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後悔と幻の過去
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過去の美祢が現代に出てきますので
一応、ご注意を。
いつからですか?
『ん?今日だよ、今日。』
え、そんな…。
「そんな、突然言われましても…。」
困ったな。
とりあえず、今日は店じまいか。
なんと、店の近くで配管工事があるらしく今日は
その影響で店も開けていられなかった。
こんなんじゃ、せっかく作ったお料理が…もったいない。
ちょっと安芸に電話したいな。
怒られちゃう、かな?
迷いはしたものの、店の電話から
安芸の携帯にかける。
『どうした?』
「今、平気?」
『今、外だ。で、どうかしたか?』
声が、いつも通りだ。
良かった。
「あのさ、今日は店じまいする事になったの。近くで配管工事があって。それで…今日の分のお料理余らせちゃって困ってるんだけど。」
『…お前は、持ってこなくていい。俺が取りに行く。今から昼休みに間に合うから、課の連中は喜ぶだろ。待ってろ、今行く。』
「はい、気を付けてね?」
なんか、電話の安芸って
ちょっと違う人みたいで
また、良いなぁ…って思う。
少し、ピリッとはしてるんだけど。
日頃、一緒にいる時とは
別人みたい。
お花、生けたの…持って帰ろうかな。
立ち上がった瞬間、店の戸が開いた。
『あれ?今日は店じまいって出てますが…』
お客さまだ。
「えぇ、ごめんなさい。実は表の道路で配管工事をするみたいで。うちもさっき聞いたばかりで…今日は店じまいにした所なんです。本当に、ごめんなさい。せっかくいらしたのに…。」
『…あぁ、それは残念だなぁ。ま、また来るよ。次を楽しみにしてるよ。』
年配のご夫婦は、優しい笑顔で去って行った。
残念…。
安芸と、お昼一緒に食べたいな。
でも、今日は無理だよね。
お料理持ってって貰わなきゃ。
「…。」
ガラガラッ、戸を開ける音。足音は、安芸だ。
『突然な話だな?』
「うん。何なんか前にも、あって。配管の劣化増えてきてるから
しょうがないんだけどね。」
『被害も出てるからな、それで通行止めって事も考えられるし。』
「そうだよね。…はぁ。」
『元気無いな?大丈夫か?』
安芸の、袖まくり。
見るのは好きなんだけど
袖くしゃくしゃになってるのを見ると
また、お節介の虫が騒ぎかけた。
「だってさ、お客さん来てくれたのに…追い返しちゃったから。」
そうか、と安芸が俺の肩に手を置く。
『そりゃあ、心苦しいよな。間が悪かった。また、来てくれるよ…お前の店なんだから。』
安芸は、優しい。
「ありがとう。」
密封容器にいくつか分けた
お料理を手提げに入れて渡す。
『大量じゃないみたいだな。まだ昼前だからか。』
「定食分のじゃなくて、カウンターに並べるのだよ。まぁ、早くに言ってくれてまだ助かったかな。」
安芸、慌てて来てくれたの?
少し額に汗が出てる。
そっと背伸びをして、
左の袂から薄めのハンカチ
を取り出して汗をおさえる。
『…あ、悪い。ハンカチ汚れるからいいぞ。』
「いいの。飾りにある訳じゃないんだから。…外まだ少し暑いからね。それに、安芸は長袖でしょ?」
『本当、よく出来た嫁だよ。』
「安芸のおかげだね。さて、じゃあ…お店戸の締りしたら家に帰るよ。夜は、何食べたい?」
店の外まで安芸を見送る。
安芸は、まだまだ勤務だから。
『そうだな、時期的に秋刀魚が食べたいかな。』
「!いいね、七輪あるしやってみるよ。楽しみにしててね。」
『終わったら、すぐ帰る。また、後でな。』
さらさらと頭を安芸に撫でられて手を振る。
「…。」
安芸の背中、何回今まで見たか知れない。
でも、好き。
『おい、美祢!美祢!』
「ん…?」
目を覚ますと、視界が
グニャリとして見える。
頭が割れそうに痛い。
『夕飯作ったまま寝てるなんて、珍しいな?体調悪いのか。』
「ん…お帰りなさい。なんか、頭がめちゃくちゃ痛い。」
ソファーに寝てたみたいで、すぐ横に安芸がいる。
『風邪か?』
ゆっくり抱き起こされて
額に手を当てられる。
「熱っぽくも、寒くも無いよ。なんなんだろ。」
躊躇いも無く、次は鎖骨の下辺りまで安芸が服の中へ手を差し入れる。
『そうだな。身体は普通だ。あれだ、偏頭痛ってやつか?』
「俺、滅多に頭痛はしないんだよ。…あ、今はもう平気。夕飯食べよっか、心配かけてごめんね。」
たまには、頭痛くらいするか。一応は、生身の身体なんだ。
着替えてきてある安芸を見て、座卓に秋刀魚を並べられて良かった、と一人で
満足する。
『まだ、秋刀魚熱い。という事は…美祢寝てたんじゃなくて気を失ってたんじゃ?』
実は、自分でもあんまり
覚えてない。
でも、確かに長い時間
じゃなかった。ほんの数分だけだと思う。
「近い内に、診てもらおうかな?」
『誰にだ?』
伊吹か、大地あたりかな。
「ん、大地かな?」
どちらも、真面目で
親身になってくれる二人だ。
『なんなら、葵に聞いてやるぞ?直接。』
秋刀魚の骨を綺麗に取って皿の端に除ける安芸を見つめる。
「…俺、消えたりしないよね?」
『⁉︎まさか、消える訳無い‼︎どうしたんだ?…何か心当たりがあるのか。』
「無いよ、無いけどね…ちょっと怖くてさ。変だよね、不死なのに。」
『泣くな…美祢。』
「泣いてないよ…」
その日の夕飯は、俺は
ほとんど手を付けられなかった。
早めに風呂に入って、髪を乾かし…布団に入る。明日から連休で良かった。店も休みだし、安芸も休みらしい。
『今、大地に電話したよ。明日昼までには来てくれる、だから安心しろ。』
「えぇ…っ、そんな、迷惑掛けちゃうよ…大地、遠いのに。申し訳ない。」
安芸も布団に、いつもより早めに入る。
合わせてくれなくて、いいんだよ?
