【甘夏と、夕立】帰りたくなる姫りんご

あきすと

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①喧噪

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幼馴染の礼緒くんは、相変わらず
昔からカッコよかった。

また、夏を迎える事ができて嬉しくて
町内の夏祭りに一緒に出掛けた。
夕方、遅番明けの僕を礼緒くんが
迎えに来てくれて、連れ立って地元の
廃校になった小学校にやって来た。

懐かしい校舎に明かりがともってる。
見慣れた光景になっていたのに
また違う形で、記憶に残るんだと思うと
少し感慨深い。

『男の浴衣も、悪くないな。』
「珍しいでしょ?これはおじいちゃんにあつらえたのかもしれないって、母さんが教えてくれた。」
『…想いって形でも残るものだな。』

生成り色の優しい生地感に、綿絽浴衣を
藍の帯で締めて来た。
夜風はまだまだ生ぬるい。
「礼緒くんは、デートに行く時みたい。シャツって良いよね、色んなタイプがあるけど礼緒くん似合ってる。」

お付き合いをしてもう、一年は経つ。
ゆっくりゆっくりと、想いを重ね合って来て
やっぱり夏は思い出深い。
去年は、僕が使ったケーキで
礼緒くんの誕生日のお祝いをしたり
少し仲が進展したりして、
気持ちがフワフワしてた。

廃校のグラウンドでは、盆踊りの会場が
設営されている。
屋台もいくつも出店されていて、
心なしか去年よりかはお店が増えた
気がする。

僕は、礼緒くんに姫りんご飴を買ってもらって会場の休憩できるテントの下で
座っていた。

礼緒くんは、地元の実行委員会の人に
絡まれてしまって僕の隣にはいない。
昔から大人にも子供にも好かれる所が
何となく羨ましくって、眩しかった。

礼緒くんは、いつでもイキイキと輝いていて
僕はずっと、ぽーっとそんな姿を
出来れば近くで見ていたい。
僕だけが、独り占めして良いような
人ではないと思う。

普通のりんごと、姫りんご。
どちらもあったのに、どうして
礼緒くんは小さい方を僕に買って
くれたのか考えてみる。

飴は甘くて、果実はほんの少しだけすっぱい。不思議な味わい。
『悪い、待たせてたよな…』
横から礼緒くんの声がして、振り向く。
「うぅん、平気だよ。おかえり。」
『悠里…、お前くちびるが』

「ぇ?なになに?」
それよりも礼緒くんの顔がすぐ横にあって
びっくりした。
『いや、多分…食紅のせいか?唇が紅くなってる。』

あぁ、そう言うことか。
僕はやっと意味を理解して、唇を手の甲で
拭ってしまいたかった。
「恥ずかしい…。」
『なんで?綺麗だと思ったけど。』

そんな事言われたら、どうしたらいいのか分からなくて俯くしかできなかった。
「あれ?何か買って来たの?」
『お好み焼きと、焼きそば。ここ、虫が多いし帰って一緒に食べようか。』

心なしか、ちょっとだけ礼緒くんが
帰りを急いでる風に見える。
「そうだね、盆踊りまで待ってるのも長いし…後の花火も家から見られるよね。」

帰りの途中、同級生に遭遇してかなり
ドギマギしたけど、何とか詮索から
逃れて帰宅した頃には僕の家の明かりは
ついていた。

『いつも悠里の方ばっかりで悪いな。』
「平気だよ?母さんも礼緒くんなら歓迎だって笑ってる。」
礼緒くんの考える言い訳でさえも
僕はやっぱり好きで、
2人きりになるための口実なのかな?と
考えると顔がニヤニヤしてしまう。

頭の中に少しでも僕の事があるなんて
それだけで嬉しいのに。

家に帰ると、玄関で草履を脱いで
一応母親に顔を見せて麦茶を淹れてから
2階に上がる。
礼緒くんがすぐにドアを開けてくれた。

エアコンが効いてる。タイマーにしておいたから、予定よりもしかしたら早めの帰宅には
なったけれど。
まだ、礼緒くんが一緒だから楽しみが続く。
テーブルの上に並べられた
焼きそばとお好み焼き。
屋台のだからボリュームを感じる。

「お腹空いたでしょ?半分こしよっか。」
僕の前に座っていた礼緒くんから
視線を感じる。
『その前に、』
「…ん?」
テーブルに手のひらをついて、礼緒くんは
僕にキスをした。

頭が追いつかない。
『さっきの、その唇のせいで…俺は家に帰りたくなって』
「そうだったんだ…ね、まだ紅いの?」
礼緒くんが頷く。

『まだ、紅い…。』
教えてくれた礼緒くんの頬も
薄く赤味を帯びていた。
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