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朔がお見合に行った話。

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『んじゃ…行ってくる。』
今日は、ついに…朔のお見合いの日だ。
俺は、玄関前でネクタイを直しながら
「失礼が無いようにな?」
『俺、信用なさすぎじゃない?でも、なんで俺の見合いなんかに央未は協力的なのか、
全然意味が分からないけど。』

だって、…俺には口出しする事はできないから。
ただ、思う事はやっぱり朔でも、世間体を考えたり、親の顔を立てたりするんだなぁと
冷静な目で見つめていた。
嫌だとも思わないし、良い大人だから理解できると
俺は自分に言い聞かせていた。

「ちょっと、不安だけどさ。」
『なんつー顔してんだよ…。それなら、いっその事行くなっ、て言えばいいのに。』
苦笑いをした後に、朔にキスをされた。
『お前が、煮え切れないと…俺もハマれない。忘れんなよ。』
ぐしゃぐしゃ、と朔は俺の髪をひと撫でして外へ出て行った。

「…ごめんなさい、お相手さん。これから会わなきゃいけないってのに。」
普通に、女受けしやすい朔だからOKは、されそうな気もするけど。
朔は、本当に何を考えてるのか分からない。
先の事は、ちゃんと考えてるのかな?

スーツ姿も、相変わらずカッコいい。
いつも部屋で着てるクソダサいTシャツとかを思うと
あんまり朔は、格好に頓着しない面もあるから。
せっかくの休日に時間を作るのが面倒だと言いつつも、
ちゃんと当日には、整えて出かけていくのだから。
根っからの女好きの本能なんだろう。

高級料亭で席を設けてあるらしく、もしかしたらお相手は
和装で来るのかもしれない。
人ごとなのに、気になってしまう。
違う、人ごとだから、か。

夕方までには帰ると思うと言われて。俺は、久しぶりに部屋の中でくつろいでいた。
なんだかんだで、ここの所あんまり一人の時間も取れていなかったし
朔がいる時は、べったりしてしまっていたものだから
一人の空間の楽さに、一気に眠気が襲って来た。

ベッドの上に上がって、クッションを抱き締めながら
俺は、夢の中へとおちてゆく。
気持ちいい…ふわふわして、エアコンの冷気と外の陽だまりとの
溶けあいが心地いい。



ん…、なんか…くすぐったい…
変な夢、あれ?でも夢ってこんなにリアルだっけ?

…ゃだ…、なに?

『…央未、』
ぇ、嘘?朔がいる。もう、そんな時間?
「ちょ…っと、」
お腹が寒いと思ったら、朔が服の裾をまくり上げてた。
事もあろうに、胸をまさぐり始めて
『帰って来た』
「もう、夕方?はやくな…ひゃ…!?」

朔が胸の突起を指で摘まんできて、目が覚めた。
もう、色んな事が唐突過ぎて意味が分からないし
俺は、枕に顔を埋めて身を捩る。

『俺、よーく分かった。多分もう、央未でしか無理だった。』
「何が!?いたた…、なぁんでお見合いから帰って来て、俺を襲うんだよ~」
『いいじゃん…慰めてよ。央未』
「事情を聞かなきゃ、何とも言えないって…もぉ…」
『えー、分かった。じゃあ聞いてください。あ、こっち向いてね…』

相変わらずのマイペースで、本当に振り回されてる。
しぶしぶ、俺は朔に押し倒されたまま足の間に居る朔を見ていた。
『胸触りながらでもいい?』
「馬鹿。くすぐったいからイヤ。普通に話せ。」
『冗談だって…。はぁ、央未さんはさ~、真面目な女の人ってどう?』
「ぇ?まぁ、別にいいと思うけど。そんな感じの人だったのか」
『親に言われたから、見合いに来たんだって。』
「よくある話だろ。話はしたんだろ?」
うん、と朔は頷いて俺の胸に倒れ込んできた。

『したよ~全然、ピクリとも笑わないし。話も俺ばっかりしてて…』
「そりゃ、緊張してたんじゃない?お前はしなかっただろうけど。」
『俺~、笑ってくれる子が良い。話さなくてもさ…せめて、うんうん、って適当にでもいいから
ニコニコされたかった。』

言いたい事は、分かるけど。
「初回でそんな雰囲気には、なかなか難しいと思うぞ。」
『俺、もう疲れた~。今日は央未には悪いけど店じまいだ。』
何それ…。
笑いそうになったけど、朔は朔なりに気を使ったみたいだから
俺は、背中を撫でてねぎらった。

「朔、ちょっと眠ると良いよ。」
『そうする…央未に抱かれて寝る。』
「って、また胸触る…やめろって。」
『なぁ、神様はなんで…女の人にだけじゃなくて、男にも胸を作ったんだろうな?』
「…なんでだろ。考えたことも無かった。」
『それに、母性って男にもあるんだろう?俺には皆無だけど…そういうの考え出すと、
人間って面白いなって思う。性別も、あって無いものに思える。ま、あるんだけどさ。』

「変なこと言うけどさ、…朔が俺の胸に固執してると、可愛いなって思う時あるよ。なんか、母性に近いものなのかも
分からないけど。こう、守ってあげたくなるって言うの?ぎゅっとしたくなったり。頭撫でたくなるもん。」
朔が頭を上げて、じっと俺を見つめる。
『初耳~、そうなんだ。へ~、そういえば最近、央未の胸少し柔らかくなって来てる気がする。』
「俺も、思った…。なんか、ふにょってしてるから。理由は考えたくなくて、スルーしたけど。」

『え~、めっちゃ俺のせいじゃん!もー…』
「嬉しそうに言わないで下さい…。ぁ、早く着替えないと。スーツ皺くちゃになる。」
『ぁー、ハイハイ。早く脱げって事ね?もう、央未ってば、お盛んなんだから♪』
朔はすこぶる楽しそうに、その場でスーツを脱ぎ散らかして
俺の横に、寝そべった。
パンイチなんですけど。
『ジャケット着てて、地獄だったよ。あっつい。』
「女の人は?和装とか」
『さすがに、洋服だった。』
「そうだよね、この暑さではキツイか。」

朔はタオルケットを手繰り寄せて、体に掛けている。
「風邪ひくから、クソダサTシャツ着ろよ。」
はー、とため息をつきつつ、朔の服用の引き出しから
一枚、Tシャツを持って来てベッドにポンと放った。

『クソダサくないし…、これ俺がアッチ行ってた時にデザインしたTシャツなんだぞ。』
「ぇ、マジで?そういえば、朔の絵って昔から個性的だよな。」
朔が、体を起こして着替える。
ベットに戻った俺を抱きすくめて
『俺は、央未がいい。』
「…それは、どうも」
『ちょっと、央未を吸わせて…』
「ぇ、吸うってどこを?」
『全体的に…クンクンしたい。ダメ?』

「お前と結婚する人は、大変だな。」
『ぁ、央未の事な、それ』


3日後に、朔は実家から呼び出しされて
渋々、向かうと見合いの返事があったらしくて。

返事は御免なさいとの事だったらしい。

『ぅわー。そうじゃないかと思ってたけど。結構ショックなのナニコレ』
「…(ほっ)」
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