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これは庇護か、憐れみか。
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来る日も来る日も、空腹は満たされる事無く。
そろそろ幻覚を見始めるんじゃないかと思ってた。
善悪の判断がつかなくなっていた俺は、ついに……。
『君は、たかがナツメ一つだと思うかもしれないだろうが。店からすれば
これは大切な売り物の一つなんだよ。』
言われなくても分かっている。ただ、もうろうとする意識の中でいくら
説き伏せようとされても、自分にとっては本当に耳を右から左にすり抜けていく
感覚だった。
この砂漠化が進む、人々が見捨てた街と言われる片隅で俺は何とか生きている。
痩せて裸足で、体に身にまとうボロボロのマントはいつかの旅人が
俺に憐れんで、よこしてくれた物だった。
何もする気力が湧かない。できれば、木陰でこのまま静かに眠りたい。
眼は、覚めないかもしれないけれど。
自嘲する元気も無くて、盗みを働いて店員に見つかった俺は
店番をしていた男に、腕を引っ張られて店の中に連れて行かれた。
男は、俺の腕を見て一瞬怯えにも似た表情を隠しもしなかった。
壁に押しやられて、危険なものを所持していないかと確認された。
そんなものが何の役に立つと言うのか。
少々俺は、呆れていた。
その日一日をやっと生きているものと、まっとうな暮らしを送るものとでの
意識の差を子供ながらに痛感させられた。
『名前に、年齢を教えて貰おうか。後、は住まいがあれば。』
失礼な奴だと、思いつつも名前は伝えれたけれど年齢は分からなかった。
母親と別れてから、どれくらいの年月が経過しているのか。
さして、興味も無かった。
「イリア、名前……。」
男は、街の自警団を呼ぶことも出来るのに何故か呼ばない。
一番困るのは、人買いに売られてしまう事。
おおよそ、人としての扱いを受けはしない事を俺は昔からよく知っていた。
浮浪児のたまり場に、時々やって来る。
優しい言葉で、仲間をそそのかして。はした金をちらつかせては
一人、また一人と仲間は姿を消していった。
男は、紙に何かを懸命に書いている。
俺は、字もまだほとんど読めないから黙って男の手の動きを見つめていた。
『たった一人、今にも飢えそうな君が。この先どうやって生きていくのかも知れない。』
余計なお世話だ。
「もう、生きている事が『勝手に、君に居なくなって貰っては困るから。』……何だよ。
ナツメは返しただろうに。」
問題は、きっと俺の根本にあるのは理解できる。
でも、本当に体が重い。軽いはずの体なのに、ここ数日おかしいと思っていた。
横になりたい。
『大丈夫か?ここでおっちんでしまわないでくれ。横になれ。』
頭がフワフワして、男の声が遠い。
俺は、その場に倒れてしまったらしい。
目が回る。怖くて目を覚ますと、ズルッと目の前には冷えたタオルが落ちて来て
少し驚いた。
『まだ、横になっていなさい。それとも、何か飲むか?』
あれ?まだこの店に俺は、居たのかと。
記憶が靄がかかってるみたいに、曖昧だ。
「さっきは、ごめんなさい。本当は、盗みたく無くて死ぬほど怖くて。心臓が
ずーっとバクバクしてた。初めて、あんな悪い事して。母さんが知ったらきっと
悲しむってのに……っは…ぁ」
久し振りに沢山話したから、喉が渇く。咳が出て、男は店の中の長椅子に横たわる
俺を見て、すぐに飲み物を持って来てくれた。
『カラックだ、ゆっくり飲みなさい。』
そっと俺の体を抱き起して、俺は怠い腕でなんとかカラックを飲む動作をした。
やっぱり、こぼしてしまった。アリが入って来たら大変だ。
乾いた体内に、染み渡る甘み。水分は久し振りに摂れた。
嬉しかった。ありがたくて、夢みたいで。
初めて生きてて良かったと、心から感謝したくなった。
「……生きてたくなっちゃった。」
男は、隣で俺の言葉を聞いて何故か笑顔になっていた。
何でだろう、男が嬉しそうに笑うものだから。
俺は、可愛いなぁと思ってしまった。
日中に捕まって、今はもう夜を迎えている。けど、男は夕食を作っている。
帰る先なんてない事は、多分分かっているだろうに。
早く、自警団にでも引き渡してくれればいいものを。
あの後、口がとろけそうなワッフルをデーツバターまで添えて食べさせてくれた。
どうしよう。まさか、これだけいい思いをさせてから店の裏から
人買いが現れたら。
ちょっと、哀しいけれど充分に良い思いをさせて貰ったから
覚悟はできている。
ボロボロ泣きながら、俺はワッフルを食べている間に男は
先程書いていた紙を封筒に入れていた。(手紙ってやつだな)
『一気に食べては、体が驚いてしまうから。少しずつ食べようか。』
チラッと厨房から男は顔をのぞかせて、俺に言った。
