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認めたくない…?

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俺は、いつだって気が付くのが遅い人間だ。
言うのが遅いだろうし、感じてもなお心の奥底で葛藤が待っている。
口に出してもいいのだろうかと。
鈍いとか、無感情なのでは無くて。自分の感情の発露をためらう人は
結構、世の中には多いんだろう。
言わなきゃ損、みたいな世界だから。口を閉ざすものの真意を無かった事にして
素通りしていく。

今日の俺の心模様は、まぁ土砂降りかな。
会社、行きたくない。心を、ジャガーノートで挽かれてる気分だから。
朝から情報量過多で、聞いたはずの言葉が、すぐに消えていく。
はぁ、担当者が変わる時の引き継ぎ…嫌いだわー。
頭が痛い。気圧性の頭痛。
でも、これくらいで具合悪い顔なんて出来やしない。
多分、皆もどこかしら似た様なものだから。
外回りが終わって、お昼も少し過ぎた頃によく行く公園でお昼ご飯を食べる。

あーあ、こんな時に…カジマグのどーでもいい雑談ラジオなんかを聞いたら
どれだけ心が軽くなるだろう。
てか、あいつ…何してんの?まさか、運営側にアカウントをバンされたのかな。
そんな酷い内容とかも無かったと思うし。
むしろ、これから伸びてく人だってのは周知の事実だったハズなのに。
なんで、急に居なくなるのかな。
デニッシュのサンドイッチを食みながら、視線は空。
咀嚼したときのレタスの歯切れの良さが好きだ。
あー、そういえばカジマグのASMRも、ちょっと好きだったなぁ。
イヤホンをしながら、耳の中でリアルの音が流れる。

俺は、ベットで寝ころびながら不思議とくすぐったい感覚にも似た
音の世界に心を弾ませていた。
感覚を共有してるみたいで、なんだか心地いい。
自分は、カジマグのすぐ横に居る訳でもないのに
ドキドキしながら、カジマグの発する音に没頭して
少なからず、5感の内の1つを共にするのだから。
「…今、思うと…えっちじゃん」
大丈夫かよ、俺。

声優の真幸さんの声は、別格だけど。
カジマグのはなんだか、また別の感情を引っ張り出された気分なんだ。
空が高い、羊雲がたくさん浮かんでる。
こうしてる間にも、時間も季節も少しずつ流れていく事実が怖い。
「知り合ったのは、もう結構前の季節なのに…」
俺は、ショックを受けている。
認めざるを得ない。
寂しい。もしかしたら、自分にも原因の一端があったら、とか
よく分かんない考えに結び付けようとしたり。

もしかしたら、スマホを変えてデータの引き継ぎに失敗したのかなぁ、と
色々考える。
俺の、配信で少しカジマグの話をしよう。
もしかしたら聞いてくれるかもしれないし。
聞いてくれて、反応あるかもしれない。前向きにできる事をやってみる気にはなった。
飲み終わった紅茶のカップを、くずかごに捨てて公園を後にした。
車の移動も多いから、やっぱりラジオは重宝するんだよな。
今日は、他の配信者さんの収録を聞きながら運転している。

カジマグと交流をしていた筈の、配信者さんでも
なかなかカジマグの話題には触れていない。
アンテナ張ってる人は、こういった話題にもすぐに触れる人が多いんだけど
前にチラッと聞いた話題でしか、カジマグの事については触れていなかった。
まさか、こんなにも心を揺らす事になるとは思わなくて。

駄目だ―。今日も早く帰宅したらサッサと寝る事にしよう。
また、楽しく話せると思っていただけに引きずる。
しょうがない、今日はなんか鬱憤が溜まってるから晴らさないと
心が重い。頭も痛いし。
定時上がりで、本屋さんに立ち寄る。今日はカフェコーナーでテイクアウトの
ケーキを買って帰った。
月に、1、2度はお楽しみと言うか。ご褒美に買って帰る。
店員さんがものすごく愛想がよくて、時々本屋さんのレジをしてくれる事もある。
雨の日に、俺が2階のフロアでスっ転んで以来、顔見知りになった。
恥ずかしかったけど、めちゃくちゃ心配してくれて
床には滑り止めの加工が施されるようになった。