でも…嬉しい。
『迷惑掛けるし、申し訳ないけど…美祢のためだ。』
真剣な瞳で、そう告げられて。
安芸は、いつだって
俺を第一に考えてくれて居る事が心底有難い。
「俺や安芸、他の守護者も病気になったりするんだよね?不死だけど。」
『必ず治るんだよ。病気になったりしても。治りも早い。大丈夫だ…。』
きゅっ、と抱き合って
お互いの鼓動を感じ合う。
「こうしてると…何があってもきっと平気だよ。」
あったかい、優しい…いい匂い。
安芸、ずっとこうしていたい。
ゆっくりと、意識が
落ちていく。
深い深い、底に…。
安芸Side.
『大地、美祢が起きてこなくて、見に行ったら美祢…布団に寝ていなかった。』
家を訪ねてきた大地を迎えて、事情を説明した。
『いなくなった、と?まさか…安芸が一緒にいただろう?』
医師が持つような、大きめの鞄を持って大地も
困惑している。
『実はさっき、少しだけ外に出てたんだ。』
『…馬鹿ですか。ちゃんと見ててあげないと。』
弱ったな。だいたい
なんでいなくなったのか。
それすら見当もつかない。
神力で探す事が出来るのは
この辺なら、近くて出雲くらいだろう。
『安芸、俺はここに居るから美祢が行きそうな所を探してください。一応、刑事なんですよね?お任せします。』
とりあえず、店か。
でも、連休は定休日だって言ってたしな。
そんな遠くには行っていない筈だ。
近くの公園から、警察署、美祢の行動範囲内であろう
箇所を探す。
見つからない…。
走り疲れて、地面に
しゃがみ込む。
ふと、近くに影ができる。
『?』
裸足じゃないか…
まさか、
バッ、と顔を上げると
「安芸か?どうしたんだ、おかしな格好して。」
不思議な違和感。
なんだか、美祢の雰囲気が
いつもと違う。
『お前、なんで逃げ出したりしたんだ?大地が待ってるぞ。』
裸足のまま歩かせては
怪我をする、と背負うつもりで屈む。
「あ、履物がな…よくわからなくて。」
遠慮無く、背負われている美祢に益々疑惑を抱く。
なんだか、身体の
あたりがいつもと違う。
『なぁ…美祢。』
「ん?何だ安芸。」
『俺、やっとお前の異変が解ったよ。』
今は、とりあえず家につれて帰ろう。
話は、それからだ。
随分待ちぼうけをくった
大地に釈明をして
一度風呂に入れた美祢の髪を乾かし、大地に会わせた。
「?この人は、誰」
『み、美祢…お前やっぱり…』
『安芸、心当たりがあるなら、説明してくれないか?』
大地を忘れてしまった、ではなくて。
この美祢は本当に知らないんだ。
それは、美祢が美祢じゃなくなった証拠だ。
「本当に…知らないんだ。申し訳ない。」
『美祢、すまん。』
大地の前だったが、浴衣の
美祢の胸を触ってみた。
「なっ、何する貴様…」
『女の美祢は、胸が…こう豊かだからな。この美祢は、多分転生する前の美祢だ。』
大地は、冷静な目でこちらを見ている。
『…で、どこを診れば?俺は性別まで変えられないからな?そういうのは葵さんに頼め。』
ぱしん、と胸を触った手をはたき落とした美祢が
俺を見上げる。
「俺は、どこも悪くない。何なんだ…また俺を、」
『違う。お前が昨日…本当に自分の身に起こった事で不安そうだったから。薬師を、大地を呼んだだけだ。』
「…そうか、ありがとう。だが、心配は要らない。もう、宿に帰らないと。」
美祢は、自分が殺された事も知らないんだ。
時代が流れて居る事にも
まだピンと来ないらしい。
『宿なんか無い。お前は、俺と住んでる。』
こうやって、改めて言うのも何だか恥ずかしい。
「?なんでまた」
『美祢、美祢は安芸のお嫁さんみたいな存在だよ。』
大地も、美祢が驚かないように一つずつ事実を伝えていく。
「?でも、俺は男だし。」
『今朝までは、女だったんだぞ。美祢は。』
『確認したんだ?安芸』
クスクス茶化すように笑う大地は、置いといて。
「それは、本当なの?…安芸と寝てるの?それじゃあ。」
複雑そうな表情で、美祢が俺を見ている。
『…まぁ、一応。』
「えぇ…やっぱり、そうなんだ?女になった俺がいたんだよね。さっきまで…。
だったらさ、安芸は早く女の美祢にあいたい?」
可愛い顔して、本当
人を惑わす天才だよな。
美祢は。
『どちらも、美祢なんだよな。』
『あぁ、だから俺も邪険にしたくなくて困ってるよ。』
「俺と、今までみたいに一緒に暮らすのは嫌?」
あの美祢が…すっかり
美青年に成長した美祢が
