫だよ。
でも、口には出さなかった。
伝えても、朔は簡単には信じない。自分で、納得しないと気が済まない質だから。
「痛いよ、朔…」
『俺以外の男に、何感情持ってかれてんだよ』
「駄目なの?」
『ダメ!絶対…、』
「へー…。あのね、朔…俺はわりと共感しやすいからさ。お前が光冥さんの話、したんだろ?」
服の裾をめくり上げられて、臍の周りを撫でられる。
『光冥は、俺の傷でもあるから…かな。確かに、昔は仲良かったし。従兄弟としては慕ってたよ。
影響も受けたし。』
「ほらぁ、そうだろ?」
ふに、ふに、と指先で臍を押されると、不快で顔をしかめる。
『あいつはさ、あの一件以来…生きる事を諦めかけた瞬間があるんだよ。まぁ、後から聞いた話だけど』
「繊細な人なんだよ…ものすごく」
『ふざけんなって、思った。生きてなきゃ、どうしようもねぇだろって…』
朔は、生きている事に対してアグレッシブではある。
精神的に落ちる事が、少ないようにも思える。
だからと言って、人の心の痛みが分からないと言う事ではない。
言いたい事は、すごく分かる。
朔らしいと思う。
「お前は、やっぱり優しんだな。ちゃんと、想い人が…いつか必ず目を覚まして、光冥さんと一緒になれるって。
そう思ってるんだろ?」
『当たり前だ…!じゃなきゃ、報われなさすぎるだろ』
この、朔という男は心の広さと温かさが本当に心地いい。
俺が愛する存在は、誰よりもまっすぐに目には見えない、純粋なものを信じている。
「俺、やっぱり…朔を好きでよかったって思う。大好きだなぁ…朔」
『央未…、』
翌朝、朝ごはんを食べに来た光冥さんは、申し訳なさそうに
『ここのアパート、壁薄すぎん?昨日の夜めっちゃ、央未くんの…声聞こえて来たんやけど』
教えてくれた。
俺は、光冥さんのトーストを焼きながら、頬が熱くなるのを感じていた。
「…!?す、すみません…」
朔は、コーヒーを飲みながら何故かしたり顔だ。
『へぇー?可愛い央未の声聞けて最高じゃん、よかったね光冥』
『お前さー、央未くん大事にしないと…承知せんからな。』
光冥さんの声色が一瞬怖く変化する。
俺は、焼けたトーストを光冥さんにトレーごと渡すと、すぐに笑顔が返って来た。
『ほんま、央未くんは朔のアホには勿体ないわぁ。何か弱みでも握られてるんちゃう?
困った事あったら、いつでも俺に相談してや?朔なんてすぐに調伏したるさけ』
「…朔は、根っからの良い奴ですよ。ちょっと、口が悪いこともあるけど、最終的には
俺も、朔にちゃんと救われてます…。」
静寂の後に、朔がコーヒーを嚥下する音だけがやたら大きく聞こえた。
『…そっかぁ。朔もいっぱしの男になった。って事か。』
朔と光冥さんが顔を見合わせて、すぐに逸らしている。
本当に、この二人は似た者同士かもしれない。
『人が寝とる隙に…何勝手に俺の話しとるん』
「光冥さん、お水持ってきますね」
『央未くん…ありがと。』
ミネラルウォーターのボトルを冷蔵庫から持って来て、光冥さんに渡した。
「ごめんなさい、俺も朔に聞いてしまって…」
『光冥の生き方は…俺は、昔から見てたけど切なくてさ』
「……」
『俺はね、朔。お前と、央未くんがとりあえず元気に暮らしててくれたらいいなぁって思う』
光冥さんは水を飲んでから、ゆっくりと立ち上がって
『朔、部屋貸して。戻って寝る。好きな時に帰るし…』
『分かった。』
「光冥さん…おやすみなさい。」
光冥さんは、にこっと笑って俺の部屋を後にした。
笑い方まで似てるなんて、俺はどうにも複雑な思いで朔を見つめていた。
『あー、』
「朔、結構…光冥さん好きじゃん」
『ぇー、あんなオッサンを?』
「そっくりじゃん…。あの人と」
認めたくは無いだろうけど。やっぱりなにかしらの?血かなぁ。
そういったのを感じる。
『光冥は、元…ヤンキーだからなぁ。俺、つるむ奴ら苦手なのよ。』
「あ、やっぱり血気盛んだった感じか。」
『ん…。人様に迷惑かけるんじゃないって、伯父さんに貼り倒されてから改心したけど。
その当時にすげー仲良かった子が、まぁ…さっき言ってたアイツの好きな子でさ。』
台所で洗い物をしながら、朔の話に耳を傾けている。
「もしかして…」
『事故にあったんだよ。』
嫌な予感というか、何となくの予想ではあったけど。
いたたまれない。
「…やっぱり。」
『いつも、光冥の後をついてまわる様な人懐っこい人で。俺も会った事あるんだ。すげー小さい時だけど。
光冥より2つ年下で。まさか、あいつがあの人を好きだなんて思わなくて。』
「事故の時、光冥さんは…」
『それが、あいつはバイトに行ってて一緒じゃなかった。一緒に住んでた…ってよりも、光冥の部屋に
遊びに来て、よく泊まっては居たんだ。』
「…うん。」
『んでさ、付き合いは…まぁ、してたんだろうな。その当日にちょっと喧嘩になって、』
朔の話を聞きながら、俺は頭の中で沢山想像を巡らせる。
感情移入しやすかった。やっぱり、俺も似た様な経験をしてるせいか。
洗い物が終わって、リビングに足を向けた。
