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命を狙う存在が居る。
恐怖よりも先に、物心ついた自分が思った事は
『またか。』
だった。
病に伏していた前世の最後とは違い、今世では肉体も健康そのもの。
あの白虎に襲われる事があっても、きっと大丈夫だろうと思っていたのに。
今世で白虎に再会したのは、大学の受験会場でだった。
「あいつ・・・、こんな所に」
姿形は、人間そのもの。
白髪のとても目立つ髪は、冬空の下凍えそうだった俺を追いつめた
前世の記憶を呼び起こさせる。
凍てつくような寒さの中、虎の姿ではないのに
瞬時に白虎だと判った。
紗雪が降り出した頃、試験は開始された。
背格好を見て、何度も身を震わせていた感覚がよみがえる。
今は、試験に集中しなきゃいけないのに、まさかとんでもない運命の悪戯だと
自分の逃れられない宿命を恨みたくなる。
試験の休憩時間中に、お昼ご飯を自分の席で食べる事になっている。
なんとなく、白虎の事が気がかりで
食事はどうしているのかなどと気になってしまう。
白虎と同じ教室にまでなったから、もう腹をくくるしかないのかと思う。
白い髪、自分の席から白虎の後頭部が見える。
本当に、人間になってまで自分をまた今世ででも狙っているのだろうか?
疑問が尽きない。
信じられない、理屈じゃ説明も出来ない。
ただ、因果なのだと思うだけ。
朝方から自分で用意してきた弁当の蓋を開ける。
席の移動ははばかられる状態だから、皆それぞれ静かな昼食時間を過ごしている。
かと思えば、数メートル先に見える白髪の白虎は席を立って
会場を出て行った。
「・・・ぁ、」
人間として、生活してる筈なんだろうけど。
午後の試験が始まるまで、改めて最後の悪あがきをしていると
白虎が席に戻って来た。
試験が終わった後の俺は、どこか抜け殻みたいになってしまいそうで
休みの日を利用して地元でも有名な梅の名所へと散歩がてら
出掛ける事にした。
ダッフルコートにマフラーをぐるりと巻いて、外に出かけると
まだまだ寒い真冬の空気が耳や頬を凍てつかせる。
小さな神社ではあるけれど、梅が咲き始めているせいか
人がいつもより多めだ。
紅梅も白梅も同時に楽しめる、写真映えする神社として遠方から
わざわざ観光としてやって来る人もいるらしい。
雪がちらつくまでに、帰宅しようと決めていた。
少し前に、絵馬に託した願いは成就したので感謝をこめて
参拝してから神社を後にしようとすると雪が降り出して来た。
生憎、傘は持っておらずコートにもフードが無い。
『辰、また風邪を引く・・・』
すぐ後ろから声がして、振り返ろうとしたら紺色の和傘が
目に飛び込んで来た。
久し振りに聞いた、『シン』と言う呼び方。
懐かしい思いで、言葉も心も追い付かない。
白い髪の奥に、金の双眸が見える。
「白、虎・・・」
水分の少ないさらさらの雪が降る中、瞳にただ映る白虎の姿を
焼き付ける様に見つめている。
『辰、やっぱり辰なのか。どうしてお前はあの頃と何一つ変わらない?』
「白虎、が・・・変わり過ぎなんだよ。でも、どうして?人間に・・・」
それよりも、これよりも何より
白虎が
「何でそんな恰好してんの?」
和装姿で驚いている。
『・・・そんな事か。他にいくらでも聞く事があるだろうに。』
「そうなんだけどさ、昔の姿と比べたら大違い過ぎるし」
白虎は呆れた風に笑って、神社の外れまで歩く。
俺は、何の警戒心も無くついて歩く。
『辰、お前は昔よりも随分と警戒心が無くなったな?』
まっすぐに自分へと伸ばされる傘や、腕から上の容貌を改めてまじまじと
見上げる。
「だって、もう同じ人同士なんだから。」
『甘いな。俺の心はまだあの頃のままかもしれないと言うのに。』
白虎は気づいてないかもしれないけれど、こんなに嬉しそうに
瞳を細めて笑っている人のどこをどう、警戒したら良いのか