顔が真っ赤だったのを、今でも覚えてるらしい。(俺は早く忘れて欲しいよ)
今日は、その店員さんはいない。休みなのかな。
つまんね、と思いながら1階に下りていく途中
『あ…、』
ん?…んん?
「…あぁ、店員さん。今日は、書店の方?」
店員さんは、紺色のエプロンに、黒のスラックス。シャツは、白地に窓枠が並んだような細い青の
チェック柄。
『はい、うちは、どっちも回されるんで。あ、テイクアウトですか。良いですね…ありがとうございます』
ほらー、めっちゃ愛想いい。
しかも店員さんは、見た目結構話しかけづらいかんじかと
思いきや、笑顔があどけないんだよね。
俺も、嬉しくて普段あんまりしないような
バイバーイ、と手を振ったりしてしまう。
「お疲れ様、そんじゃ~」
何か、あの店員さんは気が許せるというか。
始めにあんな恥ずかしい姿を、見られてしまったせいもあると思う。
多分、店を回してる側っぽいかな。
副店長って、呼ばれているのを聞いた事がある。

ここのコーヒーは、好きなんだけど。今の時間にのんでしまうと
夜眠れなくなる。休みの前とかなら平気だけど
平日の夕方には、あまり買いに来ない。
甘いコーヒーはすぐに、飲み飽きるから俺が飲めるコーヒーはわりと限られている。

家に帰っていつものルーティン。夕飯は程よい量を作って食べる。
入浴後には楽しみにしていたティラミスを食べた。
口の中が甘い…やけ食いしてやれ~と思って、他にも細々とお菓子を買って来た。
今日はこれ一つだけで充分。
美味しい。一口ごとに、口の中で溶けていく。
ため息が出る前にのみ込んでしまえ。

俺、友達居ない訳でもないのに。何でこんなに落ち込むんだろう。
つらい。胸がいっぱいで…考えるの止めたい。
虚しい、駄目だ…何だろうこれ。
ちょっと、落ち着こう。
歯磨きして、寝る準備もして。部屋を真っ暗にして…
俺はスマホに取り込んである、真幸さんのBLCDを聞く事にした。
イヤホンで、臨場感が半端ない。

自分の事じゃないのに、でも自分に聞こえる声。
これは、大きな勘違いなのに。
体中が、熱い。無意識にブランケットを足で引っ張り、言葉に、声に集中してしまう。
最低かもしれないけど、何の慰めにもならない行為に耽る。
手を下腹部へと伸ばし、罪悪感を首筋に感じながら
熱くて、気持ちが治まらなくて高揚感に導かれる。
中途半端に止めた手のせいで、息がつまりそう。

俺は、誰を…何を思ってこんな事をするんだろう。
ゴソゴソと手を引き抜いて
特有の匂いと、手触りになんとなくうんざりした。



次の日、俺は後輩ちゃんにお菓子をいくつかプレゼントした。
若い子見てると、癒されるわー。
可愛いもんな、反応が。
お菓子あげただけで、絶対知らない人について行きそうな気がする。
俺の後輩ちゃんは、結構ゆるゆるで話してて面白い。
昔、男と付き合っていたとか。ふつーに話してくれる。
あ、ちなみに俺の仲いい後輩ちゃんは、男である。

めっちゃ真面目そうな雰囲気なのに、何だろ?基準がガバガバなんだわ。
でも、仕事はやる時はやる。
魚住 涼24歳。
俺のくだらない話にも付き合ってくれるし、ほんと飽きない。
ちょいちょい、悪乗りがヤバい時もあるけど。俺がたしなめれば、だいたいは
納まる。
『先輩、朝からあのカフェ行ってきましたよ』
「ぁ、マジで?7からオープンだし、寄って来れるか。涼なら」
『モーニングは、さすがに…ですけど。良い感じですよね。店員さんもわりと
フレンドリーですし』
「あそこの、ケーキとかも普通に美味しいからさ。結構行くよ」
『たまに、ワゴンショップもしてますよね。うちの会社の近くにも、来てくれないかなぁ。』

