甘夏と、夕立【迎え梅雨におかえり】

あきすと

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家の呼び鈴が鳴った。
母親は、まだ帰宅前で。
僕は、礼緒くんを家に上げるべく階下に向かう。

頭が重い。この時期特有の頭痛だと思う。
玄関の鍵を開けて、紙袋を下げた礼緒くんと目が合う。

『今、起きたのか?』
「あはは、うん。眠そうでしょ…」
『寝ぐせが、スゴイ。よく寝れたみたいだな。』

部屋に案内すると、紙袋からお土産を出して
礼緒くんが紙袋も渡してくれた。

「ありがとう。」
何となく、気恥ずかしい。
『お前が好きそうな、お菓子だと思っていろいろ買って来た。』

本当だ、と僕は笑いながら受け取って。
一旦、お菓子をテーブルの方に置き
「お茶、淹れて来るけど何が飲みたい?コーヒー・紅茶・麦茶にレモンスカッシュなんかもあるよ。」
『温かい紅茶で、頼む。』

お菓子には一番向いてる飲み物じゃないかな?
家のお菓子のストックに、たまたまあったレモンケーキが
ピッタリかもしれない。

台所に行って、お湯を沸かしつつお菓子の準備をした。
そろそろ夕刻の音楽が鳴る、そんな時間帯。

お湯の沸騰する音に、ポットの電源が落ちる音。
あっという間に沸いた。
紅茶は、僕が以前買っていた缶入りのもの。
アッサムティーを2人分淹れて、トレーの上に載せる。

レモンケーキも併せて持っていこうと、とても慎重になりながら
ゆっくりと階段を上がって行く。

僕の部屋の前で、礼緒くんがドアを開けて待っていてくれた。
「いつも、ありがと~…」
『…わざわざ用意してくれたのか?お菓子まで』
「ウチさ、僕が帰って来てからかな?こんな風に買い置きがしてあるんだよね。」
『おばさんは、あんまり甘党じゃないイメージだけど。』
「うん、多分だけど…こういう時の為なんだと思うよ。」

言うの、少し迷ったけれど。
礼緒くんの反応が少し見たくなって、言ってみた。

ローテーブルを前にして、礼緒くんはゆったりとシートクッションに座り
不思議そうに僕を見つめてる。

勘ぐる事はあまりしない。
正直に真っすぐに生きて来た、礼緒くんらしさを感じる。

『俺の家でも、お前と一緒にいると今でも親は子供の頃と
変わらない扱いだよな。』

果たして、本当にそうなんだろうか?
だって、僕らはもういい大人だよ?

僕は礼緒くんに紅茶を勧めて、密かに目を伏せた。
いつまでも、子供の頃の感覚でいたいような、
でもこのままでは、いけない気が漠然としている。

きっと、礼緒くんの心の中でも同じようなモノが
渦巻いているんだろう。

湿った風と共に、夕刻の音楽が流れだす。
響きすぎて、まるで不協和音にさえ聞こえる。
もう、子供なら家に帰る時間だと知らせる音楽。

でも、僕らは大人だから。
まだ、同じ時間を同じ空間で共有している。
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