ここち・くらし

あきすと

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④意識

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喫茶・クロッカスに就職するまで僕は、コーヒーにあまり
無頓着だったと思う。

でも、ある時ノビと一緒に雑誌で知った
喫茶クロッカスのレモンタルトを
ちょっとした興味で食べに行ってみる事にしたんだ。

僕と違って、ノビは思春期あたりにはもう
コーヒーを嗜んでいた。
数回、一人ででもクロッカスには来店してたと
いう事実に、当時の僕は驚いたものだ。

なので、クロッカスを知ったキッカケも
ノビが関わっていたんだ。
マスターの奥さんが作るレモンタルトには
ファンも多い。
売り切れることも、よくある。
喫茶店の看板メニューと言ってもいい程の
昔からの一品なんだ。

『なぁ、そろそろ…だよな。豊子さんのレモンタルト。期間限定なのが
惜しいよ。』
お昼ご飯の支度をしながら、僕はすぐ横に立って包丁を
扱うノビを見上げた。

「うん、帰り際まで残ってたら買って帰るよ。」
ノビも、僕もあの日食べたレモンタルトのファンだったりする。

ピラフ用の玉ねぎと、マッシュルームとエビを切り終えたら
フライパンで僕が具材を炒める。

『お金は、ちゃんと渡すから。』
「…ほんと、律儀だなぁ。でも、助かるよ。ありがとう。」
お世辞にも高給取りとは、言えない僕のお財布事情。
特に、ノビには何にも言ってはいないのだけれど。

気遣いもされているし、料理は昔からよくしてたから
2人で生活をしていても楽しい。
強制される事がないからか。
快適だし、1つだけ気になる事と言えば
家賃のせっぱんのコトかな。
どう考えても、僕の方が払う金額が少ない。
不公平じゃない?と思う。

『一緒に暮らしてるのに、よそよそしいな。お前は…』

僕は、木べらで投入したご飯をよく混ぜ合わせていく。

「そんな事無いってば、どのくらい一緒だと思ってるのか。」
この距離感、生活でよそよそしいだなんて言われたら。
じゃ、ノビは一体どれ程の距離感を
僕に望んでいるんだろうか、って考えてしまいそうになる。

『昔は、もっと近くにいられたのになぁ……。』

ふっ、とノビの横顔がわずかに寂しそうに歪む。

一瞬、豊子さん(マスターの奥さん)の言葉が脳裏をよぎる。
『伸(のびる)くんって、なんだか俳優さんみたいよね。ちょっと、声が掛けづらいけど
きっと女の子にモテて来たでしょ?』

あぁ、本当にそうだった。
ノビは昔から自分に寄って来る異性を、ことごとく
遠ざけては僕と一緒に遊べなくなることを
避けていたように思える。

ばちっ、と目が合って
何となく気まずい。目を逸らすと、
小さく鼻で笑われた。

【次回の更新をお楽しみに♪】
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