昼休憩は、社内の休憩室で今日は珍しく過ごしてる。
「難しいだろうなぁ…どうだろ。聞いてみるか?」
『先輩、ほとんど外だから。つまんないですよ。』
「涼とも、たまにドライブしてるだろ?」
『ドライブって…まぁ、そんな感じですよね。前は出張も行ってましたし。今は、かなり減ったものの』
「ヤロー2人ってさ、気まずいだけじゃん。」
『んー、俺はあんまり気にしない。先輩は、すぐ緊張しますからね。人見知りって奴ですか。』
「人慣れは、遅い方です。」
『んな、動物みたいな言い方…うける。』
「仲良くなるまでが、メンドクサイ」
えー、と涼が言う。
『仲良くなるまでが楽しいのに。どうやって、距離を詰めるか考えるのが楽しみじゃないですか。』
俺は、そこまでアグレッシブにはなれそうにもない。

『話の早い相手は、良いですよ。人生一回きりで、そんなモタモタしてると。良い物件はすぐに
他の人に取られるのと同じなんでね。』
「…随分と、にゃまいき言う様になったなぁ…俺の後輩も。」
俺は、向かいに座っている涼の頬をゆるくつまんだ。
『へんぱい…』
「ははっ、」
ぱっ、と手を離すと涼は頬を、ラッコみたいに軽くさすっている。
『失恋でも、しましたか?』
「まさか…」
『から元気くらい分かりますよ。』
「恋かどうかも分からないのに?」
『やっぱり。分からないんじゃなくって、認めたくないだけでしょ?心は、完全に持ってかれてますから、
先輩は惚れた側ね。』

涼は、こういうのの察しは異常に鋭いから。
思い当たるけど、素直には頷けない。
許せない気持ちが、あるせいだろうなぁ。
俺は、涼になら…と音声配信アプリ内での事を話してみた。
『許せない、てか…自分になら何かしら、残してくれるだろうって先輩は思っていた。なのに何もなくて
傷ついてる。分かりやすいですねー。好きでしょそれ。なのに、もう居ない。どうするんですか?』
あーあ、もったいなぁ。と、涼は遠慮なく言ってくる。

『探そうっても、手がかりなさすぎですし』
「今日あたり、配信で話題にしてみようかと思う…」
『どうですかね…。それで情報集まるとは思えないな。いちいち、他の人に言わなさそうな人っぽいし
俺なら話題にはしませんね。勘繰られても面倒だし。』

涼ほどドライにもなりきれない俺は、宙ぶらりんでいる。
「モヤるわぁ…。さて、そろそろ戻るぞ涼。」
『はい。…あんまり寂しいんなら、誰か…紹介しますよ?』
涼が俺の背中に、手を添えてくれた。
「もう少し、苦しんでみる…」
『先輩、ほんとドМなんだから~』
「いいんだよ、戻ってきてくれたら…俺はそれだけでいいし」
『発展性ないなぁー、ようは自分がどうしたいか。ですよ?』
「声が聴きたい、だけ」
『だからー、それがもう惚れてるってのに…先輩ピュアピュアすぎ。』

カジマグが、姿を消してから1週間。
寂しさに慣れて来た。
もう、楽しかった瞬間は戻らないだろうと理解してる。
ヤケも起こしてないし。そろそろカジマグの事は忘れていくんだろうと思う。
仕方のない事なんだ。
雨の週末、俺は傘をさしていつもの本屋さんに行く。

カフェランチに来てる人も多い中で、今日は俺は日頃頼まないような
少し甘めのヘーゼルナッツラテを注文した。
副店長と一緒に働いてる小柄な女の子が、本当に笑顔がふわふわしてて
見てるだけでも癒される。
あの子がよく、カップに可愛い絵を描いてくれるのが
俺としては嬉しかった。副店長さんはあんまり描いてるトコ見てないから
描かない方なのかな、と思ってたら
『珍しいの、オーダーしましたね。』と言って受け渡された時に俺は
思わず、顔を上げて副店長さんの顔をガン見した。