あんな事言うなんて。
『そんな事は、無い。』
「俺、家事は出来るから生活には困らない筈だよ?安芸が、望むなら…夜だって『もう、分かったから…大地に白い目で見られるから、勘弁して下さい!』」
もう、大地を呼ばなきゃよかった。とか後悔してる場合でもないが。
『後は、安芸がなんとかしてやるんだな。どうしようも無くなったら、葵さんに泣き付いたらいい。』
サラッと、帰り支度をする大地を尻目に
「選びなよ、安芸。」
迫って来る美祢。
『ちょっと、落ち着け。大地を見送ってからにしてくれないか?お前の事で呼んだ相手だぞ、分かるだろ。』
素直に頷き、玄関まで共に美祢がついて来た。
『悪かったな、はるばる来てもらったのに。』
『俺も、役不足だったから。気にするな、美祢…またな。』
後ろで深々と美祢がお辞儀をしていた。
大地が、何か薬を置いてったらしい。美祢が中身を見る。
「滋養強壮…の?なんだぁ。」
特に興味が無かったらしく
袋にしまう。
『美祢…あの、幕末の頃の美祢だよな。懐かしい。』
澄んだ瞳に、あどけなさが残る頬っぺた。
「そんな、久しぶりなんだね。俺は時間を、直接感じていないからかな。なんだか、安芸少し若くなった風に見えるよ。それは、女の美祢のおかげ?」
充分すぎる色香を纏う
美祢に見つめられると、
気が気じゃない。
『お前は、相変わらず男泣かせだな。』
「俺、帰らないよ?消えたくない。だから、お願い…安芸。俺にも、時間を下さい。」
…っ。
確かに、一番理不尽な最後だったよな。
しかも、俺は美祢を一人にしてしまった。
『柳部に聞いた。あの日酷く傷付いた美祢が自棄を起こして、最後の任務を務めたって。その後、まさか葵に殺害されるなんてな。』
居間に戻り、なんとなく
頭の中が段々と、整理がついて来た気がした。
「安芸が、望まなかった未来なんだよね。だから、俺は存在しちゃいけないんだ。でも…安芸を想う気持ちは俺から生まれたのに。なんだか、ズルイよ。俺だって…ちょっとは幸せになりたかった。」
辛すぎる心境を、包み隠さず話してくれた美祢。
『美祢…。』
「安芸に、触れて欲しい。俺は夢でも幻でも無いよ?ここに居るから。忘れないで。」
床に正座していた美祢を抱きしめる。
『忘れた日なんか、一日も無い。ずっとアレは俺の罪だと感じて居た。』
「安芸。大好きな匂い…昔から変わらないね。煙草、まだ吸ってるの?」
『…本数は、減らしてる。』
「もしかして、女の美祢に言われたの?」
黙って頷く。
「へぇ~…。なんだか意外。安芸って、曲げない人かと思ってたけど。」
綺麗なうなじをなぞり、
頬に口づける。
『…』
「安芸、俺に遠慮しないでよ。」
『大切だから、全てを晒せないんだ。本当に、幻じゃないんだよな…ちゃんと肌も温かい。』
柔らかな肌も、すらっとした手足も…まぎれもない本当の人間のものだ。
「いつも、どこでする?」
『な、何を…』
「何、今更。寝所だろ?だったら俺は寝所は、イヤだから。」
美祢からの誘惑が、
断ち切れない。
『…美祢。』
「そう呼ばれるの、やっぱり好きだよ。…安芸、迷ってる?誰に申し訳ないの?」
まるで、見透かすような
美祢の問いに目が覚めるような思いだ。
『申し訳ないなんて、思わない。美祢は、一人しかいない。俺の目の前にいるのが…そうだ。』
目を細めて、嬉しそうに美祢が笑う。
「ん…。」
しなやかな美祢の両腕が、
俺の肩にまわる。
間近で見ると、人形みたいに長いまつ毛。
重なる唇の、柔らかな感触。
やっぱり美祢は、男であろうが女であろうが美祢だった。
それに気が付き、安堵を覚える。
「煙草、減らして正解じゃない?ぴりぴりしなくなった。」
『…そうか。』
「あの…さ、俺こういうのは経験無いから落ち着かない。」
美祢の彷徨う視線が、
それを告げていた。
あの、美祢が怖がっているという事か。
『大丈夫だ。あまり構えなければ…』
浴衣の帯を解き、
合わせを広げる。
「ぁ…」
『……』
見てしまった事を後悔した。
女の美祢の下着を履いている。考えが追いつかず頭がくらくらする。
「なんだか、不思議な履き物だな。下がって来ないから便利だ。」
いや、まぁ…そうなんだけど。
これじゃあますます、
俺が罪悪感増すだけなんだが。
『待て!』
居間の戸が勢い良く開けられ手が止まる。
「…?葵、さま。どうして」
いっ…
『葵…まさか…聞いたのか?』
大地が話したのか?
