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『パフェ…?甘いもの好きなんだ、…ふーん。』

実は、奎はあの後すぐに帰ってなかった事が判明して(詳しくはストーリートークでのやり取り参照で)
奎の情緒が落ち着くまで、しばらく俺は待つことにした。

元気が無いというよりかは、何かを思い出して傷付いているんだと思う。
俺が奎の神経を逆なでしない様に、一応は気を付けていたし。
連絡も、不用意にしない様にと思ってたら。

急に奎からのメッセージが来て『距離感が極端すぎると』デレ?が
始まった。

恐ろしく、取り扱い注意な兄が出来てしまったものだ。
イヤでも無いし、困りもしないけど…そうだなぁ。
傷付けたくない、悲しませたくないって素直に思った。

一緒に出掛けてみるか?と俺から誘ってみた。
どんな罵倒が帰って来るかと思ったら、意外にも
あっさり『行く。』とだけ、返事が来て俺は逆に動揺していたのだった。

『誘ったくせに、ビックリしてる感じだな?』
2人席で、膝を突き合わせる男2人には不似合いそうなパフェ。
「奎のそれ、変わってんね~。大人っぽいっての?」
テーブルにはパフェグラスが2つ。
『…これは、カフェシンフォニーって言うらしい。』

メニューがかなり豊富で、選ぶ楽しみがありすぎる専門店にして
よかったと思う。
「俺は、ストロベリーパフェ。こんなの食べるの何年ぶりだろ?」

甘いものを食べたら、よく女の子はホッとするとか言うのを聞いてたけど。
目の前のこの兄には…果たしてそんな事が通用するんだろうか?

『コーヒーの味わいが美味しいって書いてあったから。』
「奎、ブラック飲めないんだっけ?」
じ、と奎の顔を見てたずねると
『…濃くて苦いのが、無理なだけ。』
そっけなく返された。

パッと見、綺麗。よく見たら美人(でも表情筋が仕事してないけど)
奎がアイスを掬って、食べている。
しばらくして、眉根を寄せる。
あれ?もしかして…

「アイス、冷たいの?」
『…アイスだから、そう』
「頭痛するタイプだ。奎…可愛い」
『こんなにもアイス、普段から食べないからなぁ。永咲、食べて…?』

うは…っ、最後のワードだけで結構ドキドキしてしまう俺は
相当今、アホになってる?
この暑い中、長袖のシャツを着て待ち合わせ場所に現れた奎を見て
俺は少しドキドキしていたのだ。

うっすらと頬は紅い。ちょっと走ってる姿を見たからか。
奎でも、俺との待ち合わせに走ったりするんだ?
「てか、汗すご…!なんで長袖なんだよ。」
あ、しまった。
俺は、ついつい思った事を口に出す所があって。
今のは、良くなかったよなー。

奎は、タオルハンカチをポケットから取り出して
額の汗を拭いている。

『肌、見せれなくて…暑いけど、我慢してるんだ。』
義務的な答えが返ってきた。
怒りもしないのは、きっと線引きをされてるからだと悟った。

「大丈夫かよ、早く店の中入ろう。涼しいからさ。」
奎の手を引いて、俺は待ち合わせ場所から少し歩いた目当ての店に
2人で入る。

予想はしてたけど、やっぱり女の子だらけ。
スマホのシャッター音、笑い声の中席に案内されると、
人目を気にしながらもメニューに注視したのだった。


『食べないのか?』
「ぇ…?あ、ゴメン。じゃ、一口だけ。スプーンまだ使ってないから綺麗だから」
奎は、一瞬固まって
『そんな、気を遣われると…俺も気まずいし』
スプーンを持つ手を止めて、俺を凝視してくる。

「いや、なんかさ…奎は潔癖っぽいから。嫌がる事はしないようにって」
『あのね、永咲。この前は急におかしくなったって思っただろうけど』
「……」
『急じゃなくて、ちょっとある事を思い出すと俺は冷静じゃなくなっちゃって…』
「俺が、弟ってのが腑に落ちないって感じなのは、関係してる?」

俺は、奎の食べかけのアイスを少しだけ掬って食べてみる。

『美味しい?』
「ちゃんとコーヒーの味する。」
『あ、それで…何の話だったっけ?』
上の空になりかけたのか、奎が確認する。
やっぱり、触れて欲しくない話なんだと思う。

