オッサンと、鬼神(後に嫁)

あきすと

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君との誓い

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刀を捨て、一変した
自分の世界は
やっぱり、あまりに理不尽で目を覆いたくなるような現実ばかりだった。

大きな何かを失ったような気がした。

このまま、こんな思いのままで生きて行くなんて
耐えられるだろうか?

すんなりと受け止めたつもりでいたはずが、
日に日に…何とも言い難い後悔のような物を背負っている事に、気がついてしまった。

自分は、誰かの為に在りたい。
けど、行き過ぎた思いを
良い様に利用されて
それに一早く気づいてくれたのは、紛れもない
安芸だった。

出雲に忠告された
心技体の、要の『心』が
美祢はまだ、育って行く途中だから。と…
少なくとも、心配されていたのは確かだった。

技と体で、いくら
やり過ごしていたつもりになっても…いつか必ず
心を蝕む。
そんな美祢は見たくない。

一人で何でも出来てしまう
自分には、今一つ分からなかった。
出来てしまう事の何が悪い?自らの善悪には、
揺るがない自信を持っていただけに…

葵様から神格を与えられる為に、殺害されてしまった時には裏切られたとばかり
思っていた。
誰にも言えない功績を
讃えて、まさかの神格化。

手放しでは、喜べない。
安芸が、しばらく抜け殻みたいになっていた俺を訪ねて来た時に言った。

『これからは、俺がお前を守る。』
少しずつ、少しずつ
過去の自分が塗り替えられて行く。
葵様から許しを得て、
安芸がしばらく逗留してくれる事になって。

労ってくれる周りの皆、
安芸はなんだか複雑な顔をして時々庭先で煙草を吹かしていた。

あの様子だと、本当は
言いたいことあるのに考え過ぎて面と向かって言えないから悩んでる時の安芸だ。
分かりやすい。
遠慮して言わないでいる方が、どうかな…と思って。

そっと背後から安芸に近寄り『間違いじゃ、無いよな?』

わっ、…気付かれてた。
「え?何が…」

『お前の中の大切な芯が折れただろ?俺たちは、卑怯な遣り方で表面だけを取り繕おうとする。そんな大人が多い。美祢は、その中で犠牲になったんじゃないのか…と、考えてた。お前の事ばっかり考えてる。おかしいだろ?俺が、どうこうできる問題じゃないってのにな。』
 

この人って、
なんて愚直。
いや、嬉しいんだ。
まさか、自分の後先の事や
心の仲間で心配してくれるなんて。

「…ありがとう。安芸は、卑怯なんかじゃないし。最初から、ずっと本音でしか俺には接して来なかっただろ。それが、きっと救いだった。」

真面目な顔で、ふと空を見上げた安芸。
『お前が、何か始める気持ちになるまで…それを傍で見守りたい。…どうだろう?』

視線を戻し、目が合った。
縁側で草履を履き
その背中に静かに抱き付いた。
「気持ちは、嬉しい。けど、そんな罪滅ぼしみたいな事はしないで欲しい。俺は、アンタ…うぅん、安芸には何にもされてないから。」
広くて、大きい。
頼りになる背中。
無意識に、この背中を
追っていた時期があった。

あの頃の自分とは、もう
違うのかもしれない。
けど、今は別の意味で…。

『俺が唯一、背中を見せられる相手は美祢だけだ。罪滅ぼしなんかじゃない…これは俺の勝手なエゴで願い出てる。』

「…わかった。正直有難いよ。一人でいるとまだ、あの時の感覚を思い出したりして辛かったんだ。」
『あの時?』

「殺される瞬間…。」
『……。』

「うゎっ…⁉︎」
ぐいっ、と両腕を前に
引っ張られて両脚で落ちないようにしがみ付く。

『忘れろ。』
がばっ、と開いた脚が
気になったけど
おんぶしている安芸は
なんだか楽しそうで、
俺を慰めようとしてくれてるのかな?

子供にするみたいに、木の下に行ったりして。

「…ん。時間がね、経てば多分俺は平気だよ。安芸だって、近くに居てくれるんだし。」

あったかい背中。
優しい匂いと、煙草の匂い。

『ゆっくりしたら良い。時間は山ほどあるからな、いくらでも付き合う。』
「…ねぇ、安芸。」

『どうした?』

「俺、女になったんだよ。いつか言ってた事は、本気にしていい?」

安芸の脚が止まる。
『美祢…。後悔するぞ?』

「まだしてもないのに、後悔しないよ。じゃあ、冗談だった?」

そんなわけ、無い。
安芸は、冗談さえ下手だ。

『確かに、思ってた。』
「じゃあ、もう…遅かったかな?」

そろそろ下ろして、と縁側で座る。安芸は背中を向けたまま。

『遅いなんて思ってもない。本気に決まってる。』

「良かった。…じゃあ、安芸が俺を嫌になるまで今日から俺、安芸の嫁さんになるよ。」

ようやくこっちを向いてくれたかと思ったら、安芸は
跪き俺の手を取って甲に
口付けた。









なんとなーくのプロポーズ的内容でした。
いい加減、仲良しイチャイチャだから結婚しろ。とは思っていましたが。
さんざん、少し前の話で安芸に『嫁にしたい』みたいな事を言われていた美祢ですから、アッサリ目に終わりました。

安芸としても、渇望していたのは
間違いない…美祢との祝言です。
ここで、大事なのは
あくまで『二人きりの誓い』みたいな
プロポーズになっている事です。

誰にも言わないで、二人の間での
結婚に近いです。正式な手続きも無くですから、本当はしてないけど
心ではしっかり結ばれた、と。

二人で住み始めた頃は、まだ書いてなかったと思うので近々書けたらなぁ、と。

閲覧ありがとうございます。


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