甘夏と、夕立【迎え梅雨におかえり】

あきすと

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礼緒くんからの連絡が来たのは、水田が小さな若苗色の
苗に埋めつくされた頃。

春から秋にかけて、農業は忙しい時期を迎える。
更に、ここのところの異常気象だとかで自然からの影響を
直に受ける仕事は、本当に苦労が絶えない事を伝え聞いている。

ほんの少し素っ気なさそうな文面に、僕は思わず携帯の画面の奥に
礼緒くんへと想いを馳せてみる。

「お田植え祭りも終わっちゃたし、もうそろそろ梅雨かぁ…」
仕事から帰って来て、夜勤明けの後に眠るまでの間。
お風呂も済ませてはいるものの、いざこれから眠る。

となると、妙に目が冴えてしまって僕はベッドの中で寝返りばかり。
こんなに部屋に日が差し込んでいて、母さんは仕事に出かけてはいるものの
静かすぎる部屋の中、寝てしまうのが何となくもったいない。

部屋の窓は開けてある。すぐ近所でもある礼緒くんの家からかな?
農機具の音が少し聞こえて来る。
草刈りの音もしたりして。
濃い緑の匂いが、僕は結構好きだったりした。

子供の頃から、畑と田んぼでよく遊んだ。
今は、少しだけ遠のいた気がするけれど。
礼緒くんは、ずっと変わらずに土と農に携わって暮らしている。

僕は、礼緒くんに並々ならぬ思いを抱くのはきっと
彼の変わらない一途さと、誠実さが自分にはとても眩しくて
憧れているからだろうと思う。

溜め息の数だけ、寝返りを打っていると
枕もとの携帯が震えた。

着信、珍しい。
僕は内心焦りながら、慌てて応答した。
まちがえてスピーカーホンにしてしまった、と思い
『悠里、起きてた?』
部屋中に響いた礼緒くんの声に、耳まで熱くなった。

もちろん、僕が操作ミスしたんだけど。
とにかく恥ずかしくて、焦ってしまって
「ぇ、わ…待って、待って…礼緒くん!」

指先が上手く動かせる気がしない。
でも、なんとかスピーカーモードを切り替えて
一気に脱力していると
『眠れないのか…?』
礼緒くんが、相変わらずの優しい声で気に掛けてくれる。

「今、少しだけうとうとしてたカモ」
『あー…、悪かった。』
「気にしないで、僕もちょうど…あ、うん…何でもない。」
『…考え事すきだな、悠里は。ちゃんと体も頭も休めろよ?』
「うん。…ありがとう。でも、礼緒くん珍しいね。こんな…今は休憩中かな。」
『休憩っつうのか、今は準備してるんだよ。研修の』
「…この前言ってた、就農研修かぁ。泊りがけなんだよね。」
『1週間はあるからな、…そろそろ家出るし。行く前にお前の声聞いておこうと思って。』

すっかり自分の仕事に追われてて、礼緒くんの予定も
教えて貰っていたのに、うっかりしてた。

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