「…似てる様で違うけど、光冥さんの事を思うと…心が痛む」
『あいつは、いまだに自分のせいであの人が、事故に遭ったと本気で思ってる。』
違うけど、違うんだけど…そういう風に思ってしまう心の突き詰め方は、理解できる。
「お前、光冥さんに酷い事言ってないだろうな?」
『言っても、言わなくても…事実は変わらないんだから。何も言わなかった。言えなかったよ。』
「…だよな。まだ子供だっただろうし。」
無意識に、俺は安堵していた。
朔がシャワーに立って、俺は寝る支度を始めた。
久し振りに、どうしようもない感情に呑まれてしまいそうで俺はベッドに横になった。
目をつむれば、光冥さんの大切な人を想像してしまう。
どんな人かは分からないけど…きっと光冥さんが大好きで仕方なくて。
それなのに、喧嘩してしまって。
きっとかなりショックだったのだろうと思う。
深く想えば、思う程に感情が重なってあふれ出そうとする。
鼻の奥が、ツーンと痛い。涙が手の甲にじわじわ滲む。
静かに零れる涙は、目尻から耳の辺りまでに零れていく。
「…はぁ、…うぅ…」
後悔が追いかけて来るのだろう。
過去の一瞬に囚われて、振り返り続けて…。
ふにゅ、頬に触れた感触に俺は手の甲を外して
「朔ぅ…」
『泣くなよ。光冥の話で泣いても…何にもならないし、俺が何か嫌だ』
「だって、…光冥さんの好きな人の気持ちとか考えちゃう」
『央未に、分かる訳ないじゃん。お前は、あの人じゃないんだし』
「そ、そうだけど…」
『光冥も、あの人も…哀しいけど噛み合わない瞬間が、皮肉にも重なったんだよ。』
苦しいのは、俺の思い込みではあるけど、朔みたいにサッパリと考えられない。
なのに、朔は俺の両手を捕らえてキスをしてきた。
ジッとのぞき込む瞳の色の深さに、吸いこまれそうだ。
分かっている、朔にも底知れぬ闇のようなものがある。
きっと、誰にでも存在するんだろうけど。
俺が、光冥さんに共鳴する事を許さない朔が
幼い独占欲を発揮しているみたいで可愛いなぁと思える。
懸命に何かを示したくて、朔なりに必死なんだろう。
首筋に、軽く噛みつかれて俺は朔の後頭部を撫でる。
俺は、大丈夫だよ。
でも、口には出さなかった。
伝えても、朔は簡単には信じない。自分で、納得しないと気が済まない質だから。
「痛いよ、朔…」
『俺以外の男に、何感情持ってかれてんだよ』
「駄目なの?」
『ダメ!絶対…、』
「へー…。あのね、朔…俺はわりと共感しやすいからさ。お前が光冥さんの話、したんだろ?」
服の裾をめくり上げられて、臍の周りを撫でられる。
『光冥は、俺の傷でもあるから…かな。確かに、昔は仲良かったし。従兄弟としては慕ってたよ。
影響も受けたし。』
「ほらぁ、そうだろ?」
ふに、ふに、と指先で臍を押されると、不快で顔をしかめる。
『あいつはさ、あの一件以来…生きる事を諦めかけた瞬間があるんだよ。まぁ、後から聞いた話だけど』
「繊細な人なんだよ…ものすごく」
『ふざけんなって、思った。生きてなきゃ、どうしようもねぇだろって…』
朔は、生きている事に対してアグレッシブではある。
精神的に落ちる事が、少ないようにも思える。
だからと言って、人の心の痛みが分からないと言う事ではない。
言いたい事は、すごく分かる。
朔らしいと思う。
「お前は、やっぱり優しんだな。ちゃんと、想い人が…いつか必ず目を覚まして、光冥さんと一緒になれるって。
そう思ってるんだろ?」
『当たり前だ…!じゃなきゃ、報われなさすぎるだろ』
この、朔という男は心の広さと温かさが本当に心地いい。
俺が愛する存在は、誰よりもまっすぐに目には見えない、純粋なものを信じている。
「俺、やっぱり…朔を好きでよかったって思う。大好きだなぁ…朔」
『央未…、』
翌朝、朝ごはんを食べに来た光冥さんは、申し訳なさそうに
『ここのアパート、壁薄すぎん?昨日の夜めっちゃ、央未くんの…声聞こえて来たんやけど』
教えてくれた。
俺は、光冥さんのトーストを焼きながら、頬が熱くなるのを感じていた。
「…!?す、すみません…」
朔は、コーヒーを飲みながら何故かしたり顔だ。
『へぇー?可愛い央未の声聞けて最高じゃん、よかったね光冥』
『お前さー、央未くん大事にしないと…承知せんからな。』
光冥さんの声色が一瞬怖く変化する。
俺は、焼けたトーストを光冥さんにトレーごと渡すと、すぐに笑顔が返って来た。
『ほんま、央未くんは朔のアホには勿体ないわぁ。何か弱みでも握られてるんちゃう?
困った事あったら、いつでも俺に相談してや?朔なんてすぐに調伏したるさけ』
「…朔は、根っからの良い奴ですよ。ちょっと、口が悪いこともあるけど、最終的には
俺も、朔にちゃんと救われてます…。」
静寂の後に、朔がコーヒーを嚥下する音だけがやたら大きく聞こえた。
『…そっかぁ。朔もいっぱしの男になった。って事か。』
朔と光冥さんが顔を見合わせて、すぐに逸らしている。
本当に、この二人は似た者同士かもしれない。
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