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クソ彼氏と夕立の憂い(番外編です)

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青春のページには、いつも央未がいた。

期末テストが終われば、間もなく夏休みに入り
会える機会が減る。

単純に、俺は寂しかった。
なんとなく学校に行けば、央未とは会えるものだと
思っていたから。

『終業式長かった~』
HRが終わってから、俺のクラスに入って来た央未は
帰って行くクラスメイトを視線で追っていた。

「倒れてた奴いたよな、2年生で」
『危ない…、頭打ったらどうすんのって』
「お前は?」

帰り支度をして、待たせていた央未と教室を出る。
『俺?…は~、まぁまぁ元気だよ。』
半袖のシャツからのぞく、細めの腕。
日焼けとは縁遠いのが分かる。

高校3年生の夏休みは、一体どんなものになるのか。
進路も何となくしか見えてはいない。
遠い未来の事の様に思えてならない、自分がもしかしたら
央未と離れ離れになるなんて。

「よかった。昨日のドシャ降りに濡れて、風邪ひいてないか心配してた。」
『夜に、電話でも聞いてくれたよね。心配されるのって…ちょっと嬉しいカモ。』
変な事、言うなぁ~って。隣を歩く央未を見て思った。

でも、央未の今までの生活をうかがい見ると理由は簡単に分かる。
「一人でばっかりいるなよ?」
『バイトあるから。平気』
「俺も、バイトはあるけど…。寂しくなる前に言え。飯も食いに来いよ。親には言ってあるから。」

俺は、央未が嬉しそうにしたり安心してる姿を見ると
きっと本人以上に、嬉しいし安心する。

央未はほぼ自炊生活、両親はワーカーホリック。
これが央未の家の中身。
育児放棄じゃないか?って思ってた時期もあったけど
思った以上に央未の自活力が強くて、それを知ってからは
あまり揺るがなくなった。

『あのさぁ、今日で…とりあえずは会わなくなるじゃん。登校日も、あるけどさ…』
昇降口で、靴を履き替えながら央未が立ち止まった。
「うん、……だな」
『俺にも、あいに来てって…言いたくて、その…うん。そういう事。』

トントンとつま先を床につけて、照れ隠しに笑った。
あの央未が…?
可愛すぎる。はぁ~…彼女ともう同じ感覚だろ。
こんな可愛いのと、会えないって何?

「なんなら夏休みは同棲したい。」
『……嬉しいけど、朔の家族がきっと寂しいよ。それは、ダメ。』
あー、ここで理性のカードを切って来るトコロがまた、良い!!
流されないんだよなぁ、しかも俺の家族に気づかいまでしてる。

早いところ、娶りたい。

「お前って、意地らしい…俺の心を締め付けるの上手いよなぁ。」
『あ、でも数学で分からないところあるから。今度教えて欲しいなぁ。』
駅まで歩いて、陽射しのキツさに頭が痛くなりそうな中
央未は、うなじに張り付く髪を指先で避けている。
風で膨らむシャツが、涼しげで視線が合うとあどけなく笑った。

「とりあえず、縁日は明後日だな。絶対、来て欲しい。」
『俺は約束必ず守るよ。夏浴衣、着て行こうかなぁ?』
「え、マジで?……ぅわ、めっちゃ楽しみ!」
『あはっ、俺もね~朔の和装は大好きだよ。』

電車の中でも、ぼーっと央未の事ばっかり見ていた。
いや、なんか不思議なんだよな。
こんなに四六時中一緒に居たいのに
帰る家は別々だなんて意味が分からない。

「帰るのアホくさい。」
『俺も、1人だからさ…ちょっと寂しいけど。』
「俺さ~、将来はお前と暮らすわ。絶対にその方が良いと思う。」
央未は、つり革に捕まって揺られながら俺を振り返って
じーっと見つめて来た。

何か言いたげだけれど、あえて言わなかったのが伝わる。
央未の我慢している部分を、俺が全部叶えてやりたい。
好きになるって、本当に人を変えてしまう。
付き合ってからもう3年は経過してる。
いつも何気なく側で寄り添ってくれる、控え目さと
さっきっみたいな大胆さに翻弄されている。

初恋の成就から、まるで醒めない夢が今でも続いてるみたいだ。

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感想 1

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みんなの感想(1件)

pipin
2023.08.16 pipin

クソ彼氏甥っ子〜を読もうとしたところシリーズ物ということで折角なら最初から読みたいなと思い辿ったのですが、タイトルを見てもよく分からずどの作品からがいいのか...タイトル等で時系列がもう少し分かりやすいと有り難いです!

あきすと
2023.08.16 あきすと

pipinさん、コメントを有難うございます。クソ彼氏シリーズのお話は
多くありまして、段々と時系列が自分でも分かりにくいと思っています。
ナンバリングとタイトルを追記していく予定です。
せっかく、お越しいただきましたのに申し訳ありませんでした。
少しでも、お楽しみいただけますと幸いです。

解除

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