『いや。美祢の気でな。残念だが、美祢は女の方の美祢に戻す。その者は、過去の出来事を知り過ぎている。私の鏡で元に戻せるから安心しろ。』
いそいそと、浴衣を着直し
どこか覚悟を決めたような視線で美祢が葵を見る。
「やっぱり、俺が存在していい時代は無いんだな。あの時代だけだったか。まさか、入れ替わりが成功するとは思わなかったし。また、葵様に引導を渡されるなら…悔いは、無い。」
『また、お前を失うのか?俺は…美祢を。二度も。』
美祢を庇うように抱きしめる。
「安芸…。」
『美祢、そこに居直れ。今回は私は直接手を下さない。さ、この鏡を見るのだ。』
至極、優しい口調の葵と
固唾を飲んでいる俺と
躊躇いながら、手渡された鏡を受け取る美祢。
「…安芸。」
美祢のまつ毛が涙で
濡れている。
『お前は、どんな姿でも美祢だ。…辛い思いばかりさせてるよな。すまない。』
握った拳が震えている。
「今世で幸せにしてくれてありがとう。嬉しかった。もう、会う事も無くなるけど…俺は、最初から安芸だけを見てたよ。これからも、そのつもり。だから、悲しくない。」
最後に微笑みを浮かべて
美祢は、葵の鏡の魔力で
光の粒子になって消えた。
覗けば、真実の姿が映り
偽りのモノを消してしまう
力が働いた。
『…!』
まるで、半身を無くしたような気持ちに襲われる。
『安芸、お前危なかったな?あれは生霊の一種だぞ。』
『え…っ、』
『ことに及ぶ前で良かったな?アレはお前達の後悔の念が生み出したモノだ。』
まさか、生霊があんなに
鮮明に?
『しかも、お前達の力のおかげ?せいで?より、人間に近く実体化してしまった…たちの悪いモノだ。さぁ、寝所に行けば美祢が寝てないか?』
言われるままに、寝所に行き戸を開けると
「…」
美祢が居た。
何事も無かったように
すやすや寝ている。
『惑わされたな、安芸。最近美祢の様子…おかしかったろ?』
そうだ、昨日は調子が悪そうで。頭痛が酷いと言ってた。意識を無くしたとも取れたし…。
前兆があったんだな。
『気づかずに…情けない。悪かった、美祢。』
胎児のように横を向いて寝ている美祢の頭を優しく撫でる。
『体調が本当に悪い時と、今回の見分けは付きにくい。だから、用心しろ。あまり過去に囚われてはならない。じゃないと、またあのようなモノを生み出してしまう。美祢は、いい子だよ。私が見込んだだけある、安芸…お前と美祢ならお互いが幸福をもたらす。私は、そういう目でお前達を見ているよ。』
『葵…。』
『急に悪かったな。では、私は失礼するよ。また、な…。』
葵が、美祢の頭をそっと撫でて微笑み
空間から消えた。
『まさか、あんな事を生霊にしようとしてたなんて…ショックだな。さすがに。』
はぁ、とため息をつきながらベッドに腰掛ける。
サラサラの美祢の髪の先は
誘うように、くるっと巻かれていて。指先に絡めたくなる。
『ようするに、煩悩の塊が実体化したワケだ。』
「ん~…。」
そろそろ美祢が起きそうだ。
『さよなら、幻の美祢…。』
幸せにしてくれて、ありがとうだなんて…それは
俺が言いたい言葉だ。
きっと、忘れない。
たとえ幻でも。
一応、ご注意を。
いつからですか?
