上 下
1 / 4

①もたらされるもの

しおりを挟む
僕には幼馴染がいる。
とても、頭が良くてカッコよくて優しい自慢の幼馴染。

姉でさえも、ベタ褒めにする様な幼馴染だ。
子供の頃から、同じ学年でクラスも何度か一緒になった事がある。
義務教育の期間は、本当によく遊んだ仲のいい幼馴染だ。

とにかく、クラスでも人気があって女の子には持てるし
同性からも好かれているのは、はたから見ても分かる程だった。

高校はお互いに違うから、たまに駅で見かける程になっていた。

僕は、幼馴染の事を好きになって行く自分が心の奥で
何となく怖い気がして会えなくなった事にも
ホッとしてしまっていた。

いつも、違う女の子と駅で見かける事にもショックだったけれど
これでいいのだと必死に思い込んでいた。

『玲くん、彼女と本屋さんで見かけたよ。』
姉からの報告を聞かされて。
複雑な思いで、居間で猫と遊んでいたら
『真裕は、いいの~?』
姉からのからかいの言葉がうっとおしい。

高校から帰って来て、大学生の姉はメイクをした顔に
お出かけの服を着ている。

「デート行くんでしょ?ほっといてよ。」
『玲くん、面食いだからねぇ…真裕あせってるんじゃない?』

何と、困った事に…僕の幼馴染への想いは姉には
見透かされているのだった。

「どうせ、いつも長続きしないもん。」
『…それも、どうかと思うけどね~。』

高校生の割に大人っぽい玲は、社会人とも交際しているとか
噂を母からも聞いていて。

本当に、いつもどういう経緯で知り合うのか不思議だ。

姉は、僕に言いたい放題言ってから彼氏が家の前まで迎えに来て
出掛けて行った。

「…僕はもう、恋したくないんだよ。ね、じゅげむ。」

猫のじゅげむの毛並みに顔を埋めて、モフモフする。
と、インターフォンが鳴った。

「!!??」
びっくりしたじゅげむが、僕の顔を蹴り上げて逃げていく。
「イタタ、はぁ~い……」
起き上がって、廊下に出て玄関のドアを開ける。

『真裕、久し振り。』
「…玲くん…ぇ、なに?珍しいね。ウチに来るなんて。」

僕と玲の家は、斜め向かいの近所に住んでいる。
『ウチの父親の実家から。おすそ分け。』

はい、と手渡された白い箱には
「ぶどう、前にも貰ったよね。ありがとう。」
『ここ何年か、生育が悪かったんだけど。今年はいい出来らしいからさ。おばさんにヨロシクって。』
「嬉しい…うん、伝えておくね。」
『真裕さ…』

玲が僕の顔をじっと覗き込んで、指を伸ばしてくる。
「ぇ、わ…っ」
『顔に、毛?沢山ついてるけど。そっか、お前の家ネコ飼ってたよな。』
「うん。そうそう。いっぱいついてるカモ…」
『白い毛、スゲー沢山…』
「……」

玲の指先が顔に触れて、余計にくすぐったい。
『取り切れんって。なー、たまにはさ…俺とも遊んでくれよな。』
「へ…?だって、彼女いるんじゃないの?」
『ぁ~居ない時もあるし。それに、幼馴染なんだから。さみしい事言うなよ。』
「ん、玲が迷惑じゃないなら良いよ?僕は、高校の友達遠い子ばっかだし。」
『そういう話も聞きたいからさ。んじゃな~』

相変わらず、颯爽としていて尾を引かない。
玲は、昔から距離感が絶妙なんだと思う。

自分が寂しくならない様に、生きているのかな?と感じる瞬間が多々あった。

それこそ、僕の都合はあんまり気にしちゃくれない。
なのに、一緒に居れるだけで嬉しかった。

会えばまた、心が動くだろうし。
フツウに触れて来る気安さが、なんだか憎くて愛おしい。

家のドアを開ければ、玲の家は簡単に視界に入る。
愛に行けない距離ではないから、かえって辛い。

僕の高校三年間は、ただただ玲への想いを燻ぶらせて終わった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

処理中です...