教えて欲しいくらい。
恐怖よりも先に、物心ついた自分が思った事は
『またか。』
だった。
病に伏していた前世の最後とは違い、今世では肉体も健康そのもの。
あの白虎に襲われる事があっても、きっと大丈夫だろうと思っていたのに。
今世で白虎に再会したのは、大学の受験会場でだった。
「あいつ・・・、こんな所に」
姿形は、人間そのもの。
白髪のとても目立つ髪は、冬空の下凍えそうだった俺を追いつめた
前世の記憶を呼び起こさせる。
凍てつくような寒さの中、虎の姿ではないのに
瞬時に白虎だと判った。
紗雪が降り出した頃、試験は開始された。
背格好を見て、何度も身を震わせていた感覚がよみがえる。
今は、試験に集中しなきゃいけないのに、まさかとんでもない運命の悪戯だと
自分の逃れられない宿命を恨みたくなる。
試験の休憩時間中に、お昼ご飯を自分の席で食べる事になっている。
なんとなく、白虎の事が気がかりで
食事はどうしているのかなどと気になってしまう。
白虎と同じ教室にまでなったから、もう腹をくくるしかないのかと思う。
白い髪、自分の席から白虎の後頭部が見える。
本当に、人間になってまで自分をまた今世ででも狙っているのだろうか?
疑問が尽きない。
信じられない、理屈じゃ説明も出来ない。
ただ、因果なのだと思うだけ。
朝方から自分で用意してきた弁当の蓋を開ける。
席の移動ははばかられる状態だから、皆それぞれ静かな昼食時間を過ごしている。
かと思えば、数メートル先に見える白髪の白虎は席を立って
会場を出て行った。
「・・・ぁ、」
人間として、生活してる筈なんだろうけど。
午後の試験が始まるまで、改めて最後の悪あがきをしていると
白虎が席に戻って来た。
試験が終わった後の俺は、どこか抜け殻みたいになってしまいそうで
休みの日を利用して地元でも有名な梅の名所へと散歩がてら
出掛ける事にした。
ダッフルコートにマフラーをぐるりと巻いて、外に出かけると
まだまだ寒い真冬の空気が耳や頬を凍てつかせる。
小さな神社ではあるけれど、梅が咲き始めているせいか
人がいつもより多めだ。
紅梅も白梅も同時に楽しめる、写真映えする神社として遠方から
わざわざ観光としてやって来る人もいるらしい。
雪がちらつくまでに、帰宅しようと決めていた。
少し前に、絵馬に託した願いは成就したので感謝をこめて
参拝してから神社を後にしようとすると雪が降り出して来た。
生憎、傘は持っておらずコートにもフードが無い。
『辰、また風邪を引く・・・』
すぐ後ろから声がして、振り返ろうとしたら紺色の和傘が
目に飛び込んで来た。
久し振りに聞いた、『シン』と言う呼び方。
懐かしい思いで、言葉も心も追い付かない。
白い髪の奥に、金の双眸が見える。
「白、虎・・・」
水分の少ないさらさらの雪が降る中、瞳にただ映る白虎の姿を
焼き付ける様に見つめている。
『辰、やっぱり辰なのか。どうしてお前はあの頃と何一つ変わらない?』
「白虎、が・・・変わり過ぎなんだよ。でも、どうして?人間に・・・」
それよりも、これよりも何より
白虎が
「何でそんな恰好してんの?」
和装姿で驚いている。
『・・・そんな事か。他にいくらでも聞く事があるだろうに。』
「そうなんだけどさ、昔の姿と比べたら大違い過ぎるし」
白虎は呆れた風に笑って、神社の外れまで歩く。
俺は、何の警戒心も無くついて歩く。
『辰、お前は昔よりも随分と警戒心が無くなったな?』
まっすぐに自分へと伸ばされる傘や、腕から上の容貌を改めてまじまじと
見上げる。
「だって、もう同じ人同士なんだから。」
『甘いな。俺の心はまだあの頃のままかもしれないと言うのに。』
白虎は気づいてないかもしれないけれど、こんなに嬉しそうに
瞳を細めて笑っている人のどこをどう、警戒したら良いのか
教えて欲しいくらい。
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