君を守る為の盾となろう

あきすと

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過去編です。

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(過去編です)

折り重なった体の重みで、目が覚めた。
お気に入りの着物を汚すのは、血の赤。
自らの血と、もう一人
「龍河…?」
左胸が赤く血に染まっている。

傍らには、龍河の携行銃が置かれていた。
『2人共、目が覚めたら一度私の元へ来ておくれ。』

何の気配もなく、背後から声が聞こえた。
そもそも、この何もない様な空間が奇妙だった。

『説明せずとも、わかる…だろう?伊予。』
龍河が咳き込む。体が動いていて、ほっとした。
ゆっくりと体を起こすと、何とか態勢を保ちながら声の方を向く。

『伊予、こん人に何を言うても無駄じゃあ。黙って、ハイハイ言うとる方が利口っちゅうモンじゃろ。』
龍河は、傍に落ちている銃を拾い上げて弾をこめ始めた。
「何をする気だ、りゅ『黙っちょきぃ、…てっ』」

発砲した先に、勿論誰の姿も無い。
なのに、空間に血?の様なものが飛び散る。
「ぅわ…おまえ、なんて事を…!?」
『ココはあん人の腑の中じゃ、おまん…全ての黒幕が誰かゆうて考えた事も無いんじゃろ?』

龍河の言葉に、一瞬意味が分からなくて目を瞬かせていると
辺り一面が見慣れた景色に切り替わった。
『やるな、姿を目で捉えるばかりではなく…読めるのか私の気配が。』

何もない空間から、まさか自分の屋敷の庭に飛ばされるなんて
思ってもみなくて。
「死んでしまったかと思った…。」
『その通りだよ。ご両人は、いわば生まれ変わった。と言ってもいい…しかしその代償を私に払ってもらいたくてな。』
おぼつかない足取りで、龍河は庭の池にたたずむ青年?の
方へと歩き出す。

俺は、ただその場に居すくんでしまっていて歩き出せずにいる。
ひっそりと思う、いつも自分は龍河の背中を見つめている側だったと。

よくて、傍ら。窮地はその背中を見ているだけ。
同じ種族ではないにしても、龍河は本当にいつも俺を守る事に
全力で、それこそ命まで賭けてしまえる男だ。
(普段はただの吞兵衛かと思う程なのに)

今この瞬間にだって、どんな相手であってもひるむ事なく立ち向かう。

あぁ、だから俺も自分の命が惜しくないと思えてしまったのだろうな。
信じている、から信じ合える。に変わった時に
俺の中で、龍河の存在は特別となっていたのだ。

『そんなつぶてで、私を…本当に殺せたら。良かったのになぁ。』
青年はニコリと笑って左手をソッと挙げた。

微風が止まった。
いや、瞬きさえもできない。
息さえも。
これは、考えられない話だ。

今、おそらく時の流れが止められている。
『おもしろい、だろう?』

龍河は青年にたどり着く手前で、固まっている。

苦しい…、駄目だ。
相手は恐らく、もう人間では…無い。

手のひらを青年はゆっくりと返す。
『ほら、気をつけねば…また死んでしまうぞ。』

「……がは…っ、…はぁ……ぁ…」
肺に急速に送り込まれた呼気に驚いて、息を乱す。

『龍河、は池に落ちたか。勢いが余ったな。…さて、どうしようか?私のもとで働かないか。』
少しずつ、自発呼吸を取り戻しながら池に目をやった。
本当に、龍河が池に落っこちていて思わず吹き出してしまった。

「何を、すれば?」
『伊予、お前の命を狙うものはもう居ない。なぜならば、アレは私が差し向けた刺客だったから。』
「ぇ…、あなたが?」
『すべては、今日のこの日の為だよ。さぁ、2人まとめて面倒見てやる。どんな融通もきいてやろう。生活の保障はしっかりとする。』
急に現実的な話を振られて、俺は戸惑っていた。

池から上がって来た龍河が髪を振り立てる。
『1番敵に回した無い奴は、むしろ味方にしちょけ。とな…?』
「龍河…」
『その通り、私は何らかの意思そのものの具現化だ。白にも黒にもなってしまう。故に移ろいやすい。そして、現象を起こす為のいわば、駒が要る。』
「駒…か。」
『民人の敵になるくらいなら、ここで果てた方がマシじゃ。』
『やれやれ、教育とやらが必要だな。まぁ、いくらでも説いてやろう。この世界の美しさから…汚さまでをな。』

青年は池の上を歩き、俺のもとに来て脚を止めた。
『そこの傾城…この男を私のもとに連れて来てくれ。本人の意思で、と言う事だ。』
「あなたは、一体…どこの」
『名は多く持っている。が、意味のない事だ。見た者が感じる事が全てなのだよ。では、頼んだぞ。伊予…。』

もう1発の銃声が聞こえた。
無駄である事は、この場の誰もが理解していた。

『哀しい遠吠えの様だな。幼き犬よ。早く、主を守る立派な番犬と成れ。』

青年は苦笑いをして、その姿をくらませた。

まるで、幻影を見ている様な不思議な感覚だけが残った。
「馬鹿だな、あの人に銃なんて通じるわけが無い。」
吸い込まれそうな紫色の瞳は、瞳孔が開いていて
虹彩は煌く水晶の様に美しかった。

大きな力の前で、自分の小ささを改めて痛感する。
先程まで立ち込めていた曇天が、引いて行く。
天気雨が降り出した。

俺は、やっと立ち上がり天を仰いでいる龍河に
「…とりあえず、うちの温泉にでも入っていけ。」
『あん人は、龍の使いかもしれんのう。』
「全く…。あ、着物の水気をよく切ってから上がれよ?」
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