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愛おしいって。

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親友のコンプレックスを目にした時、俺は素直に愛おしいなと思った。
隠さなくていいのに、とは思ったものの。
気軽に言えるはずも無くて。今まで、どれだけ心を砕いてきたのだろうと
思えば、思う程に。

親友の事をもっと近くに感じて、抱き締めたい気持ちになった。

『おはよ、未来…。』
キャンパスで出会う頻度の高い親友、裕乃はここ最近雰囲気が変わった。
よく帽子を被ってくるようになって。
もしかしたら、日よけの為にかな?と思いながら俺はその理由を聞けずにいる。

似合っているから、本当は気にもならない筈なんだけど。
何となく、裕乃の元気がない事も目に見えて感じているから
余計に気にしてしまうのだ。

「裕乃、おはよう。今日も一限から…必修だな。」
長机に2人でそれぞれ座り、軽いため息。

真面目に講義を受けている裕乃と違って俺は、これ以上遅刻すると
結構やばいのである。

講義が始まると、裕乃は帽子を取っていた。
この講義では、映像を見る事も多くて講義の部屋をカーテンで真っ暗に
してしまう為、隣にいる裕乃の姿もそこまで鮮明には分からない。


『未来、さっき俺の事見てたでしょ?』
講義が終わって、部屋が明るくなり部屋を出る頃には
裕乃はまた帽子を被っていた。

「聞いても良いのか、悩んでる。」
『知ってるよ。だって、顔に書いてあるんだもん。別に俺は、聞かれても怒りもしないよ。』
温和な笑顔が外の陽射しと共に、俺に注がれて眩しく感じる。

いつからだったか。裕乃の側に居る事が心地よくて、人知れず想い
気持ちを本人にぶつけてしまっていた。

裕乃は、拒みもせずにただ俺の側に居れる事を静かに願っていると
優しい返事をくれたのだった。

もうすぐ、初夏。あと1月もすればしばらくは、裕乃と会えない日々が始まる。
「最近、どうなんだ…?調子でも悪くした?」
次の空き時間は、図書館棟に向かう。
裕乃も同じゼミだから今日は、ほとんどの時間を共に過ごせる。

俺は、大学の真ん前のアパートに暮らしているから
通いの裕乃を、何度か部屋に泊めた事もある。

『全然?でも…うん。優しいんだね。未来は…。俺が傷つくと思ってる?』
困った様に裕乃は笑いながら、図書館への道の途中に帽子を外した。
「裕乃…、」
『注意されたりするからさ、帽子したままだと。でも、もういいや。俺には未来がいるから。』

潔い裕乃の頭部は、陽光のせいでよく見えなかった。
でも、室内に入るとその意味が少し理解できた気がした。

「…裕乃、髪が…」
『俺さ、両親共に白髪が多くて。俺も、2、3年前からもうチラホラ出始めて来てて。』
「そうだったのか…」
『うん。いつもなら色素のトリートメントしてる所なんだけど、俺が使ってる商品が、
急に廃番になったらしくて。違うの使ってみようにも、アレルギー持ちだから、やっぱり
今までの物が一番安心して使えるんだよね。』

俺は、図書館前の談話室で危うく裕乃を抱き締める所だった。

いや、少し安心したのもあるんだろうけど。
「びっくりした、ケガでもしてたりするのかと…。」
『じゃないけど、これは俺なりのコンプレックスなんだよね。』
「全然、そんな…目立たないと思う。」
『まだ、色素が全部取れてないからだね。もう数週間もすれば、かなり白い部分が
出てきちゃうよ。』

「今まで、隠して来た…と言うか結構な手間だっただろうに。」
『ちょっとね。…でも、未来に何か思われてたらって考えると、気は使ってたかも。』
「全然気にしない。俺は裕乃の友人として、何となく話したり。一緒に居られれば充分だって。」
『未来、おしゃれなんだもん。居るんだよね、人のコンプレックスを堂々と本人に指摘する人も。』

まさか、俺がそんな事を言うはずが無い。
そんな傷付ける事をする自分が、信じられなくなるだろう。

「俺、多少はだらしない所あるけど…裕乃を傷つける奴は許せないし。まさか、自分がそうなるはずも無いと思ってる。」
『ありがとう。それでね、お世話になってる美容師さんが、もしかしたら商品の切り替えに
なるだけかもしれないからって、もう少し様子を見てみようって。連絡があったんだ。』

「白髪、まぁ…俺も遅かれ早かれなるんだけどさ。俺はちょっと綺麗だって思うから。」
『へー、そういえば、未来は入学当初はド金髪で…俺ちょっと怖かったなぁ。』
「でも、話しかけてくれたのは裕乃だったよな。」
『覚えてるよ。体育館に未来がタオルを置いて行ったんだよね、俺先生に拾われる前に
未来に渡しに行ったんだよね。』

必死に、走って俺の名前を呼ぶ裕乃を見てドキドキしたんだった。
こんな清楚で真面目そうな子に、呼ばれるなんて思いもしなかったからだ。

爽やかな汗をかく裕乃に視線を奪われて、俺は手渡されたタオルを握りしめていた。
『遠野くんだよね。入学式俺、後ろにいたんだけど…気づいてた?』

裕乃のあどけない表情に俺は、いつもの毒気をすっかり抜かされていた。
「めっちゃ、タイプ…」
と、俺は勝手に口走っていた。
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