気のせいかな?
「…ありがとう、ございます…。」
なんだろう、心に引っ掛かる瞬間があった。
俺は、手にしたカップのスリーブを見て副店長からのメッセージを
ぼーっと見つめながら、窓際の席にたたずんでいた。

「…持って帰ろう」
thank you...と猫ちゃんの絵が描かれていた。
ダメ―…、あの副店長さん可愛い。そっかー、こういうの俺にも描いてくれるんだなぁ。
甘いラテを飲みながら、ゆったりとしたジャズに耳を傾ける。
長居しないつもりで来たのに。
置いてある雑誌に手を伸ばして、興味を引く表紙のものがあったから
読んでいると、なんとカフェ特集で今俺が居る、このお店が取り上げられていた。

ちなみに、俺が副店長だと思っていた店員さんは、厳密にいえばこの
カフェのオーナーになるらしい。
ぶっ、とむせ込みそうになりながらも俺は、振り返ってみた。
忙しそうに、お客さんのオーダーの品を作っている。
席は、足りてはいる。けど…。雨脚が強くなる前には帰ろう。
滞在時間は20分弱だったかな。
カップを片してから、スリーブをジャケットのポケットに入れた。
合間を見計らってテーブルを綺麗にしに来たオーナーさんに
『梅野さん、』
と、呼び留められて
「ぁ…、オーナーさんだったんですね。知らなくて…失礼しました」
『え?…あぁ、雑誌、読まれたんですね。これからも、よろしくお願いします。』
「こちらこそ、あ…メッセージありがとうございます。俺、嬉しくて、」
『…やっぱり、』
「やっぱり?」
『梅野さんの声、どこかで聞いた事がある気がして…気になってるんです』
「こんな鼻声を…?」
『いえ、それがまた、良いんですよ…。』

カウンター内には、違う店員さんが既に働いていた。
「もしかして、休憩ですか?」
『オープンから居たので、上がりです。お時間があればですけど、お話しませんか?下の本屋さんで
少しお待ちいただければ、すぐに来ますので』
オーナーさんは、俺を見下ろすほどの身長で180もう少しはあるだろうか。
俺は、言われるままに1階の本屋さんで時間を潰そうとしてた所に
本当にすぐに、オーナーさんが来てくれた。
「ぁ…、」
『お待たせして、すみません』
「いいえ、早くて驚きました。」
オーナーさんは、俺より年上な感じがして何だか見守られてる雰囲気が伝わって来る。
『…話せそうな場所って難しいですね。さすがに、カフェから似た様な場所も何ですし』
「暇なんで、どこでも行きますよ」
『でも、足元も悪いですし…気が引けます。』
本屋さんの軒先で棒立ちをする大の男2人も、どうかと思うけど。
「そう言えば、俺の声…どこで聞いた事あるんですか?」

もう、ズバッと聞いてしまえ。
『多分ですけど…音声配信の、その…アプリってのがあるんですけどね』
「あ、はい。俺してますよ~」
『…違ってたら、ごめんなさい。』
「お気になさらず~」
『アゲートさん?』

「はい。そうです…。なんだか気恥ずかしいですね。」
『リアルで、会ってる人は会ってますからね。オフ会もありますし』
「そういう雰囲気あんまり得意じゃなくて…」
『俺も、そうですね。時間かけないと難しいです』
「俺もイイですか?」
『…どうぞ、』
「さっき、思ったんですけど…カジキマグロさん?」

静寂が訪れて、オーナーさんは頭を下げた。
『すみません!実は、自分でアカウントを消したんです。』
「あ、やっぱりカジマグなんだ~、そう思って聞くと確かに…カジマグだ」
『いやいや、理由聞かないんですか?』
リアルのカジマグは、俺の反応に不思議そうにしている。
「言いたかったら聞くよ。」
『俺、しつこいメッセージ荒らしに遭って、我慢の限界でやめました。』
「そうなんだ?通報とか、ブロックもした?」
『何人か居たみたいで、しんどくなって…』
「カジマグは、注目されてたからなぁ。多分ね、やっかみだよ。…あー、でも良かった。
俺が原因だったら、とか思ってたし」

