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忘れ得ぬ君(クレース視点)
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朝から、外がざわざわしている事を感じていた。
風塵の街を去ってから、もう数か月が経過していた。
俺は郷里へと引っ込んでから、イリアとの生活が
ある日突然予期せぬ形で終わってしまった事がショックで
実家に帰ってからも、なかなか立ち直れずに居た。
家は、こう言っては何だけれど
わりと裕福であり、先祖が何かしらの名誉騎士だの何だのと
言われていて。
俺は、昔から剣術を父親から叩き込まれてかなり厳しく
躾けられてきた。
でも成人をきっかけに、家を出る事にして遠縁の店を
継がせてもらう事になって、風塵の街で生きて行くつもりだった。
家は何人もの従者が居て、どこに行くにも何をするにしても
付き従おうとするので、かなり自由の無い生活だった。
店を辞めてから、確かに少し体の鈍りは感じている。
青果店を営んでいた頃は、多くの荷物や商品を持ち運んでいたから
今の生活は退屈であり、ついつい怠けてしまいそうになる。
たった1月、生活を共にした尻尾の様な長い髪の少年・イリアを
思わない日は無かった。
危なっかしくて、でもいつも一生懸命で、額にアザがあるイリア。
思い出すだけで、胸が今でも締め付けられる。
今頃、どこでどうしているのだろうか。
せめて…生きていて。
考え出すと終わりが無くなっていた。
不安が不安を呼んでしまう。
妹にこの精神状態が最近、バレてしまい医者に掛かるよう言われたが。
それだけは断り続けている。
家の2階のバルコニーに向かい空を仰いだ。
なんだかおかしな天気だった。
晴れてはいるけれども、重い雲が空を覆い尽くしていく。
まるで、朝から急に夜になった様な錯覚に陥る。
「まさか、これが…」
こんなにもハッキリと目の当たりにする事は無かった。
これが、日食なのだと感じた。
祖父に言われた言葉を、今やっと思い出した。
この家の者は、竜から守らなければいけない。
何を?
竜の血に侵された、とある民達を。
どこにいるの?
それは分からない。でも、彼らのアザと血を感じれば
きっと見つけられる。
どうして助けるの?
それは、大昔からの約束だからだよ。
綺麗なお姫様だったら、がんばって助けてあげる。
昔話の類だと思っていた。
俺は、イリアの額のアザや一度、イリアが不注意で自分の指を
針で刺してしまった時に感じた妙な胸騒ぎの意味がやっと
理解できた。
「竜が…本当に」
俺は、居ても立っても居られずに家の外の敷地にある厩舎に向かった。
久し振りに馬に乗った。
家の者に何も告げずに出る事には、躊躇いもあったが
今はとにかく風塵の街へ向かう事を先決とした。
風塵の街を去ってから、もう数か月が経過していた。
俺は郷里へと引っ込んでから、イリアとの生活が
ある日突然予期せぬ形で終わってしまった事がショックで
実家に帰ってからも、なかなか立ち直れずに居た。
家は、こう言っては何だけれど
わりと裕福であり、先祖が何かしらの名誉騎士だの何だのと
言われていて。
俺は、昔から剣術を父親から叩き込まれてかなり厳しく
躾けられてきた。
でも成人をきっかけに、家を出る事にして遠縁の店を
継がせてもらう事になって、風塵の街で生きて行くつもりだった。
家は何人もの従者が居て、どこに行くにも何をするにしても
付き従おうとするので、かなり自由の無い生活だった。
店を辞めてから、確かに少し体の鈍りは感じている。
青果店を営んでいた頃は、多くの荷物や商品を持ち運んでいたから
今の生活は退屈であり、ついつい怠けてしまいそうになる。
たった1月、生活を共にした尻尾の様な長い髪の少年・イリアを
思わない日は無かった。
危なっかしくて、でもいつも一生懸命で、額にアザがあるイリア。
思い出すだけで、胸が今でも締め付けられる。
今頃、どこでどうしているのだろうか。
せめて…生きていて。
考え出すと終わりが無くなっていた。
不安が不安を呼んでしまう。
妹にこの精神状態が最近、バレてしまい医者に掛かるよう言われたが。
それだけは断り続けている。
家の2階のバルコニーに向かい空を仰いだ。
なんだかおかしな天気だった。
晴れてはいるけれども、重い雲が空を覆い尽くしていく。
まるで、朝から急に夜になった様な錯覚に陥る。
「まさか、これが…」
こんなにもハッキリと目の当たりにする事は無かった。
これが、日食なのだと感じた。
祖父に言われた言葉を、今やっと思い出した。
この家の者は、竜から守らなければいけない。
何を?
竜の血に侵された、とある民達を。
どこにいるの?
それは分からない。でも、彼らのアザと血を感じれば
きっと見つけられる。
どうして助けるの?
それは、大昔からの約束だからだよ。
綺麗なお姫様だったら、がんばって助けてあげる。
昔話の類だと思っていた。
俺は、イリアの額のアザや一度、イリアが不注意で自分の指を
針で刺してしまった時に感じた妙な胸騒ぎの意味がやっと
理解できた。
「竜が…本当に」
俺は、居ても立っても居られずに家の外の敷地にある厩舎に向かった。
久し振りに馬に乗った。
家の者に何も告げずに出る事には、躊躇いもあったが
今はとにかく風塵の街へ向かう事を先決とした。
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