「そろそろ、寝床に帰るんだけど。」
『家も無いのに?寝床って言ってもあの街はずれの廃墟だろう?あそこは最近、
盗賊団が現れたりするから、近寄るんじゃないよ。』
一切気にしなかったけれど、まさか俺は今までそんな物騒な所を
寝床にしていたのか。
自分でも驚きだった。
「あんた、何者だ?名前聞いてないぞ。」
『これは失礼。クレースだ。ここの店は数年前に継いだばかりで。休みの日は
子供たちに読み書きを教えている。』
「クレース……。覚えた。でも、俺帰れないのなら困ったな。」
どうしたものかと思いつつ、つい癖で胸のペンダントを握りしめる。
『そのペンダントを売れば少なからず、お金にはなったんじゃ?』
なんて事を言ってくれるのかと思いながら、俺は緩く首を振った。
「お金よりも大事な物があるよ。クレース。これは、母さんの大切にしていた
ペンダントだから。何があっても売れないんだ。」
クレースは俺の様子を見に来て、額に大きな手のひらをかざされると
身構えそうになる。
『すまない、さっきは少し熱があったんだ。……イリアは、本当は心が綺麗なんだろうな。』
「でも、盗みを働いてしまった。もう、俺は母さんと同じ所には行けないんだよ。」
『確かに、事実は変わらない。でも、俺から見ても君はハッキリ言って生きてるのが
不思議なくらいに思えた。』
人間とは、ゲンキンなものだな。と、感じていると
『提案してもいいかな?』
何だろう、と首を傾げると
『君は今日からここに住む。で、体が今よりも動く程までに回復したら店番を手伝って欲しい。』
頭が真っ白になる気がした。
『悪い話じゃないと思う。食事ももちろん。衣服も買うし…休みの日には一緒に読み書きを
したりする。どうだろう?』
突然の幸福を、怖がる人が居ると言う。
きっと俺もその一人だと思う。
「でも、俺は盗っ人だぞ?おかしな話じゃないか。こんなキッタねー奴をそんな猫の
子でも拾う様に、簡単に。」
『猫、居る事はまだ話してないと思うんだけど?』
「ほ、本当に居るのかよ?」
クレースはとんでもないお人好しなんだろうか。
『放っておけなくてね。あの細っこい腕を掴んだ時に決めたんだよ。贅沢には程遠いけれど
君一人を面倒見ながら。それも、いずれは店番をして貰えるんだったらとても未来投資に
なると思うんだけどね。』
どうだろう?とにこやかな表情で問われると、俺は俯いてすぐには
言葉が出てこなかった。
ただただ、驚きと嬉しさで喉が詰まった様に苦しかったのだ。
『出来れば、子猫の面倒も一緒にしたいと思っていたんだ。』
そろそろ幻覚を見始めるんじゃないかと思ってた。
善悪の判断がつかなくなっていた俺は、ついに……。
『君は、たかがナツメ一つだと思うかもしれないだろうが。店からすれば
これは大切な売り物の一つなんだよ。』
言われなくても分かっている。ただ、もうろうとする意識の中でいくら
説き伏せようとされても、自分にとっては本当に耳を右から左にすり抜けていく
感覚だった。
この砂漠化が進む、人々が見捨てた街と言われる片隅で俺は何とか生きている。
痩せて裸足で、体に身にまとうボロボロのマントはいつかの旅人が
俺に憐れんで、よこしてくれた物だった。
何もする気力が湧かない。できれば、木陰でこのまま静かに眠りたい。
眼は、覚めないかもしれないけれど。
自嘲する元気も無くて、盗みを働いて店員に見つかった俺は
店番をしていた男に、腕を引っ張られて店の中に連れて行かれた。
男は、俺の腕を見て一瞬怯えにも似た表情を隠しもしなかった。
壁に押しやられて、危険なものを所持していないかと確認された。
そんなものが何の役に立つと言うのか。
少々俺は、呆れていた。
その日一日をやっと生きているものと、まっとうな暮らしを送るものとでの
意識の差を子供ながらに痛感させられた。
『名前に、年齢を教えて貰おうか。後、は住まいがあれば。』
失礼な奴だと、思いつつも名前は伝えれたけれど年齢は分からなかった。
母親と別れてから、どれくらいの年月が経過しているのか。
さして、興味も無かった。
「イリア、名前……。」
男は、街の自警団を呼ぶことも出来るのに何故か呼ばない。
一番困るのは、人買いに売られてしまう事。
おおよそ、人としての扱いを受けはしない事を俺は昔からよく知っていた。
浮浪児のたまり場に、時々やって来る。
優しい言葉で、仲間をそそのかして。はした金をちらつかせては
一人、また一人と仲間は姿を消していった。
男は、紙に何かを懸命に書いている。
俺は、字もまだほとんど読めないから黙って男の手の動きを見つめていた。
『たった一人、今にも飢えそうな君が。この先どうやって生きていくのかも知れない。』
余計なお世話だ。
「もう、生きている事が『勝手に、君に居なくなって貰っては困るから。』……何だよ。