『それも、少しはありますけどね。』
カジマグは、眉尻を下げて俺を見つめる。
こんな顔するんだなぁ…やっぱり生身の人間の表情や感情には、心が動く。
「俺が、嫌になった?」
『まさか。その逆です…。』
カジマグは、そっと俺の手を握った。
雨のせいで冷え始めてるのを気にして、あたたかくて大きい手の平に触れられると
心がドキドキした。
普段の口調がこんなにも穏やかだなんて。
「カジマグっていくつなの?」
『アゲ、梅野さんはまだ若いんですよね。…34です、今年で』
「26。7つ離れてるんだ。そっかぁ…俺、カジマグの声好きなんだよね。」
『…寒いですよね?どこ行きましょう』
「カジマグの家は、ここから遠い?」
『近いですよ。そんなに広くもないし男の一人暮らしですが…。』
「ぃく……はっぐしょ!!!」
寒いの我慢してたせいで、くしゃみをする俺にカジマグは笑ってる。
『急ぎましょう。部屋であっためてあげますから』

カジマグは、俺のみっともない場面にまた遭遇してしまった訳だけど。
傘をさして横に並んで歩くと、気持ちが和んだ。
寒いけど。カジマグは俺がライブ中に鼻かんでるのも何回も聞いてるし
あんまり、気にもしてないだろうな。
ワクワクする、楽しい。
15分程歩いた程の距離のマンションに案内された。
エレベータでの無言の間に、俺は髪をカジマグに撫でられた。
『ふわくしゃ…、』
カジマグは、目を細めて俺を見る。
「見下ろすんじゃない…!」
『……!すみません』
「なーんちゃって…あはは、」
『梅野さん、アゲートさん過ぎますよ。びっくりした。』
エレベーターから下りて5階に来た。
部屋の施錠が解かれて、カジマグにどうぞ、と促される。
「ひろ!!何ココ?バー?カウンターまである…」
『どうしましょ?まだ夕方だし、夕食にはかなり早い。あたたかい飲み物で?』
「スープとかあったら、いいなぁ」
『ありますよ、手製ではありますが冷凍保存してるのが。定期的に作り置くんです』
「あと、タオルあったら…貸してほしい。と、ティッシュもちょうだい」
『色々勝手に使って下さいね。風邪引かせる訳にはいきませんから。』

カジマグが俺のジャケットを預かると、水気をタオルで吸ってハンガーに掛けた。
俺の肩にタオルを乗せてくれる。
髪を拭いて、空調が効き始める頃には俺はカウンターに座らされて
スープをご馳走になった。
「コンソメスープ、これ…美味しいあったまる。」
『レンズ豆とか、野菜多めのもので作ってます』
「…あのさ、時々敬語になってるよ?俺もタメ口OKなら…いいかな」
『職業柄ですね…おっと。俺は全然。アゲートさんは、そのまんまがいいです』
「春秋って言うんだけど。下の名前」
『俺の好きな季節です。どちらも』
「カジマグは?名前、知りたい…」

体が温まってきた所で、また少し元気を取り戻せた気がした。
『俺の名前は…さっきの雑誌に出てましたよ?』
くすくす笑って、カジマグは言うけど。
そこまでしっかり見て無かった。
「なんだろ…、思い浮かびもしないや」
『坂城 藍…』
「あい?藍くん?えー、なんかカッコよくない。」
『そんな事言われるのは、初めてかも。あんまりイメージとは合わないらしくて』
「でも、名は体を表すでしょ?俺は、似合うなぁって思う」

ご馳走様、と手を合わせるとまた、カジマグが俺の頭を撫でた。
『髪、乾いたみたいで…良かった。温まっていくと良いよ』
「ん、そうする…ありがとう。」
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