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①
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好きな人が、同性とキスをしている姿を見たのがキッカケ。
あの日は、自分のバンドの出番も終わったから少しだけ
ライブハウスを抜け出して、コンビニにパシらせられてるトコだった。
夜更けで、通用口の店の裏側から店内に戻ろうとした時に
『央未、前で見てるなって。俺の事は、一番後ろから見てて。』
密かにメンバーにも内緒で、ファンになった【俄樂】のボーカルの朔の声だ。
噂や、浮名を流している事は何となく聞いてはいたけれど。壁ドンして
相手を縫い付けるみたいに、自由を奪ってキスをしている。
俺は、足がすくんでしまうわ
朔と目がバッチリ合うし。
相手は、朔にもたれ掛って俺を見ない様にしている。
『…梅垣、だっけ?びっくりした?』
朔は、焦りもしないし。舌をペロッとだして悪びれも無い表情。
頭が追い付かない。
やっば、カッコいい。
てゆうか、めっちゃ相手の胸にがっつり手触ってんだよな。
「あ、や…そんな?珍しくもないって…?えぇ…」
てんぱり過ぎ。俺。
『誰かに言っても、良いよ?』
綺麗な笑顔に、冷めた声色。
「恋人っすか?…言いませんよ。」
朔は、嬉しそうに頷いて相手にクスクス笑いながら
耳打ちをしてる。
『そうだね。恋人よりも、違う感じだけど。ん、悪かったな。通って良いよ。』
相手を抱き上げながら、通路への道を開けてくれた。
朔は確か最後にもう一度、出演する事になってたはず。
このままバックレられたら結構いる俄樂のファンはキレるんじゃないかと思う。
店の中に戻って、控室にいたメンバーに買って来たものを渡す。
『なぁ、梅~お前が泣きそうな情報入手したんだけど。聞きたい?』
ベーシストの、紺ちゃんがニヤニヤしながらエナジードリンクの缶を開ける。
紺ちゃんは兄貴の幼馴染だ。
なので、俺の事はかなり昔から気に掛けてくれる優しい社会人だ。
俺も、ミネラルウォーターを飲みながら椅子に座る。
『俄樂な、今年で活動休止するんだって。』
ブーーーーーーーーッ!!!!
って、水を吹き出しかけて慌てて飲み込むと結局むせこんでしまった。
紺ちゃんが隣でビックリしている。
『今、すんげぇ音したけど大丈夫かよ?一応ヴォーカルなのに。』
一応って…。
「マジなの?誰、朔が…言ってた?」
『…お前、朔大好きだもんなぁ。ショックだろ。』
え、紺ちゃん何言ってんの?
咳き込みながら、息を整えてると
『時代が、ここも変わるなぁ。朔だよ。やっぱりアイツが全権握ってるのは確かだ。』
「そんな事、俺には言ってくれなかった。」
『朔は、お前からの気持ちに薄々気が付いてたから…敢えて言わなかったんだろうな。』
紺ちゃんは、バンドのリーダーだから。
きっと朔もちゃんと話をしたんだろうと思う。
「俺の事、子供だって思ってるのかな?」
紺ちゃんは、アハハと笑って
『俺はよくお前の事わかんねぇよ。変なオッサンと同居してる、ただの22歳だなんて…理解不能だもん。子供でも、大人でもない。かな。』
バームを馴染ませた俺のセットした髪を、クシャクシャなでる。
「変なオッサンじゃない。あの人10年前はこのライブハウスで過去一集客した…すごい人なんだよ?」
『今じゃ、ただのニート…みたいなもんなんだろ?』
「うぅ、…バイトには行ってるよ。あと、今でも曲は作ってるよ。」
俺は、ひょんなコトから兄貴の知り合いのつてでルームシェアをしている。
その相手が、Tendre・Rouge(タンドル・ルージュ)のヴォーカルだったと言う事を
俺は動画投稿サイトに上げられていた、ライブ映像を見て初めて
気が付いたのだ。
お互いの生活を干渉しあわずに、今のところは暮らしてはいる。
出会った頃、彼の声に胸が高鳴ったのを覚えている。