『ん?今日だよ、今日。』
え、そんな…。
「そんな、突然言われましても…。」
困ったな。
とりあえず、今日は店じまいか。
なんと、店の近くで配管工事があるらしく今日は
その影響で店も開けていられなかった。
こんなんじゃ、せっかく作ったお料理が…もったいない。
ちょっと安芸に電話したいな。
怒られちゃう、かな?
迷いはしたものの、店の電話から
安芸の携帯にかける。
『どうした?』
「今、平気?」
『今、外だ。で、どうかしたか?』
声が、いつも通りだ。
良かった。
「あのさ、今日は店じまいする事になったの。近くで配管工事があって。それで…今日の分のお料理余らせちゃって困ってるんだけど。」
『…お前は、持ってこなくていい。俺が取りに行く。今から昼休みに間に合うから、課の連中は喜ぶだろ。待ってろ、今行く。』
「はい、気を付けてね?」
なんか、電話の安芸って
ちょっと違う人みたいで
また、良いなぁ…って思う。
少し、ピリッとはしてるんだけど。
日頃、一緒にいる時とは
別人みたい。
お花、生けたの…持って帰ろうかな。
立ち上がった瞬間、店の戸が開いた。
『あれ?今日は店じまいって出てますが…』
お客さまだ。
「えぇ、ごめんなさい。実は表の道路で配管工事をするみたいで。うちもさっき聞いたばかりで…今日は店じまいにした所なんです。本当に、ごめんなさい。せっかくいらしたのに…。」
『…あぁ、それは残念だなぁ。ま、また来るよ。次を楽しみにしてるよ。』
年配のご夫婦は、優しい笑顔で去って行った。
残念…。
安芸と、お昼一緒に食べたいな。
でも、今日は無理だよね。
お料理持ってって貰わなきゃ。
「…。」
ガラガラッ、戸を開ける音。足音は、安芸だ。
『突然な話だな?』
「うん。何なんか前にも、あって。配管の劣化増えてきてるから
しょうがないんだけどね。」
『被害も出てるからな、それで通行止めって事も考えられるし。』
「そうだよね。…はぁ。」
『元気無いな?大丈夫か?』
安芸の、袖まくり。
見るのは好きなんだけど
袖くしゃくしゃになってるのを見ると
また、お節介の虫が騒ぎかけた。
「だってさ、お客さん来てくれたのに…追い返しちゃったから。」
そうか、と安芸が俺の肩に手を置く。
『そりゃあ、心苦しいよな。間が悪かった。また、来てくれるよ…お前の店なんだから。』
安芸は、優しい。
「ありがとう。」
密封容器にいくつか分けた
お料理を手提げに入れて渡す。
『大量じゃないみたいだな。まだ昼前だからか。』
「定食分のじゃなくて、カウンターに並べるのだよ。まぁ、早くに言ってくれてまだ助かったかな。」
安芸、慌てて来てくれたの?
少し額に汗が出てる。
そっと背伸びをして、
左の袂から薄めのハンカチ
を取り出して汗をおさえる。
『…あ、悪い。ハンカチ汚れるからいいぞ。』
「いいの。飾りにある訳じゃないんだから。…外まだ少し暑いからね。それに、安芸は長袖でしょ?」
『本当、よく出来た嫁だよ。』
「安芸のおかげだね。さて、じゃあ…お店戸の締りしたら家に帰るよ。夜は、何食べたい?」
店の外まで安芸を見送る。
安芸は、まだまだ勤務だから。
『そうだな、時期的に秋刀魚が食べたいかな。』
「!いいね、七輪あるしやってみるよ。楽しみにしててね。」
『終わったら、すぐ帰る。また、後でな。』
さらさらと頭を安芸に撫でられて手を振る。
「…。」
安芸の背中、何回今まで見たか知れない。
でも、好き。
『おい、美祢!美祢!』
「ん…?」
目を覚ますと、視界が
グニャリとして見える。
頭が割れそうに痛い。
『夕飯作ったまま寝てるなんて、珍しいな?体調悪いのか。』
「ん…お帰りなさい。なんか、頭がめちゃくちゃ痛い。」
ソファーに寝てたみたいで、すぐ横に安芸がいる。
『風邪か?』
ゆっくり抱き起こされて
額に手を当てられる。
「熱っぽくも、寒くも無いよ。なんなんだろ。」
躊躇いも無く、次は鎖骨の下辺りまで安芸が服の中へ手を差し入れる。
『そうだな。身体は普通だ。あれだ、偏頭痛ってやつか?』
「俺、滅多に頭痛はしないんだよ。…あ、今はもう平気。夕飯食べよっか、心配かけてごめんね。」
たまには、頭痛くらいするか。一応は、生身の身体なんだ。
着替えてきてある安芸を見て、座卓に秋刀魚を並べられて良かった、と一人で
満足する。
『まだ、秋刀魚熱い。という事は…美祢寝てたんじゃなくて気を失ってたんじゃ?』
実は、自分でもあんまり
覚えてない。
でも、確かに長い時間
じゃなかった。ほんの数分だけだと思う。
「近い内に、診てもらおうかな?」
『誰にだ?』
伊吹か、大地あたりかな。
「ん、大地かな?」
どちらも、真面目で
親身になってくれる二人だ。
『なんなら、葵に聞いてやるぞ?直接。』
秋刀魚の骨を綺麗に取って皿の端に除ける安芸を見つめる。
「…俺、消えたりしないよね?」
『⁉︎まさか、消える訳無い‼︎どうしたんだ?…何か心当たりがあるのか。』
「無いよ、無いけどね…ちょっと怖くてさ。変だよね、不死なのに。」
『泣くな…美祢。』
「泣いてないよ…」
その日の夕飯は、俺は
ほとんど手を付けられなかった。
早めに風呂に入って、髪を乾かし…布団に入る。明日から連休で良かった。店も休みだし、安芸も休みらしい。
『今、大地に電話したよ。明日昼までには来てくれる、だから安心しろ。』
「えぇ…っ、そんな、迷惑掛けちゃうよ…大地、遠いのに。申し訳ない。」
安芸も布団に、いつもより早めに入る。
合わせてくれなくて、いいんだよ?