「俺が弟なのが、不満なんじゃないの?」
『永咲は、嫌いじゃないよ。』
無表情で言われた。
信じていいのかも分からない。でも、信じなきゃやってられない。
嫌いで居る事と、好きで居る事。
一体どちらが大変なんだろうかと、漠然と考えてみた。

俺は、やっぱり前者なんじゃないかと思う。

『本当に、美味しそうに食べるなぁ…子供みたい。』
「ちょっとは、涼しくなった?」
『うん。少し冷えそうなくらい。でも、大丈夫。』
「…なぁ、今日帰るのか」
『俺は、うん。永咲もたまにはお母さんに、顔見せてあげないと。』

奎は、母親との関係が良好でちょくちょく実家にも
顔を出してるみたいだ。

「お兄ちゃんらしい事言うね~」
『だって、実際そうでしょ?』
俺と奎が店を出る頃には、午後3時頃をまわっていて
外は、更に灼熱地獄と化している。
白い肌が日に焼けてしまわないかと心配したが、
この奎が予防を怠るとは思えなかった。

「で、ウチ来るの?」
『この前は…結局帰ってしまったし』
「そうだね、一応買い物は昨日行ったから何かしらあるし。」
日を避けて歩きながら、地下道に入る。
生暖かい風が通路にゆるく吹き込んでいる。

『不思議だね、元は家族でも一緒に住んでなかったり、違う家に帰る事になるなんて。』
「皆で住んでれば、無駄な家賃も払わなくて済むんだろうけど。」
地下鉄の改札を抜けて、ホームに移動する。

『先に言っておくけど、俺わりと人混みが苦手で…』
「そんな感じする、何かあったら声掛けて。俺のそばに居ろよ。」

到着した列車の車内は、涼しくて人は多いもののつり革に繋がってから
隣に来た奎の顔色を見た。
俺からの視線を感じた奎が少し上目に見上げて来て
『そんなに心配?』
「うん。かなり…」

奎は、何事も無かった様に窓の外を見ている。
景色なんて無いに等しい地下鉄で、映し出される姿は
自分の虚像にも思える。

奎の右手はつり革、左手は俺のシャツの裾をこっそりつまんでいる事に
気が付いて。俺は、悶えそうになりながらその光景を見ていた。
そっぽを見ながらも、手は想いに素直である事が微笑ましい。

ちょいちょい可愛い事をする奎が、何となく愛おしくて。
また地上に戻ってくると家までもう少しの所で
『…ぁ…ちょっと、待って…』
奎が立ち止まった。
俺も足を止めて、奎の様子を見る。

顔色が悪い。目の動きが…
「立ち眩み…?ちょっと、日陰で休むか。」
『ごめん…』
奎が俺にもたれて来て、抱き留めた。
「危な…、奎もしかして体調悪いのに無理して来てくれた?」
ゆるゆると首を左右に振って、
『そんな事無いから。今日、来るのが楽しみであんまり寝れなくて…』

まさか、と思わず言いたくなる奎の言葉に俺は耳を疑った。
「飲み物、買おうか」
『平気…もう大学の近くだし』
「でも、」
『少し落ち着いたからもう平気。今日は散々だね、俺…』

奎は、かなり繊細で気を張りっぱなしなのも
俺には伝わっている。

蝉時雨で、耳がおかしくなりそうな程に外の世界は
暑くて、気が滅入る。


「あつーい…エアコン入れてけば良かった。」
『うぅ、本当に…』
玄関を開けると熱気が全身で感じられて、
「無理、シャワー浴びたい。」
『え?いいよ。入って来たら?』
「でも、奎がいるのに」
『そんな、気にしなくていいよ。それにね…ちょっとさっきから眠くって』

エアコンの利き始めた部屋で、奎が水分を摂って落ち着いた頃。
気が緩んできたんだろうか?
少し休ませて様子を見よう。

「奎も後でシャワー浴びたかったら使って良いからな。」
『うん。ありがとう…永咲。ちょっと…寝させて』

リビングのソファの前で、テーブルに伏して寝ようとしてる
奎を見てると思わず声を掛けたくなる。
「そんなトコで寝るの?体痛くしない?」

『んん、だって…もう眠くてこの方がラク。』
言っても聞かないのは、よく分かってるからそっとしておこう。
俺が、着替えの準備をしていると
すぐに、奎は寝てしまった。
起こさない様に、静かにシャワーを浴びに行った。