澄んだ声ではあるけれど、一瞬かすれが混じる。
どこかで聞いた事のある、切なさを含む声色。
今夜は、ちょっと疲れた。
家にすぐ帰ろう。打ち上げも早々に切り上げて
静かに帰宅する。
『お帰り…。』
パッ、と廊下灯がついてギクッとした。
階段の辺りから声が聞こえる。
「ただいま。眠れないの?桐哉さん。」
『今日は、わりと調子が好いから出来るとこまでやって…寝る。』
「あんまり無理すんなよ?もう中年なんだからさ。」
彼の名前は、碓井桐哉。ぎりアラサーの俺の同居人。
『…紺ちゃんから聞いたぜ?なんだっけ、がらくた?みたいな名前のグループが解散?するって』
うろ覚えと、事実誤認が多すぎて否定するのもしんどい。
「あのさー、桐哉さん。俺ね、ショッキングな事続いて今はツッコミが追い付かないからね。」
夜中に、長い髪を夜風になびかせて桐哉さんは少し笑う。
この人の、昔の残像?片鱗が時々ものすごく綺麗で
俺は、今でもまだこの人が輝けるんじゃないかって。
希望を抱いてしまう。
『月が綺麗な夜だからね、血が満ちるだろう?誰かに噛みつきたくなる様な月。』
「桐哉さんは、リアルにヴァンパイアっぽいから笑えないって。」
でも、言われてみれば。
さっき俺が見た朔も、その相手もむさぼり合う様にキスに溺れていた。
『俺は、もう牙を失ったヴァンパイアだからさぁ。』
無駄に、良い返しをしてくるのも面白くはある。
「でも、キスしたくなるような…月って思ったのかも。」
無意識に出た言葉に、俺は桐哉さんからの視線を感じて
慌てて廊下を立ち去った。
危ない危ない。俺は…俺の憧れは朔。
ではあったけど、あんな場面を見せつけられたらもう
追いかける相手を見失いそうだった。
本当は、認めたくも無いんだけど…桐哉さんとの共通点とかを
朔にも求めていたのも否めない。
全盛期の桐哉さんは、本当に神秘的で完成した世界の住人だった。
けど、今は気の優しい音楽の世界を諦めきれない俺の同居人。
すぐに、シャワーを浴びる。
自分の体なのに、なんだか今日はモノみたいに思える。
あの日は、自分のバンドの出番も終わったから少しだけ
ライブハウスを抜け出して、コンビニにパシらせられてるトコだった。
夜更けで、通用口の店の裏側から店内に戻ろうとした時に
『央未、前で見てるなって。俺の事は、一番後ろから見てて。』
密かにメンバーにも内緒で、ファンになった【俄樂】のボーカルの朔の声だ。
噂や、浮名を流している事は何となく聞いてはいたけれど。壁ドンして
相手を縫い付けるみたいに、自由を奪ってキスをしている。
俺は、足がすくんでしまうわ
朔と目がバッチリ合うし。
相手は、朔にもたれ掛って俺を見ない様にしている。
『…梅垣、だっけ?びっくりした?』
朔は、焦りもしないし。舌をペロッとだして悪びれも無い表情。
頭が追い付かない。
やっば、カッコいい。
てゆうか、めっちゃ相手の胸にがっつり手触ってんだよな。
「あ、や…そんな?珍しくもないって…?えぇ…」
てんぱり過ぎ。俺。
『誰かに言っても、良いよ?』
綺麗な笑顔に、冷めた声色。
「恋人っすか?…言いませんよ。」
朔は、嬉しそうに頷いて相手にクスクス笑いながら
耳打ちをしてる。
『そうだね。恋人よりも、違う感じだけど。ん、悪かったな。通って良いよ。』
相手を抱き上げながら、通路への道を開けてくれた。
朔は確か最後にもう一度、出演する事になってたはず。
このままバックレられたら結構いる俄樂のファンはキレるんじゃないかと思う。
店の中に戻って、控室にいたメンバーに買って来たものを渡す。
『なぁ、梅~お前が泣きそうな情報入手したんだけど。聞きたい?』
ベーシストの、紺ちゃんがニヤニヤしながらエナジードリンクの缶を開ける。
紺ちゃんは兄貴の幼馴染だ。
なので、俺の事はかなり昔から気に掛けてくれる優しい社会人だ。
俺も、ミネラルウォーターを飲みながら椅子に座る。
『俄樂な、今年で活動休止するんだって。』
ブーーーーーーーーッ!!!!
