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⑦辰海視点

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キスをした、悠寅と。
嬉しくて、切ない気持ちが後から後から
あふれて来た。

涙目になっている悠寅を見て、
きっと自分が想うよりも
前世から俺と悠寅は思い合っていたのかもしれないと感じた。

出会ってから半年以上が経過して、
お互いの距離感にも慣れては来た。
抱擁されて、安らぐはずなのに
胸が騒ぐ。

「やっぱりどこか懐かしい。」
『覚えているのか?』
「なんとなくだけど。こんな風に抱き締めたり、思ったより側に居たんだよね。」

悠寅は俺を抱き締めて、大きな手のひらで
たくさん触れて来る。
まるで、生きている確認をするみたいに。
ちょっとおかしくて、笑いそうに
なるんだけど、悠寅の表情は真剣
そのものだから、やっぱり笑えない。

『何度、無邪気に抱きついて来るお前を襲おうと思ったか。』
「そんな事、考えてたの?」
『でも、お前は既に違う存在からの侵蝕が始まっていて…』
「あの村には、昔から龍を継ぐ存在が生まれて来る事になってたんだよね。一度、本気で調べてみようと思ったんだけど、怖くなって止めちゃった。」

前世の記憶も確かに大切ではあるけど
ここ最近の大切は少し、内容が変わって来た。
『忘れても良いのかもしれない。お前も俺も…随分と昔の話だからな。』
「悠寅、でも本当に驚いたなぁ。まさか人間として生まれ変わって来てるなんて。」

スラリとした長身に、気後れする程の
男性な容貌。
『今世でどうしても叶えたい事があった。やっと輪廻の輪の中に戻して貰ったのは良かったが…人間の感情には驚かされるばっかりで。』
「悠寅が叶えたい事なんて、ちょっと気になるなぁ。」
『俺の願いは、必ず成就するだろうと思ってる。』

威風堂々と言う言葉が、そのまま似合う。
手のひらで俺の頬をそっと包み込んで
笑みを浮かべる一連の流れに
俺はただ惚れ惚れしてしまう。
「良かったら、聞かせて?悠寅の願い事。」

身動きも取れない距離で見つめられて
視野いっぱいが悠寅。
『辰海を娶る事だ。』

え…?
「めと、る…って?お嫁さんにするってこと?」
かなりアホな表情で、悠寅に一応
問うてみる。
『あぁ、そのつもりで輪廻して来たんだと思ってる。』

白虎として言ってるのか、悠寅として言っているのかとかを通り越している。
「俺、は今回も男なんだけど…っ」
まさかとは思う。

今さっき着付けてくれたのだから、
充分に伝わっているんじゃないかと
思うものの。
『さすがに理解している。今のこの世に性別はあって無い様なものだと思っていたけど。』

「本気なの…っ?だって、それじゃあ悠寅は俺の事……」
顔が熱い、どうしてこんな事になったのか
流れが色々とおかしいけど。
『前世から好きで、仕方なかった。』

うわぁ~…恥ずかしい!
でも同じくらいに嬉しい。
「…俺も、ね…悠寅としても白虎としても好きなんだと思う。」
言わなきゃ、悠寅が折角伝えてくれたのに。

『俺としては、なかば交際してるつもりでは居た。』
「気が早いなぁ…ふふっ、でも悠寅はいつだって俺に優しく接してくれて。誠実だよね。」

外がゆっくりと日没していく。
想いを確かめあった直後に、また何度となく
キスを重ねられて。
このまま何となく、身を委ねても良い気さえしていた。

縁日の雰囲気が気分を高揚させる。
すぐ隣には悠寅が居てくれて
本当なら手も繋ぎたいけれど、我慢する。
あったかい、優しい、心地良くて
頭がフワフワしてる。

『辰海、匂いが濃くなってる。』
悠寅は俺から出ていると言う、フェロモン
の様なものを逐一その鋭い鼻で
感知できるから、きっと俺の変化にも
気が付きやすいんだろう。

花火を2人で見上げてる時に、少しだけ
指を絡め合った。
こんなにも近くに居ながら、もどかしい。

『終わったら、俺の部屋に行く?』
「~ソレってさぁ…」
『辰海のフェロモンに俺は耐えてるんだけど。コレかなり試されてる。』
「断らないの、知ってる癖に…。」

ちょっと強引な所があるけど、優しい事を
知ってるから平気なんだ。
『やっと人になって、愛せる。』

何気なく言った言葉だとは思うけど
前世での白虎の想いを昇華できるかもしれないと思えば、感慨深い。

「うん、それは本当に俺も嬉しい。」
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