約束の無い明日

あきすと

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『親の借金を何で…僕が払わなきゃいけないのか。分からなかった。』
「オマエが、そんな親のコドモだからだよ。理屈もへったくれもねぇ。
貸したモン返してもらおうってのは、正当な権利やろが。」

俺はこの世の地獄を這いずり回る、鬼・畜生と言われても構いはしなかった。

このガキに、出会うまでは。

『…三輪さん、お金本当にすくなくてごめんなさい。』
家賃もやっとやっと払えていた生活の優紀は、大学を辞めたらしい。
元より、奨学金を受けられるほどのオツムも無く
親の有り金で、なんとか在籍できていた。

「オマエ、勝手にバイト辞めてんじゃねぇぞ。何で、この前のラウンジ辞めやがった?」

平日、昼間に俺みたいなのがこんなアパートに堂々と借金の取り立てに
来ているのもどうかと思われるだろう。

共用廊下でデカい声出してると、目立つ。
優紀に部屋に上げる様に言って、ドアとの間に無理やり靴を
ねじ込んで。やっと、玄関の中に入る事には成功した。

『だって…!あの店、は~…なんかいかがわしい事させられるから。ごめんなさい。』
銀行の皺くちゃな封筒に、ふざけた金額を入れて俺に手渡した。ってのが気に入らない。
見りゃわかるんだろうが。薄い、しかも小銭まで入ってやがる。

「いかがわしい事でもして、金稼げればまだマシだろ?お前のそのツラと若さしかもう、
金には替えらんねーの!アホみたいにどの面下げて駅前でライブやってんだよ。聴いてる
コッチが恥ずかしかったわ。」

優紀はバイトをする前から、ストリートで歌っていた。
お世辞にも上手くない下手な演奏。
なのに、妙に人は集まっていて奇妙だった。

『え、三輪さんっ…やっと聴きに来てくれたの?あ、くれたんですか…?ふふっ、嬉しい。』
能天気な勇気の笑顔が薄暗い部屋でも、明るく見えた。
金が無いのは、親であり。
優紀は、こつこつと金を稼ぐべく多少の努力はしているように見えた。

「うっせ、もうちょいマシな演奏出来るように練習しろよ。この下手くそ。」
『…うん、俺も練習したいんだけどさ。ココでは無理だし。難しいよ。』
いつの年式のだよ?と聞きたくなる様な冷蔵庫から、麦茶を持って来て
コップに注いで、俺にすすめてくれる。

そうなんだよなぁ、ペットボトルも買わない。
ちゃんと湯を沸かしてるってのが、優紀の褒めるべきところだろう。

「相変わらず、エアコンもねーし。殺されそうだわ、この部屋に。」
『あはは、起きたら汗かいてるけど。でも、窓開けて寝てるから時々涼しい風が
入って来て気持ちいいよ。』
「お前の生活みてると、コッチが嫌になる。」

贅沢はしてない。必要なものがいくつも足りない暮らし。
『頑張って、またバイト…行った方が良いですかね?』
今の低い天井に圧迫感を覚える。
ぼっれー、建物だ。
長期間住む様な場所じゃない。

「ったりめーだろ。俺がわざわざ見つけて来たんだ。もう一回話しておいてやるから、戻れ。」
『…分かりました。あ、三輪さん。灰皿どうぞです。』

つい最近やっと20歳になった優紀をいびりたおしても、埒が明かねぇ。
こいつの両親の行方を追わなきゃいけない。
成人済みの優紀は体よく捨てられた様なモンだ。

「煙草吸う気にもなんねーわ。はぁー…。」
うっすい座布団に座って、対面には優紀も腰を下ろした。

「お前ん家、氷もねーのかよ。水、凍らすだけだろ?」
『え、だって…三輪さんが余計な電機は使うな。って言ってたから。』
何も言い返せねー。

「そうかよ。」
『じゃ、今日は豪華に扇風機を回しましょうか。』
「はー…。熱い風をかき回してるだけのヤツな。」
『無いよりいいでしょ?』

しっかりしてるのか、ぬけてるのか分かんねぇのが優紀だ。

『三輪さん、』
「あ?」
『もし、その…ラウンジでまた…そういう事になりかけたら、何とかして欲しいデス。』
「何か、されたのかよ?本当に」
『され、かけただけ。』
「未遂か。そういう店だって、お前に説明してなかったか?」
『うん、一言も。』
「アレだな、最近暑いだろ?」
『暑い。』
「頭ぼーっとしないか?」
『うん、するする。』
「ソレだよ、優紀くん。」

携帯が鳴って、優紀はいかにも驚いた表情で俺の方を見ている。
コイツ、電話が苦手なんだよな。
立ち上がって、玄関へと向かう。
靴を引っ掛けて、外の風に吹かれながら用件を聞いていた。

外の方がこの部屋よりも涼しいなんて、皮肉な事だ。

そろそろ事務所に戻らないといけない。
とりあえず、優紀を働きに出して、得られるバイト代は悪いが
借金返済のために、親の尻拭いをしてもらう他ない。

優紀とはもう10年近くの知り合いというか、面識があった。
どうしようもない親父とヒステリックな母親に育てられ、
同情すべき所も多々ある。

ただ、持ち前のぼんやり頭のせいで、あまり深刻そうに俺には見えなかった。
「優紀くん。俺そろそろ帰るわ~」
居間に戻ると、優紀は何故か横になっていた。
ぎょっとした。
『俺、三輪さんの事は…信じてるからね。ちゃんと、バイト…戻るから。』

優紀の横に行き、屈み込んで額に触れた。

「ぬる…。」
『体調悪いんじゃないよ。ちょっと、眠くて。ごめんなさい。』
「さっきの封筒の金、お前は自分に使え。瘦せすぎなんだよ、ちゃんと飯食えよな。俺はまとまった
金の方が都合が良いんだよ。そんな、ガキの小遣いみたいな金額持って事務所に帰れるかっての。」

寝覚めが悪かった。俺が居なければきっと優紀は大学で
好きなサークルだのなんだのに入って、友達と遊んだり出来たかもしれない。

『三輪さん、俺ね…最近おかしいんだ。』
「言っちゃ悪いが、お前は10年前から変わったガキだったぞ。」

優紀は、おかしそうに笑って咳き込み
その日は見送られる事も無く、優紀の部屋を後にした。

多少、心配ではあった。でも、熱は無さそうだったし
暑くて寝れなくて睡眠不足だったのかもしれない。


特に気にする事も無く、俺は事務所へともどった。

その翌日、俺は新聞とTVのニュースで例の店が摘発された事を知った。
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