でも…嬉しい。
『迷惑掛けるし、申し訳ないけど…美祢のためだ。』
真剣な瞳で、そう告げられて。
安芸は、いつだって
俺を第一に考えてくれて居る事が心底有難い。
「俺や安芸、他の守護者も病気になったりするんだよね?不死だけど。」
『必ず治るんだよ。病気になったりしても。治りも早い。大丈夫だ…。』
きゅっ、と抱き合って
お互いの鼓動を感じ合う。
「こうしてると…何があってもきっと平気だよ。」
あったかい、優しい…いい匂い。
安芸、ずっとこうしていたい。
ゆっくりと、意識が
落ちていく。
深い深い、底に…。
安芸Side.
『大地、美祢が起きてこなくて、見に行ったら美祢…布団に寝ていなかった。』
家を訪ねてきた大地を迎えて、事情を説明した。
『いなくなった、と?まさか…安芸が一緒にいただろう?』
医師が持つような、大きめの鞄を持って大地も
困惑している。
『実はさっき、少しだけ外に出てたんだ。』
『…馬鹿ですか。ちゃんと見ててあげないと。』
弱ったな。だいたい
なんでいなくなったのか。
それすら見当もつかない。
神力で探す事が出来るのは
この辺なら、近くて出雲くらいだろう。
『安芸、俺はここに居るから美祢が行きそうな所を探してください。一応、刑事なんですよね?お任せします。』
とりあえず、店か。
でも、連休は定休日だって言ってたしな。
そんな遠くには行っていない筈だ。
近くの公園から、警察署、美祢の行動範囲内であろう
箇所を探す。
見つからない…。
走り疲れて、地面に
しゃがみ込む。
ふと、近くに影ができる。
『?』
裸足じゃないか…
まさか、
バッ、と顔を上げると
「安芸か?どうしたんだ、おかしな格好して。」
不思議な違和感。
なんだか、美祢の雰囲気が
いつもと違う。
『お前、なんで逃げ出したりしたんだ?大地が待ってるぞ。』
裸足のまま歩かせては
怪我をする、と背負うつもりで屈む。
「あ、履物がな…よくわからなくて。」
遠慮無く、背負われている美祢に益々疑惑を抱く。
なんだか、身体の
あたりがいつもと違う。
『なぁ…美祢。』
「ん?何だ安芸。」
『俺、やっとお前の異変が解ったよ。』
今は、とりあえず家につれて帰ろう。
話は、それからだ。
随分待ちぼうけをくった
大地に釈明をして
一度風呂に入れた美祢の髪を乾かし、大地に会わせた。
「?この人は、誰」
『み、美祢…お前やっぱり…』
『安芸、心当たりがあるなら、説明してくれないか?』
大地を忘れてしまった、ではなくて。
この美祢は本当に知らないんだ。
それは、美祢が美祢じゃなくなった証拠だ。
「本当に…知らないんだ。申し訳ない。」
『美祢、すまん。』
大地の前だったが、浴衣の
美祢の胸を触ってみた。
「なっ、何する貴様…」
『女の美祢は、胸が…こう豊かだからな。この美祢は、多分転生する前の美祢だ。』
大地は、冷静な目でこちらを見ている。
『…で、どこを診れば?俺は性別まで変えられないからな?そういうのは葵さんに頼め。』
ぱしん、と胸を触った手をはたき落とした美祢が
俺を見上げる。
「俺は、どこも悪くない。何なんだ…また俺を、」
『違う。お前が昨日…本当に自分の身に起こった事で不安そうだったから。薬師を、大地を呼んだだけだ。』
「…そうか、ありがとう。だが、心配は要らない。もう、宿に帰らないと。」
美祢は、自分が殺された事も知らないんだ。
時代が流れて居る事にも
まだピンと来ないらしい。
『宿なんか無い。お前は、俺と住んでる。』
こうやって、改めて言うのも何だか恥ずかしい。
「?なんでまた」
『美祢、美祢は安芸のお嫁さんみたいな存在だよ。』
大地も、美祢が驚かないように一つずつ事実を伝えていく。
「?でも、俺は男だし。」
『今朝までは、女だったんだぞ。美祢は。』
『確認したんだ?安芸』
クスクス茶化すように笑う大地は、置いといて。
「それは、本当なの?…安芸と寝てるの?それじゃあ。」
複雑そうな表情で、美祢が俺を見ている。
『…まぁ、一応。』
「えぇ…やっぱり、そうなんだ?女になった俺がいたんだよね。さっきまで…。
だったらさ、安芸は早く女の美祢にあいたい?」
可愛い顔して、本当
人を惑わす天才だよな。
美祢は。
『どちらも、美祢なんだよな。』
『あぁ、だから俺も邪険にしたくなくて困ってるよ。』
「俺と、今までみたいに一緒に暮らすのは嫌?」
あの美祢が…すっかり
美青年に成長した美祢が