『ん…っ……』
小さな声が聞こえて、俺はイヤフォンを外した。
日がゆっくりと傾きかけていてキッチンに立つ。

背中に、あたたかい感触が伝わった。
「随分と可愛い事なさるんですね?お兄様」
『…寝起きだからかな?』

信じられないけど、どうやら奎は俺に抱き着いているのか。
感慨深い。
なかなか懐いてはくれないだろうと思っていただけに。
『あ、そっか。永咲はシャワー浴びて来たんだよね。』
パッと俺から離れて、奎は隣に立つ。

「気になるんなら、使っていいって。」
『でも…着替え持って来てないから「そう言えば、この前奎が持って来たバッグ返すの忘れてた。」
…あ、そういえば。その中に着替え入れて来てるんだった。』
「この前?何でまた」

これは、あんまり言及しない方が良いのか?
『それは、言いたくない。でも、シャワーから戻ったら…言う、かも。』
「奎、寝ぼけて風呂で転ぶなよ。」
野菜の下処理をしつつ、ちらっと奎を振り返って声を掛けた。

さっき、奎が寝てる内に料理動画を見ていたおかげで
夕飯を作る段取りも手際よくできる。
キッチンを綺麗に保っているのは、料理を作りやすい環境に
しておきたいからなんだろう。

奎の食の好みを聞いておけばよかったと思いながら
できた料理をテーブルに並べる。

タイミングよく奎がリビングに戻って来た。
黒髪がより一層深みのある色へと変化しているのを見て
変に意識してしまいそうになる。

「髪、乾かさないの?」
『今、暑くて無理。』
「癖つかない、…か。」
『…俺に過保護しても、しょうがないよ?』

夕飯を2人で摂りながら、時折たわいない話をして
意外にも奎が俺の作った食事を褒めてくれた辺りから
すっかり舞い上がってしまって、記憶があんまり残ってない。

なんでだろう?って思えば、多分
奎がすごく表情豊かだったから。

ずーっと、見惚れてた。
いつもの無表情は、一体どこに置いてきたんだろう?(洗い流した?)
「めっちゃ、笑ってるじゃん。どうしたぁ?」
『ぇ…そっかな。そんな、意識はしてなかったんだけど。改めて言われると
恥ずかしいよ。』

また、余計な事言ってしまったか?
「今日、疲れたんだな…ありがと。付き合ってくれて。」
『疲れたっていうか、緊張してた…。』

はぁ?あれが、どう緊張してるのかと。
「もしかして、…ぇ?俺と話したりするのが、緊張してるっての?」
奎は目を泳がせながら、最終的に頷いた。
『一応は、する。顔見ると特に。』

「何でー?」
『何でって…それは、その…、俺とは全然違ってハキハキしてるし。明るくてチャラいのかなって思ったら
結構真面目そうで、優しいし。思ってたのと良い意味で全然違うから。』

無表情なのは、俺が原因と言う事でいいんだろうか。
「奎さ、今のは告白みたいで俺が緊張したわ。」
『初めて会った時の数時間で、かなりビックリさせられた。』
「俺も、誰でも良い訳では無かったけど…あの頃は可愛い女の子が来てくれないかなーって
よこしまな気持で、呼んじゃってたからなぁ。」

『懐かしい…依頼が来た時は目を疑ったけど。』
「依頼内容は、変更できませんって言われてただけに。」
『えっと、…膝枕で寝かしつけだったよね。』

2年前の俺が、本当にアホ過ぎて今更ながら引く。
「…その節はお世話にナリマシタ。」
『あんな経験初めてでさ、すっごい緊張した。』
「やば…思い出してきた。はっず!!」

ベッドの上に、奎が座って俺がその膝を枕にして
寝かしつけて貰うという。
『結局、一緒に俺も寝ちゃって…気まずかった。』

ベッドで一緒に寝た経験が、もう先にあるものだから
余計に奎は緊張してたんだろうな。











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