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「ダメ、恥ずかしい…」
『うん、うん。』
今度は悠寅の手のひらが俺の頭を少しだけ
雑に撫でて来る。
「俺、カンジ悪くて嫌なヤツだよな。」
『まぁ、でもさ…裏返しに考えると俺は可愛くて仕方ないって思える。』

温かい手のひらは、俺の頬を軽く摘んで
感触を楽しんでる。
「可愛くなんか無いよ。…はぁ、もう。」

俺は単純に西原 悠寅が好きなんだと
やっと自覚して来た。


夏休みがやって来た。
どうやら悠寅の家の神社では、小さな
縁日が開かれるらしくて
スマホのメッセージで誘いを受けた。

俺は週に何度か家庭教師のバイトをしながら
休みを満喫している。
せっかくの縁日だから、悠寅も時々着こなす
様な和装に挑戦してみたい。

なんて言ったら、少し前に悠寅が着ていた
浴衣などがまだ保管してあるらしくて
着せて貰える事になった。

俺からすれば、かなりの非日常体験で
ワクワクしながら神社まで歩いて向かった。

悠寅の家に来るのはこれで3回目程だ。
家の中は一般家庭とさほど変わらない。
とりあえずシャワーは浴びて来たけれど
夜になっても外気温はまだまだ暑くて
エアコンの効いた室内との温度差に
頭がクラクラしてしまいそう。

座敷の部屋に案内されて、悠寅がひと通り
着付けまでしてくれる事になっている。
『髪、伸びたな。襟足暑くないか?』
「悠寅も少し伸びたな。ん、何とか平気。」
『じゃあ、着付けて行くから。着てる服は上下とも脱いで。』
「…大人しめの柄で良かった。ド派手だったらどうしようかと思ってた。」
『ま、今の俺なら選ばない静かな柄だけど。落ち着いてて品があるとは思う。』

俺の身長を配慮して、着付けてくれる
悠寅をジーッと見ていた。
「凄いなぁ、こんな事まで出来るなんて」
『見過ぎ、さっきから。気が散るんだけど?』
「え?!ぁ、ごめんなさい。真剣にして貰ってるのに。」

すぐに、悠寅の笑い声がして
『ウソだって。ちょっと気恥ずかしかっただけ。』
と、言われて一気に脱力しかけた。
「見ちゃうよ、悠寅はやっぱりカッコ良いんだから。」
藍地の浴衣を着せて貰った。
『俺の事、結構気に掛けてくれて…嬉しい。』
「ぅん…」

一回目を逸らした後に、もう一度
視線を合わせようとすると
どうしてこんなにも恥ずかしいのか。

『俺さ、辰の唇…実はよく盗み見てる。食べてる時とか。』
「え~…そうなの?」
『綺麗なカタチしてるの、気付いてる?』
「そんなこと言われたら、マスクして来なきゃって。冗談だけどね。」

悠寅がそんなトコ見てたなんて、
意識しだすと…見られるのが恥ずかしくて
しょうがない。

あ、近い悠寅。キスしちゃうのかな?
「…ッん…」
変な声出ちゃう。
悠寅の唇がくすぐったいくらいに
静かに重なり合う。

脳が喜んでるのが分かった。
気持ちよくて、嬉しくて、笑いたくなる。

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