君と糸を、もう一度絡ませたくて。

あきすと

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君がいない

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週明け、俺は浮ついた気持ちのままで出社して実務をこなしている内に
一昨日おきたあれこれが思い出されてきて、今更の羞恥に襲われていた。
おめでたい人と自分でも思う。
藍さんと世界を別つ前に、もう一度勇気を出せた事が振り返れば大袈裟だけど
分かれ目の瞬間だったようにも思える。

藍さんの顔が見たいけど…しょっちゅう相手の、いわば仕事場に顔を出すのは
憚られる。(ウザいと思われたら最後の気もするし)
考えた末、しばらくはあまりお店に行くのを控える事にした。
あ、でも…書店は行きたいんだけどね。

と思って過ごしてたら、もう3週間くらいがあっという間に経ってしまっていて
俺も仕事に追われていた。出張なんかも行ったりしてたら、落ち着いた頃には
紅葉のシーズンな事に気が付いて一人で、帰りの新幹線の中でしんみりと
してしまった。
藍さんのからの連絡は来ない。人の心ってのは、分からないものだ。だから
惹かれてしまうのかな。
分かりたいから、もっと知りたくて好きになって行く気がしてた。
何かこう、微妙に期間があいてしまうとどうしたものかと悩む。
久しぶりーって、テンションでメッセージも…送りづらいし。

本当に忙しいとしても、邪魔したくない。って思う反面、メッセ―ジ打つ暇ない程
忙しい人っている?とかもう頭の中がゴチャゴチャ。
良いと思うんだよ、ストーカーしてるんじゃないし。
テイクアウトで、カフェに買いに行くくらいは。
そう言えば、秋の限定メニューとか出てるらしいけど…。そのせいで客入りはやっぱり
いいんだろうな。
俺は、今回の出張で珍しくお土産を買っていた。もちろん、藍さんに渡すためだ。
スーツの上にはコート…だし?あんまり私的な感じしないんじゃないかな。
出入りの業者感あれば、言う事なしなだろ。
19時ごろに藍さんのカフェに行ってみた。人は、まぁまぁの入りと言った所だ。

あれ…?
いつもの、笑顔の女の子はカウンターに居るんだけど。
藍さんはカウンタに―もフロアにもいない。
まさか、下の書店かな、と思ったけど。ザッとレジを見た感じ
藍さんは居なかった。
背が大きいから、目立つし、階段上がって来る途中にも書店のフロアーは
俯瞰で見たけれど居なかった。
やっぱり休憩かな。

うーん、タイミングの悪い事。
でもせっかく来たんだから、テイクアウトで本日のコーヒーをオーダーした。
こそっ、と笑顔の可愛い店員さんに「店長さんは休憩中ですか?」とたずねると
うーん、と店員さんは困った顔をして
『あの、実は…坂城店長…もうこの店舗にはいなくて、』
「え!?そ、そうなんですか?じゃ、他の店舗に異動?って、何店舗あるんだこのお店」
『当店は3店舗あります。今は新店に行って店長をしてます。』
「じゃ、忙しそうだよね…」
受け渡されたコーヒーを持って、俺は店員さんにお礼を告げて帰路についた。

藍さん…何で言ってくれなかったんだろう。
少し、切なくなって来た。
あー、もー、我慢するの無理だから、連絡しちゃうわー。
今ならメッセージも、めっちゃバンバン送れる気がするし。

とりあえず、家についてからね…。お腹空いた、ガッカリしてるし何か満たされない。
ついでに、すきっ腹にコーヒー飲んでしまったから胃が荒れそう。
3日ぶりの我が家に帰って来た。
嬉しさのあまり、胸が震えている…?ん…?
そんな訳もなく。スマホに着信がある、それを勘違いしていた。
玄関で慌てて応答したら
『春秋?』
ぎゃーーーー、藍さんの声!?
「藍さん!声、聞きたいなって思ってたとこで…」
『いや、さっき前の店に行ったら、スタッフの子が春秋が来てたって、言うから。ホントに
入れ違いで…後追ってたんだけど、見失って』
「え!?俺の事、追っかけて来たんですか、そんな…藍さんが?ちょっと、今…外に出ます。」
『外に出られても、分かんないって。近くに何かコンビニなり目立つ建物とかないの?
てか、俺に何か渡そうとしてたって聞いて…申し訳なくて』

藍さんが…ちょっとした迷子になってしまう前に、家の近くにあるドラッグストアを教えて
そこで落ち合う事にした。
「藍さん、すみません。こんなとこまで来てもらって」
『呼び止めればよかった…でも、そんな余力も無かったし…はぁ、無事に会えてよかった』
「すぐに連絡くださいよ~、」
『うーん、でも…すぐに聞くのは面白くない気がして。』
「はいはい、じゃ、うちにご案内しますよ。ここから3分程ですけどね。」

藍さんは、髪が乱れてて仕事上がりのせいか少し疲れてる感じがにじみ出ている。
「藍さん、新店に異動になったんですね。知らなかった。」
『言ってないからね。』
「もー、また意地悪するし…まぁ、分かったからいいんですけど」
『何でもかんでも知りたいなんて、言うなよ?メンドクサイのは俺、嫌いだ』
「引っ越しては無いんでしょ?」
『住まいは変わってないよ。だから、あえて言わなかった。聞きたきゃ聞けばいいんだし』

藍さんの独特の価値観には、理解するまでに時間がかかる。
言いたい事は分かるのだけど。
「うち、久しぶりに帰って来たんですよ。俺、出張行ってたんで」
『…たべるものある?』
「なーい」
『…じゃ、帰るー』
「デリバリーしましょう?ね、俺が払うんで」
『春秋、人を呼ぶんだったらそれなりの物はさぁ…』
「あ、藍さんに買ったお土産がありますよ。でもー、瓶詰とか、缶詰、変わった調味料くらいなんですけど」
『俺に、お土産なんて買って来てくれるんだ?へー、しかもなかなか俺の趣味趣向を読んでる…。』
「このアパートの1階、カドです。」
『…なんか、最近急に寒くなってきたから心が荒んでる。』

急に、何を言い出すんだろうと思いながら、俺は藍さんを部屋にあげてエアコンをつけた。
「ちょっと時間が遅くなりましたけど、何食べます?藍さん」
『体が温まれば、何でもいい』
藍さんは突っ立ったままでスマホでメニューを吟味している。
俺は、その間に手洗いとうがいを済ませてリビングのソファに座った。
藍さんも隣に来て、メニューを伝えられるとオーダーを済ませて
後は待つだけ。

「藍さん、お疲れですね…あんまり元気も無さそうだし、耳…冷たい」
『今日まで、本当に忙しくて。俺も心に余裕があれば連絡できたんだろうけど、ごめん』
「謝らないでよ、藍さんは頑張ったんだから…ね。」
藍さんにコートを脱がされていく。
『皺になるぞ…』
優しい声、冷たい指先、あたたかい手のひら。
俺は、藍さんを抱き締めてこのまま眠ってしまいたかった。
お互いが疲れていて、満たすものが互いでしかない事を改めて実感する。

首に藍さんの手が這うだけでぞくぞくする。
久しぶりに交わすキスは、相変わらず心地よくて労られているのが伝わって来そうだった。
(後編に続きます)
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