【MellowBitter】悪魔のささやきは、甘く溶け落ちる。

あきすと

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腕の中

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キスの後は、考えることも忘れてただ目の前の若波に没頭していくだけだった。
とても優しく、けど力強く抱き締めてくれる。
今日の感情の波の激しさを、落ち着けてくれるには十分すぎるほどの
包容力とキスだった。

恋の感情で抱き締めるのがとても心地よくて
同じ顔をしている相手に、何度でも落とされてしまうことに
不思議な思いと同時に若波には、結局敵わないことを実感する。
「ねぇ、俺…何度でも若波の事好きになっちゃうんだよね。」

潔さでもなければ、悔しさとも違う。
本当に、心を揺らす存在が一人いる。
何度だって、落ちる…また恋に。

若波のキスは、変わった味がした。
「まだ、煙草やめてないの?」
『煙草じゃないけど、それに近いものはいくらでもある。』
「いいよ、さっきこっそり吸ってたんでしょ?俺がお風呂に行ってる間にさ。」
若波は、俺の髪の生え際に指をそっと差し込んで
『相変わらず、髪をちゃんと乾かさないな…いすかは。』

…相変わらず?
ごく自然な感じで言った言葉に、俺は違和感を覚えた。
「知ってるみたいな、言い方だけど?」
『ライブの映像特典とかで、見てるから…』
そんなシーンまであったっけ?
「俺は、若波の大ファンで…若波も俺のファンなんだよね。」
ついつい嬉しくて、色んな疑問が頭の中から消えていく。

少しでも、触れあっていたいから不都合なことには目をつむる。
若波の視線には、熱を感じているし
流されたい気持ちで、ちらっと見つめてみた。
「じゃぁ、髪…乾かしてもらいたいかなぁ。若波、お願いしていい?」
OKしてくれる前提で、聞いてるんだから卑怯かもしれない。
『いいのか?』
「うん。…ぁ、でも…図々しいかな?俺よりも大人の、若波にこんなこと言うなんて」

あざといかも…?
嫌われたら、どうしよう。
よく、若波の表情を見てなきゃ。
『図々しくはないけど、いすかって…ド直球でほんと、裏表がないから。むしろ感心する。』
「隠せないんだよ…。すぐ頭も心もキャパオーバーになりそうで、」
『目がいつだって、真剣で…俺はそんないすかだから、ファンになったんだ。』

…ちょっと、嬉しくて泣きそう。
ほんと、若波が居てくれてよかった。
「ありがとう…。でも、キスしちゃった。俺、元の世界の若波を…裏切ったことにならないかな?」
若波は、洗面所に案内してくれて椅子に俺を座らせた。
『いすかは、どう感じてるんだ?』
「ちょっと、…いけない気がした。でも…この世界の若波が俺と一緒にいないことが、寂しかった。」

世界線が変われば、世界そのものの概念も大きく変わるのだから
いたし方ないとは言え、若波の憂いを帯びた視線に胸が焦がれたのは、事実だった。

『いすか、は…もう元の世界には戻れはしない。例え、戻ったと思っても、そこにはまた違う世界線が存在するだけだ。』
ドライヤーで、若波に髪を乾かしてもらいながら、俺は鏡の向こうの自分を見ていた。
「戻れないのは、何となく気づいてた。全く同じ世界には…もう、無理なことも」
『俺の、職業…まだ言っていなかっただろう?』
「ぇ?うん…そうだね」
『時空法に関わる仕事をしてる。詳細は言えないけどな。』
…だから、俺が突然現れても驚かなかったのか。

「俺は、この世界では…異物なんじゃないの?」
あたたかいドライヤーの熱と、若波の優しい手つきが無かったら
きっと心を乱していたことだと思う。
『現段階では、何の解決法も無ければ法整備も全く進んでいない。だから、そんな事はまず起こらない。と言った認識だ。』
櫛で綺麗にブローを仕上げて貰い、俺は曇った表情から一変して
背後に立つ、若波に笑顔を向けた。

「すごい、上手だね…ヘアーメイクさんみたい。」
『髪、触るのは好きなんだ。でも、いすかの黒髪は本当に綺麗だな。』

「よく、若波も撫でてくれるよ…。だから、その…いいんだよ?もっと触っても。」

顔が熱い。自分からこんな事を言うなんて恥ずかしいけど。
伝えたくて、仕方ないんだ。
『俺は、自分の腕の中の範囲しか…もう、守れそうにないけど。』
「うん。」
『帰るなんて、急にそんなことになったら…』
「知ってるんでしょ?方法がないってコト。」
『そうだ。今の世界では無理。』

若波が、椅子をゆっくりと自分の方へと向けさせて
俺の前髪を少しだけ横に分けてから、額にキスをした。
「…その顔で、こういうことしちゃうんだ?」
『する…。いすかだし。』
「若波って、俺にとっての……、ぁ、やっぱ言うのやーめた。」
これ以上、ドキドキしてちゃ身が持たないから。

『何だよ、気になるなぁ?』
「言わない、言わない。喜ばせるだけだし」
両手で口元を覆って、俺は首を横に振る。
『いすかは、前の世界で…俺を喜ばせたこと、無かった?』
質問が、鋭すぎるよ。
そりゃあ、無い訳がないし。
「喜んで欲しくて、うん…無意識にだと思うけど。いっぱいしたよ、色んな事。」
若波が、俺の手を微妙に力を込めながら外しにかかる。
怖い、怖い…。

察してよ、顔が熱いし。お風呂上がりだから余計に
妙な熱気が逃げ切らない。
大きな掌で、左の頬に手を這わされる。
「…ヤだよ、俺、若波には言うこと聞いちゃうもん。」
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