って、水を吹き出しかけて慌てて飲み込むと結局むせこんでしまった。
紺ちゃんが隣でビックリしている。
『今、すんげぇ音したけど大丈夫かよ?一応ヴォーカルなのに。』
一応って…。
「マジなの?誰、朔が…言ってた?」
『…お前、朔大好きだもんなぁ。ショックだろ。』
え、紺ちゃん何言ってんの?
咳き込みながら、息を整えてると
『時代が、ここも変わるなぁ。朔だよ。やっぱりアイツが全権握ってるのは確かだ。』
「そんな事、俺には言ってくれなかった。」
『朔は、お前からの気持ちに薄々気が付いてたから…敢えて言わなかったんだろうな。』
紺ちゃんは、バンドのリーダーだから。
きっと朔もちゃんと話をしたんだろうと思う。
「俺の事、子供だって思ってるのかな?」
紺ちゃんは、アハハと笑って
『俺はよくお前の事わかんねぇよ。変なオッサンと同居してる、ただの22歳だなんて…理解不能だもん。子供でも、大人でもない。かな。』
バームを馴染ませた俺のセットした髪を、クシャクシャなでる。
「変なオッサンじゃない。あの人10年前はこのライブハウスで過去一集客した…すごい人なんだよ?」
『今じゃ、ただのニート…みたいなもんなんだろ?』
「うぅ、…バイトには行ってるよ。あと、今でも曲は作ってるよ。」
俺は、ひょんなコトから兄貴の知り合いのつてでルームシェアをしている。
その相手が、Tendre・Rouge(タンドル・ルージュ)のヴォーカルだったと言う事を
俺は動画投稿サイトに上げられていた、ライブ映像を見て初めて
気が付いたのだ。
お互いの生活を干渉しあわずに、今のところは暮らしてはいる。
出会った頃、彼の声に胸が高鳴ったのを覚えている。
澄んだ声ではあるけれど、一瞬かすれが混じる。
どこかで聞いた事のある、切なさを含む声色。
今夜は、ちょっと疲れた。
家にすぐ帰ろう。打ち上げも早々に切り上げて
静かに帰宅する。
『お帰り…。』
パッ、と廊下灯がついてギクッとした。
階段の辺りから声が聞こえる。
「ただいま。眠れないの?桐哉さん。」
『今日は、わりと調子が好いから出来るとこまでやって…寝る。』
「あんまり無理すんなよ?もう中年なんだからさ。」
彼の名前は、碓井桐哉。ぎりアラサーの俺の同居人。
『…紺ちゃんから聞いたぜ?なんだっけ、がらくた?みたいな名前のグループが解散?するって』
うろ覚えと、事実誤認が多すぎて否定するのもしんどい。
「あのさー、桐哉さん。俺ね、ショッキングな事続いて今はツッコミが追い付かないからね。」
夜中に、長い髪を夜風になびかせて桐哉さんは少し笑う。
この人の、昔の残像?片鱗が時々ものすごく綺麗で
俺は、今でもまだこの人が輝けるんじゃないかって。
希望を抱いてしまう。
『月が綺麗な夜だからね、血が満ちるだろう?誰かに噛みつきたくなる様な月。』
「桐哉さんは、リアルにヴァンパイアっぽいから笑えないって。」
でも、言われてみれば。
さっき俺が見た朔も、その相手もむさぼり合う様にキスに溺れていた。
『俺は、もう牙を失ったヴァンパイアだからさぁ。』
無駄に、良い返しをしてくるのも面白くはある。
「でも、キスしたくなるような…月って思ったのかも。」
無意識に出た言葉に、俺は桐哉さんからの視線を感じて
慌てて廊下を立ち去った。
危ない危ない。俺は…俺の憧れは朔。
ではあったけど、あんな場面を見せつけられたらもう
追いかける相手を見失いそうだった。
本当は、認めたくも無いんだけど…桐哉さんとの共通点とかを
朔にも求めていたのも否めない。
全盛期の桐哉さんは、本当に神秘的で完成した世界の住人だった。
けど、今は気の優しい音楽の世界を諦めきれない俺の同居人。
すぐに、シャワーを浴びる。
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