あんな事言うなんて。
『そんな事は、無い。』
「俺、家事は出来るから生活には困らない筈だよ?安芸が、望むなら…夜だって『もう、分かったから…大地に白い目で見られるから、勘弁して下さい!』」
もう、大地を呼ばなきゃよかった。とか後悔してる場合でもないが。
『後は、安芸がなんとかしてやるんだな。どうしようも無くなったら、葵さんに泣き付いたらいい。』
サラッと、帰り支度をする大地を尻目に
「選びなよ、安芸。」
迫って来る美祢。
『ちょっと、落ち着け。大地を見送ってからにしてくれないか?お前の事で呼んだ相手だぞ、分かるだろ。』
素直に頷き、玄関まで共に美祢がついて来た。
『悪かったな、はるばる来てもらったのに。』
『俺も、役不足だったから。気にするな、美祢…またな。』
後ろで深々と美祢がお辞儀をしていた。
大地が、何か薬を置いてったらしい。美祢が中身を見る。
「滋養強壮…の?なんだぁ。」
特に興味が無かったらしく
袋にしまう。
『美祢…あの、幕末の頃の美祢だよな。懐かしい。』
澄んだ瞳に、あどけなさが残る頬っぺた。
「そんな、久しぶりなんだね。俺は時間を、直接感じていないからかな。なんだか、安芸少し若くなった風に見えるよ。それは、女の美祢のおかげ?」
充分すぎる色香を纏う
美祢に見つめられると、
気が気じゃない。
『お前は、相変わらず男泣かせだな。』
「俺、帰らないよ?消えたくない。だから、お願い…安芸。俺にも、時間を下さい。」
…っ。
確かに、一番理不尽な最後だったよな。
しかも、俺は美祢を一人にしてしまった。
『柳部に聞いた。あの日酷く傷付いた美祢が自棄を起こして、最後の任務を務めたって。その後、まさか葵に殺害されるなんてな。』
居間に戻り、なんとなく
頭の中が段々と、整理がついて来た気がした。
「安芸が、望まなかった未来なんだよね。だから、俺は存在しちゃいけないんだ。でも…安芸を想う気持ちは俺から生まれたのに。なんだか、ズルイよ。俺だって…ちょっとは幸せになりたかった。」
辛すぎる心境を、包み隠さず話してくれた美祢。
『美祢…。』
「安芸に、触れて欲しい。俺は夢でも幻でも無いよ?ここに居るから。忘れないで。」
床に正座していた美祢を抱きしめる。
『忘れた日なんか、一日も無い。ずっとアレは俺の罪だと感じて居た。』
「安芸。大好きな匂い…昔から変わらないね。煙草、まだ吸ってるの?」
『…本数は、減らしてる。』
「もしかして、女の美祢に言われたの?」
黙って頷く。
「へぇ~…。なんだか意外。安芸って、曲げない人かと思ってたけど。」
綺麗なうなじをなぞり、
頬に口づける。
『…』
「安芸、俺に遠慮しないでよ。」
『大切だから、全てを晒せないんだ。本当に、幻じゃないんだよな…ちゃんと肌も温かい。』
柔らかな肌も、すらっとした手足も…まぎれもない本当の人間のものだ。
「いつも、どこでする?」
『な、何を…』
「何、今更。寝所だろ?だったら俺は寝所は、イヤだから。」
美祢からの誘惑が、
断ち切れない。
『…美祢。』
「そう呼ばれるの、やっぱり好きだよ。…安芸、迷ってる?誰に申し訳ないの?」
まるで、見透かすような
美祢の問いに目が覚めるような思いだ。
『申し訳ないなんて、思わない。美祢は、一人しかいない。俺の目の前にいるのが…そうだ。』
目を細めて、嬉しそうに美祢が笑う。
「ん…。」
しなやかな美祢の両腕が、
俺の肩にまわる。
間近で見ると、人形みたいに長いまつ毛。
重なる唇の、柔らかな感触。
やっぱり美祢は、男であろうが女であろうが美祢だった。
それに気が付き、安堵を覚える。
「煙草、減らして正解じゃない?ぴりぴりしなくなった。」
『…そうか。』
「あの…さ、俺こういうのは経験無いから落ち着かない。」
美祢の彷徨う視線が、
それを告げていた。
あの、美祢が怖がっているという事か。
『大丈夫だ。あまり構えなければ…』
浴衣の帯を解き、
合わせを広げる。
「ぁ…」
『……』
見てしまった事を後悔した。
女の美祢の下着を履いている。考えが追いつかず頭がくらくらする。
「なんだか、不思議な履き物だな。下がって来ないから便利だ。」
いや、まぁ…そうなんだけど。
これじゃあますます、
俺が罪悪感増すだけなんだが。
『待て!』
居間の戸が勢い良く開けられ手が止まる。
「…?葵、さま。どうして」
いっ…
『葵…まさか…聞いたのか?』
大地が話したのか?