ナツメは返しただろうに。」
問題は、きっと俺の根本にあるのは理解できる。
でも、本当に体が重い。軽いはずの体なのに、ここ数日おかしいと思っていた。
横になりたい。
『大丈夫か?ここでおっちんでしまわないでくれ。横になれ。』
頭がフワフワして、男の声が遠い。
俺は、その場に倒れてしまったらしい。
目が回る。怖くて目を覚ますと、ズルッと目の前には冷えたタオルが落ちて来て
少し驚いた。
『まだ、横になっていなさい。それとも、何か飲むか?』
あれ?まだこの店に俺は、居たのかと。
記憶が靄がかかってるみたいに、曖昧だ。
「さっきは、ごめんなさい。本当は、盗みたく無くて死ぬほど怖くて。心臓が
ずーっとバクバクしてた。初めて、あんな悪い事して。母さんが知ったらきっと
悲しむってのに……っは…ぁ」
久し振りに沢山話したから、喉が渇く。咳が出て、男は店の中の長椅子に横たわる
俺を見て、すぐに飲み物を持って来てくれた。
『カラックだ、ゆっくり飲みなさい。』
そっと俺の体を抱き起して、俺は怠い腕でなんとかカラックを飲む動作をした。
やっぱり、こぼしてしまった。アリが入って来たら大変だ。
乾いた体内に、染み渡る甘み。水分は久し振りに摂れた。
嬉しかった。ありがたくて、夢みたいで。
初めて生きてて良かったと、心から感謝したくなった。
「……生きてたくなっちゃった。」
男は、隣で俺の言葉を聞いて何故か笑顔になっていた。
何でだろう、男が嬉しそうに笑うものだから。
俺は、可愛いなぁと思ってしまった。
日中に捕まって、今はもう夜を迎えている。けど、男は夕食を作っている。
帰る先なんてない事は、多分分かっているだろうに。
早く、自警団にでも引き渡してくれればいいものを。
あの後、口がとろけそうなワッフルをデーツバターまで添えて食べさせてくれた。
どうしよう。まさか、これだけいい思いをさせてから店の裏から
人買いが現れたら。
ちょっと、哀しいけれど充分に良い思いをさせて貰ったから
覚悟はできている。
ボロボロ泣きながら、俺はワッフルを食べている間に男は
先程書いていた紙を封筒に入れていた。(手紙ってやつだな)
『一気に食べては、体が驚いてしまうから。少しずつ食べようか。』
チラッと厨房から男は顔をのぞかせて、俺に言った。
「そろそろ、寝床に帰るんだけど。」
『家も無いのに?寝床って言ってもあの街はずれの廃墟だろう?あそこは最近、
盗賊団が現れたりするから、近寄るんじゃないよ。』
一切気にしなかったけれど、まさか俺は今までそんな物騒な所を
寝床にしていたのか。
自分でも驚きだった。
「あんた、何者だ?名前聞いてないぞ。」
『これは失礼。クレースだ。ここの店は数年前に継いだばかりで。休みの日は
子供たちに読み書きを教えている。』
「クレース……。覚えた。でも、俺帰れないのなら困ったな。」
どうしたものかと思いつつ、つい癖で胸のペンダントを握りしめる。
『そのペンダントを売れば少なからず、お金にはなったんじゃ?』
なんて事を言ってくれるのかと思いながら、俺は緩く首を振った。
「お金よりも大事な物があるよ。クレース。これは、母さんの大切にしていた
ペンダントだから。何があっても売れないんだ。」
クレースは俺の様子を見に来て、額に大きな手のひらをかざされると
身構えそうになる。
『すまない、さっきは少し熱があったんだ。……イリアは、本当は心が綺麗なんだろうな。』
「でも、盗みを働いてしまった。もう、俺は母さんと同じ所には行けないんだよ。」
『確かに、事実は変わらない。でも、俺から見ても君はハッキリ言って生きてるのが
不思議なくらいに思えた。』
人間とは、ゲンキンなものだな。と、感じていると
『提案してもいいかな?』
何だろう、と首を傾げると
『君は今日からここに住む。で、体が今よりも動く程までに回復したら店番を手伝って欲しい。』
頭が真っ白になる気がした。
『悪い話じゃないと思う。食事ももちろん。衣服も買うし…休みの日には一緒に読み書きを
したりする。どうだろう?』
突然の幸福を、怖がる人が居ると言う。
きっと俺もその一人だと思う。
「でも、俺は盗っ人だぞ?おかしな話じゃないか。こんなキッタねー奴をそんな猫の
子でも拾う様に、簡単に。」
『猫、居る事はまだ話してないと思うんだけど?』
「ほ、本当に居るのかよ?」
クレースはとんでもないお人好しなんだろうか。
『放っておけなくてね。あの細っこい腕を掴んだ時に決めたんだよ。贅沢には程遠いけれど
君一人を面倒見ながら。それも、いずれは店番をして貰えるんだったらとても未来投資に
なると思うんだけどね。』
どうだろう?とにこやかな表情で問われると、俺は俯いてすぐには
言葉が出てこなかった。
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