オッサンと、鬼神(後に嫁)

あきすと

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閉塞と、吐息。(美祢、女体版)

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イライライライラ…
煙草の吸い殻だけが灰皿に増える。

「ちょっと、最近吸い過ぎなんじゃない?いくら死なないっても限度があるよ。」

分かってるんだ、美祢。
でも。やめられるならもう、そうしてる。

指先が冷たいのも、
咳込む事があるのも
自覚はしてる。

「お前、俺に禁煙とか言うなよ?」
「したくないなら、しなけりゃいいよ。でも…煙草吸い続けるなら、あんまり近寄らないで。」

…やばい、
めっちゃ可愛い顔して、何言うかと思えば。
笑顔で、心臓刺されたような気分だ。

「はぁっ?な、何で…近寄らないでって。死刑並みだぞ、それ。」
「…ごめんなさい。黙ってたけど俺、煙草の煙が近くにあると息が苦しいし、声出にくいんだ。」
明らかに健康に悪いし、美祢にも迷惑掛けてて
近付けないなら。

「じゃあ、本数減らしてくってのは?」
「最初から無理して続かないよりかは良いね。俺も協力できないかな?ガムとか…禁煙のあるよね。電子タバコとか。」

嫌だ。
あんなのに頼らずに
出来れば最終的には禁煙したい。

「とりあえず本数削減に努めるから、近寄るなとか言うなよな。…娘に嫌われた父親みたいでなんか切ない。」

冷め切った眼で見上げる美祢に背中に嫌な汗をかきながら言うと、
「親子じゃないって…年齢差気にしてんだから。早く大人二人に見られたい。」

わざわざ地雷踏んだらしく…
美祢は昔から、コンプレックスがいくつかあって。中でも一番酷いのは、成長に関してのものだ。

早く大人になりたい。
それが、美祢の口癖みたいに思えた。
今でも少し、気にしているようで。外で親子に間違われるのが一番キツイらしい。

「充分大人らしいし、お前は俺よりか大人だ。こんな可愛いのに、しっかりしてるからギャップだな。そこいらの大人よりな。」

む~、と
むくれる美祢の頬っぺたを両手で、つまみ。
「こういう所は子どもみたいで…残っててむしろ感謝してるよ、俺は。」

ふるふると首を横に振って、美祢が手から逃れる。
そして、ゆるっと背中に抱き付いてきた。

「安芸、安芸の匂い。煙草くさいけど好きだな、俺…安芸の煙草吸う姿昔から好きだった。煙管から、煙草に変わっても。カッコイイって見てた。」

…今日は、美祢のYes.の日か?
「カッコで吸わないけどな。どーも、手持ち無沙汰って奴だ。情けない話。」
しかし、頑張るには
それなりのご褒美たる物も無いと。

その辺は、美祢
どう出るか?

「禁煙できたら?」
さらさらの美祢の髪を撫でながら、美祢に問えば
「う~ん…」と、
少し考え込む。

「そうだね…あんまり思いつかないけど、うちのお店貸切で二人でご飯食べるとか?」

美祢の店か。
たしかに、嬉しい内容だ。
「…なんか今思えば、」
「特別な事って難しいね?」
「!そう。俺も今思った。日頃から出掛けたりは、もちろんしてるし。旅行も年に数回(だいたいは県会議の後に観光するだけのものだ)行くから。」
「うん。頑張った人を労うって言えば…やっぱり美味しいご飯と、楽しい時間かなぁって。」

修羅みたいだった美祢からは、考えられないような言葉に、思わず美祢を抱き上げる。

「わぁっ、びっくりしたぁ…。」

どこか、しなのある美祢の身体を抱き上げたまま近くのソファーに座る。

「…どしたの?安芸。」
「いや、柔らかくてな。美祢のあちこちが。」

「…そう?気持ちよかったりする?」
どんどん無意識に可愛くなっていく美祢を、見ていると何だか…自分がおいて行かれそうなら気がしたりするが。それは、杞憂だと思いたい。

「柔らかいというか…手に馴染む。華奢な割りに。」
滑らかな頬に手を伸ばして視線を合わせる。

ジッと見入る美祢の瞳の奥が相変わらず綺麗で。

はた、と思う。
こんなにも愛らしい姿で、どこに狂気があったのかと。
美祢は、前世が朔夜姫。
現世では、剣士から神格を得て今に至るが。
そう思うと何の因果かと問いたくなる。

「馴染むのは、きっと朔夜姫の事があるからじゃない?」
「前世とは言え、別だろう?…どうした、妬きもちか。」

独占欲なんてのが、美祢にもあるのだろうか。
「ちが…っ、そんなんじゃないよ。でも、それに近いかな。」
自信の無さそうな頼りなげな笑顔が浮かぶ。
頬に差す赤みが、
色白な美祢の顔に映える。

「………」
触れるだけの口づけをして、美祢が身じろぐ。
「あ、これ以上は駄目…。」
まぁ、案の定お預けをくらって。
いつもの事だから馴れてるけど。

「了解。」
「…ごめんね?安芸。」
「謝る事じゃ無いだろ?毎日一緒なんだから、気にしないって。」

美祢も、わりと今日は流されてたから
有りかと思ったけど…
まぁ。
焦るのは、みっともないからな。

「…うん、そだね。安芸、ありがとう。やっぱり優しい。」
俺の膝の上に、美祢がいるってだけでも…十分心乱されるけどな。

「最近あんまり髪結ってやれてないな。」
「あ、…ホントだ。明日じゃあお願いしていいかな?」
「コアラがいいな。お客さんに時々髪型とかリクエストされるんだよね。」
コアラは、髪型の一つで
俺が一番得意な物でもある。

「美祢可愛いからな、仕方無い。」
「安芸にそんな特技があるなんて、すごいよね。意外かな。」

昔の朔夜姫の結い上げた髪と、幕末の、剣士だった頃の美祢の髪と。

思い出してしまう。
いや、ダブってしまうの間違いか。

「結うのも、編むのも何と無く似てるからか。後は、留めるだけだし。美祢の長い髪を梳かしてやるのは、なんか楽しいよ。」

「今からの時期は、浴衣も着る機会増えるだろうから安芸にまた、髪お願いするかも。」

そっか、もう…夏が近いか。
季節が何回変わっても、
やっぱり夏は短く感じるものだ。
あっという間に、秋になり雪が降り出す。
歳は、いまでこそ
ほとんど取らないが
移り変わる四季を見ていると、時の速さが感じられる。

長く不死をしていると、
そんな些細な変化にすら慣れてしまっていた。

だが、美祢が傍に居てくれるようになってからだ。

人間の頃のように、
一日一日を、きちんと
体感している。

「また、浴衣で一緒に出かけるか。」

「!え、安芸も浴衣着てくれるんだ?…わぁ、なんか嬉しい。絶対似合うね。安芸の和装って結構希少だからなぁ。」

自分の事みたいに、
ワクワクしている姿が
どうにも愛しい。

本意じゃないが…少し
神格化してくれた葵に
感謝したくなった。



数時間後。

「っあ、無理無理!ニコチンくれ~っ…」

「はっや。根性無し。」
根性無しって、美祢に
この、苦しみは分かるまい。

「イライラする~…」
「貧乏揺すりやめてね。」

「じゃあ、何か気の紛れそうなモンくれ。」
「…いいよ?ちょっと眼つむって。」



「………」
ふにゅ、と唇に何かが触れた。
眼を開くと
「…!」
慌てて美祢が俺から離れる。
「え……」
「だって、これくらいしか思いつかなかった。」
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