上 下
1 / 4

初手

しおりを挟む
美しい女性が1人、訪ねてきた。
ここは知る人ぞ知る裏の世界に通じた
とある男が構える、個人事務所。

清楚なたたずまいに、男は不躾な
視線を送っている。
「お前、また悪趣味な遊びを…」
スーツ姿の女性は、こころもち
垂れ目で。
人懐こい笑顔を男に向ける。
『えぇ、でも始まりはこうだったでしょう?』

流麗な姿が、たちまち変化して
女性から見目が男性へと変わる。
「男のまんまで良いってのに、これだから
変化の得意なタヌキは困る。」

『でも、まんまとアナタは騙されてけれたから良いじゃないですか。』
男はどうにも面白くなかった。
先程までの美しい姿が男性へと
変化しても麗しさが落ちる事は無く。

艶やかな黒髪を指先で耳にかける
仕草まで、美しい事にどこか
やるせなさを覚える。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
オレには、相棒と呼べる存在がいた。
初めは、人から頼まれて
用心棒として知り合ったのが、
今目の前にいる西条 伊予だ。

少しだけ異形の血を受け継いでいる
らしく変化に関しては右に出るものは
居ない。
それは、守護職に就いてからも存分に
能力を発揮していた。

稀有な能力を持ち合わせているせいで
とある組織から命を狙われていた
時期があり、伊予を守るべく
色々とあって俺に白羽の矢が立ったのだ。

生憎、争い、いさかい、喧嘩や騒動が
オレは1番苦手とする事で
出来れば生きていく上で関わらずに
のらりくらりとかわしていきたい。

と、思っていたのに…上司からの
命で伊予を守る為の存在と化してる。
『そういえば、都道府県会議がまた行われますよ。今年はようやく近場での開催です。去年は東北まで出張でしたから…』
「おまん、誰よりも楽しんどったやろうが。温泉入りたい言うて。」

『少しくらい楽しみを持たないと…せっかくの遠出なんだから。』
「…しかも何で途中で、変化自由がか?そのまんまの姿でえい言うがに。」

美人で、少しプライドの高い伊予。
まぁ、そこがヤケに惹かれるんやろうが。
『アナタの隣に居る事を、気づかっただけですよ。』

やんわりとした言葉の裏には、伊予をにしか
分からない哀しさが含まれとる。
「ほんで?今年はどこの県でするがかのう」
『え、と…香川ですね。』
「ほーん、まぁ確かに近いき」
『まぁまぁ、と言ったトコロですね。』
「あの偽ダヌキと化けギツネがまた、問題を起こさなければいいですがね。」

『相変わらず、あの2人には容赦せんがやなぁ…まぁ、仲良い2人やきオレは心配すらしとらんけどな。』
「……面白く無いじゃないですか、あんな人目も憚らず…イチャイチャされると。」

伊予は昔から少し嫉妬しているのかと
思ってた。
読めない所がまだまだあれど
これでも一応は多くの苦難を共に
乗り越えて来て、なんとかつい(対)
として認められた。
しおりを挟む

処理中です...