『いや。美祢の気でな。残念だが、美祢は女の方の美祢に戻す。その者は、過去の出来事を知り過ぎている。私の鏡で元に戻せるから安心しろ。』
いそいそと、浴衣を着直し
どこか覚悟を決めたような視線で美祢が葵を見る。
「やっぱり、俺が存在していい時代は無いんだな。あの時代だけだったか。まさか、入れ替わりが成功するとは思わなかったし。また、葵様に引導を渡されるなら…悔いは、無い。」
『また、お前を失うのか?俺は…美祢を。二度も。』
美祢を庇うように抱きしめる。
「安芸…。」
『美祢、そこに居直れ。今回は私は直接手を下さない。さ、この鏡を見るのだ。』
至極、優しい口調の葵と
固唾を飲んでいる俺と
躊躇いながら、手渡された鏡を受け取る美祢。
「…安芸。」
美祢のまつ毛が涙で
濡れている。
『お前は、どんな姿でも美祢だ。…辛い思いばかりさせてるよな。すまない。』
握った拳が震えている。
「今世で幸せにしてくれてありがとう。嬉しかった。もう、会う事も無くなるけど…俺は、最初から安芸だけを見てたよ。これからも、そのつもり。だから、悲しくない。」
最後に微笑みを浮かべて
美祢は、葵の鏡の魔力で
光の粒子になって消えた。
覗けば、真実の姿が映り
偽りのモノを消してしまう
力が働いた。
『…!』
まるで、半身を無くしたような気持ちに襲われる。
『安芸、お前危なかったな?あれは生霊の一種だぞ。』
『え…っ、』
『ことに及ぶ前で良かったな?アレはお前達の後悔の念が生み出したモノだ。』
まさか、生霊があんなに
鮮明に?
『しかも、お前達の力のおかげ?せいで?より、人間に近く実体化してしまった…たちの悪いモノだ。さぁ、寝所に行けば美祢が寝てないか?』
言われるままに、寝所に行き戸を開けると
「…」
美祢が居た。
何事も無かったように
すやすや寝ている。
『惑わされたな、安芸。最近美祢の様子…おかしかったろ?』
そうだ、昨日は調子が悪そうで。頭痛が酷いと言ってた。意識を無くしたとも取れたし…。
前兆があったんだな。
『気づかずに…情けない。悪かった、美祢。』
胎児のように横を向いて寝ている美祢の頭を優しく撫でる。
『体調が本当に悪い時と、今回の見分けは付きにくい。だから、用心しろ。あまり過去に囚われてはならない。じゃないと、またあのようなモノを生み出してしまう。美祢は、いい子だよ。私が見込んだだけある、安芸…お前と美祢ならお互いが幸福をもたらす。私は、そういう目でお前達を見ているよ。』
『葵…。』
『急に悪かったな。では、私は失礼するよ。また、な…。』
葵が、美祢の頭をそっと撫でて微笑み
空間から消えた。
『まさか、あんな事を生霊にしようとしてたなんて…ショックだな。さすがに。』
はぁ、とため息をつきながらベッドに腰掛ける。
サラサラの美祢の髪の先は
誘うように、くるっと巻かれていて。指先に絡めたくなる。
『ようするに、煩悩の塊が実体化したワケだ。』
「ん~…。」
そろそろ美祢が起きそうだ。
『さよなら、幻の美祢…。』
幸せにしてくれて、ありがとうだなんて…それは
俺が言いたい言葉だ。
きっと、忘れない。
たとえ幻でも。
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